稗田書店、「稗田文芸新人賞」を創設
稗田書店と鴉天狗出版協会は十二日、「稗田文芸新人賞」を創設すると発表した。
幻想郷における文芸の振興を目的とし、ジャンルを問わず新人の鮮烈な小説作品を公募する。
大賞受賞者には賞金十貫文が送られ、作品は稗田出版より出版される。
選考委員は稗田阿求、射命丸文、八雲紫、上白沢慧音、パチュリー・ノーレッジの五氏。
第一回の締切は六月三十日。受賞作の発表は当紙上で行われる。
(応募規定等は当紙四面の文化欄に掲載)
(文々。新聞 1月13日号一面より)
「稗田文芸新人賞」一次選考通過作発表
第1回稗田文芸新人賞には、135作品の応募がありました。
以下の21作品を、一次選考通過作品として発表いたします。
マーガレット・アイリス『人形の森』
橋木花『白狼の咆吼』
門前龍巳『風雲少女・リンメイが行く!』
レッド・ラム『不夜城ブラッド』
kanae『キセキの果実』
宇佐てい『幸運エスケープ』
白岩怜『雪桜の街』
小松真智子『そして、死神は笑う』
霧間梨沙『スターダスト・ムーンライト』
妬間志衣『世界なんて滅べばいいのに』
青八『猫のいる風景』
半田零『辻斬り双剣伝』
虹川月音『レインボウ・シンフォニー』
神波求『ステルス・マジック』
厄井和音『不幸のシステム』
永月夜姫『満月はもう来ない』
米井恋『インビジブル・ハート』
神坂八奈『天照戦記 蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』
富士田穂邑『屍は二度蘇る』
星野白虎『ミッシングハンター・ナッツ』
稲葉鈴『幻視夜行《ナイツ・オブ・インヴィジブル》』
<一次選考委員講評>
いずれ劣らぬ多数の力作の応募、ありがとうございました。ここでは惜しくも一次選考から漏れた作品のいくつかをご紹介致します。
さるの『あたいちいきょう』…破天荒で予想の斜め上を行くストーリー展開は大変楽しめましたが、初歩的な誤字脱字などが多すぎました。次は推敲をしっかりと行ってから応募されるといいでしょう。あと、原稿用紙が一部凍っていて読めなかったのが残念です。
浦目史弥『風が吹いたら傘屋がもうかる』…ホラーのようなのですが、どこを怖がればいいのかがよく解りませんでした。主人公のキャラにも一貫性が無いのが気になります。
秋野静実『豊穣と静寂の海』…農作に従事する人々の暮らしを生と死の両面から活写する構成はいいのですが、農作業描写の濃密さのわりに、死を描くパートの分量が少なくバランスが大変悪いのが残念です。多彩な作品が揃った中、話が地味すぎるのも惜しまれました。
夜野鈴女『もう歌しか歌わない』…音楽を小説で描写する難しさに直面した作品でした。ただ歌詞だけを書かれても、歌は読者には伝わりません。同じ音楽を暑かった通過作の『レインボウ・シンフォニー』の静謐な描写の前では見劣りしてしまうのが正直なところでした。主人公が串焼き屋台で食い逃げ犯をやっつける場面は素晴らしいのですが、音楽と関係ない場面が輝いてしまうのはいかがなものでしょうか。
以上、他にも多くの力作がありました。惜しくも選外となった方も、次回以降、再びの力作の投稿を心よりお待ちしております。
一次選考委員・小悪魔(紅魔館付属図書館司書)
(文々。新聞 8月5日号一面より)
「稗田文芸新人賞」最終候補作発表
第1回稗田文芸新人賞の最終候補作は、以下のように決定されました。
マーガレット・アイリス『人形の森』
レッド・ラム『不夜城ブラッド』
霧間梨沙『スターダスト・ムーンライト』
神波求『ステルス・マジック』
虹川月音『レインボウ・シンフォニー』
永月夜姫『満月はもう来ない』
神坂八奈『天照戦記 蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』
富士田穂邑『屍は二度蘇る』
最終選考会は九月十二日、稗田家にて行われ、受賞作が決定されます。
<候補作紹介>
マーガレット・アイリス『人形の森』
