こんばんは。
大晦日の夜をいかがお過ごしでしょうか。
私、因幡てゐはうどん食ってます。永遠亭の座敷の中で。
普通年越しには蕎麦だろうと思いますが、舎弟である月の兎がうどん食いたいというから、仕方なくうどん食ってます。具は赤いきつねです。緑のハフリは残念ながら手に入れることができませんでした。個人的には蕎麦の方がヘルシーで好きです。健康志向ですから。
ズルズルズル。
流石、永琳の手打ちだけあって上手いです。なんでもできる超天才ですからね、彼女。1200年前に、彼女についていく振りをしてよかったです。おかげで現在も生活はそこそこ安泰。心の中では彼女を許してはいませんけどね。
ここの屋敷も、元はといえば自分の物です。私は竹林の奥で、ここで暮らしていたんです。
食い扶持が見つからないので、仕方なく、人間騙して金を取りつつ暮らしていました。
現在の永遠亭の亭主に対してもいつものように子供に化けては相手を油断させ、後頭部をぶん殴り、金を取るという方法をとるつもりだったのですが、見事に失敗しましてね。
「兎は一羽二羽っていうでしょ。あれはね、兎は食べてもいい食材だから、一羽二羽って言うのよ」
そう言いながら、私の体をつんつん箸でつつかれているところでようやく気が付きました。
ああここ、お風呂じゃないや、と。
そこから私は逃げ出し、捕らえられ、また逃げ出し、それを繰返すこと約100年。
100年で飽きました。逃げ出すことも、捕らえられることも。
私には未だにわかりませんがね。彼女らが私をここに残したがった理由が。
そこそこ居心地はいいので、こうして今もうどんを食べています。
ズルズルズル。
悔しい、悔しいけれど美味しいです。うどん。
あとで蕎麦作ってくれと頼んでみようかと思います。
疲れたとは言わせません。キャー、えーりんってやっぱり天才、とでも言っておけば、快く作ってくれます。騙されているってことに気が付いていないわけではありません。褒められることが実は大好きなんだそうです。天才だからですかね。天才の思考はよくわかりません。都合がいいので利用させてもらっています。
それとも天才の作った蕎麦じゃなきゃ口に合わないとでも言ったほうが良いでしょうか。それなら確実に作ってくれることでしょう。
「美味しいね、うどん」
舎弟が私に話しかけます。
そうだねーと、可愛らしくかつ適当に相槌をうっておきます。
「つるつるいけちゃう」
本当は大根おろしの入った蕎麦が食べたいのですけどね。文句は言いません。大晦日ですし。
まあ、たまにはこの若造に付き合ってやろうじゃないかと、そういう訳です。
「そう思わない?」
食事中に声をかけられるのは正直嫌いです。マナーはきっちり守るタイプですから。
しかし、今日は大晦日です。些細なことも気にしないでおくことにします。
ええ、そうですね、と返そうと、私は顔を上げました。
つるつる食べている手を休めて、たまには相手を見てやろうじゃないかと。
本当はそんな風には思いませんがね。まあとりあえず、ごく自然に相手の方を見たわけなんです。
しかし、目の前の光景を見て、見なきゃよかったと後悔しました。そこには信じられない光景が広がっていたのです。
「あーおいしい」
目の前にいるうさぎは、口ではなく耳へうどんを運んでいました。
箸で慎重に頭上へとうどんを持っていき、何度か失敗しつつも耳の中に入れます。
そのままうどんは跡形もなく耳の中に入ってしまいました。私は口を開けてそれを見ていました。
「あれ?てゐ、どうしたの?」
どうしたのっていうか。初耳です。うさぎは耳からものを食べるなんて。
軽くカルチャーショックです。
「・・・・・・」
「ほ、ほんとうにどうしたの?」
開いた口が塞がりません。
