永遠亭にはたくさんの妖兎がいる。
それらは、当主である蓬莱山輝夜によりすべて「イナバ」の名を与えられている。
このイナバ達、それぞれが分担して屋敷の仕事をまかなっているのだが、永琳、鈴仙などからの大まかな指示こそあれ、その仕事ぶりは「適当」の一言に尽きる。
なにしろ数が多いので、全体に細かな指示を出すに至らないのが現状なのだ。
そんな中、一匹の妖兎が中庭に面した縁側で膝を抱えて、外を眺めていた。
他の妖兎達はそんな彼女を咎める様子もない。
この妖兎、別に仕事をさぼっているわけではない。それどころか、立派に職務を全うしているのである。
これから語られるのは、こんな役割が出来るに至った永遠亭の一騒動にまつわる話である。
「正直者の詐欺兎」
「今日からあたし、ウソつくのやめるわ」
永遠亭の主要メンバーが集う夕餉の席にて、腹黒詐欺兎の二つ名を持つ因幡てゐがそんなことを言う。
「そう。頑張ってね」
「……」
「え……オチは?」
上から、輝夜、永琳、鈴仙の反応である。
輝夜は興味がないのか、それとも頑張らなければその宣言が遵守されないと思っているのか、気怠そうに答えるにとどめた。
永琳は無言のまま「何言ってんのかしら、この子は」という冷ややかな視線を送る。
鈴仙は突然の出来事に、上手く思考が回っていない様子である。
「だー! 何なのよ、そのリアクションは!?」
てゐはテーブルをバンバン叩きながら抗議する。
「この、あたしが、ウソを、つかないって、言ってるのよ! もうちょっと気の利いた言葉があってもいいんじゃないの?」
「行儀が悪いわよ、てゐ」
永琳が窘める。
「だいたい、あなたがウソつきを止められるわけが無いでしょう。それは私たちに『呼吸をするな』と言ってるようなものよ?」
「出来るわ!」
「無理ね」
てゐの反駁を一刀両断する永琳。
「師匠……そこまで言わなくても」
「あら、うどんげ。あなたはてゐがウソをつかずにいられると思うの?」
「た、多分……」言い切ることが出来ない。それがうどんげクオリティ。
「もういいわ!見てなさいよ、絶対ギャフンと言わせてやるんだから!」
ウソをつかないことで、一体どうやってギャフンといわせるのか、それにギャフンって死語だろ。と思いながら部屋を出て行くてゐを見やる一同。
てゐの足音が完全に遠ざかった後、永琳はため息混じりに言う。
「まぁ、てゐのウソに一番被害を受けていたのがあなたなんだから、良かったじゃないの。これで少しは落ち着いてくれるといいんだけどね」
「それは、そうかも知れませんが」
鈴仙はそわそわした様子で答える。出て行くときのてゐの目尻に光るものを認めたからだ。
「ちょっとみてきます」
「今はやめた方がいいわね。てゐも興奮しているみたいだし」
させたのはアンタだ、と喉まで出かかった言葉を飲み込み、しぶしぶ座り直す鈴仙。
「数日もすれば、また素知らぬ顔でウソをつきだすわよ。だってあの子は『因幡 てゐ』なんだから」
確信に満ちた声で言い放ち、食事に戻る永琳。
この天才薬師の予想は、大きく裏切られる結果となった。
それから一週間、てゐはウソをつかなかった。しかし、口数が減ることもなく仕事を真面目にこなし、一般イナバへの態度は前に比べて柔らかくなった気さえする。
初めのうちは訝しんでいた者達も、こうなるとてゐの決意を認めざるを得なくなった。
鈴仙が永琳の実験に助手として参加していた時のこと。
「まったくの予想外だったわね」
「てゐの事ですか?」
「ええ、禁断症状でも出ないかと期待していたのだけれど」
ヒデェ。思っても口にしない。これもうどんげクオリティ。
「近いうちにてゐには謝っておくことにするわ。『あなたを見直したわ、ギャフン』って」
それは謝ってません、というか挑発です。これもなんとか堪える。流石はうどんげ、伊達に永琳の弟子などしていない。