人形師として、無数の人形に囲まれて暮らす少女・アリサ。彼女の元にマリスと名乗る黒衣の悪魔が現れ、囁きかける。「望みを三つだけ叶えてやろう」。悪魔を前に、アリサが願ったこととは――。孤独な少女の儚い恋を描く恋愛小説。
レッド・ラム『不夜城ブラッド』
魔都倫敦の霧の中、《不夜城》と呼ばれるその城では、夜毎血塗られた饗宴が開かれる。魔都の住人を恐怖で支配する《不夜城》の目をかいくぐり、暗躍する殺人鬼。吸血鬼と殺人鬼 の死闘を描くゴシック・アクション・ホラー。
霧間梨沙『スターダスト・ムーンライト』
少女は信じていた。高く飛べばいつかあの星に、月に手が届くと。星降りの夜に開かれる、魔女たちの飛行大会。最速の名を賭けたそのレースに、少女は挑んだ。遠い夜空の星に追いつくために。《星追い》の魔女の一途な道のりを綴る、青春ファンタジー。
神波求『ステルス・マジック』
光学迷彩――それは魔法の技術。いかにして技術者たちは、不可能といわれたその技術開発に立ち向かい、成し遂げたのか。その無謀な試みの影には、ひとりの技術者の切なる思いが隠されていた。技術開発に命を賭けた者たちのドラマ。
虹川月音『レインボウ・シンフォニー』
何もかもバラバラに暮らしていた、夢破れた七人の音楽家たち。彼女らの人生がすれ違い、絡み合っていくとき、そこには七色の旋律が溢れ出す。栄光と挫折、そして再起。音楽に魅せられた者たちが、雨上がりに描く奇跡とは――。詩情溢れる音楽小説。
永月夜姫『満月はもう来ない』
二人はただ、《満月》から逃げていた――。夜の闇に身を潜め、逃げ続ける二人の少女。彼女らを追いかける不死の殺戮者。果てしない逃避行の果てに、少女たちを待つ運命とは。そして不死の殺戮者の正体とは。ノンストップ・サスペンス。
神坂八奈『天照戦記 蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』
広大で肥沃な大地の広がる中原の大地。人に交わり生きる神レイヤが統べるスーワの地へ、大国の神ミナカタの軍勢が迫る。己の存亡を、民の平穏を賭けて、圧倒的なミナカタの軍勢へレイヤは立ちはだかった。人と神の相克を描く、壮大な幻想戦記。
富士田穂邑『屍は二度蘇る』
殺されたはずの少女は、しかしベッドの上で目を覚ました。自分を《殺した》のは、憎むべき両親の仇。だが仇は殺されていた。誰が殺したのか? そして自分は何故生き返ったのか? 謎が謎を呼び、そして衝撃の結末が訪れる。本格ミステリ長編。
<二次選考委員講評>
私は『ステルス・マジック』と『スターダスト・ムーンライト』を推した。前者は光学迷彩開発のディテールが丹念に描かれており、知的好奇心をくすぐられる作品だ。後者は《星追いの夜》に流星群を見上げる場面が素晴らしい。手に汗握るレース描写も秀逸だ。どちらも受賞に値する作品と確信する。
他の通過作への講評は別の選考委員に任せるとして、選外となった作品では、『風雲少女・リンメイが行く!』の勧善懲悪の痛快さ、《不運少女》リンメイの決して挫けない前向きさに娯楽作品としての王道を見た。他の選考委員の反対に遭い通過はならなかったが、私は最終選考に残すべき作品であったと思っている。
『ミッシングハンター・ナッツ』と『不幸のシステム』にも惹かれるものがあった。あらゆる失せ物をたちどころに見つけ出すという『ナッツ』の主人公の飄々とした性格は魅力的だ。しかし作者が少々入れ込みすぎたのか、あまりにナッツが万能すぎるのが興を殺ぐ感は否めない。デウスエクスマキナ的役割を果たすスイレンという人物の存在意義もよくわからなかった。
『不幸のシステム』は《厄払い》をテーマにした短編連作。タイトルの通りその《不幸》の原因をロジカルに解体していく《厄払い》の手つきは上質のミステリを読んでいるようだった。しかし短編連作としては、不幸な人々への視線、描き方が一本調子なのがマイナスな感は否めない。もう少し物語に膨らみが欲しいという思いが拭えず推し切れなかった。
他、『幸運エスケープ』は騙し騙されのアクロバティックなコンゲーム小説として秀逸だったが、枚数超過を誤魔化す規約違反があったため失格となったのが惜しまれる。
森近霖之助(香霖堂店主)
