家出症候群

作品集: 最新 投稿日時: 2012/04/01 23:26:36 更新日時: 2012/04/01 23:27:18 評価: 2/6 POINT: 19800554 Rate: 565730.83

 

分類
輝夜
妹紅
 
 
 
 何で私はこうなんだろう。
 輝夜は優しい。と思う。でもそれは愛情なのではなくて、どうでも良いだけなのだ、とも感じる。きっと輝夜にとって私は、永すぎる人生の中で通り過ぎてきた人間の一人でしかないのだろう。私は、その無数の中で、輝夜と同じ蓬莱人としての共通点を見出しているけれど、輝夜にとってはそれさえも、どうでも良いことなのかもしれない。
 ひどいことを言っても。輝夜は笑っている。私だって、永く生きて、色々と吹っ切った。だけど、輝夜に対しては、強い感情をぶつけてしまう。まだ人間だった頃、輝夜を憎むことで絶望せずにいられた。私は一所に留まれない生を生き延びることができた。再開してからは殺し合いばかりをしていた。憎しみを真っ直ぐにぶつけることができた。……仲直りしてからは……仲直りしたって、あいつを殺したことは消える訳じゃない。蘇るからだとか、あいつも私を殺したからだとか、そういうことは言い訳にならない。あいつを殺していい、なんて、私は考えないようにした。あいつは気にしていないかもしれないけど、私が嫌なんだ。許されるとか、そんなんじゃない。
 喧嘩と呼べるほどのものでもなかったかもしれない。ただ、私が不機嫌になっただけだから。



「ねえ妹紅、あなた最近私を殺しに来ないわね」
 そんなことを言うもんだから、もう殺さないよと言った。何度も殺しておいて今更、と思う。輝夜は思わないかも知れないけれど、私にはそういう自嘲があったから小さく、呟くように。
「あらそうなの? あなたとの殺し合いも楽しかったのに。あんまり普通の人は殺しちゃ駄目だって永琳に言われてたから、そういうのがしたい時は永琳としてて、でも本気ではしてくれなくて私が殺してばっかりで、私を殺してくれるのは妹紅くらいだったから、私、寂しいわ」
「もう、殺さないよ。そう決めたんだ」
 そう、つまらないわね、と言ったきり、輝夜は黙り込んだ。狭い家の中で、並んで座っていると、そこはとても静かだった。風の強い夜で、吹き抜ける風の音ばかり聞こえた。まるで、一人でいるみたいで、隣に気配と温もりがなければ、一人だと勘違いしてしまいそうだった。
「……どうしてだよ」
「なあに?」
「何で、殺してほしいみたいなこと、言うんだ?」
 輝夜は私を見た。何となく首をこちらに向けた気配がした。……私も、輝夜に合わせるみたいに、そうした。輝夜の目が私を見ていた。
「……理由なんて、探しても仕方ないことでしょう。私達は死なないし、そういう遊びができるというだけ」
 遊び、遊び、か。私は少し苛立ちを感じた。
 死にたくなんてなかった。だけど、こんな生を望んだ訳じゃない。
 どうして、私は生きている。どうして。輝夜とだって、私は、こんな生を望んだ訳じゃない。だけど。
 私は永遠に生きなければ、輝夜を知ることが出来なかった。輝夜を恨んでいた、憎かった。だけど……。
 私は何も言えなかった。黙って、布団をめくり上げた。横になってしまうと、隣から輝夜が入ってくる気配がした。輝夜は布団の中で、私に覆い被さるみたいにして、胸元を合わせて、指先を絡ませた。輝夜はいつもそうする。いつも、私は輝夜のしたいようにさせる。



 朝、目が覚めたら、輝夜がいなかった。輝夜は基本的にマイペースだから、私が寝てるうちに帰ることも良くあることだ。
「謝りに行こう」
 だけど、私は思った。そういうのはきっと輝夜にとってはどうでもいいことだ。だけど、私にとっては、あいつをもう殺さないのと一緒で、それをしないままでいたら、罪悪感からきっとあいつを遠ざける。あいつは、私が遠ざければ、きっと受け入れてしまうだろう。謝る、ったって、頭を下げに行くわけでもなくて、『悪かったな』と一言言う程度なら、あいつも気にしないだろう。
 そう思って、永遠亭に行った。



 永遠亭は大騒ぎだった。一匹の兎を捕まえて聞いてみると、輝夜がいなくなったらしい。
「どういうことだよ」
「そ、そんなこと言われても知らないウサー」
 仕方なしにぱっとそいつを離してやると、とてとてとそいつは走り去っていった。舌打ちを一つして、ずかずかと中にはいると、永琳がいた。
「おい、輝夜がいないってどういうことだよ」
「姫様は出て行ったわ」
 永琳は一言そう言うと、毒ビンを曲射させて撃ち込んできた。雨のように降り注ぐ弾幕をひらひら躱して向き合うと、永琳は弓をしまった。ぺし、と音を立てて、永琳が投げた紙片が足下に落ちる。
「輝夜は、それだけを残していったわ。読んで、満足したら、私に殺されなさい」
 私は、紙片を開いて、読んだ。



