/*ここまでのあらすじ 東方シリーズの主人公として、常に最前線を走り続けてきた霊夢。 しかし、文花帖において、その役目を射命丸文に奪われ、テキスト出演だけという屈辱を味わってしまうのだった。 「自分は必ずゲームに出演するもの」として決め付けていた霊夢は、その出来事に大きなショックを受け、ふさぎこんでしまう。 さらに、幽々子との戦いでのトラウマから、心的外傷は深まっていく……。 そこに現れたのは、意外も意外、花映塚で自キャラに昇格したみすちーことミスティア・ローレライだった。 */ …………。 ………………。 ………………ちくしょう……。 ……ちくしょう……ちくしょう……!! 何なのよ……この無様な結果は……!! …………ちくしょう……!! 東方シリーズなら当然主人公だと思っていたのに……期待してた反動よッ!! ……何でなのよ……ちくしょう……今まではゲーム内には必ず出演していたのに……ちくしょうッ!! 霊夢「…………はあぁぁぁ」 お笑いぐさね……みっともない……!! ――何が冬コミ新作よ! ――何が「出演が確定している」よ!? ――神主の思い入れが特別だって? いい加減にしてよ! ……いろんな状況に護られて出演できていたからって……何が『絶対に出演するキャラ』よ――!! ……結局……あの時と同じね……。 『東方妖々夢』のラストステージで、 幽々子の反魂蝶にパニクッた時と何の違いもない……。 結局、私は……私は……。 ミスティア「……霊夢」 ――ッ!! みすちー…………。 ミスティア「少しは落ち着いた?」 霊夢「…………」 …………お願いだから…………放っておいてよ! ……今私は……どんな顔をして……魔理沙達に顔を合わせていいかわからないのよ!! ミスティア「……気持ちはわかるけど、そろそろ――」 霊夢「――放っておいてよ!」 ミスティア「…………」 霊夢「…………お願いだから……放っておいてよ……」 ミスティア「…………」 霊夢「…………こんな事をしていても……何も意味がないのは……わかってるわよ……」 ミスティア「…………」 霊夢「……だけど…………私は…………私は……」 …………今は……勘弁してよ…………そんなに気を遣われるだけでも……キツいのよ……。 ミスティア「…………それにしても……凄く落ち込んでるねぇ……」 霊夢「…………え」 ミスティア「でも、それでも今までは出演し続けてきたんだから、大したものだよ……」 みすちー…………。 ミスティア「月並みな言い方だけど、主人公の換えは利いても、博麗霊夢の換えは利かない」 霊夢「…………」 ミスティア「あなたと、あなたの腋が生み出すものは、これからも何万人という人々に愛されるわ……」 霊夢「……フッ……」 ミスティア「少なくとも私はそう信じている……今まであなたが見せてくれたものは、そう信じさせてくれるの」 …………なんか、恥ずかしい感じがする……。 『幻想郷』でも私は……まだ愛されているのだろうか……。 ミスティア「そのあなたの命が失われなかった事を……気合避けだけで幽々子と戦って生き残った事を誇ってよね」 霊夢「……やめてよね。……戦ったなんて……そんな大層なもんじゃないわよ……」 ミスティア「…………」 霊夢「……私は……何か……すっかり勘違いして…………」 ミスティア「…………」 霊夢「春を取り戻すだとか……色々……舞い上がっていたのよ……」 霊夢「でも……実際に幽々子が出てきたら……震えちゃって……凄く怖くて……」 霊夢「――でも、自分ではそれに気づいてなくて……やれる気でいたのよ」 ミスティア「……」 霊夢「でもそんなの……魔理沙や咲夜、亡霊や庭師から見れば、すっかりミエミエだったのよ」 霊夢「森羅結界だけじゃ足りなくて、ボムまで撃ったのよ……それだけ私がビビッてたって事よ……」 霊夢「そうしたら反動で……画面下で避けざるを得なくなった。『当たらないでくれって』って、泣きながら幽々子に気合避けを挑んでいたのよ……?」 ミスティア「…………」 霊夢「……は、ははは…………笑っちゃうわよね。そんなの……ただのバカよ……」 ミスティア「…………でも、霊夢がその行動を取ったことで、魔理沙達は無事に離脱できたのよ?」 霊夢「…………」 ミスティア「保存されたリプレイをみたわ。あなたは気合避けだけで、何枚ものスペルカードをゲットしていたのよ?」 霊夢「…………」 ミスティア「そのおかげで、奪われた春度が開放された。