第二章:幻剣・満月殺法(タイトルあとでかんがえる)

作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 01:15:40 更新日時: 2012/04/01 01:15:40 評価: 1/2 POINT: 9119175 Rate: 607946.67

 

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■前回までのあらすじ
 神埼神綺の娘有栖【アリス】は母を辱めた怨敵・風見幽香斎に復讐をする為に単身幻想藩へとやって来た。
 そこで見つけた住まい「稗田長屋」にて、主の命により幻想藩へと修行に出された若き魂魄二刀流の遣い手・妖夢と出会う。
 妖夢の実直な性格と剣捌きに惚れ込んだ有栖は彼女を用心棒として雇う事にする。
 何かときな臭い有栖と共に居れば剣を振るうに不足無しと踏んだ妖夢もこれを快諾する。
 勝ち勝ち【ウィンウィン】関係によるユージョーが芽生えた瞬間であった。


 第二章:幻剣・満月殺法(タイトルあとでかんがえる)


 コーン、と庭に配された鹿脅しが奥ゆかしい音を立てて畳六畳間がたちまち無限遠の宇宙【ユニヴァース】と化す。
 上座に座るは裃姿の八雲家の筆頭家老・藍丸。傍に控えるのは藍の共連れ’お橙’。相対する妖夢は頭【こうべ】を垂れた平伏姿。
「面を上げて下さい、妖夢殿。幽々子様ご自慢の麒麟児にいつまでも頭を下げられてままでは話も出来ませぬ」
「いえいえ」と妖夢。
「どうか」と藍丸。
「では」と妖夢は面をゆっくりと上げる。
 目上からの誘いは一度は奥ゆかしく断るべし。
 西方の伝道者サンフランシスコ・サビエルがその著書『東方浪漫譚【ファーイーストロウマンス】』に書いた様に、高度に様式化されたこの国の儀礼は一朝一夕で身に付けられるものではなく、これを習得できぬ者は村八分目【ムラハチ】にされて社会的に抹殺される運命にある。それを若輩の身で既に完璧にこなしている妖夢の才覚をこそ押して知るべし。
 藍丸はしわぶき一つし佇まいをさらに正すとやんわりと切り出した。
「妖夢殿。住まいの事について少々宜しいか」
「何なりと」
「市井で長屋住まいを始めたと聞いております。しかしわざわざ金子【きんす】を払い住処を借りずとも我が屋敷に逗留して行けば如何ですかな」
「お心遣いは有難く存じます。しかし、主より修行の為に行幸を命じられた身です。これを機に新たな生活に身を置き、新たな朋輩と交わりたいと考えております」
「立派な志をお持ちだ。しかし、その、巷では奇怪な事件も頻発しております。剣の腕も立つ妖夢殿が巻き込まれる様な事は無いでしょうが、天狗党などと名乗る奇妙な輩達もいると聞きます。私はそれがどうも心配で――」
 天狗党――。もちろん知っていた。天狗の面を被った集団だ。先時、有栖と共に居た所を襲撃された。取り逃がしたが、かなりの手練れだった。どうやら平時は市井の人々に混じって生活している様なのだ。目的や企みは一切不明。有栖は風見との関係は疑っていたが――。
「時に藍丸殿。風見という女をご存知でしょうか。風見幽香斎です」
「――剣の腕だけを見れば達人、名人の域でしょうな。それが何か?」
 藍丸が答えるまでに少し言い淀む様な間があった。
 ――これ以上は藪蛇【やぶへび】か。
「以前、祖父より名を聞いた事がありまして、偶然、市井でも耳にしたものですから、ふと思い出して――。他意は御座いません」
 藍丸の後ろ暗い気配を察した妖夢は適度に後退し、追及を交わす。剣も舌も間合いが肝心。とは言え、妖夢は剣客であって論客ではない。舌戦は得意という訳ではなかった。現に風見幽香斎の名前を出した事で藍丸に警戒感を持たせてしまった感もある。
 妖夢のそういう思いを知ってか知らずか、藍丸は言った。
「率直に言えば、妖夢殿の口からは聞かずに済めばと思う名ですな。もし本人に会う事があれば悪い事は言いません。いいですかな」
「はい」
「お逃げなさい。全力で」
 藍丸が妖艶ともいえる笑みを浮かべた。
 妖夢は自分の背中が粟立つのを感じる。
 
