そう
作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 19:59:55 更新日時: 2012/04/01 22:15:21 評価: 7/10 POINT: 43357523 Rate: 788319.05
分類
蓮子
メリー
これは作者と読者のゲーム
私が目を覚ましたのは、埃っぽくてぼんやりと暗い――そんな部屋だった。
まだ覚醒しきらぬ頭だったが、見慣れない景色を凝視しているうちにだんだんと意識がはっきりしてきた。
「――うそ」
ぽつりと呟く。「もしかして、監禁?」
今日(昨日?)はメリーと秘封倶楽部の活動として朝から夕方までずっと街中を歩いていた。
家に帰ったのは六時すぎ。そっからお風呂に入り、あまりにも疲れて眠すぎたため夕飯も取らずベッドで眠ったのだ。
だけど、今私がいる部屋は明らかに自分の部屋ではない。
武骨なパイプが何本も、天井から壁をつたい地面へと走っている。鉄製の棚が何個かあり、すっかり風化した段ボールが乗っていた。
倉庫、だろうか?
私は椅子に座ったまま、きょろきょろとせわしなく辺りを見回しながら思った。
そこで奇妙なことに気づく。自分の目の前に小さなテレビが置いてあった。そして右側の壁には新品の時計。それらは埃をかぶっておらず、この部屋から浮いた存在だった。
不審な思いを抱きながら立ちあがる。
――ピンッ。
首もとから、何か栓が抜ける音がした。
慌てて首もとに手をやると、鉄特有のひんやりとした感触が伝わってきた。
「なによ、これ」
ぺたぺたと触り続ける。どうやら自分の首に、太い首輪がついているようだった。私の心臓がどんどん速くなってくる。
――ブンッ。
今度は正面から音。目をそちらにやった。
テレビがついている。薄クリーム色の壁とベッドがが映し出されていた。
もしかして、これは自分を監禁した犯人からのビデオレターだろうか?
だとすると何を話すのだ。
私は怯えながらもテレビに近づいた。
『ビデオ映ってるかな』
ひょっこりと横からメリーの顔が出てくる。近すぎるためかなりのアップだ。
もぐもぐと口が動いているので、何か食べているようだ。
『よし、大丈夫そうね』
そう言うと、彼女は正面にあるベッドに座った。メリーは可愛らしいパジャマを着ていた。
私は鋭意困惑中だった。なぜメリーが映っているのか。そんでもってなんで彼女はプリンを食っているのか。
皆目理解できない。
『プリンうめぇ』やかましい。
時間をかけてプリンを平らげると、メリーはふうっとひと息つく。そしてやにわに真剣な顔になった。
――もしや!
私の頭の中をいなづまが走る。――もしや、メリーも自分と同じく監禁されているのではないか。
これはきっと犯人の命令で、私に何かしらの伝言を伝えようとしているのではないか。
そうだ、そうに違いない。私はふむふむと頷く。どうしてプリン食ってたかって? 知らねえよ、支給されたんだろ。
真顔のメリーがテレビ越しにこちらを見てくる。ごくりと生唾を飲んだ。
あれ、この部屋あの子の部屋じゃね? 私は思ったが気にしなかった。大丈夫、まだ慌てるような時間じゃない。
あれ、バラエティー番組のにぎやかな声しね? 私は気にしない。大丈夫、まだ慌てるような時間じゃない。
メリーはゆっくりと口を開いた。
『おっす、おら犯人』
テレビにチョップした。ばきっと不穏な音がしたが気にしない。
ええ、気づいていたよ。そんなことだろうと思ったよ。そりゃわかるわ。
どうせあれだろ? ちょっといつもよりハードなおふざけしただけだろ? こんちきしょう。
『あっ、いけない』
そう言うとメリーは口を押さえた。『かぶり物をしていないわ』
もう手遅れである。こちとらすっかり犯人の正体に気づいているのだ。
なのに彼女は本当にマスクをかぶり始めた。ちょっとリアルな馬の頭である。
画面の中からメリーは消えた。いるのは可愛いパジャマを着た馬だけである。絵がシュールだ。
『えー、いつもよりハードなおふざけをしてみました』
だろうね。
くぐもって聞き取りづらいが、確かにこいつは今こう言った。
私ははあっとため息をつく。するとテレビの中のメリーがくっくっくと笑った。
『気を抜くのはまだ早いわ』
こっちの心のうちは見透かされているのかと、私はもう一度ため息を吐いた。
『言ったでしょ? これはおふざけだけど、いつもよりハードって。――あなたとゲームがしたいの』
ゲーム? なんじゃそりゃ。
私は画面を見つめ続けた。
『あっ、それと前もって言っておくけど、これからメタ話が始まるわ』
さすが四月一日だ。作品内で平然とメタ話が始まりやがる。
『今日一日は創想話で何をやってもいい一日。だけどそれにしたってあまりに調子に乗っている奴がいるわ。この作品の作者よ』
でしょうね。受験勉強ほっぽり出してパソコンに向かってるような奴だもん。
『だからある制約を課すわ。それは二時間後の十時までに五千万点まで取ること』
くっ、なかなかハードではないか。思った以上に彼女には加虐嗜好があるな。
一人がつけられる点数の最高値は7777777点。単純計算をすれば最高点のコメントが七つつけばいい。
しかし……! しかしだ。
今日の零時から投稿してもコメントが七つついていない作品などいっぱいある。メリーだってそのことは知っているはずだ。
なのに二時間という短い時間で……! あまつさえ、この作者にネームバリューなどというものは一切ない。
ならば言えることはただ一つ。
できない――その一言に尽きる。
私は沈思し、額の汗を拭った。
と、その時、メリーがくっくっくと再び気味悪い笑みをもらした。
『できない、そう思ったでしょう?』
やはり彼女はこちらの心のうちを見透かしている。
『でもね、私はこれ以上の妥協はしないわ。そしてもちろん、罰だって用意してあるわ』
なるほど。確かに彼女はこれをゲームとして楽しんでいるようだ。
『もし、三時間以内に五千万点を取れなかったら――』
私は全神経を耳に集中させた。心臓が爆発しそうになる。
『作者の名前を明かすわ』
「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!」
私の悲鳴がこの部屋に響く。
狂ってる狂ってる狂ってる狂ってる……!