そして幻想郷は春になった……これは事実よ」 霊夢「……それは…………それは結果よ」 ミスティア「…………」 霊夢「……あの時、あのまま撃墜されていれば……それこそ、次にはもっとマシなプレイができたかもしれない……」 霊夢「……でも私は……墜ちたくなかった……」 霊夢「あの時私は……ボムも残機もゼロになった状態で、恥も外聞もなく、小便漏らしながらギャアギャア泣き叫んでいたのよ……」 ミスティア「…………」 霊夢「……私は…………ただの臆病者なのよ…………」 霊夢「……満月を取り戻すとか…………異変を解決するとか……偉そうに言ってた自分が恥ずかしい……」 …………私にそんなこと……できるわけないじゃない…………。 やってもうまくいくわけがない……みんなの足を引っ張るだけだ…………。 ミスティア「…………私は臆病で良いと思うわ」 ミスティア「怖さを知っている人はその分、墜ち難くなる。だから、それで良いと思う」 霊夢「…………」 ミスティア「シューターは、逃げ場がないと確信した時、持てる力の限りを尽くし、食らいボムをするべきなのよ」 …………あ…? ミスティア「だけど、墜ちずに避けていられるならば、それを最後までやり遂げるべきよ」 霊夢「…………」 ミスティア「臆病でも構わない。勇敢だと言われなくてもいい。それでも最後まで生き残って、ひとつでも多くのスペルカードをゲットして欲しい……」 …………なんか……この言葉……どこかで聞いた事があるような気がする。 ミスティア「そして、最後の最後に……霊夢の……博麗としての強さを見せてくれればそれでいいの」 霊夢「…………」 ミスティア「……3分」 …………? ミスティア「何のことだかわかる?」 ……3分……? 何だろう……? ミスティア「幽々子と直接戦った妖怪が、力尽きて食われるまでの時間の平均……」 霊夢「…………!」 ミスティア「あなたは……『死の3分』を乗り越えたの」 …………私が……乗り越えた……。 霊夢「…………」 ミスティア「泣こうが喚こうが……あなたは幽々子と直接戦い、デッドラインを乗り越えて生き残った」 ミスティア「これまで何万、何千万もの毛玉や妖怪が、越えられなかった壁を、あなたは気合で突破した」 霊夢「…………」 ミスティア「それがそんなに不名誉な事なの?」 霊夢「……そんな事は……ないわよ」 ミスティア「…………」 ……そういうことじゃないのよ。 情けない自分が……怖いのよ……。 私は……『東方文花帖』には純粋な意味で出演できなかったから……その『自信』の根拠になっていたものが吹っ飛んでしまったことが……怖いのよ……。 ミスティア「…………」 霊夢「…………」 ミスティア「私にも……あなたと同じように考えていた頃があったね……」 霊夢「…………」 ミスティア「自分なら何でもやれる。自分が主人公を倒すんだって、まっすぐに燃えていた頃がね」 霊夢「…………」 ミスティア「私は昔……歌を好きなだけ歌って生きていくのが夢だった……」 霊夢「……え?」 ミスティア「なに、意外?」 霊夢「……いや……今もそうじゃない」 ミスティア「昔から、歌っているときは楽しくて……絶対歌手になるんだって、頑張って勉強していたの」 そうか……『以前』のみすちーも……歌手を……。 ミスティア「でも……幽々子が春を集めだして…幻想郷もおかしくなっちゃったでしょ?」 霊夢「…………」 ミスティア「だから、歌手になる夢は一旦保留にして、食料を確保することにしたの。真冬並みのおかげで、出歩く人間がほとんどいなくなったのは、知っているでしょ?」 霊夢「……まぁ、出歩きたくはないわよね……」 『大寒波』の時だったと思うけど……。 それにしても、みすちーの食料は小動物じゃなくて、人間だったのか……。 ミスティア「昔みたいに人間を襲うためには、この冬を終わらせるしかないって……ホント、我ながら単純よねぇ……」 霊夢「…………」 ミスティア「最初の頃は、とにかく冬を終わらせたいって必死に頑張ったわ。だから冬の雪山にも雲の上にも行ってみたんだから」 ……そうだったのか。 ミスティア「そういう意味では結構同じでしょ? まあ、冬は終わっちゃったんだけどね」 霊夢「…………」 ミスティア「そのおかげもあって、東方永夜抄では二面ボスを任せられたわ」 みすちーって……やっぱりけっこう凄いな……。 ミスティア「初登場で二面ボスなんて、当時はまだ妖怪がいっぱいいたから結構凄いことなのよ? まあ、ひ弱な妖精で編成されたヒヨッコ部隊ではあったけど」 霊夢「…………」 ミスティア「そして、意気揚々と夜の獣道に向ったわ…………だけど、初陣は惨憺たる物だった」 霊夢「…………」 ミスティア「主人公が強すぎて戦線が瓦解。