- 分類
- ユカロリ
無からまず紫が生まれた。
紫にはまだ姿が与えられておらず、周りは無だったので境界すらなかった。その時、紫という名前すらなかった。
紫が境界を定めた時、世界が光に照らされた。
その時、紫は自分の姿を見た。
幼女だ。
幼女姿の紫は、素っ裸だったが、特に恥じることもなくそのまま無を漂っていた。
そして紫は気づいた。世界が光に照らされたと思ったのだが、実は自分が光そのものであったのだ。
この場合の光は、今の光とは全く違う。純粋なるエネルギーそのもの。そして、それが紫であった。
光り輝く自分の未熟な肢体を見た後に、決心した。
紫は幼女特有の無垢な慈悲によって、世界に光を分け与えた。
それが、ビッグバンである。
紫を中心として広がるエネルギーは、紫そのものでもあった。紫は自分が広がっていくことに恍惚し、ある種の気持ちよさを感じていた。
しかし、次第にそれは苦しさへと変わっていく。無はあまりにも広大であったのだ。やがて自分が保てなくなると感じた紫は、広がっていく自分から自分を切り離すことにした。この時を「宇宙の晴れ上がり」という。
紫を切り離したことによって、広がりは爆発的な速度を得て広がり、やがて宇宙になった。
一人広大な宇宙にぽつんと漂う紫は、唐突に寂しさを感じた。
それはきゅうきゅうと紫の胸を締め付けた。自分の他に誰もいないことに、紫は耐えられなかった。だから、作ってしまおうと思った。幸い、材料は辺りにたくさんある。紫の一部は物質として宇宙に漂っていた。
それから長い間、紫はこねこねと辺りにある物質を集めて、せっせと一生懸命に練った。紫が作り上げたものがある一定の大きさを迎えた時、集まり始めて、やがて勝手に星が生まれるようになっていった。すなわち、恒星や惑星たちが出来ていくのだ。
紫は幼女特有の無垢な笑顔で笑った。紫にはこれらがやがて自分と同じ姿をした何かを生み出すことが分かっていたからだ。
その後、紫は勝手に出来ていく星たちを眺めて楽しんだ。時には自分で手を加えたりして、勝手気ままに時を過ごした。
変化が訪れたのは、宇宙に数え切れないほどの星や銀河が浮かぶようになってからだ。
その日の紫はとても眠かった。
体も最初に比べればずっとずっと冷たくて、光はもう出てなかった。
目をこする紫は、ようやく寝る時が来たということを理解した。紫は今すぐに寝たかったが、ふわふわと浮いて寝るのは趣味じゃなかった。
だから、ある星に降り立った。そこは紫が予め目をつけていた惑星であった。そこはまだ煮え立つマグマが広がるだけだが、やがて海ができ、陸ができ、それらによって命が生まれ、そして自分と同じ姿をした何かが現れる。そのことが確定している星であった。
自分と同じ姿をした何かが現れるまでに、紫は小さな島を作って、その上で寝ることにした。もう星が生まれる様子を観察するのは飽きたし、寂しさは一向に収まらない。眠気が出てきたのは、寂しくならない環境が出来るまでに、夢の中でいっぱい遊んで、退屈をしのげるようにするためだということに、紫は寝る直前に気づいた。
瞼を閉じて、紫は思った。きっと自分は起きたら「大人」というものになっているだろう。そして、もう寂しさや退屈を感じることもなくなるだろう。なぜなら、たくさんの自分と同じ姿をした何かが延々に生み出し続けるからだ。永遠に退屈しない――「知」。それが生まれるまでに、紫はいっぱいいっぱい寝ようと思った。
そうして幼女特有の無垢な寝顔を浮かべながら、紫はその時が来るまでに眠り続けた。その時が想像以上に混沌とした環境になっていることを、この時はまだ知らない。
――おやすみなさい。
「ということがあってね。だからみんなのこと、大好きよ?」
『もっとまともな嘘をつけ』
- 作品情報
- 作品集:
- 1
- 投稿日時:
- 2012/04/01 19:56:22
- 更新日時:
- 2012/04/01 19:56:22
- 評価:
- 1/3
- POINT:
- 10460573
- Rate:
- 523029.90