- 分類
- アリス
- 霊夢
- 煮干し
- ぜんくつ
※ 作中の登場人物は例外なく全裸に靴下です。苦手な方はご注意ください。
まだ風が冷たいけど天気の良い日だった。
私が博麗神社を訪れると、境内にしゃがみ込んだ霊夢が仔猫と戯れていた。
「あら仔猫?」
「あ、なんだアリスか」
霊夢は私を認めるとつまらなそうな表情を作る。この子は誰に対してもそうだ。
再び仔猫に向き直ると、手に持った煮干しで仔猫をじゃらす。
「かわいいわね」
「うん、かわいい」
私も霊夢も「きゃー、かわいいー!!」と大騒ぎするようなキャラじゃないけど、それでも仔猫や子犬や子ネズミなどの小動物を見れば、その愛らしさに心を奪われてしまうものだ。
「親猫とはぐれちゃったのか、お腹空かせてたみたいだから。煮干しぐらいしかこの子が食べられそうな物なかったけど」
「ふーん、可哀想ね」
必死になって煮干しに齧り付く灰色の仔猫。頭を撫でてあげようと手を伸ばしたところ、霊夢に止められた。
「触っちゃ駄目。人間の臭いがつくと、親猫はこの子を見捨てるわ」
「あ、そっか」
「あんたが責任持って飼うってんなら別にいいけど」
飼うかといわれると流石に責任持てない。仔猫を撫でるのは諦めてかわりに上海を放つ。
頭上でくるくると踊る上海を捕まえようと、仔猫は飛び跳ねる。
その様子が愛らしくて、目尻が下がるのを感じる。隣にしゃがむ霊夢を見ると、彼女も締まりの無い表情を浮かべている。
「あ、そういえば」
ふとした思いつきで、疑問に思っていたことを口に出してみる。
「幻想郷には海が無いのに、なんで煮干しはあるのかしらね」
「ん? 里の乾物屋に売ってるじゃない」
人里にある北畠乾物店のことだろう。私も煮干しはそこで買っている。
「じゃあ、その乾物屋はどこから仕入れてるのかしら」
「あぁ、そっか。アリスは知らないのね」
霊夢は優越感を含んだ視線を向ける。
「妖怪がいるのよ」
「妖怪!?」
「そう。手から煮干しを出す程度の能力を持った妖怪が」
「……ふーん」
なるほど妖怪の仕業か。納得できるような、そうでもないような。
上海を追うのを諦めた仔猫が「にゃー」と一声鳴いた。
四月になったばかりの風は、まだ冷たかった。
了
煮干しが無いと味噌汁が味気ないことでしょう。
星崎遙一朗
- 作品情報
- 作品集:
- 最新
- 投稿日時:
- 2012/04/01 21:55:09
- 更新日時:
- 2012/04/01 21:55:09
- 評価:
- 1/3
- POINT:
- 10460573
- Rate:
- 523029.90