指令系統はズタズタ……」 ミスティア「私は混乱したあげく……部下を……部隊の妖精達を全員死なせてしまったわ」 霊夢「………!!」 ミスティア「…………」 みすちー……そんなことが…………。 ミスティア「最初は、その事を悔やんで、その辛さを忘れようとして、死に物狂いで歌い続けた……」 ミスティア「でもそのうちに、生き残った私がやるべき事を……その意味を考えて歌うようになっていったの」 霊夢「…………」 ミスティア「ちょうどその頃、それまでの働きを買われて花映塚のレーベルに抜擢……」 えッ……みすちー……レーベルになったのか……? レーベルっていえば憧れの的じゃないか……? ミスティア「で、東方花映塚の稼動に伴った、永夜組の人材供与で主人公機になったってわけ……まあ、神主が私を引っ張ったらしいんだけどね」 霊夢「…………」 ミスティア「皮肉よね……永夜抄ではボスだった私が、花映塚では主人公機をやっているんだから……」 ミスティア「でもそれが、あの時私が生き残った……生き残らせてもらった意味だと思っているわ」 霊夢「…………」 ……私と同じっていってたけど……全然同じじゃない。 みすちーは……ちゃんとやってるじゃない……。 やっぱり……すごいよ……。 霊夢「…………」 私はどこか、自分でも意識していないところで、みすちーを軽く見ていた部分があったのかもね……。 ミスティア「霊夢……良い事教えてあげる」 霊夢「え……」 ミスティア「あの時、私も漏らしたわよ」 ……え……?! ミスティア「ちょっとだけだから、変な想像しないでよ?」 な、なんなのよ……いきなしそんな話……? ミスティア「事前に装備したオムツのおかげで、妖精にはばれなかったみたいだけど、誰だってみんな同じ……たぶんリグルやけーね達もね」 みすちー…… ミスティア「でも、みんなにそんなこと聞いちゃダメよ? 女の子だからね」 霊夢「わ……わかってるわよ……そんな事くらい」 ミスティア「自分の失敗を笑って話せるようになる頃には、霊夢が次の新作で、また主人公で出演しているはずよ」 霊夢「………」 みすちー……私は……本当に情けない人間ね。 主人公確定だと思ったら……天狗にそれを奪われたり、それで落ち込んだり…………。 ミスティア「…………」 今ここで急に、立ち直ったり、気持ちに整理を付けたりは出来ないけど……私、必ずやるわ。 必ず立ち直って見せるから……。 だけど……もう少しだけ時間を頂戴……。 ごめん……本当に弱くてごめん……。 霊夢「…………」 私も……いつかみすちーの様になりたい……。 本当に……尊敬してる。 私のこういう気持ちを、全て言葉には出せないけど……ひと言…… これだけは言わせて…… 霊夢「……ありがとう……みすちー」 本当に……ありがとう……。 …………。 ――あっ! ……しまった! 気持ちの流れでつい、みすちーって言っちゃった……! 今は敵味方無しで接してくれているけど……流石に怒るわよねぇ……。 何にもリアクションしてくれないし…………。 振り向き辛らいなぁ…………。 (霊夢が振り向くと、ミスティアの服に血が垂れているのが見える) 霊夢「…………え……?」 ポタポタ ………………。 みすちーは…………? (そのまま見上げれば、幽々子に頭の上半分をかじられているミスティア) 霊夢「ぅ………ぅあ…………」 (幽々子がその頭を噛み砕く) 幽々子「クチャクチャ……」 ――ッ!! (支えを失ったみすちーが脳漿を撒き散らしながら前かがみに倒れる) 霊夢「――うあああああああああああああああああああああああああっ!!!!」 咲夜「――おい大丈夫かッ!? しっかりしろッ!」 霊夢「――あああああああああああああああ〜〜〜〜〜っ!!!!」 咲夜「――魔理沙、貴様は霊夢を見ておけ! ――中国、貴様は周辺を警戒! うどんげと永琳の到着を待てッ!」 中国「――了解」 魔理沙「――了解だぜ」 咲夜「――残りは付いてこい!」 霊夢「――みすちーッ! みすちーッ! みすちーいぃぃぃッ!!」 魔理沙「――おい霊夢ッ! やめろ! それに触れるなッ!」 霊夢「――みすッ――みす――うあああああああッ!!」 うどんげ「――『亡霊姫』は完全に沈黙しています、接近可能です!」 永琳「わかりました」 霊夢「――うわぁッ――みすちッ――みすッ――うあああああああッ!!」 …………。 ………………。 /* ついカッとなってやった。 今では反省している。 */