東方三国志 〜プロローグ〜

作品集: 1 投稿日時: 2012/04/01 00:19:00 更新日時: 2012/12/20 17:37:41 評価: 4/9 POINT: 37818098 Rate: 756362.46

 

分類
三国志
クロスオーバー
 楽園と謳われた幻想郷はいまや、風前の灯火にあった。
 第十三代巫女、博麗霊夢は神を蔑ろにし、酒に溺れ、妖怪と行動を共にしていた。
 不安定になっていく結界の力。起こる異変の数々。異常気象に苦しむ人間たち──。

 そんな斜陽の幻想郷に立ち上がった、一人の人間がいた。

「蒼天は既に死んだ! 今こそ、黄天の時代だ!」

 魔法の森で「太平要術」を得た霧雨魔理沙が、立ち上がったのである。
 人里を追われた彼女は魔法の森に篭もり、そこでの研鑽の日々の中で、霍青娥と出会う。
 青娥は魔理沙に秘められた資質を見抜き、彼女に「太平要術の書」を託し、「次代の覇者」となるよう告げた。
 博麗の巫女による統治を終え、新しい幻想郷を作り出すよう、神託を授けたのだ。

 人間でありながら不思議な魅力と魔力をもった魔理沙は、幻想郷の民の信頼を得るには充分だった。
 彼女の名声は、瞬く間に幻想郷全土に広がり、「太平道」を興すに至る。

 新たな世を作るため、次代の幻想郷を守るため──。

 第127季、魔理沙は、彼女が愛する自然の具現──妖精たちとともに蜂起した。
 自らを「天公少女」と称し、冬の精チルノを「地公少女」、春の精リリーを「人公少女」と名付けて、冬と春の境界を導く「天」を表したのである。
 これは、「新たな天を作る」という意思表明に他ならなかった。
 霊夢が治める幻想郷は、五行思想でいえば木の「青」……つまり、蒼天である。
 五行の摂理は「木剋土」──木の蒼天は、土の黄天によって代わられる。
 彼女は、人間が踏みしめる、人間のための大地を「地の色は黄色」として、黄天の世を望んだのだ。
 後に「黄巾異変」と呼ばれる、大乱の始まりである。

 幻想郷の各地で蜂起した妖精軍は、とても霊夢一人で処理できる数では無かった。
 霊夢と、博麗神社に浸る妖怪たちは一計を案じ、幻想郷全土に向けて義勇軍を募る檄を飛ばした。





 人里の程近く、妖怪の山を見据える桃園に、彼女たちは居た。
「これを受けるつもりであろう?」
 物部布都は檄文が記された紙をひらひらと翳し、豊聡耳神子に問いかけた。
 神子も同じく紙を持っている。
「あやつの肩を担ぐつもりは無いが、これは我らが飛翔する絶好の機会ではないか」
「君は、何を勘違いしているのですか?」
 神子は布都を見やり、ぴしゃりと言った。
「里で嘆く民の姿を見たでしょう。いま私たちが求めるものは功名ではなく、民の安寧です。そして、幻想郷という結界の維持──。霊夢の器量はともかく、私たちは幻想郷という枠組みを救わねばなりません」
「幻想郷という枠組み……」
「あの魔理沙という少女は、結界そのものに手を入れようとしています。これでは、私たち尸解仙もどうなるか判らない」
 それを聞いていた蘇我屠自古は、桃の実を手に頷いた。
 神子は、その桃を見ながら続けて言う。
「腐らない桃──それが私たちなのです。ですが、桃の木が朽ちてはどうしようもない」
「それで、幻想郷を救うのですな」
「それが結果として、民のために繋がるのなら、私は目指しましょう。桃の木の再興を!」
 檄文を丸めた神子は、その筒を高い空に突き上げた。
「我は太子様についていきますぞ!」
 布都に続き、屠自古も檄文を天に向ける。
「やってやんよ!」
 三本の檄は、空の一点を結んでいた。
 どこまでも続く、蒼天だった。
「私たちはもう、死ぬことはありません。それでも──志は同じです。生まれた日は違えども、死ぬときは同じ年、同じ月、同じ日を願わん!」





