神奈子様の必殺シュート
作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 09:48:31 更新日時: 2012/04/01 09:48:31 評価: 3/4 POINT: 24674729 Rate: 986990.16
分類
エクスパンデッドオンバシラシュート
「ならばサッカーで勝負だ!」
「望む所だ!」
神奈子とマミゾウの言い争いは何故かサッカーで決着を付ける事となった。
そんなこんなで試合も大詰め。
「神奈子様!」
右サイドを駆け上がって来た早苗から、中央を走る神奈子の足下へと吸い込まれる様な絶妙なパスが上げられた。
「よくやった早苗!」
センターラインをやや越えた辺りで足下へ飛んで来たボールを危なげなくトラップすると、すぐさま相手陣地をドリブルで斬り込んで行く。
相手に対してカウンターになる形だった為に相手陣地には選手は少なく、神奈子の力量からすればこの距離からでもゴールを狙えるという位置。
自他共に認める幻想郷トップクラスの実力者である神奈子だが、今回ばかりは万全を期した。
そこら辺の有象無象が相手であるならばこの距離でも三割程度の力で吹き飛ばしてゴールネット揺らせるだろう。
しかし相手チームのゴールキーパーはあの伊吹萃香、相手もまたこの幻想郷トップクラスの実力者だ。
だからこそ、妖怪の山からも人里からも広く信仰を集めている守矢神社の祭神として、八坂神奈子に敗北は許されない。
かつて妖怪の山の頂点に君臨していた鬼達、そのトップに立つ山の四天王、その一角たる伊吹萃香。
例えお遊びのサッカーであろうとも、誰の目にも見える形で正々堂々勝利を得る事が出来れば信仰は増し、更にかつては鬼に従っていた古くから山に住む妖怪達からの信仰は磐石の物となるだろう。
故に、この日この時この場所で、八坂神奈子に油断や慢心という物は欠片も存在しない。
己が全力を持って伊吹萃香を打倒せんとする確固たる意思が、その身に纏う圧倒的な神力と共に溢れ出ていた。
「おっと、そこから先には行かせないよ!」
「対峙するだけで死すら覚悟する程の圧倒的な力……妬ましいわね」
萃香からゴールを奪う、その目的の為に疾駆している神奈子の前に陣地内に残っていた内の二人のディフェンダーが立ちはだかる。
土蜘蛛の黒谷ヤマメと橋姫の水橋パルスィは恐怖に震える体を大妖怪のプライドとそれすら上回る嫉妬心で覆い隠し、それこそ決死の覚悟で神奈子の持つボールを奪おうと左右からほぼ同時に襲いかかった。
神奈子から見て左から来るヤマメは自らの脚に蜘蛛の糸を巻きつかせ、それによってボール奪取力を大きく上げたスライディングで。
神奈子から見て右から来るパルスィは自らの分身を生み出し、分身に囮として正面から向かわせその隙に横からボールを奪い取ろうと。
「「もらった!」」
それに対して神奈子は一歩踏み込んだ。
ただ、一歩踏み込んだ、それだけ。
ただそれだけでパルスィの分身が跡形も無く、文字通り『一瞬で消し飛んだ』。
神奈子が纏うあまりにも強力すぎる神力がパルスィが妖力で作りだした分身を消し飛ばしたのだ。
その瞬間、二人は理解した。
(あ、私死んだね……)
(あ、私死ぬのね……)
(あ、私死んだね……)
その瞬間、ヤマメは走馬灯を見た。
まず最初に、京の都で自分が少しばかりやんちゃをしていた、多くの部下を従え怖いモノなど何も無かったあの頃。
次に、頼光に討伐され、全てを失い幻想郷に流れ着いたあの頃。
鬼や他の妖怪達と共に地底へと移り住み、みんなで旧都を再生し始めたあの頃。
妖怪達の病気を見てやり、いつの間にか一目置かれ頼りにされていたあの頃。
そして最後に、久方ぶりに地底へとやってきた二人の強い人間と出会ったあの頃。
鮮烈な印象を受けた記憶が、矢継ぎ早に脳裏に浮かんでは消えて行った。
(七百余年か……ま、結構生きた方かな)
思い返すのは自分が最期を看取った仲間達の事。
その中には都に居た頃のやんちゃ仲間も居れば、こちらに来てから出来た仲間も居た。
長い事生きていてそれ相応の別れを経験していたヤマメだが、流石に自分が今生に別れを告げる側になった事は無い。
しかしそれを、今正に経験しようとしていた。
眼前に見える女性の姿は軍神と呼ぶに相応しい力強さと神々しさに溢れている。