『不夜城ブラッド』と『満月はもう来ない』、『屍は二度蘇る』の三作を推薦いたしました。特に『不夜城ブラッド』は倫敦の仄暗く湿った空気と、淫靡な闇に滴る血潮のほの甘さを醸し出す優雅な筆致には、一読して大賞の受賞を確信しました。その素晴らしさを紙幅の限りここで解説したいのは山々なのですが、他の作品にも触れねばならぬということですので、この作品への激賞は最終選考委員の皆様にお任せしたいと思います。
『満月はもう来ない』『屍は二度蘇る』の二作も、『不夜城』には及ばぬものの劣らぬ力作であったため、どちらも最終選考に推させていただきました。特に『満月』でヒロインに常に影のように付き従う従者のキャラクターには、深い共感を覚えました。『屍』は生と死を巡る乾いたロジックと、主人公がときおり見せる激情のアンバランスが作品に深みを与えています。
選外作で印象的だったものを挙げますと、『雪桜の街』は雪女と人間の儚いラブストーリーですが、雪景色の美しさの描写に余念が無いのに比べ、恋愛模様の描写には、相手をどうしても求めて止まないという切迫感が不足しているように思われました。
『幻視夜行』は特殊な目を持つ者同士の戦いを描くサイキック・アクションで、ルビを多用する独特の用語の多さが個人的には気に入っていたのですが、他の選考委員には「読み辛い」「このセンスはよく解らない」と不評だったのが少々残念です。うちのお嬢様なら似たようなセンスの持ち主なのでご理解いただけると思うのですが……。
十六夜咲夜(紅魔館メイド)
読んだ順に。『白狼の咆吼』と『辻斬り双剣伝』はどちらも守るべき主人を持つ剣士の戦いを描いた剣豪小説だけど、『白狼』は格好良く書いているつもりなんだと思う主人公の忠義が、なんだか犬っぽくて、これじゃあ主の操り人形めいているわ。主の望みと己の望みの葛藤をもう少し掘り下げた方が良かったんじゃないかしら。『辻斬り』は未熟な剣士の成長物語だけど、成長した後もやっぱり未熟者にしか見えないのよね。師匠のキャラクターは魅力的なだけに勿体ないと思うけど、作品もまだまだ未熟者という感じ。
『そして、死神は笑う』は死者を迎えに行く死神が、これから死ぬ予定の人間の想いに触れる短編連作。なんだけど、この死神さんお仕事サボりすぎじゃないかしら? いい話だけど、死神が魂の回収止めちゃう話が多すぎだと思うの。生死をその手に握ることへの葛藤が薄いのは、まあ死神さんだから仕方ないとは思うんだけどね。生真面目な閻魔様は可愛いわ。
『猫のいる風景』は飼い猫との日常をコミカルに描いた作品。猫の描写はとてもリアルで可愛らしいと思うけど、ちょっと入れ込みすぎじゃないかしら? ところどころ作者の極端に偏った愛情が溢れすぎてる箇所があって、温度差を感じてしまうわ。お話として山も落ちも無いのが欠点だとは思わないけれど、おかげで読んだらすぐ内容を忘れちゃうのよね。
というわけで、私が推したのは『レインボウ・シンフォニー』。流れるような言葉のリズムが、音楽を文字で描写するという難題をきちんとクリアしているわ。それだけでも読む価値があったと思う作品。言葉を綺麗に操れるっていうのは素敵なことね。
他の作品は読んでないから他の委員に任せるわ。あとはよろしくね〜。
西行寺幽々子(白玉楼当主)
最も印象に残った作品は、と言われれば『インビジブル・ハート』に尽きます。ひどく実験的な作品のようで、けれど作者がどこまで計算しているのかがさっぱり読めません。ひどく幼稚な表現があったかと思えば、はっとするほど残酷で冷徹な視点もあり、どこからどこまでが繋がっていて、どこからどこまでが矛盾しているのかも判然としません。これを最終選考に残すべきなのかは長い議論になりましたが、答えは出ず、結局他の推薦作で最終選考枠が埋まってしまったため選外となりました。多忙につき二次選考会を欠席された閻魔様がこの作品をどう評価されたのかは気になるところです。
