天衣夢縫

作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 03:08:10 更新日時: 2012/04/01 03:16:07 評価: 2/5 POINT: 18284211 Rate: 609474.53

 

分類
比那名居天子
永江衣玖
 青き木々の隙間を、縫うように駆ける。
 逆手に握った右手は熱く、その刀身に触れた草木は、次々と霧に変わる。通り過ぎる景色が、みるみる紅く染まっていく。進んでいるはずの私が、まるで吸い寄せられているかのような錯覚に陥り、今にもその渦に呑み込まれそう。
 天界にだって森はある。知らなかったのは私。
 桃李の樹海に、仏炎苞の絨毯。
 森が映す心は、炎と化して炎天の相。
 この赤が、私の心を拒絶する。
 知らないもの、見えないもの、揺るがないもの──緋色の想いが取り憑いて、この天の青を掻き消そうとしている。
 それなら、地は──
 要の大地は、何色に見える──?

「総領娘様」
 途端に森の空気が変わり、立ち止まる。それと同時に鈍い音がして、私は水芭蕉を踏み潰していたことに気付いた。
 霧は散り、風が止む。音の無い森に舞い降りる、微かな調べ。
「この先には何もありません。お屋敷にお戻りください」
 ざわついていた空間が、ぴたりと静止した。ひしゃげた花弁が、その首を上げるのも憚られるような静寂。
「その衣は……龍宮の使いね。何の用?」
「比那名居様のご意思です。どうか、お屋敷にお戻りください」
「今頃、血眼でしょうね。それはそれは赤い目をして、私を探しているんでしょう? それなのに、こうして私を見つけられたのは、遣わされた貴方だけ。それも、比那名居の者では無い、龍宮の使いに過ぎない貴方だけ。そんな貴方に、何が出来ると言うの?」
 逆手に持っていた剣を正しく取り、使いに向ける。軌跡は揺らぎ、水芭蕉に命が宿る。
「何が出来る、ですか。もちろん、如何様にも出来ます。貴方を連れ戻すことも、貴方を逃がすことも、貴方を潰すことだって……貴方は、私に何をして欲しいのです?」
「ふん、生意気な。今すぐに、どきなさい。一介の龍宮使が、私の行く道を塞ごうなど、無礼も甚だしいというものよ」
「……そうですか」
 使いはそう言うと、口元に手を当てて、くすりと笑うのだ。

 何て愚かな!

 龍の真言を笠に着ただけの、天地の別れも知らない、龍神の糞とも言うべき存在が、幻想郷の比那名居を前にして嘲笑うのである。

「何がおかしい!」

 私の怒号は、しじまの森に響き渡り、そして消えた。
 使いは右手で一つ、桃を千切り、私に差し向けた後、放り投げる。
「不思議に思ったのです。貴方に行く道があったものかと」
 穏やかな放物線を描いたそれは、彼女の言葉が終わるか否か、天と地に、二つに別れた。
 私に斬られた桃から、緋色の霧が噴き出して、その視界を曇らせる。不明瞭な先に揺れる、天女の羽衣。
「ご覧下さい、貴方が持ち出した緋想の剣は、物を斬るものに非ず。ご覧なさい、桃の気質が、泣いている」
 見れば、立ち込めていた霧が色を変えていく。紅を超えて、紫へ、藍に染まって、青へ緑へ、橙に。
「もう一度問いましょう。貴方には、進む道があるのですか?」
「この七色が、私の威光。黒い海を泳ぐお前には、決して見ることの出来ない色よ」
「変わりも変わって七光り。総領娘様は、誰の意思で動いておられるのです?」

 目に染むような橙が、再びに紅く色を変えていく。
 これが私の、憤怒の色。
 そして、濛々と渦巻く暗い海の中で光る、龍魚の血。

 それは、鏡のような水面に、一つ落とされた小石であった。
 大きく踏み込み、緋色の霧を袈裟に斬る。

「私を、愚弄するなァ!」

 空を斬った剣は、羽衣を掠めて大地を叩く。
 沃土に触れた刀身が、一際に強く燃え出した。
 続く一閃、横に薙いで半回転。
 姿が見えない。

「その剣は比那名居の宝剣、地を斬る物に非ず」

「どこにいる!」

 背後。
 重みに任せて振り下ろす。
 手応えは無い。

「何故ここに来たのです? この場所をいつからご存知で?」

 濛気の中を泳ぐ龍。
 あらゆる気配が、緋想の剣気で消えていく。
 気が付けば、私はただ深い霧の中で、でたらめに剣を振り回しているだけだった。
 もう、声のする方向が判らない。ここが森だったのかさえも、揺らいでいく。

 まるで、深海だ。

 もがけばもがくほど、息も出来ず、沈んでいく。
 想いだけが先走って、まともに動けないのだ。

「ッ……」

 剣は習った。剣術書も読んだ。
 兵法書も、史実も理解した。
 それなのに、それなのに、何も見えない。
 くすんだ霧が、黒みを帯びて視界を遮る。
 霞んだ目が、幻を捉えて想いを閉ざす。

「古人の糟粕を嘗め、名居を抱く。総領娘様は、どこにいらっしゃるのですか?」

 不意に、目の前を影が過ぎる。


「……ここよッ!」


 その首目掛けて、剣を振る!


「見つけたわ」


 瞬間だった。


 霧を突き抜けて手が飛び出し、私の額の目前で止まった。

 立てられた人差し指の先端は、微かに電流を帯びている。

 黒霧の隙間から、彼女の目はたしかに、赤い光を湛えて、私を見据えていた。

「……」

 少したじろいだ私は、彼女の首筋に剣をひたと添えたまま、動けなくなってしまった。

「総領娘様。貴方は、桃を剣で返すのですね」
「李を以って許すほど、私は透き通っていないの」

 右手にぐっと力を入れる。
 震えよ、止まれ。

「酢桃も桃も……同じものです。その剣で、何をなさるおつもりです?」




「何をするって……もう飽きちゃった。おわりおわり」
途中まで書いてボツにしたやつです。
zenteki
http://www5e.biglobe.ne.jp/~radical/
作品情報
作品集:
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投稿日時:
2012/04/01 03:08:10
更新日時:
2012/04/01 03:16:07
評価:
2/5
POINT:
18284211
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609474.53
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0. 2728657点 匿名評価 投稿数: 3
2. 7777777 奇声を発する(ry ■2012/04/01 03:16:51
何というもどかしさ…
3. 7777777 名前が無い程度の能力 ■2012/04/01 03:27:38
続き書いてくださいお願いします
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