フランドール・スカーレットがゴキブリ(リグルに非ず)を師匠と呼ぶ話
作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 17:07:11 更新日時: 2012/04/01 17:07:11 評価: 3/5 POINT: 24720590 Rate: 824020.50
分類
相棒の映画版はどれもこれも蹴り飛ばしたくなるような駄作
秋田書店 少年チャンピオンコミックス『範馬刃牙』25巻〜27巻より
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フランドール・スカーレットがゴキブリ(リグルに非ず)を師匠と呼ぶ話
<<主な登場人物>>
フランドール・スカーレット …… 妹。
レミリア・スカーレット …… 姉。
杉下右京 …… 相棒。
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[なんか適当な季 睦月の二十九
1月29日 紅魔館]
「それで、フランはなんと……?」
紅魔館は食堂にて、霧雨 魔理沙とレミリア・スカーレットがティーテーブルを囲んでいた。
フランドール・スカーレットを訪ねた魔理沙が地下から戻ったその足で、レミリアに用を求め喫茶室へと割り込んだのだった。
「おまえに会いたがっている」
「会ってなにを?」
「……フランドールは変化った。なんと、あいつはおまえと――」
無遠慮にテーブルの対面に座り、皿に並べられたビスケットをポケットに仕舞いつつ魔理沙はフランとのやり取りを説明する。エアろくろでも回すような身振りと手振りで。
「あの子、そんなことを……ッッ」
魔理沙の言葉を聞くや否や、レミリアは頭に血を上げ摘んだビスケットを握りつぶした。
「落ち着け、レミリア。妖精メイドが近づけない」
「魔理沙。詳しく聞かせて」
その日。
魔理沙とフランの間に持たれた会話とは、以下のようなものであった。
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「あ? なんだって?」
フランドールの羽にぶら下がる結晶のショア硬さを試験していた魔理沙は、茶飲み話がてらフランが口にした考えに思考を失った。
「いまなんつった?」
「なにって……」
「自分がなにを言ってるのかワカっているのか?」
カッティングを経ずして角ばった紡錘を作るフランの羽にぶら下がる結晶は紛れもない単結晶である。鉄、銅、マグネシウム、ナトリウム、亜鉛、そして銀……大きさの揃った結晶は格子間不純物により反射色を変える。フランの羽は生え変わる。フランの背中から離れれば離れるほど結晶は老朽化し、暗褐色を呈してやがて脱落する。これはフランが普段摂取する血液に含まれる人体の必須ミネラル、特に鉄イオンが結晶中にトランプエレメントとして蓄積することで起こる現象であり、つまり単結晶でありながらこの羽は"代謝"しているのだといえた。常温、常圧でありながら分子の運動を許す不思議な結晶。この秘密を魔理沙は解き明かそうとしていた。組織観察から得た所見で、フランの結晶は格子間距離の定まった秩序のある配列ではなく、中距離かつ無秩序な配列を持った、結晶学的に言えば"固体と液体の間"にある物質であることを魔理沙は論文にまとめつつあったが、そういった考えが……綺麗さっぱり、吹き飛んだ。
「確かに、異常だよ。魔理沙――けれど」
フランは呆れたような、しかしどこか照れているようにも見える顔で魔理沙にずい、と詰め寄った。
「私が今口にした言葉に耳を疑っている。そっちのほうが遥かに異常なのよ」
「いや、しかしだな」
「私の言葉のどこがおかしいの?」
ベッドの上で。
背面に座り、羽根をいじくっていた魔理沙に向き直ったフランは両手を広げて言い直す。
「姉妹でゆっくり食事をしたい。そのどこがオカシイんだい!?
妹の私が姉と血を啜るッ 真っ当じゃないかッッ」
「……その通りだ」
しばし頭を抱えていた魔理沙はうめくようにつぶやいた。
「だったら」
「フラン」
畳み掛けるように魔理沙に抱きついてくるフランドールを制しつつ、魔理沙は感情を抑えて。
「トボケるんじゃあないッッ」
すがりつくような格好のフランの瞳が魔理沙の良心を容易く射抜く。
「おまえこそが自分で、無茶を口にしていることを知っている。
レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットが食卓を囲むことの異常さ。
想像してみろよ――その不自然さを!」
冷え切った地下室に、魔理沙の声がやけに響いた。
重苦しい沈黙。
それを破ったのは、言われて想像したフランの描く情景だった。
「パンを焼き」
粗い刃のブレッドナイフで、小さなパンを切り分け。
「スープを温め」
大き目のミトンをつけて、火にかけた鍋を下ろし。
「つましいおかずに舌鼓を打ち」
白亜の皿とステンレススチールの食器を並べて。
「食べられることを祝福しあう」
フランの対面には、レミリアがいる。
「…………」
魔理沙にも、その情景が見える。二人はイメージを共有していた。違うところといえば、つましいおかずというのが魔理沙みたいなやつを指していること、くらいだ。
「ア……デザートもいいな。セブンプレミアムの新作。へえ、こんなのが出てたのか……なんて、ネ」
「…………」
「日常をさ。話し合ってるうちに。時々あるのよ。
個性の違う同士、意見の食い違いってやつが。
そうすると姉さまも頑固なのよ?