この作品を推しきれなかった私は、最終的には『天照戦記』と『人形の森』の二作支持に回ることになりました。『人形の森』は他者の心、他者の目を恐れる主人公の心持ちにどうにも身につまされるところがあり、共感をもって読み終えました。『天照戦記』は純粋に娯楽小説としての面白さが文句のないところでした。戦記もの、架空歴史物としての評価がいかに下されるかは最終選考を待ちたいと思います。
それ以外の作品では、『世界なんて滅べばいいのに』もインパクトは充分な作品でした。ひたすらネガティブな主人公が自分の周囲を呪い続けるという内容は、この主人公に共感できるなら破壊力は絶大でしょう。しかしあまりにも鬼気迫りすぎる描写に、辟易してしまったというのは正直なところです。
『キセキの果実』は、『インビジブル・ハート』とはまた違った意味で他とは一線を画す作品でした。極限まで簡略化された表現と自家中毒的なストーリーに、私は愉快なコメディとして読んだのですが、「単に稚拙なだけ」という他の選考委員の指摘はもっともかもしれません。ラストの「フルーツ。」という何の脈絡もないフレーズの意味は未だによく解りません。
古明地さとり(地霊殿当主)
(文々。新聞 8月20日号四面より)
「いつの間にこんなのやってたのよ」
「ん? 何さ霊夢。……あー、小説の新人賞か。知らなかったの?」
「知ってたら何か書いて応募したわよ。賞金十貫文よ、十貫文」
「結構な金額だよねえ」
「あんたは応募しなかったの?」
「私ゃ小説なんざ書けないって」
「……しかしこの最終候補の名前、なーんか心当たりがたくさん思い浮かぶんだけど」
「誰が煽ったんだか知らないけど、結構盛り上がってたからねえ、この話」
「まあいいわ。受賞した奴のところにタカりに行こっと」
「それより二回目に向けて何か書いたら? 異変のことでもネタにしてさ。選考委員に文と紫いるから甘めに評価してもらえるかもよ?」
「……あのふたりに読まれるとなるとちょっと躊躇するわねえ」
「十貫文」
「どの異変ネタにすれば受けがいいかしらね」
「……みんな単純だねえ」
稗田文芸新人賞、最終候補作が候補入りを辞退
二十日に最終候補作が発表された第一回稗田文芸新人賞において、最終候補作の一編が作者からの申し入れにより、最終候補を辞退することとなった。
辞退の申し入れがあったのは、神坂八奈作『天照戦記 蛙は口ゆえ蛇に呑まるる』。作者によると、「執筆にあたり、関係者への了解を取っておらず、内容に関してクレームがあったため、出版の可能性が与えられるべきではないと判断、候補入りを辞退いたします」とのこと。クレームの内容については明らかにされていない。
なお、繰り上げでの候補入りは行われない。最終選考は予定通り、九月十二日に残る七作を候補作として行われる。
(文々。新聞 8月23日号四面より)
稗田出版本社に脅迫状
二十四日、稗田出版から「脅迫状が届いた」との通報が是非曲直庁にあった。届いた脅迫状には、緑の字で「妬ましい」と隙間なくびっしりと書き込まれていたという。先日最終候補作が発表された稗田文芸新人賞の選考結果に関係があるものとみて、是非曲直庁は調べを進めている。
(文々。新聞 8月25日号三面より)
「ねえ、咲夜」
「何でしょう、お嬢様」
「貴女、新人賞の選考委員なんてしていたのね」
「ええ、お嬢様からお預かりした封筒を出すのに、人里に出掛けたときに依頼されまして」
「ふ、ふぅん。……どうだった?」
「そうですね、なかなか興味深い作品が多かったです」
「……そう」
「はい。――お嬢様」
「なっ、何かしら?」
「紅茶のお代わりはいかがでしょう?」
「……いただくわ」
「かしこまりました」
(ここで記述は途切れている)
『スターダスト・ムーンライト』は紹介文から察するに『星屑ミルキーウェイ』に生まれ変わったんですかね。鈴仙はラノベ路線でしょうか? うみょんげ!で旦那の所に無事落ち着いたことだし、正規版でも是非デビューして欲しいですね。早苗さんは……デビューしたら米井恋とパチュリー・ノーレッジ賞を争う予感しかしませんw
あと、パルスィ自重www第6回や霧雨書店業務日誌でも色々やらかしてたけど、この頃からですかwww
てな感じで、正規版と読み比べても色々楽しめました。正規版の第10回も楽しみにしてますね。