余計な一言が死を招く、彼女はそれを知っていた。
そんな会話の最中も止まることの無かった永琳の手が、夕焼け色をしたフラスコをつまみ上げる。
「はい、うどんげ。これ飲んで」
「え……え、え?」
「たった今完成した『妖力上昇薬─試作型』よ」
「いきなりですかぁ!?」
思わず叫ぶ鈴仙。自らの身に危機が迫るとあっては、さすがに黙っていられない。
「元から妖力の無い動物に投与しても無意味だし、副作用の心配も無いわ」
「あ、あうぅ……」
「それとも、縛られて血管から注入されるほうがお好みかしら?経口投薬との違いも見てみたいし、どちらでもいいのよ?」
「ありがたく飲まさせていただきます」
鈴仙は折れた。これ以上なく折れた。そして思う。余計な一言などなくても、死はどこにでも転がっているものなのだと。
幸い、薬に副作用は無かった。
※
※
※
さらに一週間後、てゐが屋敷の掃除をしていると、廊下の向こう側から鈴仙がとぼとぼと歩いてきた。
「おーい、れーいせーん」
「……はぁ」
見るからに元気の無い鈴仙を不思議に思い、声を掛けたてゐだったが返ってきたのは、ため息なのか返事なのかも判然としない息を吐く音だった。
「どうしたのよ、元気ないじゃない」
「ああ、てゐ」
「てゐ、じゃないでしょ。なんかあったの? また、えーりんの怪しい薬の実験台にされたの?」
「そんなの、いつものことだけど……」
そのとき、一陣の風が廊下を走り抜けていく。そして因幡てゐは信じられないものを見た。
「ちょ! アンタ! それ、ノーパ……むぐぅ」
「しー! しー! 言わないで!!」
叫ぶてゐの口をとっさに塞ぐ鈴仙。同時に周囲を索敵するのも忘れない。
誰にも聞かれた様子は無い。鈴仙は、そろそろとてゐの口から手を放す。
「ぷはぁ。なんだってのよ、一体。なんでれーせん下着穿いてないのよ。まさか、えーりんに新しいプレイを強要されて……」
「なんでそうなるの! 違うわよ!」
「それじゃあ姫に」
「それも無い! ……下着が盗まれてるのよ」
鈴仙は、ぽつぽつと話し始める。最近、洗濯して干しておいた自分の下着が何者かによって盗まれていること。
屋敷の仕事もあるため、犯人捜しをする暇がないこと。
新しい下着を調達するにも、このままでは恥ずかしくて外出もままならないことなど。
対して、てゐの答えは簡素だった。
「長いスカートか、ズボンでもはいていきなさいよ」
「持ってたらね」
「無いの!?」
「うん」
「えーりんにでも借りたら?」
「事情を説明出来ると思う?」
悟りきった顔で答える鈴仙。そんな思考などすでに通った道だ、と言わんばかりだ。
「う~ん」
渋い顔で考え始めるてゐ。俯き、顎に手を当てるその様は、本気で鈴仙を気遣っているように見える。
「てゐ……」
鈴仙は心に暖かいものが広がるのを感じた。下半身は寒いが。
そのうち、余った布などをもらって作ろう。何も既製品ばかりが下着ではあるまい。
そんなことを考えていると、てゐがポツリとつぶやいた。
「あたし、犯人わかっちゃったかも」
「え?」
「れーせん、ついてきて!」
駆け出すてゐ。鈴仙はスカートが捲れないように気遣いながら、てゐの後を追いかけるしかなかった。
※
※
※
「とうちゃーく」
「ここは……」
二人がたどり着いた先は鈴仙の仕事先の一つ、永琳の部屋だった。
「ちょっと待って、ここに私の下着があるの?」
「入って見ればわかるって。えーりん、お邪魔するわねー」
鈴仙の制止も聞かず、部屋に上がり込むてゐ。
中では部屋の主が読書をしていた。突然の侵入者に驚きを隠せない。
「どうしたの、いきなり?」
「家捜しをさせてもらうわ。もちろん無許可で」
返答も待たずに、てゐはあちこちひっくり返し始める。さすがにこれには永琳も憮然とした様子で言う。