 永遠亭のみんな、元気に生きてる?
 ちょっと人生やってられなくなってきたので死ぬ方法を探してみたいと思いました。何万年生きてるつもりなんですか、とか言われそうだし、若干本気なので、こういうこと言うと恥ずかしいけど、頑張って探してみようかな、と思ってます。
 もし見つからなくても、行った手前恥ずかしいので、もう会わないくらいのつもりです。だから、探さないでね。私のものは全部永琳に残していくので、必要なら永琳に言って下さい。
 永琳には世話になったけど、何も返せなかったわね。ごめんね、でも、永琳が完璧なのがいけないのよ。私に何もさせてくれないんだもの。せめて、もうちょっと駄目だったら、私がいなきゃって思えたら残る理由になったのに。そういうのは、永琳がいけないから、ちょっと反省してね。弱点も美点なのよ。

 それから、これは妹紅に渡して下さい。
 正直なところを言うと、私、妹紅を連れて行こうかなとも思ったの。
 でも、妹紅は死なない方がいいわ。きっとそう思うし、やっと幻想郷っていう居場所を見つけたんだもの、その方がいいわ。私の方は、妹紅を誘って、色んな人のことを考えてる時間を待っていると、きっと面倒になってやる気をなくしてしまうので、止めておくことにしました。死にたくなったら自分で探してね。
 その気になれば簡単よ。でも、できるだけ生きて、あなたはいいところが沢山あるんだから、そのいいところを色んな人に見せてあげてね。
 あなたのお料理、ワイルドだけど好きだったわ。あなたの寝顔、素敵だったわよ。あなたとの殺し合いのこと、忘れないわ。あなたの、感情の露わになった醜くて美しい貌のこと。

 じゃあね、妹紅。



「輝夜」
 眼前の永琳が、矢を放ってくる。突き刺さる衝撃を受けて、そのままに廊下の端まで吹き飛ばされ、壁にもたれて永琳を見上げる。
「冗談なんだろ?いつもの、タチの悪い悪ふざけだ。あいつがこっそり出て行くなんて、お前が見張っていながら、出来るはずがない。なぁ」
 矢の先端が、額に向けられている。顔を上げると切っ先で額が破れ、どろりとした血が流れて、目の前が紅くなった。ジャムのような紅い視界の中で、永琳が涙を一筋、流したのが見えた。
「輝夜」
 拳を握った。何も、出来ないのに。あいつが行こうとするなら。私に、何がしてやれるんだ。引き止めて、一緒にいたいとでも言うのか、今更、あいつを殺した私に、何をしてやれるんだ。
「輝夜……!」
 永琳が矢を放つ、その一瞬を頭を振って躱すと、刺さった矢を掴んで永琳に投げた。永琳が怯んでいるうちに、私は炎で作った羽根を広げた。燃えたって構うもんか。
「輝夜ッ……!」

 お前がどこにいても、私が見つけ出してやる。



「まぁ嘘なんだけど」
「なんだ嘘かー」

 その夜、久々の殺し合いの風が吹き抜けた。
『輝夜、お前にはもうがっかりした。あんな嘘をつくなんて、冗談でもしていいことと悪いことがあるだろ。もう嫌になった。もう会いに来ないでくれ』
(くくく……あいつだって、こんなことを言われたら凹むだろう。ちょっとは反省して謝りに来るがいいさ。そもそも、何で私ばっかりが振り回されてるんだ。たまには、振り回されてみるがいいさ)

「あら、困ったわね」

 輝夜はそう一人呟くと、五年くらい妹紅のことを放っておいた。
「何で会いに来ないんだよぉぉ」
「え、だって来ないでって書いてあったし……(ニヤニヤ」

 べそべそ泣きながら音を上げた妹紅が可愛すぎたので、輝夜は心ゆくまで愛でた上で仲直りした。

 めでたしめでたし?
 
 読んで下さってありがとうございました。
 エイプリルフールっぽいの考えてみたけど、こんな作品両手の指で余るくらいありそう。

 もう一個行けるかな……?
RingGing
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2012/04/01 23:26:36
更新日時:
2012/04/01 23:27:18
評価:
2/6
POINT:
19800554
Rate:
565730.83
簡易匿名評価
POINT
0. 4245000点 匿名評価 投稿数: 4
2. 7777777 奇声を発する(ry ■2012/04/01 23:30:17
可愛いw
3. 7777777 名前が無い程度の能力 ■2012/04/01 23:35:17
いや、ほんと、完成したのが読みたいやつばっかりなんだけどさっきから。
でもこれは結構完成してるか。
名前 メール
評価 パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集 コメントの削除
番号 パスワード