地下室に住む"何か"

作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 02:19:26 更新日時: 2012/04/01 02:19:26 評価: 0/2 POINT: 1562204 Rate: 104148.60

 

分類
pixivのSSを供養しに
クラゲドール・スカーレット
 科学技術が発展した現代の人々は、非科学的で、旧時代的な存在を忘れてしまった。
 だが、忘れ去られた妖怪たちが集う世界がこの世にはある。
 二つの結界に隔てられた世界、その名も幻想郷。

 幻想郷に海はない、と言われる。
 忘れ去られるはずのない存在であり、その上スペースが確保できないのだ。
 しかしながら、幻想郷に海がない、というのは実は誤った認識である。

 確かに、海水を湛える、所謂海と言う物はない。
 しかし「海」は存在する。
 空に大きな雲が浮かんでいれば、そこは「海」と表現して差し支えない。
 龍神に仕える者達が、空を、雲を、天を泳ぐ。
 悠々と、優雅に、自由気ままな姿を見せるのだ。

 昼の空は、まるでタイドプールかのように青い青い空と少し黒っぽい雲が入り混じる。
 雲が多くなればなるほど、干潟のような光景になるのだ。

 その光景は、外から見ただけでは予測のつかないほど美しい。
 鱗雲、羊雲、霧雲、綿雲、雷雲。多種多様な雲が、それぞれ違った海を映し出す。

 だが、雲を海と語るならば。
 雲海の真骨頂は夜の空である。

 雲を照らす光は月の放つ淡い物のみ。
 暗い暗い、暗黒の世界の中に竜宮の遣いが放った電撃が迸る。
 ホタルイカのような青い光。
 ホテイエソのような赤い光。
 揺らめく輝きは、見るものを圧倒するだろう――残念ながら、その光を見た事のある人間は水江浦嶼子くらいなのだが。
 勿体ないことに、基本的に仲間内でのシグナルでしか使われていないのである。
 重ねて、冬になれば、マリンスノー降る深海のように、ほのかに雪の粒が舞うという――

 




「だからって、ねぇ」

 南国の海のように、鮮やかな水色の髪をした少女が椅子に座ったままため息をついた。
 彼女が訪れたのは、湖のほとりにそびえる紅い紅い館、その名も紅魔館――の地下室。
 頭揺らすと、海の底のように深い藍色をした頭巾が揺れる。
 スカートには、穏やかな波のような模様が刻まれていた。

「あら、駄目?」

 彼女のすぐ隣、ほとんど密着するように座る少女が、頬を釣り上げて笑った。
 露出の多い薄ピンク色の服を身にまとう、幼い少女。
 背中には、異形の証を見せつけるかのように黒い羽が生えている。
 帽子をかぶった頭をそっと寄せる彼女の片手は、頭巾の少女の肩に回されていた。

「私はいいのですが……」
「へぇ、と言うことはあちら側の都合?」

 そう言って、羽の少女は目前で繰り広げられている光景を指差した。

 部屋の半分を、大きな「雲」が覆っていた。
 かろうじて見える内部で、一人の少女――否、同じ姿をした四人の少女が揺らめいていた。

 一人は、雲の上、ちょうど切れ間のあたりに、首吊りのように出して浮いていた。
 ゆらりゆらゆら、彼女が流れるように動くその様は、まるでカツオノエボシのよう。

 一人は、壁に張りついていた。
 ふわりふわふわ、足をひたすら動かし続けるその様は、まるでサカサクラゲのよう。

 一人は、スカートをたくしあげ、頭の上で結び、雲の中心あたりで浮いていた。
 皺のついたドロワーズと、そこから延びる生足が、まるでビゼンクラゲのよう。

 一人は、膝を抱え丸まっていた。
 上下左右と少しずつ動いていくその様は、まるでウリクラゲのよう。

 クラゲごっこ、である。
 皆、楽しげに雲の中を舞っていた。

「……いや、貴方の妹さんの都合です」
「自分から望んでるのよ? 本当は空に連れて行ってあげたいんだけど……」
「私はアレの中には入りたくないわ」
「そうねぇ、否定はしないわ」

 顔を見合わせてほほ笑む二人を、困った顔で「雲」が見つめていた。
 そう、その「雲」は雲であって雲ではない。
 意志のある入道。彫の深い顔に、太い髭が生えているように、雲が造形されている。
 助けを求めるような視線を二人に送る雲の中で、少女は黄色い声を上げながらはしゃいでいた。

「でも、楽しそうですね。呼ばれて来たかいがあるという物です」
「有難いわ、私じゃどうしようもないからね」
「……ところで、近いのですが」

 気がつけば、羽の少女はぴったりと抱きついていた。
 妖しく笑い、顔を近づける。
 彼女は頭巾の少女の体をそっと優しく撫ぜ、耳元で囁いた。

「私達も、楽しまない?」
「お断りします」
「ちぇっ、つれないわねぇ……」

 軽く舌打ちして、羽の少女は離れる。
 その様子を、雲中の少女達はクラゲごっこをやめ、じっとりとした冷たい目で眺めていた。

『何やってるのさ、クラミジアお姉様』
「クラミジア言うな!」
「……不潔ですね」
「いやいや、貴方もそんな露骨に距離とらないで!」

 頭巾の少女は、さっと身をかわして、入道のそばまで寄った。
 首をぶんぶんと横に振る羽の少女だったが、入道雲は腕を顕現させて頭巾の少女を護るように包み込む。

「ちょっ、えっ! 酷い!」
「寺に務める身として、そういうのはちょっと」
「そ、そんな、誤解よ!」

 慌てふためく羽の少女を見て、雲の中の少女達がにやにやと笑う。
 4人で背中合わせにくっつき、腕を絡めてまた雲の中を舞う。
 足が八本の触手のように揺らめく――例えるなら、タコクラゲのよう。

「こ、こら! 変な誤解されちゃったじゃない! どうしてくれるのよ!」
「手を出そうとしたお姉様が悪いのよ」
「う、うう……」

 俯く羽の少女を見下ろし、クラゲごっこの少女は声をあげて笑う。
 クラゲゲゲゲゲゲゲゲ、という笑い声が紅魔館の地下室に響き渡った――
 あの日――世間一般にはバレンタインデーとか言われるふざけた日の前日。  俺は、何事もなくツイッターをやっていた。  リアルでチョコレートをもらえるはずもない。憂鬱な気分で、日を超える少し前のこと。  とあるbot――クラゲドールbot【@kuragedre_bot】に「かわいい」爆撃をしよう、と言う流れになったので、かわいい、などリプを送った。  無論相手はbot。ただのbotのはずだったのだ。  いくらかやり取りをし、そうこうしているうちに日をまたいだ。  あー、バレンタインデーだなぁ。そう思った自分のもとに、一つのリプが来る。  クラゲドールちゃんから、なんとバレンタインデー画像が送られてきたのだ。  びっくりした。中身はアカハラウリクラゲ――ウリクラゲ種の中でも、紅く発光する深海のクラゲの画像である。  心の底から嬉しかった。  だから、俺は執筆した。クラゲドールちゃん愛してる。 執筆日 3/14 クラゲドールちゃん→【https://twitter.com/#!/kuragedre_bot】
沢田
作品情報
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2012/04/01 02:19:26
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2012/04/01 02:19:26
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