マエリベリー・ハーン。この子、完璧に狂ってるわ!
だってそうでしょ? 読者を煽っているけど、その実、この作者はびっくりするほどのマイナー作家なのよ。
もし名前を明かしてみなさい。読者のみんなはちょっぴり期待しながらその名を見るでしょう。そして、「あ、ああ?(誰だよこいつ……)」みたいな気持ちになること間違いなしだ。
そうなると最悪の場合、コメント欄は――
炎上する!
――あ、ごめん調子乗った。炎上というか、あまりにも作者がマイナーすぎて誰もコメントしないと思う。
それが一番恐ろしいのだ。名前を明かしても誰にもコメントされないことが。
私はがたがたと歯を震わせた。どうしようどうしよう……
もしコメント0件だったら、
「あー、知ってるー。この作者、四月一日の作品で名前明かしたのに誰一人にも反応されなかったんだよー。ちょーうけるWWW」
なんて言われながらのちのちの作家生活がやばいことになる。
こいつはベリーハードだぜ!
『さあ、このゲームを楽しみましょう』
メリーは馬のマスクを外す。案の定、邪悪な笑みを浮かべていた。想像以上の加虐嗜好者だ。
もしや、私はこの部屋から一生出れないのではないか。この首輪には何かえげつない仕組みが施されているのではないか。
そう思った途端、全身が粟立った。
『それと三時間経ったらあなたは出れるから。トイレは向かって右のドアね。首についてるの、邪魔くさかったら外しちゃっていいわよ。雰囲気出すためにやっただけだから』
――プツンッ。
テレビの電源が落ちた。
私は最初座っていた椅子に落ちつき、時計を見た。
今から二時間か……。
なんで私、監禁されたんだろ、と思いながら私はとりあえず首輪を外したのだった。
※注意※
この作者は本当にマイナーだから、期待値は最低にしてね!
では二時間後にまた会いましょう。
それじゃあみんな、よしなに!
十時現在 ポイント 34238348点
有名な作家さんだと思った?
残念! シンフーちゃんでした!!
いや、ホントすまないです。
もう読者の人々の、「あ、ああ?(誰だよこいつ……)」みたいな雰囲気がひしひしと伝わってきます。
それでも、ここまで読んでくれた皆さんには心からの感謝を!
シンフー
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2012/04/01 19:59:55
更新日時:
2012/04/01 22:15:21
評価:
7/10
POINT:
43357523
Rate:
788319.05
簡易匿名評価
POINT
0.
4024194
点 匿名評価 投稿数:
3
1.
7777777
点
名前が無い程度の能力
■2012/04/01 20:03:40
じゃあ俺はあえて晒されない方向に
2.
7777777
点
がま口
■2012/04/01 20:06:22
その勇気と、今後も活動を続けるっぽい気概に乾杯!
3.
7777777
点
奇声を発する(ry
■2012/04/01 20:07:25
じゃあ私も
5.
333333
点
名前が無い程度の能力
■2012/04/01 21:04:20
これと他の人6つ分で大丈夫!
頑張れ作者!
6.
7777777
点
名前が無い程度の能力
■2012/04/01 21:04:49
台詞回しとキャラの性格が良く読んでいて面白かったからむしろ作者ばれしてほしいです
突っ込みが冴え渡る蓮子さんとプリンうめぇなメリーさんでグッと引き込まれました
名前明かされたら過去作漁るわホント
8.
111111
点
名前が無い程度の能力
■2012/04/01 21:44:43
七人めだけどあなたの名前が知りたいからね。
れんこかわいい
10.
7777777
点
名前が無い程度の能力
■2012/04/01 22:17:08
マジレスすると自虐の部分で笑ってしまったので俺の負け
名前
メール
評価
7777777点
666666点
555555点
444444点
333333点
222222点
111111点
パスワード
<< 作品集に戻る
作品の編集
コメントの削除
番号
パスワード
頑張れ作者!
突っ込みが冴え渡る蓮子さんとプリンうめぇなメリーさんでグッと引き込まれました
名前明かされたら過去作漁るわホント
れんこかわいい