大課金

　


　デカァァァァイ！　説明不要ッッ！

『にょわー！』

　諸星きらりが幻想郷に降り立った！　彼女の目的はただ全世界をハピハピにすることのみである！　だが幻想郷には外界からの侵略を良しとしない者も多く存在する！
　その筆頭――もしくはただ、外から来た者に対して己の力を誇示したいと望む者――鬼と呼ばれる異形の者！

「来たなァ！　お前が誰か知らないが、私たちの楽園で好き勝手に暴れさせるわけにはいかないよ！」
『うきゃー！　かわゆいぃー！』
「うおぉぉぉ……ッ！」

　突進する巨大なきらりを前にして、萃香は瞬時に身体を巨大化させる。がっぷり四つに組み合って、相撲の如く存在しないマワシを取り合う。萃香の力を持ってすればきらりを超える身体になることも可能だが、萃香はあくまできらりと同規模の体格でありながらきらりを凌駕することを望む。

『うにゃぁぁぁぁ……！』
『どぉりゃああぁぁッ！』

　地が裂ける！　空が啼く！
　両者の咆哮が空気を伝わって幻想郷全域に響き渡る！
　相打つふたりを傍観するのは博麗の巫女、幻想郷の調停者、空気を読む者、読まぬ者、働く者、働かざる者！　ありとあらゆる命が彼女たちの結末を固唾を呑んで見守っている！

「きらり……」

　ひとりの少女がいた。その体躯はあまりにも小さく、呟く声はかすれ、そのまぶたは睡魔に負けて完全に閉ざされようとしていた。
　彼女は眠かった。
　だが、彼女が眠れない理由は、きらりが戦っているから――。
　きらりが戦っている音がうるさかったから眠れなかったのだ。
　だから早く終わってくれと思った。
　眠いし。

「Zzz……」

　寝た。
　別にうるさくても眠ることができる――他者に何を言われようとも、意に介することなく己の欲望の赴くままに、大いなる意志の元に惰眠をむさぼることができる。
　その自由を持つ者――働かざる者。

　かの者の名を、双葉杏。



　『ニート』の称号を持つ者であった。