『ふん! 虫唾が走るわねッ』
『あんたのその腑抜けた弾幕ッッ叩き直してあげるわッッ』
頭っから全否定なのよ。そーなったら私も譲れない。
『姉さまはすぐそれよッッ』
『人の話を聞こうともしないッッ』」
「フラン……」
「『耳を貸す度量がないッッ』」
「フラン」
「『もういっぺん抜かしてみなさいフランッ、その減らずぐch』」
「フラン!」
いつしか魔理沙は叫んでいた。
見ていられなかったのだ。
「そんな。
そんなレミリアが、どこにいるっていうンだ。どこの家にもある、日常の小競り合い?
そんな当たり前を楽しむには、フラン。おまえたちは――強大すぎるんだ」
諦めがあった。諦観に支配されていた。幻想郷とは本来的にそういう社会だ。個相化した、既成概念と因習に縛られた……。
その重苦しさのなかで。
しかしフランは、この地下室から。
闇の深いほうを、姉のいるほうだけを見ていた。真ッ直ぐ。目を逸らさずに。
「そして」
フランはベッドから降りると、銀メッキされた板金製の扉を撫ぜる。
ちりちりと、血の焦げるにおいがした。
「咲夜にばかり、料理をさせるのも悪いわよね」
煙を上げるその手がドアノブを掴む。
「たまには、二人で」
純銀で作られ、呪文が彫られたドアノブは容易に悪魔の手を炭に変えた。
「ご飯、作ってあげなきゃあねェ……」
ぱたぱたと、煙をはたきながら魔理沙は消沈した。
「願えばかなう幻想郷。なにが起こるか解らない。
が――それだけは」
ない。
以上が、魔理沙の出会った、ありふれたフランの狂気であった。
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「この私が……飯を炊く……」
レミリアは席を立つ。
あとには、殺気に気圧された妖精メイドと魔理沙が残された。
「飯炊きかァ……」
その背中からは、どんな感情も読み取ることができなかった。
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「WAR(戦争だ)」
「女同士がカードを提示し」
「美しさだけで決着を競う」
「このシンプルかつディープなベストルール」
「スペルカード・システムが制定されて8年と少し」
「新たな紅霧異変がたった今はじまった」
「狂気の495年の手によって」
「スペルカード・ボーナスがダースで舞い込む」
「そして、逃げ出したくなるような姉もね」
「8年or495年」
「な……なんで私まで……?」
そういって縮こまる咲夜であったが、もとより、姉妹喧嘩から彼女が逃れられるべくもないのだ。
家族なのだから。
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[1月30日]
その朝もフランは汗だくで目覚めた。
地下室のベッドの上、ゆっくりまぶたを開けると酸素を吸い込み外界を認識する。
「さすがだね……姉さま……」
外に出ること叶わぬ彼女の唯一の弾幕トレーニングが想像力を活用するベクトルへ傾くのはごく自然な成り行きであった。
シャワーを浴びて部屋に戻ると、いつの間にか食事の用意がされている。
「ゴキゲンな朝食ね」
一頻り平らげると大きく息をつく。
「なんかさ」
じっ……と、誰もいない対面のイスを睨んだ。
「しょっぱくない……? このみそ汁」
オニオンスープが入っていたマグカップに視線を落とす。オニオンスープである。
「いや、なんでって――聞きたいのはこっちよ。これ作ったの、」
そして目線を水平に戻したときには、レミリアがいた。
「姉さまなんだからさ」
レミリアは露骨に不機嫌そうな顔になる。
「んー。作ってもらったことには感謝してるわよ。どうだったって聞くもんだから」
身内に対しては、怒ったときほど笑顔を見せるのがレミリアだった。手をひらひらさせて、挑発するようにフランを煽る。
「味が解るも解らないも、家庭料理でしょ。美味しいかどうかは家族が決めることだわ」
煽りを煽りで返したフランに、レミリアがテーブルを投げつけた。フランは軽やかなステップでこれをかわす。
天井に足を着き、スペルカードを取り出して――
「――ってね」
……無論。
全てはフランの一人芝居である。
「始まるわけよ。どこにでもある、姉妹喧嘩」
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トレーニングは続いていた。
「まだだ……硬い。まるで硬い」
闇の中。
「パターンが残っている……」