しかし、黙っているのもアレなので、なんとか返事をします。
「お、おいしいね」
「うん、そうだね」
そう言うと、鈴仙は再び、箸をうどんにつけました。
もう一度、食べる振りをして、目の前のうさぎの食べ方を見てみようと思います。
まずは、うどんを箸で掴みます。
そして、少し汁を切って、頭上に持ち上げると同時に、体をまっすぐな位置から35度ほど傾けます。
その体制のまま、うどんを耳の中に入れます。本人から見えないせいで、何度か失敗しています。それに加え、体制のせいで箸もプルプル震えています。数分後、ようやくうどんが耳の中に入りました。周囲には当然ながら汁が散っています。よく見ると、私の服にも。
「・・・・・・」
軽く殺意を覚えました。
「ほんとうにおいしいね、てゐ」
ニコニコしながら体を起こします。起こすと同時に、耳にうどんが完全に入りました。
「手伝ってあげようか。食べるの大変でしょ?」
なるべく可愛らしい声で言いました。それはもう、相手が有無を言わさずうん、といってくれるような声で。
「手伝うって、いいの?」
手伝う、というのはアレです。うどんを耳の中に持っていく、ということです。これはこいつの耳の中に箸をねじ込まなくては気が納まりません。ついでに耳がどうなっているかも気になります。
「じゃあよろしく」
そう言って鈴仙は頭をこちらに向けます。髪は縛ってあるので邪魔にはならないみたいです。手伝うといった私も私ですが、私の申し出をすんなり受け入れるこいつもこいつです。
月ではこれが常識なのでしょうか。それとも最近の若者のブームなのでしょうか。
耳の中に消化器官があるなんて、まったく初耳です。
うどんを掴みます。
いきなり箸を入れたりはしません。騙すにも手順というものがあるのです。騙している場合ではない気がしますが。
耳の中に入れようとした、その時でした。
「ようむーお腹すいたー」
なんか聞こえました。耳の中からなんか聞こえました。
聞いたことある声が、聞こえました。
「なに食べているんですか!?そんなツボから!」
「うどんかしらー」
「うどん!?ちゃんと蕎麦さっき食べたじゃないですか!」
「おいしいわよー」
「てか絶対怪しいですよそんなツボ!何食べているんですか!幽々子様!」
「紫のきつね?」
「うそおおおお!!」
えーと。
どうすればいいんでしょうか。
確実にあの世の声がします。このままうどんをこの中に入れていいものか、非常に迷います。
「冷たい!」
鈴仙の声がしました。
「てゐ、そこは耳じゃないわよ!」
怒られました。どうやら頬にうどんが当たっていたみたいです。
「ご、ごめん」
思わず謝ってしまいます。
「今度は上手くやってよね」
なんか、いつもだったら紐にひっかけて転ばしてやるところですが、そんな場合ではありません。今はうどんです。このうどんを入れて、どうなるかを確かめなくては年は越せません。
もう一度、うどんを掴みます。そしてゆっくりそれを耳の中に入れます。半分ぐらい耳の中に入りました。
「あもっ」
なんか耳の中から声がしました。
なんだろうと恐々と耳の中を覗きます。
歯みたいなものが見えました。舌みたいなものも見えました。
明日寺子屋に行って、見たことをなかったことにしようと思いました。
「ごめん、やっぱり無理」
「そっか」
私は箸を鈴仙に返します。そして自分のうどんを食べようと思います。一気に食べる気がなくなりましたが。
「質問していい?」
「なに?いきなり」
思い切って質問してみようと思います。耳からうどんを食べる生態のことを。
「いつから耳から食べるように?」
「んーと、先月師匠に勧められてからかなあ」
なにやってるんですか永琳。
「姫様も、それがいいんじゃないって」
姫様もだそうです。え?これが常識?
