「おはよう! メリー。待たせちゃった?」
「一、二分程度の遅刻で、目くじら立てたりしないわよ。待ったけど」
「待ち足りなかったんなら、そこらのベンチで時間を潰してくるけど?」
「喧嘩売ってるの?」
「喧嘩するほど仲が良いって言うじゃない。ほら、仲良し仲良し」
「はいはい。それで? 人をいきなり電話で呼び出しといて、どう言い訳するつもり?、」
「それがね、今日、嫌に退屈でさぁ」
「ほほう」
「やることが無い訳じゃないんだけど、どうも乗り気になれなくて。メリーも暇してるかなーって」
「それで、私は片道20分の公園まで召喚されたって訳ね? 別に構いませんけど……」
「何か不満があった?」
「いーえ。たとえ火の中水の中、お供致しますわよ、宇佐見さん」
「あら、そんなにぷりぷりしなくたっていいじゃない。結局、時間は空いてたんでしょう」
「まあね。で? その様子だと、これからどこへ向かうかも考えていないんでしょう」
「貴方と相談してから決めようと思って。散歩しがてら話しましょう……」
※
「あーん、陽に焼けちゃうわ。日傘を持ってくればよかった」
「メリー、本当に色が白いものね。海向こうの人だからって訳じゃないだろうけど、羨ましいわ」
「私の見目が良いのは認めますが、良いことばかりじゃありませんわ。焼けるとみっともなくなっちゃうから、これでも相当気を遣ってるのよ」
「それじゃ、屋内に入れるところがいいわよねぇ。映画とかどうかな……。と、何か飲む? 自販機あるけど」
「じゃあ、紅茶で。奢ってくれるの?」
「それでメリーの歓心を買えるんなら、安いものだわ」
「私の機嫌も安く見られたものね。蓮子は何にする?」
「烏龍茶、って、あ」
「これで相殺ね。まだまだ、一日は始まったばかりよ?」
※
「私達、怪しいところに迷い込んじゃったんじゃない? 薄暗いし、なんだか埃っぽいし。変なにおいがする……」
「だからこそ、突撃する甲斐があるってものじゃない。一昔前の映画館なら、今じゃ出回っていない、レアな作品が拝めるかもしれないわ」
「一昔前というより、アングラ系よね……。一応、入場料を払ってはみたものの。チケットとか要らないのかしら? 次の上映時間がいつなのかも分からないし……」
「多分、同じような演目を繰り返し上映してるのよ。居座ろうと思えば、終日座ってることもできるシステムじゃない? その分、サービスには期待できないわね……」
「偶然見つけたにしては、妙に詳しいじゃない」
「……、実は、前々から目を付けていたのよ。だけど、一人で入る勇気が無くって――」
「私を道連れにしようって訳ね? ま、これも活動の一環と思えば、多少の危険を冒すのも已む無しか」
「そこまで構えることはないじゃない。ほら、こっちのドアから入るみたい……」
「…………」
「……いくわよ?」
「さっさとしなさい」
「ええい、ままよ!」
※
「――丁度、幕間の時間みたいね。運が良かった、のかしら?」
「だってのに、廊下よりも暗いじゃない。結構人は居るみたいですけれど……」
「静かに……! 隅っこの方に移動しましょう」
「…………」
「……――」
「あ、始まるみたい」
「……メリー、なんか、男の人ばっかりねぇ」
「若者は、私達だけなんじゃないかしら。あ、あっちに二、三人、大学生くらいの人達も座ってるわね……」
「少し、おっかないわねぇ。目付きが異様っていうか、ぎらついてる感じ。ねぇ、ちょっと、メリー」
「熱気というか、狂気というか。もう、引っ張らないでよ……」
「――まさかとは思うけど、いかがわしい映画でも始まるんじゃないでしょうね」
「まさか、未成年じゃないかどうか、確認すらされなかったわよ。私はともかく、蓮子が素通りできるとは思えないわ」
「どういう料簡か問い質したいところだけど……。あの受付、顔を上げもしなかったわよ」
「…………」
「…………始まるわね――」
※
「………あ」
「――――」
「……うわー」
「――――」
「……ありゃ」
「――――」
「……ねぇ」
「――――」
「……ねー、蓮子?」
「――――」
「……大丈夫?」
「――――」
「……どうしようかしら」
「――――」
「……盛り上がってるみたいね?」
「――メリー、」
「ん?」
「飲み物買ってきて――」
※
「ふう、圧倒されちゃったわね」
「凄い盛り上がりっぷりだったものねぇ。特にあのシーン、絶体絶命のピンチに、三人目の魔法少女が助けに入るところとか――」
「いや、どちらかといえば私は、周りの熱狂っぷりに引いちゃったけど……」
「データベースによれば、50年ほど前のアニメーション作品らしいわ。興行的には、鳴かず飛ばずの評価だったみたいね」
「うーん、ちょっと腑に落ちないわね。あれ、どちらかといえば女児向けのアニメでしょう? なのに観客は、中高年の男性が中心だった……」
「だからじゃない?」
「え?」
「だから、社会通念的に、あの人達が視聴するには不自然な映画な訳でしょう」
「蓮子もちゃっかり混ざってたわよねぇ。センスがオヤジっぽいのかしら」
「そういうメリーはどうなの?」
「私? そうね、横から見てて、楽しかったわ……」
※
「よしよし、どうにか一日潰れたわねー」
「現役女子大生の台詞とは思えませんわ……」
「意義深いかは別として、興味深い事例じゃあったわ。深く考察する気にもなれないけど」
「まあ、いいんじゃない? こういう日も、偶にはね」
「秘封倶楽部の活動としてカウントするには、躊躇っちゃうけど」
「じゃあ、私達の中で、どういう位置付けになるのかしら」
「そりゃやっぱり、デートじゃない?」
「デートねぇ」
「デートよ」
「……デート、ね。ふふ」
「ふふふふふふ」
「……」
「……ねぇ、メリー」
「何かしら」
「二人って、いいわねぇ」
「ん、そうね。そうなんでしょうね……」
「うん。……私、メリーが居てくれて、良かったわ」
「ねぇ、メリー?」
(おわり)
「以(r」
ご読了ありがとうございます。プラシーボ吹聴と申します。
吹噓と水渠は血の繋がらない親戚です。
という訳で秘封倶楽部の掌編でした。相変わらず一発ネタですが、多少なりとも皆様の暇潰しに貢献できたのならこれ幸い。
こちらと併せると、よりお楽しみ頂ける可能性も。
まだ生きているのが不思議なくらいの、プラシーボ吹聴でした。
プラシーボ吹聴
- 作品情報
- 作品集:
- 最新
- 投稿日時:
- 2012/04/01 21:13:01
- 更新日時:
- 2012/04/01 21:13:01
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