ゆるゆき
作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 03:49:37 更新日時: 2012/04/01 03:49:37 評価: 3/6 POINT: 27357525 Rate: 781644.29
分類
ユキ
マイ
百合
4月1日
「ねぇ、マイ」
「…………」
「エイプリルフールは一年にたった一日だけ嘘を吐いていい日だって言うけど」
「…………」
「私、嘘を吐くのはいやだから、本当のことを言うね」
「…………」
「マイ……好きだよ」
かぁっと私の体の中が熱くなる。たとえ――だとわかっていても。
「…………」
「本当だよ、マイ。私はずっとマイと一緒にいたから、マイのことは一番わかってるよ」
「…………」
「そんなにおかしいことなのかな? ずっと一緒に居た人を好きになることって」
「…………」
「ねぇ、マイ」
私はとっくの昔に覚悟を決めていた。
「今日一日だけでもいい。嘘でもいい。……私のことを好きって言って」
ぎゅっとマイの手を握る。もう二度と言の葉をつむぐことのない少女の冷たい手を。
「そっか。そうだよね。だってマイはもう……」
溢れそうになる涙を私はこらえる。
「でも、私は認めないよ。諦め悪いから」
たった“二人”しか居なくなったこの世界。
「私……マイのためなら、いつでも、本気だしちゃうんだから」
それでも私は生きていく。マイが傍にいる限り。
「ねぇ」
微動だにしないマイに私は見とれてしまう。恐ろしいまでの冷たさと美しさに。
「可愛そうな白雪姫は王子様のキスで目覚めたんだよね」
血の気のない唇に私は吸い寄せられる。
「キス……しちゃうよ」
私はマイに唇を重ね……。
* * *
「……ちょっと待って」
がばっとマイは体を起こした。
「なんだよ、今いいところじゃない」
「……キスするとか、台本に書いてない」
「うん。私のアドリブ」
「……却下」
「えー、いいじゃない」
「……そういう問題じゃない」
体を起こすなり、マイはさっと立ち上がって、私に背を向けた格好になってしまった。
「……だいたい」
「うん?」
「……これはどういうことなの?」
「今年は巷では百合ブームらしいから、そういう方向でいってみようって作者が」
「……巷じゃなくて作者の脳内だけよ」
さらっとマイが毒を吐く。
「……どうせ去年の泣きユイで味を占めて、『わぁいユキマイのイチャラブ、かえでユキマイのイチャラブ大好き』って魂胆でしょうが、あの単細胞」
「毒を吐くわりにはよく知ってるね……」
単細胞って去年も言ってた気がするなぁ。きっと語感が気に入ったんだね。
「それで、まだ全然尺が余っているそうだけど」
「……はぁ」
気だるそうにマイはため息を吐いた後。
「……テイクツー、いきましょ」
ただしさっきのアドリブはなし、とマイは付け加えた。
* * *
「私……マイのためなら、いつでも、本気だしちゃうんだから」
それでも私は生きていく。マイが傍にいる限り。
「ねぇ」
微動だにしないマイに私は見とれてしまう。恐ろしいまでの冷たさと美しさに。
「昔さ、マイはこんなこと言ってたよね。『足手まといがいなくなって、やっと本気出せるよ』って」
マイは何も答えない。
「私ね、そのときは酷いよって思ったよ。私達友達じゃないかって。なんで私のことを足手まとい扱いするんだって……本気で悲しかったし、悔しかったよ」
それは本当のこと。
「でも、今ようやくわかったんだ。あれは……マイなりの照れ隠しだったんだって」
私は真っ直ぐなことがとりえだけど、マイはそうじゃなかったから。
でもそんな、不器用な、私と正反対のマイだからこそ、私は惹かれたんだと思う。
「ねぇ、マイ。今なら私、怒らないよ」
足手まといだって言われてもいい。罵られたってかまわない。
何の言葉も返してくれないよりかは。
「マイ……」
私は……。
私は……!
「キス、しよkk」
* * *
「……だからなんでそうなるの」
再びマイは体を起こした。空気読め。
「いや、おかしいよ」
「……おかしいわ、ユキが」
「私じゃなくて、この脚本が!」
さっきマイ言ったよね、『わぁいユキマイのイチャラブ、かえでユキマイのイチャラブ大好き』って。
なんでマイが既に死んでる設定なの!? 全然私マイといちゃいちゃしてないよね!?
「……どうせ、百合って切ないお話が多いから、切ないお話にしてみました(てへ)、というところでしょ。あの単細胞が考えそうなことだわ」
「本当のところは?」
「……私がセリフを覚えるのが面倒だから全部削ってもらったらこうなった」
「マイのせいかー!!」
おい作者、そんなところで妥協するなよ! どうしてそこで諦めるんだそこで!
「もう我慢できない!」
ぐっと私はマイの肩を掴む。
「……ユキ?」
「キス……しよ?」
どんなに腹黒くって、どんなに心にもないことを言うマイでも。
私にはわかる。この瞬間の、顔の紅潮と瞳の揺らぎが何を意味するのか、ってことくらい。
「……本気で言ってるの?」
「私はいつも本気だよ」
たとえエイプリルフールでも。
「……今からあんたがしようとしてることが、どういうことかわかってるの?」
「わかってる。そこまで私は子どもじゃない」
「……キスって……好きな人とするものよ?」
それが最終確認、だった。
「だったら……
何の問題があるの?」
私は精一杯の笑みを浮かべた……つもりだ。私はうまく笑えただろうか。
「……言っておくけど」
マイは私と目をあわそうとしなかった。かわいいなぁ、このやろう。
「……これは……ただの練習だわ」
そう言ったきりマイは目を閉じた。
「ねぇ、マイ」
キスする前に、これだけは言わせてね。
マイが私のことをどう思っていてもかまわない。
けど、マイのこと、私は本当に好きだから。
それだけ言って、私はマイに唇を重ねた。
せっかくなのでまたまた1年ぶりに登場してみました。
あ、今年は神綺様を出せなかったのでここで「アリスちゃぁぁぁぁぁん」と叫ばせてあげてください。
九紫楓
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2012/04/01 03:49:37
更新日時:
2012/04/01 03:49:37
評価:
3/6
POINT:
27357525
Rate:
781644.29
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奇声を発する(ry
■2012/04/01 03:53:58
ニヤけるw
2.
7777777
点
カンデラ
■2012/04/01 04:15:05
「……これは……ただの練習だわ」にグッときた!
かわいいですねぇもう
6.
7777777
点
菱春依之
■2012/04/03 15:21:58
はじめの部分読んで「もうマイを撃破できなってしまうじゃないか」と本気で思ってしまった私がいる←
(いやそもそも怪綺談もってなかった)
久しぶりに読みに来ました。この2人可愛すぎてやばいw
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かわいいですねぇもう
(いやそもそも怪綺談もってなかった)
久しぶりに読みに来ました。この2人可愛すぎてやばいw