フランドール・スカーレット。彼女はスペルカード業界においてはいわゆる技巧派に属する。
弾の大小、軌道の性質、反射条件。かわすことを困難にする複合要素に加え、規則性はなによりも美しさを際立たせるとフランは信じ、そのように戦ってきた。
しかし実のところ、技巧派というよりかはそれ以外の方法を知らないがゆえの、小賢しいだけの弾幕だともいえた。
いくら手をかけて編み出し、避け方を強制しようともボムを使われてはひとたまりもない。それも、ただの一発で力の差を埋めて踏み込んでくる大出力レーザーのようなボムが相手では技巧など凝らすだけ虚しいことだ。魔理沙に敗れたときから、フランは自身の中に芽生えたその考えに心を蝕まれていた。
ただ敗れただけなら苦しむこともない。
だが。
そう。
マスタースパークは美しかったのだ。
強引でありながらも美しい弾幕。
それは似通ったスペルカード構成を持ちながら、遥かに力技に拠るところ大きい姉に挑むため、避けては通れない道だった。
地下でイメトレを重ねるフランは、その来訪者の気配を感じ目を開けた。
「これはこれは……お久しぶりです」
悪魔を閉ざすべく頑強かつ一分の隙もなく作られた地下室に、魔法使いにも吸血鬼にも武闘家にも瀟洒なメイドにも気づかれることなく忍び込む者がいるとすれば、それはそれ自体すでに悪魔を上回る所業だといえた。
「……師匠」
しかして、その師匠とは――ゴキブリであった。
「申し訳もなく、未だ私の能力はあなたの足元にも届かなく……ッッ」
フランの視線に気づき、ゴキブリは壁を走って移動する。目で追うのがやっとな速度だった。
「いつの頃からか。あなたを見習い始めたのは」
軽く手を握った。
ゴキブリが一瞬止まった、その場所がコンクリごと砕け散る。
しかし黒い悪魔は仕留められていない。一瞬先に消えている。
「無秩序、乱数的、その動きを見切ることは、容易ではない」
ぱん、ぱんとコンクリの爆ぜる音が続く。直線、直線、直線。ジグザグに。真後ろに。時には空さえ飛び降りて。フランの破壊から逃げ続ける。
「これを打倒するには、逃げ場ごと叩くしかない。ところがだ――」
ぎゅっと手を握ると、ばん! とコンクリでできた壁が全て砕けた。
「こういうのは、ルール違反ときている」
フランはため息をついた。ふしゅぅうう、また壁殴っちまったじぇえい。
パチュリーの魔力により修復が始まった壁。コンクリが再構成されてゆく。あとに残されたのは細かな塵と――
「え……!!?」
フランが目を見開いた。師匠の亡骸。
「どういうことなの」
千切れた胴体からこぼれる血液は、乳白色をしていた。
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[2月2日]
いつものように図書館へ寄り、いつものように地下へと向かう。
階段を下りて銀のドアノブをひねり体重をかけながらドアを推す。僅かな隙間に身をねじ込んで、魔理沙はフランドールの姿を見つけた。
「って、おまえ!?」
フランドール・スカーレット。
その両翼に光っていた七色の羽根が、その最初の結晶が。
「いらっしゃい、魔理沙」
「羽根が、なくなって――いや」
手を伸ばす。感触がある。握ると、形が浮かび上がった。
「空気と同じ、屈折率……だと?」
「なんかね。人間を食べないでいたら、こうなっちゃった」
「おまえ、飯はちゃんと食べないと大きくなれないぞ」
「大丈夫大丈夫。野菜食べてるから。私ベジタリアンになることにしたの」
「ベジタリアン……? それで、どういう優位性が」
「ずっと、考えてた。なぜ師匠の動きが読めないのだろう、って。
その謎がついに解けた。これ、師匠です」
「あ? ……きゃあ!?」
そっと両手で包んでいたゴキブリの亡骸。大事そうに仕舞いこんでフランドールは続けた。
「吸血鬼は人を操る。それは人が血液を持っているから。姉さまは血液を操る……これは見たことがあると思う。
けれど、ならば。血液を持たないのが相手なら――吸血鬼はその優位性を一気に低下させることになる」
「なにを言ってるのか、さっぱり解んないんだぜ!?」
「ま、結果だけ言うとね。私の弾幕は特化したのよ。吸血鬼の姉さまでは反射できないように、ね」
「ゴキブリとどうつながるんだよ!? 師匠ってなに!?」
「足元には…………届いたか」
「誰のだ」
********************
「レディース、エン、ジェルメンッ」