そういえば、気が付きました。ここにいるうさぎは皆地球生まれですが、姫様、永琳、鈴仙の3人は月出身です。
耳からうどんを食べるのは月の習慣ということなんですかね。地球で1200年生きてきた私にもわかりません。軽く疎外感を覚えました。
「もう一個、いいかな」
「なあに?」
「うどん以外も食べるの?耳から」
「食べないな」
そうですか。すごく安心しました。
うどんを食べる時以外でなければ、こんな光景は見なくて済むということです。これで夜隣で寝ていても怖くはありません。
「最後に一個、いいかな?」
「うん」
「口から食べないの?うどん」
「うん」
やっぱり今日こいつの隣で寝ることはやめにします。あの世の声が聞こえてきそうです。
「なんで?」
「こっちのほうがおいしいから」
そうですか。最早何も言えません。
コレは夢だ、夢なんだと思うことにします。こんな世界に居たくないです。初夢がこれというのもすごく嫌ですが、現実というのも嫌です。
幻想の中だからって、なんでも起きればいいってもんじゃありません。非常識はやっぱり非常識なのです。
「ねえ、あのさ」
「何?」
「てゐは、耳から食べないの?」
ものすごい質問が来ました。耳から食べる?鼻から牛乳があるまいし。
当然ながらお断りです。私はあんな亡霊なんて耳の中に飼っていません。もし居るとしても認めません、絶対。
「食べてみればいいのに」
恐ろしい事を言いやがりましたねこのうさぎ。
「うん、それがいいわ。絶対病みつきになるから」
鈴仙がうどんを箸でつかんで私の方に向きます。
ちょっと待って下さい。私はまだ一言も食べるなんて言っていません。
鈴仙はじりじりと自分の方に寄ってきます。逃げようとしますが上手いこと体が動きません。ここでつかまったら終わりです。耳にうどんを入れられます。無理です。絶対無理です。だって耳に亡霊なんて飼っていませんから。飼っていたとしても私は認めません。あんなペットいりません。食費だけがムダにかかります。ペットというものは、私のように可愛いらしく撫で撫でするだけで幸せになれる存在であるべきなのです。あんな亡霊撫で撫でしたって、二言目にはお腹すいたです。可愛げないです。エンゲル係数が増えるだけです。
それよりあれです。この状況は相当まずいです。ニコニコしながら舎弟のうさぎはこっちに向かっています。舎弟のくせに生意気です。私元亭主ですよ?すごい昔の話ですけれど。
運悪く目が合いました。これは終わったと感じました。
足元がなんかフラフラします。今年最後の締めがこれかよ、と泣きたくなりました。
ゴツン!
後頭部に何かがぶつかりました。
鈴仙の声が聞こえます。大丈夫!?とかキャーとか。なんだか慌てているようです。慌てすぎてガッシャンという音まで聞こえてきました。なにか落としたみたいです。流石ドジっ子。うどんでしょうか。それなら好都合ってもんです。
目をつむると川が見えました。川の向こうのお花畑ではサボり魔の死神が手を振っています。一緒にお酒飲もうと言っているようです。ああそれいいかもとちょっと思いました。お花畑ということはなんとなくあの世な気がしないでもないですが、耳からうどんよりは絶対いいです。
ああそうです。これは夢なんです。
夢から覚める合図です。私は川を渡り、お花畑でお酒を飲んでいる死神のところに向かいました。
「てゐー?」
「・・・・・・」
「てゐったら」
「・・・・・・」
「おーきーろー」
「わひゃひゃひゃひゃ!!」
くすぐったさに、一気に目が覚めました。誰だろうと思ったら鈴仙です。
いつもどおりの居間に、布団。
どうやら今まで寝ていたみたいです。
「もうすぐ初日の出よ」
外はすっかり明るいですが、日はまだ出ていないようです。急いで体を起こします。
毎年初日の出を見るのが私の日課なのです。健康的に早起きできますし、ああ新年だな、と実感できるイベントだからです。
体を起こして気が付きました。なんかベタベタします。
見ると、私は汗をびっしょりかいています。あんな夢見たからでしょうか。
「はくしゅっ!」
「てゐ、風邪?」
くしゃみが出ました。そういえば今は冬でした。
心配そうに、鈴仙がこちらを見ます。