「お嬢様、博麗神社より、黄巾異変に対する援軍を要請する手紙が届いておりますが」
「ふーん」
 紅魔館のメイド、十六夜咲夜は、力強く書かれた檄文を渡した。
 館の主、レミリア・スカーレットは玉座に腰掛け、片手で紙を眺めた。
「人間どもが起こした異変じゃないか。私の出る幕じゃないよ」
「珍しいことを仰いますね。お嬢様なら、こんな面白い話、飛びつくかと思ったのですが」
「面白そうだけどねぇ。でも、幻想郷単位の話はスケールが大きすぎるのさ。私は紅魔館で、慎ましく暮らしていたいんだよ」
 レミリアは、意外にも保守的な立場だった。
 人間の小競り合い程度、と考えているのだろう。
「何なら咲夜、お前が解決してきなよ。咲夜はこの間、海賊を退治したんだってね?」
「いえ、海賊じゃなくて、烏賊ですわ」
 大きなイカが無縁塚に流れ着いていたので、持ち帰って焼いただけである。
 今日も今日とて平和な紅魔館であったが、咲夜は今回の異変には、一抹の不安を感じていた。
「お嬢様、魔理沙は自らを『天公少女』と名乗っているらしいですよ。天に流れる星を見に、出かけるのも一興ではありませんか?」
 レミリアは、暫くの沈黙のあとに、微笑んだ。
「ああ、流れ星か。どのように燃え尽きるのか、見てみたいもんだねぇ……。でも、私は大丈夫かな?」
「太陽ならば、私が日傘となりましょう」
「そうか、咲夜が日傘か」
 レミリアは立ち上がると、檄文を放り投げた。
 ──キィン、と一閃。
「そして、魔理沙を燃やす太陽でもある」
 不敵に笑う、レミリア。
 舞い散る檄文に残された「出陣」の二文字を掴み取る咲夜。
 玉座を下りたレミリアは、黒翼を広げて絨毯を歩いた。
「フラン! パチェ! 美鈴! 行くよ、幻想郷を紅く染めようじゃないか!」




 妖怪の山──天魔を中心とする天狗社会は、幻想郷の異変を受けて警戒を強めていた。
「あらあら、ひどい痛めつけようね」
 そんな中を、悠然と歩く一人の大妖。
「これはこれは、紫様……。これは貴方の指示ではありませんか」
 射命丸文は、葉団扇を振るう手を止めた。
 その先の木に縛られているのは、霊夢が懇意にしている妖怪である。
 紫と呼ばれた女性は、妖怪の顎に指を添えて言った。
「貧乏くじでごめんなさいね。これも幻想郷を守るため……」
 妖怪の目は潤み、足はがたがたと震えている。
「貴方が山に来てから、規律は守られ、統率はより強まりました。いまや天魔様をも凌ぐその力……一体、何を企んでいるのです?」
 文の問いかけに、紫は笑って答えた。
「何も考えていませんよ。私はただ、幻想郷全土に檄文を飛ばしただけ」
「え……あれは貴方が?」
「そういえば、博麗の巫女を一番知っているのは、貴方たち天狗では無かったかしら?」
「いえ、それは、そうですが……」
 彼女との会話は、いまいち要領を得ない。
 そもそも、人間と妖精が起こしたような小さな異変に、妖怪が動くはずもないのだ。
 何故天魔が警戒命令を出したのか、文には判らなかった。
「巫女は器なの。ヒビ割れた器は、貴方ならどうする?」
 紫は、凍えるような視線で文を射抜いた。
「まさか──」
「補修しなくちゃいけないわ。霊夢に代わりは居ないのでしょう?」
 文は、背筋に通った悪寒を取り払うことが出来ないまま、頷いた。
 幻想郷の力が弱まっていても、今は霊夢の代わりが居ない──博麗の巫女を選ぶには、まだ早い。
「魔理沙は……そう、魅力的なエサ。私が幻想郷を殺そうとも──」
 大妖──八雲紫は、妖怪に近付いて、縄を解いた。
「幻想郷が、私を殺すことは許さない」








 魔理沙と妖精たちの蜂起は、幻想郷の英雄たちが雄飛する契機となった。

 これは、後に「東方三国志」と呼ばれる天下三分の物語──その序章である!