先程一瞬でパルスィの分身を消し飛ばした姿が、引き伸ばされた一瞬の中で脳裏に再び映し出された。
決してヤワな物ではないあの分身を、身に纏う神力だけで消し飛ばしたその強さは自分とは圧倒的に格が違うのだろう。
その格の違う相手が今、目の前に障害として立ち塞がっている自分の前に居る。
(みんな、今そっちへ行くよ。だから、そっちに着いたらとりあえず呑もうじゃないか。再会を祝してさ)
覚悟は、決まった。
(あ、私死ぬのね……)
以下略。
「ちょっと待――」
神奈子は迫り来る二人と分身一体を前に、どこまでも冷静だった。
はっきり言って神奈子と彼女達では強さの格が違う。
正面から来る分身は一目見て込められた妖力の大きさを感じ取り、身に纏う神力だけで対処可能で注意を払う必要すらないと判断。
ただ無造作に一歩踏みんだ。
左右から来る二人も同様にこのまま強引に突き進むだけで軽く弾き飛ばせるだろう。
しかしこれは戦闘では無く、あくまでもお遊びのサッカー。
このまま強引に突破すれば恐らく二人に対し決して軽くは無い怪我をさせてしまう可能性が高い。
それは神として、いや、上に立つ者としてよろしくない。
神奈子が考える上に立つ者に必要な物は二つある。
強い事と寛大な心を持つ事だ。
もし彼女達が明確に害意を持ち自分達に危害を加えようとしているのならば完膚無きまでに叩きのめすだろう。
しかし、何度も言うがこれはあくまでもお遊び。
例え信仰の為には多少の犠牲は止むを得ないとは言う物の、避けられる犠牲なら避けておくに越した事は無い。
故に、一歩踏み込んだ後、神奈子の取った行動は――
「な!?」
「くっ!?」
――前に出した足と後側の足でボールを前後から挟み込み、飛び上がりながら自分の頭上を越す様にボールを足で放り投げた。
≪ヒールリフト!? なんと八坂様、ヒールリフトです!≫
≪これは……お見事と言う他ありませんわ≫
ヤマメの渾身のスライディングを軽やかに飛び越えながら同時に右腕を突き出し、宙に浮いたまま片腕一本でボールを奪いに来たパルスィを押し止めてみせた。
そして二人を躱すと同時に、パズルのピースを嵌め込む様に足先にピタリとボールが舞い降りて来た。
高いボディバランスと強靭な体幹、絶対的な空間認識能力を持つからこそ出来る芸当。
果して同様のプレーが出来るプロサッカー選手がどれだけ存在するか。
ちなみに結構居るよ。
≪さぁそして華麗に二人を抜き去った八坂様! ゴールまで残る障害は唯一つ! 最大の障害、ゴールキーパーの伊吹萃香さんです!≫
ゴールまで残す所30メートルを切った。
「私も本気で行かせてもらうよ!」
それを見て地底連合の守護神、伊吹萃香は拳を打ち鳴らしその身に宿る妖力を練り上げる。
その小さな体にみっしりと詰まった妖怪の最高峰のその力、その圧力は萃香の身体をゴールを埋め尽くさんとばかりに大きく見せた。
「ミッシングパープルパワーッ!!」
≪あぁーっと!? ここで萃香さんが巨大化! 能力を使用しての巨大化です! 完全にゴールの枠内が身体で隠されています!≫
いや、見えたのではなく、現実に萃香の身体は大きくなっている。
先程までの人間の幼子の様な身体が、その可憐な容姿そのままの形を保ったまま大きくなっているのだ。
幅7.23メートルのゴールが隠れる程の巨体化――およそ20倍以上の巨大化によってその身長は20メートルを優に超えている。
≪あら、【密と疎を操る程度の能力】を使うなんて。本気なのね萃香≫
≪いや、あれルール的にいいんですか?≫
≪能力の使用は制限していませんので、問題ありませんわ≫
実況の射命丸文の疑問はごもっとも。
そして余りにも非常識すぎるが、サッカーのルール的にも何も問題は無い。
「さぁ! 正々堂々! 勝負だ八坂神奈子!」
≪それだけ大きくなってゴールを隠しておいて正々堂々もくそも無いのでは≫
「さぁ! 正々堂々! 勝負だ八坂神奈子!」
≪スルーしましたわね≫
実況のツッコミをスルーして、神奈子の頭上から可愛らしい、しかし大きな声が降りかかる。
萃香が巨大化した為に先程までとは体感距離が、それ以上に相対距離が狭まった。
あと3メートルも進めば萃香の一挙手一投足の範囲に、彼女の間合いに入るだろう。
