- 分類
- サニーミルク
- ルナチャイルド
- スターサファイア
- 博麗霊夢
霊夢さんから仕事、そう掃除や買い物といった雑用を押し付けられるのはあんまり嫌いじゃない。そりゃあ面倒だとは思うけれどそのあとにお茶を一杯淹れてくれるだけで不思議と許せてしまう。霊夢さんが強くて怖いからとかじゃなくて、ほんと、妖精の私にもちょっとしたねぎらいの言葉をかけてくれる霊夢さんを見るだけで満足するのだ。
「霊夢さん。掃除終わりましたよー!」
境内の掃除を終えて本殿へと駆けていく。
「霊夢さーん!」
出てこないので靴を蹴飛ばして中へ。
「ああ、そんなにうるさくしなくても聞こえてるわ!」
奥から現れた霊夢さんを見て私は思わず姿を光で隠してしまった。そうだ、霊夢さんはルナがぶちまけた墨を被ってしまい、お風呂に入っていたんだ。お風呂上りの霊夢さんは服装こそいつもと同じだけれどほんのり上気した顔で、つやつやした黒髪で。表情豊かで妖精みたいな人だと思っていたのに、とても綺麗な大人に見えたのだ。
「全く。呼んでおいてどこに行ったのよ」
きょろきょろと見回して霊夢さんは歩いていってしまった。
もっと見たいと思った。あの霊夢さんを。けれど能力を解いて姿を現すだけで良かったのに出来なかった。胸が太陽みたいに熱くて熱くて何も考えられない。私、どうしちゃったんだろう。
良く晴れた日の午後、縁側に面した部屋の畳にごろんと寝転がるのは何とも気持ちのいいものだ。博麗神社で労働(という名の雑用)に勤しむようになってからそんなことをサニーとスターは言うようになった。私はせっかく整えた髪の毛がぐしゃっと潰れそうな気がしていまいち思いっきり寝転がれない。サニーは人生?の三割は損してるって言うしスターもしたり顔であいづちなんて打っている。
今日もそんな晴れた日でサニーとスターは畳の上でぐっすり眠りこけている。神社に来るようになってからは慣れた光景だけれどいつもと違うことが一つ、横で霊夢さんも眠っていた。私たちといる時はぼんやりしているようでその実、よく見てくれている。蔵の整理で重いものを持って危なかった時もそっと支えてくれたりした。私じゃなくてものが大事だった可能性もあるけれど。むしろそっちの方が高いけれど……。
霊夢さんが寝ている。私の横で。ちょっぴり苦手くらいに思っていた霊夢さんが、まぶたを閉じて、穏やかな表情で、ぐっすり。
「霊夢さん」
ふいに口から飛び出て身体をぴんとさせた。自分でも思いがけなく、口からこぼれ出たようだった。霊夢さんは少し身じろぎをしたくらいで、目覚めない。
能力を使う。消音、私のたてる音が漏れないように。
「霊夢さん」
今度は自分の意思で、はっきりさせて名前を呼んだ。
「霊夢さん」
能力はしっかりと効いていて霊夢さんにも二人にも聞こえた様子はない。
「霊夢さん」
強い風が吹いた。ざーっと音が過ぎていく。その音も消した。私と外を音だけ遮断した。霊夢さんの髪がさらさらと動き、まつ毛がそっと揺れた。こんなに近くにいるのに何も聞こえない。まるで月に一人置いてけぼりになったみたいだった。
「霊夢さん」
無音の中、私があなたを呼ぶ声だけを聴いていた。
住まいからでも博麗神社まで能力が届くことをふと気づいたのだ。つまり神社で霊夢さんがどうしてるかわかるわけだ。神社を乗っ取るのに使えそうだと思いサニーとルナにも伝えようとしたが、やめた。きっとあの二人のことだから行きあたりばったりの作戦で潰してしまい、能力がばれた私が霊夢さんに拳骨を受ける未来が見えた気がしたからだ。
それならば神社で霊夢さんがどう動いているか、一人で観察した方がおもしろい。絶対。三人一緒ならすぐそばでじっと見ていてもいいのだけれど、霊夢さんの観察は、何となく誰にも教える気にならなかった。
日中は直接神社でごろごろ、いや(サニーとルナが)働いてるが、夜は宴会にもならない限りミズナラの住まいに帰ってくる。みんなでおゆはんでも作りながら、私は霊夢さんを見ている。台所にいるようだから霊夢さんもきっとごはんを作っているのだろうな、なんて。うっかりにやにやしているとサニーが気持ち悪いと言ってくるが。
霊夢さんはやっぱり人気者で私たちが帰ってからも色んな人、妖怪が神社を訪れる。魔理沙さんを筆頭に仙人だとか、吸血鬼とか、神さまとか。自分の能力はそこまで精度の高いわけじゃないから気を付けていないと霊夢さんがどれだかわからなくなってしまう。霊夢さんと誰かが寄り添ってたり、ほかの人妖と混ざったりすると曇った気分になる。ルナがおなかが痛いのかと心配してくる。
きっと私は神社でなく霊夢さんが欲しいのだ。私たちみたいな妖精にも普通に接してくれるあの人が、妖精以上に生きることを楽しんでそうなあなたが欲しいんだろう。私はずっと霊夢さんを見ていられるからまるであなたを手に入れたような気になる時がある。でもそれは本当じゃないのだ。あの人は誰かが望んで捕まえられるものではないのだ。私は星の妖精だけれど空の星には手が届かない。霊夢さんも星なんだろう。決して触れない星。
- 作品情報
- 作品集:
- 最新
- 投稿日時:
- 2012/04/01 21:53:47
- 更新日時:
- 2012/04/01 21:53:47
- 評価:
- 3/6
- POINT:
- 27357525
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- 781644.29
……長編で読みてぇ、切に。いやこれだけでも十分面白いんですが。良ければご一考下さい。