次回以降の予告ダイジェスト

・博麗神社を乗っ取り、専横を極めた八坂神奈子に対し、
 八雲紫と西行寺幽々子は反神奈子連合の檄を全土に飛ばす。
 再び集う英傑の前に立ち塞がるは、最強の武、霊烏路空!

・神奈子の横暴を見かねた火焔猫燐は、そっと霊烏路空に近付く。
 一世一代の大計「連環の計(トカマク・プロジェクト)」は成るのか!?

・神奈子の支配を逃れた霊夢は、命からがら逃げ延びてきた。
 その先で待ち受けていたのは──紫だった。
「おかえりなさい、霊夢」
 八雲の巣が、再び幻想郷を包もうとしていた。

・冥界の覇者、幽々子と、境界の大妖、紫。
 強大な力を有した二人は、三途の地でついに雌雄を決する。
 旧知の仲でありながら、それぞれの理想を掲げ、相容れず交錯する運命……。
 紫は自ら囮となり、小野塚小町の船着場を奇襲する!

・受け継がれる炎と魂……。
 余りにも早い咲夜とレミリアの退陣は、フランを王者へと育てていく。
「咲夜、お姉様……私はもう、どこにも逃げない」

・因幡てゐの助言に従い、神子は八意永琳の庵を訪れる。
 三度目の来訪にして現れた永琳は、驚くべき大計を説いた。
 神子、紫、フランによる、秘術「天下三分法」である。

・押し寄せる紫の大軍。逃げる神子たちは人間を連れている。
 屠自古は一条戻り橋の上で、一人立ちはだかった。
「やってやんよ!」

・一大勢力を築いた紫は、ついに南下。
 霧の湖一面に広がった大軍を前に、降伏か抗戦かで揺れる紅魔館。
(お姉様なら、どうしていただろう……)
 悩むフランに、友軍として来ていた永琳は徹底抗戦を主張。
 レミリアの親友、パチュリーも主戦論を説いた。
(……)
 咲夜や姉ではない……決めるのは、私なんだ!
 フランは立ち上がり、目の前の机をレーヴァテインで両断する。
「これより降伏を口にした者は、この机のようになると思いなさい!」

・永琳とパチュリーの秘策は、どちらも「火」だった。
 神風に乗った美鈴は単身、紫の大軍の中へ突入する。
「これが、紅魔館の紅き炎よ!」
 霧の湖に上がった炎は、赤壁となって空を覆った。


以下、乞うご期待!!
命蓮寺組は劉璋あたりでどうでしょう。
zenteki
http://www5e.biglobe.ne.jp/~radical/
作品情報
作品集:
1
投稿日時:
2012/04/01 00:19:00
更新日時:
2012/12/20 17:37:41
評価:
4/9
POINT:
37818098
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756362.46
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0. 6706990点 匿名評価 投稿数: 5
3. 7777777 S.Kawamura ■2012/04/01 07:11:14
いいなあ。すごくいいなあ。空想・妄想を刺激されます。
横山光輝の三国志を読んだのが随分前なので、どの東方少女が誰に対応しているのか、ほとんどちんぷんかんぷんですが、それでもおもしろい。

霊烏路空=呂布
物部布都=張飛

が個人的にツボでした。
4. 7777777 名前が無い程度の能力 ■2012/04/01 08:59:19
配役がイメージに合わなすぎてw
6. 7777777 名前が無い程度の能力 ■2012/04/01 09:27:53
なんという俺得SS…
どうか正式に書き始めてくれw
8. 7777777 名前が無い程度の能力 ■2012/04/01 17:58:45
これは読んでみたい…!
頑張れフランちゃん
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