「どういうつもり?この間の仕返し……という訳ではなさそうだけれど。うどんげ!あなたも黙って見てないでてゐを止めなさい」
弟子に命令する永琳。しかし鈴仙は動かない。
「師匠」
「な、なに?」
弟子の思わぬ気迫に、及び腰になる永琳。
「てゐは、ウソをつかないイナバになりました。そして、てゐが私の下着を盗んだ犯人がここにいると言っています。私はそれを信じようと思います」
「下着を盗んだ? あなた一体何をいって……」
「あった!!」
薬を貯蔵しておく保管庫を探していたてゐが、小さい布きれを掲げている。それは紛れもなく鈴仙の下着だった。
鈴仙が、キッと永琳を睨む。その目はいつもの5倍は赤い、赤すぎる。
「さて、結論は出たようですね。説明してもらいましょうか、何故、私の下着がこんな所にあるのかを」
「し、知らないわ。本当よ! なにがなにやら」
「問答無用!!!!!」
「ちょ、うどんげ落ち着い……アッーーーー!!!!」
説明して、と言っておきながら問答無用とはいかがなものか、と思いながらてゐは後ろ手に扉を閉めた。
廊下に出たてゐは、悪人顔でほくそ笑む。
「ふふん、ここまで上手く行くとは思わなかったわ」
てゐは確かに、ウソをついていない。真相は闇の中だ。
永遠亭にはたくさんの妖兎がいる。
それらは、当主である蓬莱山輝夜によりすべて「イナバ」の名を与えられている。
このイナバ達、それぞれが分担して屋敷の仕事をまかなっているのだが、永琳、鈴仙などからの大まかな指示こそあれ、その仕事ぶりは「適当」の一言に尽きる。
なにしろ数が多いので、全体に細かな指示を出すに至らないのが現状なのだ。
そんな中、一匹の妖兎が中庭に面した縁側で膝を抱えて、外を眺めていた。
他の妖兎達はそんな彼女を咎める様子もない。
この妖兎、別に仕事をさぼっているわけではない。それどころか、立派に職務を全うしているのである。
この妖兎の仕事、それは「洗濯物を見張る係」である。
それらは、当主である蓬莱山輝夜によりすべて「イナバ」の名を与えられている。
このイナバ達、それぞれが分担して屋敷の仕事をまかなっているのだが、永琳、鈴仙などからの大まかな指示こそあれ、その仕事ぶりは「適当」の一言に尽きる。
なにしろ数が多いので、全体に細かな指示を出すに至らないのが現状なのだ。
そんな中、一匹の妖兎が中庭に面した縁側で膝を抱えて、外を眺めていた。
他の妖兎達はそんな彼女を咎める様子もない。
この妖兎、別に仕事をさぼっているわけではない。それどころか、立派に職務を全うしているのである。
これから語られるのは、こんな役割が出来るに至った永遠亭の一騒動にまつわる話である。
「正直者の詐欺兎」
「今日からあたし、ウソつくのやめるわ」
永遠亭の主要メンバーが集う夕餉の席にて、腹黒詐欺兎の二つ名を持つ因幡てゐがそんなことを言う。
「そう。頑張ってね」
「……」
「え……オチは?」
上から、輝夜、永琳、鈴仙の反応である。
輝夜は興味がないのか、それとも頑張らなければその宣言が遵守されないと思っているのか、気怠そうに答えるにとどめた。
永琳は無言のまま「何言ってんのかしら、この子は」という冷ややかな視線を送る。
鈴仙は突然の出来事に、上手く思考が回っていない様子である。
「だー! 何なのよ、そのリアクションは!?」
てゐはテーブルをバンバン叩きながら抗議する。
「この、あたしが、ウソを、つかないって、言ってるのよ! もうちょっと気の利いた言葉があってもいいんじゃないの?」
「行儀が悪いわよ、てゐ」
永琳が窘める。
「だいたい、あなたがウソつきを止められるわけが無いでしょう。それは私たちに『呼吸をするな』と言ってるようなものよ?」
「出来るわ!」
「無理ね」
てゐの反駁を一刀両断する永琳。
「師匠……そこまで言わなくても」
「あら、うどんげ。あなたはてゐがウソをつかずにいられると思うの?」