 夕餉を御馳走になって八雲家の屋敷を出た頃にはとっぷり丸い月が昇った後だった。
 妖夢はお橙が手渡してくれた提灯片手に稗田長屋への道を急ぐ。
 何時の間にか夕立でもあったらしく、道はぬかるみ、あちこちに水溜りができあがっていた。
 隘路を右へ左へ曲がり、己の住処の近くまで来た時である。
「おう」
「おう」
 曲がり角でひたりと人に出くわして慌てて足を止めた。
 妖夢と然程変わらぬ矮躯。黒い羽織を着たその女は剣呑な目付きで妖夢を睨みつけると酒臭い息を吐いた。
「貴様、無礼であろう。謝られよ」
 これは失敬と喉元まで出掛けていた言葉を妖夢は飲み込んだ。
 無礼極まるは先方の方である。酔っている節はあれ、酒飲まれてこの体たらくでは平生【へいぜい】からの所作も窺えるというものだ。その様な輩に頭を下げる道理は無い――そう思ったのだ。
 妖夢は素早く踵を返すと右へと抜けようとした。
「待たれよ」
 女は尚も絡んでくる。身を乗り出し妖夢を制しようとして、足を水溜りに突っ込んだ。ぼちゃりと音を立て泥の飛沫が上がった。
「貴様」
 女は眉を吊り上げ激昂した。妖夢の襟首を掴まんと手を伸ばしてくる。妖夢はそれを素早く払い除けると一歩引いた。
「どの様な理由で因縁を付けてくるか判らぬが自重なさるのが宜しかろう」
「ほう、因縁と申されるか。これは取り調べに御座る」
「なに?」
 その時、女の背後からもう一人女が出てきた。背が高く、胸の豊満な女であった。
「天子様、こちらへいらっしゃいましたか。夜遊びが過ぎます。はよう屋敷の方へと戻りませぬと」
「永江、良いところに来た。怪しい奴じゃ。捕らえて奉行所まで引き立ててくれるわ」
 永江と呼ばれた女は妖夢が腰に下げた刀を認め目を細めた。
「確かに見ない顔ではありますが、見た所、何処かのお屋敷に使えるお士【サムライ】で御座いましょう」
「いいや、身分格好など幾らでも取り繕える。近頃、巷を騒がしておる天狗党の一味かも知れんぞ。詮議が必要じゃ」
 妖夢は既に足先をずらしていつでも踏み切れるようにそれとなく構えている。
 ――これは面倒な事になった。ただの酔漢と思えば見廻同心であったか。
 二人がこの町へ来たばかりの妖夢の顔を知らぬのも道理。妖夢に多少乱暴を加えようが職務であったと申し開きをすれば咎められる事はないであろう。対してこちらは主の命で行幸中の身だ。本国に帰れば職務もあるが、ここでは素浪人と変わらぬ身分である事は間違いない。八雲家の名前を出す事も頭を過ぎったが、藍丸殿の忠告を受け入れずに町での長屋暮らしを選んで手前、余計ないざこざに巻き込んだとあっては藍丸殿が主君に顔向けできぬし、主幽々子の面子も丸潰れとなろう。
 刀を使えば人並み以上の妖夢にも、この場合の立ち回りについては何の策も思い浮かばなかった。図らずも己の経験と知恵の浅さを思い知る所となり羞恥を覚える。
「だんまりでは困るな。それとも言えぬ後ろ暗い所でもあるのか」
 対して、この様な場には慣れているらしい天子と呼ばれた同心は、妖夢の窮地を感じるや嗜虐的【サディスティック】な笑みを浮かべて一歩詰め寄ってきた。その片手はそれとなく刀の柄に回されている。だがこれは決して抜くつもりはないのだと妖夢は悟っていた。この女は妖夢を追い詰め先に抜かせるつもりなのだ。
 妖夢はまだ話の通じそうな永江の方をちらりと見たが、どうやらこちらも口を挟むつもりはないらしく泰然とした表情でやり取りを見守っている。どうやらこの激昂した天子という同心を刀を抜かずに諌めなければこの場は乗り切れない様であった。
 何という危機的状況か。しかも時間が経てば経つほど徐々に不利【ジリー・プアー】。
「あったらー、なぁにやってんの。邪魔よ」
 場の緊張感を破ったのは呂律の回らぬ素っ頓狂な声であった。
 声の主は妖夢の背後よりぬうっと現われ、睨みあう二人をして完全に虚を付かれた形になった。
 紅白の巫女装束を纏った綺麗な女だったが、こちらも随分と酒臭く妖夢は思わず眉を顰めた。
「おっおっおっ、比那名居さんとこの娘さんじゃないのぉ」
 巫女はへべれけの態で馴れ馴れしく同心に話し掛けた。手には酒の入った瓢箪。天子は露骨に厭な顔をしてまたお前かと呟いた。
「また、って何よ。一晩一緒に同じ屋根の下で過ごした仲だって言うのに!なんて連れないの!」
「――先日、奉行所に引っ立てていった折に一晩ほど身柄をお預かりしました」
 永江は何故か妖夢に向かってそう説明する。天子は苦々しげに巫女を睨み付けた。
「聞けばこの辺りでは『野良巫女』『辻巫女』の名で通っているらしいではないか。わざわざ騒ぎを起こして奉行所に連れて行かれては飯に有り付こうとする与太者だとな。私とした事がそれも知らずにお前を捕まえて、お陰で仲間内で大変な笑い者になったわ!」
「与太だなんてひどぅい!」
 巫女は自分の袖を噛みながらシナを作り同心にしな垂れかかる。
「ええい、気持ち悪い奴。おまけに酒臭い!永江、興醒めだ。帰るぞ」
 天子なる同心はもはや妖夢に一瞥もくれずに羽織を翻すと早々と立ち去った。永江のみが申し訳なさそうな顔で目礼して去っていった。後には成り行きに流されるままの妖夢と野良巫女が残される。
「さて、と。あんたも厄介なのに絡まれたわねぇ」
 巫女は同心達が消えた途端、先程までとは打って変わり飄々とした顔付きに変わった。
 遅まきながら自分は助けられたのだと妖夢は悟る。
「――お心遣い。痛み入ります」
「じゃあご飯奢って」
「は?」
「聞こえないの? 世の中一度会ったら友達で、毎日会ったら兄弟って言うでしょう?」
 その言葉は聞いたことがなかったが、窮地を助けられた身。
「わかりました。しかし、私には待たせている人がおりますゆえ、我が家に招くということでいかがでしょうか」
「ふぅん、しょぼくさいものしか出してくれなさそうね」
 巫女の言葉に眉を細めた。元より豪勢な食事を好まない性質であるが、修行中の今は尚更倹約に務めている。
 しかし、妖夢の格好はそれほどみすぼらしいものではなく、八雲家に訪れる為に、一張羅を引っ張りだしてきていたため、十分に俸禄を貰っている士のそれであった。
「私ね、お金の匂いがわかるの。あんたはお金を持っていないだろうけど――なんだか大金の匂いがしてくるの」
 巫女は舌なめずりをしてから、便宜上、自分を雲井ひょっとこ斎と呼ぶようにと言った。
 明らかな偽名であるが、藪を進む者は蛇に噛まれると稀代の哲学者ミヤモト・マサシも言っていた。
 長屋で待っていた有栖は、妖夢が連れ帰ったひょっとこ斎を見て驚いたような顔をして、挨拶もそこそこに下がった。
 ひょっとこ斎は鍋一杯の芋粥をぺろりと平らげると、そのまま腹を出して寝てしまった。
 
