- 分類
- 椛
- 文
「文さん……実は、貴方のことが好きだったんです!」
椛は迫真の演技で文にそう告げた。
しかし、文はたいそうめんどくさそうな表情で、ひらひらと手を振るばかり。
「あーはいはい、○イプリルフールとか言うんでしょ。散れ散れ」
「どうしてそこを伏せ字にするんでしょうか」
4月1日も残り僅か、この時間帯になればもう忘れているだろうと思って言ってみたようだが駄目だったらしい。
椛は落胆した様子で、がっくりと肩を落とす。今日一日監視の仕事そっちのけで考え、この時間がくるのを待ち望んでいたのに……残念だ。
「ていうか、椛」
「はい?」
「貴方、毎年そのネタやってくるでしょう。だからもう、バレバレ」
う、と椛は苦い顔を見せる。
文の言う通り、彼女は毎年このネタをやっては文に弾き返されている。通算すると334年連続9800回目くらいだろうか。この数字は流石に盛っているが、これぐらいやったのではないかと言わんばかりの回数、椛は告白を繰り返している。
「……流石に、駄目ですかね?」
「マンネリっていう言葉を知りなさいな。そろそろネタを変えるべきだと思うわ」
「ですよねー……」
「そもそも私が新聞にエイプリル記事を仕込む側だから、騙せる訳がないんだけどね」
そう言い残すと、文は椛の前から去って行った。
その後ろ姿を苦笑いで見つめていた椛だったが――姿が見えなくなると同時に、一転真面目な表情にチェンジする。
「……今年こそ!」
人知れず、彼女はぐっと拳を握った。
本当の勝負は、先程などでは無い。断じて無い。このネタを繰り返すことがマンネリだなんてとっくに分かっている。
「あと10分くらい……か」
文は今、自宅へ向かう前に大天狗への報告へ向かっている筈だ。
だから、今から文の家へ向かえば、椛は十分先回りできる。
エイプリルフールはあと僅かだ、だが急ぐ事は無い。文より先に、家に着いてさえいればいい。
◇
十数分後、椛は文の家に到着した。
もう春とはいえ、夜の風はかなり冷たい。しかし、文の家の前でじっと待機する。
そして、文の姿を椛は視界に捉える。同時に文も椛に気が付いたようで、キョトンとその目を丸くした。
「椛、どうしたの」
「いえ……ちょっと」
「なに、お酒でも呑もうって? いいけど、寒いから早く家に入りましょう?」
「いえ、ここで済む用事ですから」
文は首を捻る。用事とはいえ、こんな夜遅くに言う事でも無かろうに。
そんな文を真っ直ぐに見つめた椛は、その心臓を強く高鳴らせる。
お酒は勿論入っていない、しかし彼女の頬は桜色に染め上げられていた。
「……なに? 黙ってても分からないわよ」
怪訝な表情の文が、椛にそう問いかける。
その言葉に後押しされ、いよいよ椛もその重たい口を開いた。
「文さん……実は貴方のことが好きだったんです」
……文は、にわかに溜め息をついた。
「……あのね、そのネタはさっき言ったばかり――」
「文さん。時間……見て下さい」
「へ?」
文が、右手に着けられた腕時計を見つめる。河童特注の高性能時計、時間の狂いは一切ない。
そして、その時計は――0時を過ぎた時間をさす。
「……時計がなんだって、」
「文さん、エイプリルフールは終わりました」
「……? あ――」
もう何度も言いそびれていた言葉。否、言えなかった言葉。
毎年の4月2日は悶々と過ごしていたが、今年はもう違う。
意味を理解した文が少しだけ頬を赤らめる中、椛はハッキリとした口調で――もう1度その言葉を紡ぎ上げた。
「文さん……実は貴方のことが好きだったんです」
2人の間に、一陣の風が吹き抜けた。
あとは皆さんの妄想にお任せします。
SARAyear
- 作品情報
- 作品集:
- 最新
- 投稿日時:
- 2012/04/01 23:58:10
- 更新日時:
- 2012/04/01 23:58:10
- 評価:
- 1/6
- POINT:
- 14484767
- Rate:
- 413851.20
色々妄想しちゃう