「た、多分……」言い切ることが出来ない。それがうどんげクオリティ。
「もういいわ!見てなさいよ、絶対ギャフンと言わせてやるんだから!」
ウソをつかないことで、一体どうやってギャフンといわせるのか、それにギャフンって死語だろ。と思いながら部屋を出て行くてゐを見やる一同。
てゐの足音が完全に遠ざかった後、永琳はため息混じりに言う。
「まぁ、てゐのウソに一番被害を受けていたのがあなたなんだから、良かったじゃないの。これで少しは落ち着いてくれるといいんだけどね」
「それは、そうかも知れませんが」
鈴仙はそわそわした様子で答える。出て行くときのてゐの目尻に光るものを認めたからだ。
「ちょっとみてきます」
「今はやめた方がいいわね。てゐも興奮しているみたいだし」
させたのはアンタだ、と喉まで出かかった言葉を飲み込み、しぶしぶ座り直す鈴仙。
「数日もすれば、また素知らぬ顔でウソをつきだすわよ。だってあの子は『因幡 てゐ』なんだから」
確信に満ちた声で言い放ち、食事に戻る永琳。
この天才薬師の予想は、大きく裏切られる結果となった。
それから一週間、てゐはウソをつかなかった。しかし、口数が減ることもなく仕事を真面目にこなし、一般イナバへの態度は前に比べて柔らかくなった気さえする。
初めのうちは訝しんでいた者達も、こうなるとてゐの決意を認めざるを得なくなった。
鈴仙が永琳の実験に助手として参加していた時のこと。
「まったくの予想外だったわね」
「てゐの事ですか?」
「ええ、禁断症状でも出ないかと期待していたのだけれど」
ヒデェ。思っても口にしない。これもうどんげクオリティ。
「近いうちにてゐには謝っておくことにするわ。『あなたを見直したわ、ギャフン』って」
それは謝ってません、というか挑発です。これもなんとか堪える。流石はうどんげ、伊達に永琳の弟子などしていない。
余計な一言が死を招く、彼女はそれを知っていた。
そんな会話の最中も止まることの無かった永琳の手が、夕焼け色をしたフラスコをつまみ上げる。
「はい、うどんげ。これ飲んで」
「え……え、え?」
「たった今完成した『妖力上昇薬─試作型』よ」
「いきなりですかぁ!?」
思わず叫ぶ鈴仙。自らの身に危機が迫るとあっては、さすがに黙っていられない。
「元から妖力の無い動物に投与しても無意味だし、副作用の心配も無いわ」
「あ、あうぅ……」
「それとも、縛られて血管から注入されるほうがお好みかしら?経口投薬との違いも見てみたいし、どちらでもいいのよ?」
「ありがたく飲まさせていただきます」
鈴仙は折れた。これ以上なく折れた。そして思う。余計な一言などなくても、死はどこにでも転がっているものなのだと。
幸い、薬に副作用は無かった。
※
※
※
さらに一週間後、てゐが屋敷の掃除をしていると、廊下の向こう側から鈴仙がとぼとぼと歩いてきた。
「おーい、れーいせーん」
「……はぁ」
見るからに元気の無い鈴仙を不思議に思い、声を掛けたてゐだったが返ってきたのは、ため息なのか返事なのかも判然としない息を吐く音だった。
「どうしたのよ、元気ないじゃない」
「ああ、てゐ」
「てゐ、じゃないでしょ。なんかあったの? また、えーりんの怪しい薬の実験台にされたの?」
「そんなの、いつものことだけど……」
そのとき、一陣の風が廊下を走り抜けていく。そして因幡てゐは信じられないものを見た。
「ちょ! アンタ! それ、ノーパ……むぐぅ」
「しー! しー! 言わないで!!」
叫ぶてゐの口をとっさに塞ぐ鈴仙。同時に周囲を索敵するのも忘れない。
誰にも聞かれた様子は無い。鈴仙は、そろそろとてゐの口から手を放す。
「ぷはぁ。なんだってのよ、一体。なんでれーせん下着穿いてないのよ。まさか、えーりんに新しいプレイを強要されて……」
「なんでそうなるの! 違うわよ!」