そこに踏み入れてしまえば万全な状態でシュートを打つ事は難しくなる。
最早これ以上ゴールに近付く事は無意味だ。
ならばここから決めるしかない。
「伊吹萃香! 全力でいかせて貰うぞ!」
ペナルティーアークの手前、ゴールからおよそ25メートルの位置で遂に神奈子がシュート体勢に入る。
左足でボールに対しスピンをかけてやや前方へ浮かせた。
そのボールの周囲に虚空からそれぞれ僅かに太さの違う3本の大きな丸太、御柱が現れた。
地面と水平になり先端をゴールへ向け、まるで空間を捻じ切らんばかりに凄まじい勢いでそれぞれがドリルの様に回転を始める。
同時に神奈子の足下に一際大きい御柱が現れ、神奈子の右足に練りに練り上げられた神力が集まり後方へと振り上げられ、
「エクスパンデッド――」
「来いっ!」
「――オンバシラッ!!」
その右足が御柱の底面を打ち抜いた瞬間、幻想郷が震撼した。
八坂神奈子がシュートを放った瞬間に起きた出来事を順を追って説明しよう。
まず右足で打ち抜かれた御柱はその先端でボールの中心を捉え、ゴールに向かって回転する3本の御柱を伴いながら一直線に突き進んだ。
その瞬間軽々と音速を突破しソニックブームが発生。
これによってヤマメとパルスィの両名が、何とかカットに入ろうと後方から走って来ていたぬえ、ナズーリン、一輪の3名が、右サイドの早苗、左サイドのはたてと椛、神奈子の後方を走っていた秋姉妹が、それぞれ呆気無く吹き飛ばされた。
次に無意識の内に守りに回っていたこいしが無意識にボールを止めに行き、神奈子が打ち抜いた御柱――本命の一撃の“余波”だけで気絶し弾き飛ばされ、そしてそのままほんの一瞬だけ遅れてやって来たソニックブームに追い打ちされて紙の様に吹き飛ばされた。御柱が直撃しなかったのが奇跡に近い。直撃していたら挽肉どころの騒ぎではなかった。
更に音速を超えたまま御柱は萃香に接触。屈んで両手で押さえに行った萃香の両手を軽々と弾き飛ばしてそのまま身体にぶち当たり、20メートルオーバーのその巨体を御柱の先端に乗せながら尚も音速で飛行。濡れた障子紙を指で突く様に容易くゴールネットどころかゴールポストすら引き千切った。
そしてサッカー場に紫が張った強力な結界を豪快にぶち破り、ソニックブームを撒き散らしつつ進路上の何もかもをぶち壊しても尚その勢いは留まる事を知らず、紅魔館の地上階を粉微塵にしてようやく時速は3桁代に。
最終的には妖怪の山の木々を根こそぎぶち抜き、九天の滝にめり込んでようやく制止するに至った。
「お遊びだから多少は加減をしたんだよ。一応全盛期の半分にも満たないはずなんだがね」
そう語った八坂神奈子。これには八雲紫も苦笑い。
「いやーっはっは! まさかあそこまで威力があるとは思わなかったよ。正直、あれはもう二度と喰らいたくは無いねぇ」
後に伊吹萃香は笑いながらこう語った。
人々はアレを受けて尚生きている萃香の規格外の強さに戦慄し、同時にそう言わしめた神奈子の圧倒的な力に改めて敬意と畏怖を覚えた。
結果的に守矢神社の信仰は増加し、山の妖怪からの信仰は磐石な物となったという。
何とか急いで書いた上に色々と端折りすぎにも程があると思うサッカーっぽい何か話。
本当は早苗さんにキャプテン翼のゲーム版オリジナル必殺シュート“サイクロン”を打たせる気満々だったのですが、ぶっ飛び具合が足りないと思い神奈子様に変更。
でももうちょっとぶっ飛んでても良かったかもしれません。
色々な意味で。
リバサ波動拳
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2012/04/01 09:48:31
更新日時:
2012/04/01 09:48:31
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■2012/04/01 10:18:03
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名前が無い程度の能力
■2012/04/01 19:24:04
これ読んで思った
東方サッカーの続編出ないかなぁ
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