「そうみたい。汗かいちゃって」
「そっか。着替えなきゃ・・・・・・あ、でももうすぐ日が昇るんだった」
「ん、ならいいよ。見てから着替えるから」
私は縁側に向かいます。永遠亭の一角に、少し開けた場所があり、そこから初日の出を見ることができるのです。
昔は隠れているため、そんなこともできませんでしたが、あの人間たちが家に来てからこういうこともできるようになりました。健康志向の私としては良いことです。里に自由に出入りすることもできますし。
みんなの元に向かうとき、何かにつまずきました。なんだろうかと少し悪態をつき、つまずいたものを見てみます。
夢に出てきたうどんの器でした。
「れ、鈴仙、これ」
「ああこれ」
さっきまで掻いていた汗が、再び出てきました。いやいやまさか。そんなはずはありません。あれはただの悪夢です。
「年越し蕎麦食べて、そのままにしておいたみたい」
ほら、やっぱり。夢だったんです、あれは。
「蕎麦、まだ残ってる?」
「師匠が残してくれたよ」
「そっか」
それならなおのこと、早く行かなくてはなりません。
「あ、鈴仙」
「なに?」
「あけましておめでとう。今年もよろしく」
「うん。こちらこそ、あけましておめでとう」
気恥ずかしいので目を逸らしながら言います。
私は足早に廊下を駆けていきました。今年もいい年になりますようにと、そう思いながら。
「あ、そうそう、うどんの残りは食べちゃったからねー」
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
えっと。
いまこいつなんて言いやがりました?
「な、な・・・・・・」
「あ、ごごめん怒った!?てゐってそんなにうどん好きだった!?確かに師匠の手打ちうどんは美味しいけどさ、そんなに好きだとは思わなくて。そ、それに昨日てゐってば蕎麦食べたいって言っていたじゃない。だから、うどんはいいかなって」
ダッシュで永遠亭から逃げました。1200年目にしてようやく決心がつきました。
ここは私の住むべき場所ではないようです。
「ちょ、てゐ!?てゐ!?待って!私が悪かったから戻ってきて!」
さよなら永琳。グッバイ永琳。今度こそはあんたに捕まりません。幻想郷の端から端まで追い詰められても逃げ続けるつもりです。乗っ取られるのは癪ですが、自分の常識が通じなくなった環境で暮らしていくのは厳しいものがあります。郷に入れば郷に従えって、さすがに耳からうどんは食えません。
この1200年、本当にお世話になりました。いままでありがとうございました。
「師匠!うどん勝手に食べたせいでてゐが拗ねて逃げちゃった!」
「あらうどんげー。もうすぐ日が昇るわよ」
「イナバ、東の空が明るいわよ」
「そんな場合じゃありませんって!早く見つけないと!」
「心配しなくてもちゃんと捕まえるわよ。しかし久しぶりの脱兎ね」
「そうね。1000年ぶりぐらい?」
「腕がなるわあ」
「興に丁度いいわね。正月だし」
「正月ですしね」
「だ、大丈夫なのかなあ・・・・・・」
「ああほら、日が昇ってきましたよ」
「綺麗ねえ」
「ウドンゲもこっち来なさい。よく見えるわよ」
竹林の中から太陽が顔を出していることに気が付きます。朝日が眩しいです。
私はなにをやっているのでしょうか。外は寒いし、風が冷たいのに。
ですが自分のプライドにかけて、捕まる訳にはいかないのです。
新年早々、竹林の中を永遠亭と逆方向へ私は急いで駆けていきました。
珍しくてゐが追いこまれてるのに笑えました
月の人すげえwwwてかゆゆ様何やってんすかww
今年も宜しくお願いします。
×食いぶしが見つからないので、
○食い扶持が見つからないので、
「扶持」で昔のお給料みたいなものなので、こちらが正しいかと。
てゐが可愛いwww
しかしな作者、セーラーえーりん達が見たくて何故か性慾を持て余し気味です。
頑張ってゐ!
>1殿 月の人はすごいよ!
>2殿 思い出しましたOTL。新年しょっぱなからやっちまったぜ!
>喉飴殿 あざーっす!吹いてもらえることが至上の喜びです!
>謳魚殿 が・・・・・・がんばる!大丈夫セーラー戦士達忘れてないから!現在ネタを練り中です。更新は亀かもしれませんががんばります。