「それじゃあ姫に」
「それも無い! ……下着が盗まれてるのよ」
鈴仙は、ぽつぽつと話し始める。最近、洗濯して干しておいた自分の下着が何者かによって盗まれていること。
屋敷の仕事もあるため、犯人捜しをする暇がないこと。
新しい下着を調達するにも、このままでは恥ずかしくて外出もままならないことなど。
対して、てゐの答えは簡素だった。
「長いスカートか、ズボンでもはいていきなさいよ」
「持ってたらね」
「無いの!?」
「うん」
「えーりんにでも借りたら?」
「事情を説明出来ると思う?」
悟りきった顔で答える鈴仙。そんな思考などすでに通った道だ、と言わんばかりだ。
「う~ん」
渋い顔で考え始めるてゐ。俯き、顎に手を当てるその様は、本気で鈴仙を気遣っているように見える。
「てゐ……」
鈴仙は心に暖かいものが広がるのを感じた。下半身は寒いが。
そのうち、余った布などをもらって作ろう。何も既製品ばかりが下着ではあるまい。
そんなことを考えていると、てゐがポツリとつぶやいた。
「あたし、犯人わかっちゃったかも」
「え?」
「れーせん、ついてきて!」
駆け出すてゐ。鈴仙はスカートが捲れないように気遣いながら、てゐの後を追いかけるしかなかった。
※
※
※
「とうちゃーく」
「ここは……」
二人がたどり着いた先は鈴仙の仕事先の一つ、永琳の部屋だった。
「ちょっと待って、ここに私の下着があるの?」
「入って見ればわかるって。えーりん、お邪魔するわねー」
鈴仙の制止も聞かず、部屋に上がり込むてゐ。
中では部屋の主が読書をしていた。突然の侵入者に驚きを隠せない。
「どうしたの、いきなり?」
「家捜しをさせてもらうわ。もちろん無許可で」
返答も待たずに、てゐはあちこちひっくり返し始める。さすがにこれには永琳も憮然とした様子で言う。
「どういうつもり?この間の仕返し……という訳ではなさそうだけれど。うどんげ!あなたも黙って見てないでてゐを止めなさい」
弟子に命令する永琳。しかし鈴仙は動かない。
「師匠」
「な、なに?」
弟子の思わぬ気迫に、及び腰になる永琳。
「てゐは、ウソをつかないイナバになりました。そして、てゐが私の下着を盗んだ犯人がここにいると言っています。私はそれを信じようと思います」
「下着を盗んだ? あなた一体何をいって……」
「あった!!」
薬を貯蔵しておく保管庫を探していたてゐが、小さい布きれを掲げている。それは紛れもなく鈴仙の下着だった。
鈴仙が、キッと永琳を睨む。その目はいつもの5倍は赤い、赤すぎる。
「さて、結論は出たようですね。説明してもらいましょうか、何故、私の下着がこんな所にあるのかを」
「し、知らないわ。本当よ! なにがなにやら」
「問答無用!!!!!」
「ちょ、うどんげ落ち着い……アッーーーー!!!!」
説明して、と言っておきながら問答無用とはいかがなものか、と思いながらてゐは後ろ手に扉を閉めた。
廊下に出たてゐは、悪人顔でほくそ笑む。
「ふふん、ここまで上手く行くとは思わなかったわ」
てゐは確かに、ウソをついていない。真相は闇の中だ。
永遠亭にはたくさんの妖兎がいる。
それらは、当主である蓬莱山輝夜によりすべて「イナバ」の名を与えられている。
このイナバ達、それぞれが分担して屋敷の仕事をまかなっているのだが、永琳、鈴仙などからの大まかな指示こそあれ、その仕事ぶりは「適当」の一言に尽きる。
なにしろ数が多いので、全体に細かな指示を出すに至らないのが現状なのだ。
そんな中、一匹の妖兎が中庭に面した縁側で膝を抱えて、外を眺めていた。
他の妖兎達はそんな彼女を咎める様子もない。
この妖兎、別に仕事をさぼっているわけではない。それどころか、立派に職務を全うしているのである。
この妖兎の仕事、それは「洗濯物を見張る係」である。
確かに嘘はついてないw