- 分類
- 天子
- 衣玖
- パロディ
永江衣玖は憂鬱な気分で比那名居家の廊下を歩いて……いや、飛んでいた。
朝、何者かの気配に目を覚ますと、比那名居の使いでやってきたという天女が家の前に立っていたのだ。
昨夜は満月を肴に龍宮の使いの仲間たちと夜遅くまで酒盛りをしていたため、衣玖はひどく眠かった。どうせあの不良天人がまたろくでもないことを言い出すんだろうと思うと、無視してしまえという気持ちがだんだん強くなっていく。
しかし、空気を読む程度の能力を持つ彼女は、このまま帰したら天女が天子からどのような扱いを受けるかわかってしまった。
ふう、とわざとらしいため息をつき、仕方なしに応答することと相成ったのだ。
「総領娘様、衣玖が参りました」
もはや見慣れた天子の部屋に足を踏み入れる衣玖。天子は奥のベッドにいつものように足をぶらぶらさせながら腰かけていた。
衣玖は天子の瞳に何か思いついたときにいつも見せる得意げな色を見つけ、またかと落胆の顔を見せる。そんな衣玖を見て何を思ったか、そもそも見てないのか、天子がその自身に充ち溢れた口を開く。
「うりゅー!」
「は……?」
「うりゅー! うりゅりゅりゅりゅりゅうりゅー!」
衣玖は思考停止した。今この娘はなんと言ったのだろう。……考えずともいまだにうりゅうりゅ言っているのを聞けば一目瞭然、いや一聴瞭然だ。これはどういったことだろう、そう考える必要も彼女にはなかった。彼女が持つは空気を読む程度の能力。その能力を持ってして彼女はすぐさま答えを出した。
「総領娘様! 結婚してください!」
「うりゅ、うりゅりゅりゅー!」
「ええ、分かっております。ドレスは胸元フリルが特に大きいものですね」
「うり゛ゅー」
あからさまに不満げな声が天子から聞こえる。なるほど、こんな使い分けができるのかと衣玖が思うよそで、天子のうりゅうりゅは続く。何かを訴えたいというのは衣玖にもわかるのだが、言葉があれでは通じないというものだ。だがしかし、彼女は空気を(略)を使い天子の意図を読み取ってみせた。
「この愛らしい総領娘様を幻想郷中に広めるのですね! ああっ、でも私が独り占めというのもなかなか……」
ただ自身の欲望を吐き出しただけだった。
少しの後、さすがに放っておくのはまずいと考えたのか彼女らは妖怪の賢者の元を訪れていた。
「うりゅー!」
「というわけなんですよ」
「わけがわからないわ」
一瞬目を丸くした紫だが、すぐに普段の胡散臭い笑みを浮かべると、これはいったいどういうこと、と衣玖に尋ねる。
「と、言われましても、私が朝呼ばれてお伺いしたときにはすでにこうだったのです」
「なるほど、それで私に助けを請いに来たと」
「うりゅー!!」
「はい、そういうことです。総領娘様、静かになさってください」
紫に助けてもらうのが気に食わないのか声を荒げる天子をたしなめる衣玖。
その様子をみていた紫は衣玖がすっかりこの状況に適応しているのに引っかかりを覚えるが、なんてことはない、これが彼女の能力なのだ。
「まあいいわ。せっかくだから一日ぐらいそのままでもとは思うけれど、今からでいいのよね?」
てきとうに境界をいじれば元に戻るでしょう、そんなことを思いながら天子の境界の綻びを探す紫。
「はい、善は急げでございます。一刻も早く、総領娘様の『うりゅー!』を著作権登録してください」
「は……?」
「うりゅー!」
「おや、幻想郷知的財産権管理団体の会長は紫さんだったと記憶していたのですが」
「そうじゃなくて! そこは普通元に戻しに来ましたっていうところでしょ!」
「どうしてですか? こんなに愛らしいというのに」
「うりゅりゅー」
あらためてみると、いつもの不機嫌な顔でうりゅーなどと口走ってる天子。そう、いつもならこれでもかというほど溢れてくる憎まれ口の代わりに、どこぞのマスコットのような声で鳴くのだ。これが愛玩動物なければなんだというのか。可愛がらずにいられるのか。むしろこのリュウグウノツカイがいなければお持ち帰りしていたかもしれない。
妖怪の賢者の思考は大変速く、あっという間に結論に辿り着くのである。
「なるほど、昔の藍を彷彿とさせるわね」
「ご理解いただけましたか。それではさっそく……」
「待ちなさい!」
突然かかった静止の言葉に何事かと三人は振り向く。
「そのようなあからさまな盗用、登録を認めるわけにはいきません!」
「うにゅ!」
地霊殿の主、古明地さとりとそのペット、霊烏路空であった。
「さあ今すぐ撤回するか、うにゅに訂正して著作権料を納めなさい」
「うにゅ!」
これは困った、と紫は思った。今の可愛い天子を失うのはもったいない。しかし、さとりの言い分はもっともで、公平でないのは幻想郷の管理者として失格だ。あ、でもうにゅでも可愛いからいいわね。
妖怪の賢者の思考は大変速いのである。
「くっ、黙っていれば言いたい放題言ってくれますね。あなたがたにはこの総領娘様の素晴らしさがわからないのですか!」
「うりゅー!!」
「知りませんよそんなとってつけたようなぶりっ子は。うちのおくうのほうがずっとかわいいです」
「うにゅー!」
両者の間に激しい火花が散る。こうなったら解決手段は1つだけしかない。
衣玖とさとりが一歩前に出る。保護者として、自らの手でかたをつけるつもりなのだろう。
「心を読む私に貴女の攻撃が通じるでしょうかね」
「うるさいですね。心読まなきゃ会話できないコミュ障は引っ込んでいてください。空気を読むのが今のトレンドなのですよ」
二人からおびただしい量の弾幕が発射され、それが開始の合図となった。
一方、少し離れたところで残りの二人も対面していた。
「うりゅー!」
「うにゅ」
「うりゅりゅー!!」
「うにゅ!」
今ここに、天界に住まう大地を操る少女と、地底に住まう太陽を体現する少女の戦いの火蓋が切って落とされた。
ちゅどーん。幻想郷は爆発した。
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- 投稿日時:
- 2012/04/01 20:48:41
- 更新日時:
- 2012/04/01 20:48:41
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