「みなさん。吸血鬼ドラキュラが出版され、時が経つこと実に百年余り」
「レミリア・スカーレット最大の危機――最強の敵が現れたのですッッ」
「引きこもること495年ッ ついに妹が名乗りを上げたッ」
「フランドール・スカーレット!」
「イッツ ショータイム」
「妹フランドール・スカーレットが、今ッッ姉レミリア・スカーレットに牙をむいているッッ」
「ファンの数とエロ同人誌の数だけでは飽き足らず」
「ついには弾幕勝負にまでその領域を広げようとしているッッ」
「やってみろ」
「やれるものならやってみろ」
「フランドール」
「おまえ死ぬなよ」
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[2月3日]
ズチャリ。
階段を踏む足音が聞こえた。
地下室に風が吹いた。
「う、わ……」
ブロッコリとトマトをミキサーにかけ野菜ジュースを作っていたフランドールの髪が逆立つ。近づく足音は重みを増した。
「えーーっと。……これじゃマズいか」
震える手でカップを用意する。湯を沸かし、冷蔵庫からとっておきを取り出した。
「しっかし。来るかね急に」
紅茶の葉が踊るように、しかし踊り過ぎないように静かに湯をポットに注ぎながらフランドールはレミリアとの距離を測った。
「近い、近いよこれ――20メートル……?
いやもっと近いな――10メートル?
え……ッ!? まさかすでに部屋の前……!?
さすがに扉は開けられないか……」
振り返るフランドールの背後。いつも仮想敵を座らせていたそのイスに。
銀の封印などものともせずに、レミリア・スカーレットは鎮座していた。
え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?
「おや、いらっしゃい」
フランドールはあくまでも平然を装う。
「はは……急だなア」
カップを二つ。紅茶を注ぐ。
「なんか予感がしたから。二人分用意したんだよ。さすが姉妹……ね」
レミリアは黙ったまま。しかし紅茶には手をつけた。
一気に半分ほど飲み込む。地獄の業火でもレミリアの舌は焼けないという。
「ア……お砂糖は……」
「こういうこと?」
「え」
「あなたの望む姉妹関係って、こういうことなの?」
口の端から紅茶を滴らせ、レミリアはそれだけ問うた。
「まァ……だいたい、そうかな」
「怖気づいた? 姉に」
「姉さまに――レミリア・スカーレットにビビッていなかった瞬間なんて、たぶん、一秒もないわ」
紅茶の香りを楽しみながら、フランドールは述懐する。
「恐れ」
たこともあった。フランドールは自分自身が恐ろしかった。情緒不安定の根本的な原因とは、自己不信に他ならない。吸血鬼である姉にも、不信と恐怖を感じるのは自然な流れだった。
「慄き」
ながらもフランドールは生きてきた。それはレミリアがいたからだった。レミリアの支えがあったからだった。フランドールの不信は、レミリアが努力で埋めた。姉というのは、そういう存在だった。
「慕い」
あうようになるまで、時間はかからなかった。もとよりたった二人の姉妹である。レミリアもまた、フランドールに寄り添っていたからこそ、その精神を固めることができたのだ。
「憧れ」
を抱くには十分だった。しかし、そのぶん姉の――『運命を操る程度の能力』を知ったときのショックは大きかった。あってもなくても変わらない、その能力。フェアではない。そう思った。
「尊敬し」
ていた姉が、一個の吸血鬼に過ぎず、苦悩を分かち合う相手を失くしたフランに残されたのは、なぜ自分だけが……という孤独だけで。
「そして――憎悪した」
「ならば、なぜぶつけないの。憎悪とやらを」
「姉さま。言ってることがおかしいよ。姉妹なのに」
「仮に私が姉さまと戦うとしたら、それは決闘じゃなくって。
決まった日時までにトップコンディションを作り、双方納得の上に行われる、そんなものじゃなくて。
姉妹ともに生きてゆく、そんな日常のなか、ある日――
些細な……ほんの些細なきっかけで、小さな諍いが起こって。
やがてそれは口論に発展して……
そして終には、抑えていた憎悪が――……。」
フランドールの話を、いかにも情緒不安定そうなその話を聞いていたレミリアはふむふむと頷いた。
「なるほど。あなたの言う通りかもしれない
ところでフラン。あなた。
この私に――不味い紅茶を飲ませるとは、どういうことかしら」
プレッシャーにさらされる。
唐突な言いがかりだった。
とってつけたような、些細なキッカケ。
