小豆洗い魔理沙

作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 00:52:53 更新日時: 2012/04/01 00:52:53 評価: 3/9 POINT: 30261127 Rate: 605223.04

 

分類
魔理沙
おかしいと気づいたのは、鏡開きをしたあたりだ。
おろした鏡餅を、お汁粉にして食べながら、気づいたのだ。

私は新年が明けてから、お汁粉以外の食事をとっていなかった。

流石にそれは異常であった。
いくら私が和食派であろうと、お汁粉ばかりを食べていられない、はずである。
はずなのだ。

それなのに、私は、朝昼晩と飽きもせず、小豆を茹で、餅を焼いて食べる。
甘い甘い汁粉に、こんがり膨らんだ餅を入れる。
ほおばる毎に、小豆の土臭い香り、煮てもなお固さを残す皮の食感に、小豆そのものの生きざまを感じ、うっとりしてしまう。
汁粉を食べれば食べるほど、飽きるなんて感覚は一切生まれずに、汁粉の魅力に取りつかれていった。

食事以外にもおかしなことはあった。気がづけば小豆を研いでいたのである。
毎食お汁粉を食べているのだから、その準備は当然していたわけだが、それはほとんど無意識。
いつの間にやら、小豆を研ぐことがルーチンワークになっていたのだ。
まだまだ年明け、痛いくらいに冷たい水も、小豆を研ぐ時ばかりは冷たいとも感じない。

しかし、小豆を研ぐことはまだいい。食べるのだから。美味しいのだから。
小豆を研ぐ音色で心安らいでしまう、それは恐ろしかった。
私はどこまで行っても普通を自覚しているわけで、小豆様…… いや小豆ごときの研ぎ音なんてただのノイズでしかないはずだ。
それなのに、庭師が手入れしたばかりの白玉楼の庭で、砂利を思い切り蹴飛ばし歩く、そのような音が、たまらなく心地よい。
騒霊の演奏より、夜雀の歌声より、いや、幻想郷の他のどの音よりも、小豆の研ぎ音は私の心に響く。響いてしまう。



はてさて、私は変なもの、いや、変な小豆でも食べてしまったのだろうか。
小豆に中ったとか、小豆以外には魅力を感じなくなる呪いをかけられたとかだろうか。
とりあえず、前者を疑って、永遠亭の薬師を頼った。

「かくかくしかじか、こういうことで、私は小豆に中った疑いがあるんだ」
「ふむ。変わった症状ね」

このへんてこな症状を、笑われたり、からかわれたりすることがなかったので、内心ほっとした。

「小豆以外を食べたら、どうなったとかってある?」
「さあな。小豆以外は食べたいとも思わないんだ」
「お汁粉以外で小豆を食べたことは?」
「ないぜ。お汁粉が一番おいしく小豆を頂けると信じているんだ」
「お饅頭、好き?」
「ああ。私はつぶあん派だぜ」

ちょっと待ってなさい、と言って永琳は席をはずすと、手に何かしらの料理を持って戻ってきた。

「小豆と生クリームのサンドイッチよ」
「あいにくだが、私は和食派なんだ。和食派は極力洋食を控えねばならなくてな」

パンに小豆を挟んだ謎の料理なんて食べられるはずもなく、私は断る。
すると、永琳は皿の上のサンドイッチを一切れとり、とても美味しそうに食べ始めた。

「ああ。美味しいわ。和食派の魔理沙は一生この味を知らないのだと思うと、代わりに泣いてあげてもいいと思えるくらい」

これがただの挑発だということはわかっている。
しかし、パンとパンの隙間からのぞく、小豆が私を誘ってくる。
私はパン、生クリームとの組み合わせを食べたことがない。
想像の中で、いわゆる小豆とパンと生クリームのハーモニーという奴が、どんどん膨れていく。
もう、これは絶対に美味しいに決まっているじゃないか。小豆だもの。
私は生唾を飲み込んだ。

「一口だけ、食べてみれば?」
「一口だけ、一口だけもらうぜ」

ついに私は誘惑に負け、一口分にサンドイッチをちぎり、食べた。

「美味しいです」
「そう。じゃあ、やっぱり原因は小豆かしらね」

結局私はそのサンドイッチを二切れ食べてしまった。パンに換算すると二枚にあたる。


そのあと、よくわからん検査をして、私に一体何が起こっているのかを調べてもらった。

「検査の結果からみると、別に小豆に中っているわけじゃなかったわ」
「じゃあ、この症状は一体何だ。もしかして、精神の病気とかじゃ……」

まさかとは思ったが、私も精神の病気を疑ったことはある。
永琳は非常に言いにくそうに、じっと目を見てくる。

「いや、精神病の類ではないわ」

簡単に言うわ、と前置きされて、ぐっとまじめな顔でこちらを向く。

「あなたはね。妖怪小豆洗いになっていたのよ」

私は、いつのまにやら妖怪小豆洗いになっていたらしい。


妖怪小豆洗い。
それはもう、小豆を洗う妖怪であろう。
毎日小豆を洗って、洗って、食べている私は紛れもなくそれだろう。
しかし、しかしだ。これから、どうやって生きていけばいいんだ、ついついそう考えてしまう。
今まで人間として生きてきて、突如小豆洗いになっていた、と言われても、気持ちの整理というものができていないのだ。
頭では別に今までと変わらないと理解しているのに、気持ちという奴はどうしようもない。
いずれ魔法使いとして妖怪に仲間入りする可能性はあったが、小豆洗いだなんて想像もついていなかった。



「小豆洗いって、『小豆洗いましょか、人とって食いましょか』とか歌う謎の妖怪よね?」

誰かに相談したくて霊夢に相談した。
相談しにくく感じもしたが、こういう時はこいつに相談するのが一番な気がしたのだ。

「歌えばいいじゃないの、毎日楽しく小豆を研ぎながら」
「そりゃあ、そうなんだろうけど、気持ちの問題で」
「そんなもの、ご飯食べて寝りゃ解決よ」

そう言って、小豆洗いの歌にメロディをつけ始めた。



妖怪小豆洗いになったとわかった日でも、私はお汁粉を食べて寝た。
最初からわかっていたとおり、小豆洗いになっても、いつも通りだった。

私は小豆洗いでも普通の小豆洗い。
結局のところ、普通の魔法使いなのである。
生きて
らない
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作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2012/04/01 00:52:53
更新日時:
2012/04/01 00:52:53
評価:
3/9
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30261127
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605223.04
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0. 6927796点 匿名評価 投稿数: 6
1. 7777777 奇声を発する(ry ■2012/04/01 00:56:44
この何とも言えない空気
3. 7777777 名前が無い程度の能力 ■2012/04/01 01:26:44
>「美味しいです」
ここが可愛いな。作者はよくわかってる。
7. 7777777 名前が無い程度の能力 ■2012/04/01 07:29:48
なんだかずいぶんとみみっちい妖怪になっちまったぜ!
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