 
 寝付けない妖夢は、一人木刀で素振りをしていた。風見幽香斎――藍丸から、逃げろと忠告されたにも関わらず、剣客としての血が騒ぐのを感じていた。
 そも、行幸を命じられたのも腕前よりも、このような若さ故の衝動【リビドー】から脱却するようにとの主の愛の鞭であることも理解はしていた。
 しかし、町道場で胡坐を掻いて屁をこいて、奥義書なるものを売り捌いて金子を蓄えるようななまくら剣客ではなく、下野した本物の達人と打ち合いを望んでしまうのが生き物としての性【サガ】。
 死線――絹糸のように細い綱渡りを求めてしまうのが、剣客という生き物の本質なのだ。
 そのとき、妖夢の鋭敏になった超感覚【シックスセンス】が、闇夜を疾走する何かを捉えた。
 既に時は丑三つ時。なれば、化生の類か――昂ぶった闘争心を抑えきれずに、木刀を放り捨て、二振りの愛刀を掴む。
 その銘を、楼観剣と白楼剣。かつて、平安の剣豪ミヤモト・マサシが命を預けたとされる名刀である。
 


 駆ける、駆ける、駆ける。
 町を抜け、街道を疾走する化生と妖夢。その差は確実に詰まってきていたが、体力のことを鑑みると徐々に不利【ジリー・プアー】であった。
 そうしているうちに、化生――いや、鎧武者は、妖夢へと向き返り、飛び掛ったではないか! 南無三!
 鎧の重さと体重を乗せた一撃は、もはや人間技ではない。この一撃で妖夢はネギトロめいた物体に変わってしまったのだろうか?
 いやそうではない! 見事にその一撃を往なした妖夢は、見事なお辞儀を決めた。
「ドーモ。魂魄妖夢です」
「ドーモ、魂魄妖夢=サン。ムーン・ラビットです。」
 フシューフシューと、危険なアトモスフィアを発しながらも、鎧武者は青眼の構えを取った。
 対して妖夢は小太刀で相手の攻撃を往なしつつ、必殺の一撃を叩き込む二刀流の構え。
 初撃の不意打ち【アンブッシュ】を見事に切り返すことができたとはいえ、油断できぬ相手であることは変わりない。
 お互い、摺り足で間合いを計るが、突如、ムーン・ラビットの剣先が歪む! ゴウランガ!
 超感覚【シックスセンス】で致命的な突きを弾いたものの、
うわあああああああああああああ

あけましておめでとうございます!!!
名前が無い程度の能力
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2012/04/01 01:15:40
更新日時:
2012/04/01 01:15:40
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1. 7777777 S.Kawamura ■2012/04/01 21:41:01
え、どうしよう!どうしよう!?
なんか猛烈にツボにはまってしまったんですが、これは是非他の章のあらすじだけでも作者の頭を開けて覗きたいです!
どうしてこれがポイント0なんですか!これ、めちゃくちゃおもしろいと思いますよ!
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