「あは……嘘はダメだよ、姉さま」
フランドールは、フランドールは。やけに嬉しそうな顔をして。
仏頂面の姉の、不機嫌そうなふりをしている姉の急所を突いた。
「熱いのに、二口で飲んじゃって。美味しかったでしょ? この紅茶」
魔理沙が土産に置いてってくれた。魔法を扱う、処女の血である。
レミリアは観念したように吐露した。フランドールと向き合うのは、これが初めて……初めてだったのかもしれない。
「好むか、好まざるか。私は姉を演じて自己を保っていただけで。あなたの事にはさして興味もなく、理解もしようとしなかった。
それだけのことだったのよ」
495年間。
二人の間にあったのは姉妹関係ではなかった、と。
認めたのだった。姉妹がともに。
まともな神経で受け止めるには重過ぎる事実だったが、もとから情緒不安定なフランドールにとっては、どうでもいいことだった。
「姉さま。紅茶、淹れてよ」
フランドールは悩むそぶりも見せなかった。今度ばかりは素であった。
「ね。いいじゃん、たまに。飲みたいな、姉さまの紅茶」
フランドールが提示したのは、新たな関係の構築だった。姉と呼び、妹と扱う。茶を飲み、たまに喧嘩する。そんな関係を。
「レミリア・スカーレットの紅茶……飲めるわよ」
レミリアが立ち上がった。
「飲む方法が、ひとつだけある」
紅茶のポットが載っていた、ステンレストレイ。
掴みあげるとカップが倒れ、真っ赤な血が飛び散った。
「それは――淹れさせる」
縦に摘まんだトレイを左右に引っ張る。厚さ0.8ミリの加工済みステンレスが弾性変形も許されず真ッ二つに破断した。
「嫌がるレミリアの首根っこひっつかまえ……無理やり淹れさせる」
ばん。と割れた二枚の半月を重ね、さらに左右に引っ張れば。
「張り倒し、服従するまで殴り続けて――淹れさせる!」
四つに切り分けられたトレイが、乾いた音を立てて落ちた。
「嫌も応もなく。血を吸うが如く、無理矢理ね。そうすれば、ご飯だって作ってあげるわ」
がぁん、と大きな音がして、鉛の扉は閉ざされた。姉の背中を、その先に隠して。
四つに裂かれたトレイと、姉の言葉。
反芻しながら思った。
なんだ。
いいんだ、それで……。
********************
「姉さまッ!」
階段を上り、立ち去りがけの姉を呼びとめる。
スカートを下からのぞくような形で、フランドールは立っていた。
部屋から、出ていた。
「どうしかした? ……紅茶かしら」
「ドア」
「ん?」
「……そっと閉めなきゃ」
それは久々に見る姉の笑顔。
「その通りね」
レミリアが遠ざかる。誘うように手を振って。
「……ほんと。しようがない姉だ」
********************
「レミリアの二つ名はさまざまだ」
「スカーレット・デビル。永遠に紅い幼き月。カリスマの具現。幼きツェペシュの末裔」
「しかしハッキリしてることがある」
「いつだってレミリアは、フランの姉だということだ」
「姉より優れた妹はいない」
「姉と戦ったことは……?」
「迫り来る紅霧。打ち込まれる妹495年。程なく妹は姉に包まれるだろう」
「そして必ず打ち込まれる」
「おそらくは世界最強の」
「全世界ナイトメア!!!」
「コンティニューなし。それが君のルールらしいね」
「そう、かもしれない」
「では……?」
「あなたが、コンティニューできないのさ!」
続くはずもない。
供養。
書いたの確か、去年の初めくらい。いつまで経っても親子喧嘩が始まらないので投げた。
ルナサ姉さん大好き。
お米食べろ。
保冷材
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2012/04/01 17:07:11
更新日時:
2012/04/01 17:07:11
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■2012/04/01 17:09:43
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■2012/04/01 17:32:50
ラーメンライス食べろ
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■2012/04/01 18:53:45
範馬勇一郎とは一体なんだったのか
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