三種の神器、と聞いて人は何を想像するだろうか。
多くの者は、はるか古事記の時代よりこの国の帝が受け継いで来たという鏡・剣・玉の三つ、すなわち原初の意味での三種の神器『八咫鏡』『天叢雲剣』『八尺瓊勾玉』を思い浮かべるだろう。
もしかしたら最近幻想郷に入ってきている、家電三種の神器と呼ばれる『白黒テレビ』『洗濯機』『冷蔵庫』をイメージする者もいるかもしれない。もっとも、幻想郷に入ってきているとはいえ稼動することはないのだが。駆動力無くして動く事のない外の道具達は、せいぜい河童の集落やこの香霖堂くらいでしか歓迎されることは無い。世間では八雲紫の家でひっそりと稼動している、と誠しやかに囁かれてはいるが、それは事実だ。テレビはともかく、洗濯機と冷蔵庫は自分から動き回ることがおっくうな僕にとってはひどく羨ましいものだった。しかしそんな八雲紫でも未だ手の届かない神器もある。
それは紅魔館のメイドや、少し前に幻想郷にやって来るなり霊夢達と一騒動起こした山の神社の三人ならその利便性をありありと語ってくれるであろう、『カラーテレビ』『クーラー』そして『自動車』、そう、通称3Cだ。特にクーラーに関しては、どうやら僕の家にあるストーブと真逆のことができるらしい。すなわち周囲の気温を下げることができるというのだ。香霖堂の冬の生活水準はストーブによって大幅な改善がされており、今では霊夢や魔理沙だけでなく、レミリアや御付きのメイドがストーブの前まで丸まりに来る事もある。レミリアに至っては今年の冬には毎日のように来ていた。
―――私は買い物のついでにここに暖まりに来ているだけ。わざわざ貴方の顔を見に来ているわけではないのよ。そこのところを勘違いしないようにしなさい、店主。さぁ、わかったら早くこちらにきて膝を貸しなさい。畳だったかしら?この床だけはどれだけ経っても慣れないわ―――
はぁ。まったくこの僕が何を勘違いするというのか。あれほどストレートに好意をぶつけてきて勘違いも何もないだろう。わざわざ春度事変の吹雪の中、ガチガチ震えながら買い物に来る事などあるまい。照れ隠しの言動などまさに子供で可愛いものだ。今度来たら飴玉でもあげてみるとしようか。きっと喜ぶだろう。
気付けば思考がそれてしまっていたが、とにかくクーラーだ。夏場でも服を変えることのない僕にとってはクーラーはあまりにも魅力的だ。夏はクーラー、冬はストーブ。考えるだけでも素晴らしい環境じゃないか。読書も進むに違いない。八雲紫に頼んでみるのも一興か。
何にせよ、このように三種の神器とは実は相当の種類がある。しかしその全てに共通していることが二つだけある。一つはそれらの神器全てが非常に大きな力を持っていること。もう一つはどれもが誤った使用方法をすれば使用者自身に大きな反作用をもたらすということだ。かつて神々や大いなる王たちが使用したほどの力を用いるには、それなりに適切な用法というものが必要になるのだ。
そんな神器を扱う者として、僕は自身がまさに適切な人間だと思っていた。
名前と用途がわかる程度の能力―――僕のこの能力を用いることによって、それら神器の用途から適切な用法を想像するのはそう難しいことでは無い。だから僕はそう深く考えることなく、気軽に手を出してしまったのだ。無縁塚から新しく幻想郷に入ってきた、とある三種の神器に。
この幻想郷の端で細々と道具屋を営む僕にとって、霊夢や魔理沙のように幻想郷全てを覆うような異変を解決するほどの力は必要が無い。ただ、何かあった時のために目の前の相手一人をどうにかできる程度の力があればいい。その三種の神器のうちどれもが、そんな僕にとってまさにうってつけとしかいいようのないものだった。
僕は無縁塚に落ちていたその三種の神器―――いや、正確に言えばその三種の神技、というべきか。それらが描かれた書を手に、修行に励んだ。流石はこの僕森近霖之助というべきか、神技の用法は書を一目見ただけで理解できたが、あいにくそれを行使するための肉体が無かったからだ。
半分ほど混じった妖怪の血のせいか、僕は日に日に実力を付けていった。そして修行が終わった時、僕の体は大いなる筋肉の鎧に包まれていた。流石はブルワーカー。もうヒョロ男だなんて呼ばせない。わざわざ八雲紫に頼んで通販してもらった甲斐があったというものだ。
そんな体を手に入れた僕が次に踏むべきステップは実践しかなかった。
先日、僕は紅魔館一の、いや幻想郷一のタフネスを誇るという門番の紅氏に実験台になってもらうように頼んだのだ。永遠亭の彼女達でもよかったのだが、例え一時的とはいえ人を死なせてしまうのは後味が悪い。紅氏はそう言う僕を、新たな武術の体得のためといって心から歓迎してくれた。名前を知り、用途を知り、用法を知り、体を鍛え、相手を見つけ、完璧な実践の場を用意したというのに。
―――ああ。それなのに。
包帯まみれの僕が一刻ほど前にここで眼を覚ましたことが全てを物語っている。僕は、間違ったのだ。
紅氏に間違った神技を行使した僕を待っていたのは、かつてその技を使用したという王が奉られる神殿から放たれた裁きの雷だった。
雷に打たれ、技の途中で失速して落ちてゆく僕を抱きとめてくれた紅氏によって幸いにして僕は一命を取り留めていた。
今になって思うのは、やはり三種の神器とは人間の手に余る力だということだ。古来より選ばれし者のみに受け継がれてきた神器たち。そう易々と手を出すべき代物ではなかったと言う事か。高い授業料ではあったが、いい体験にはなったか。
あの神技の書は早いうちに焼き捨てておいたほうがいいだろう。魔理沙が見つけたりしたらどうなるかわかったものではない。
あぁ、それにしても。
ちゃんとあの絵に描いてあった通りにやったのに、一体何が間違っていたんだろうなぁ。あのマッスルリベンジャー。
偽マッスルリベンジャーやってるの想像するとシュールすぎるwww
そしてジェロニモ上司のノリよすぎだろw
あとお嬢様が可愛い。
それはともかく、タグはそういう意味かwww
だけど、ツンデレるレミリアの可愛さがハンパなかったので
オールオッケーです。
>今度来たら飴玉でもあげてみるとしようか。
あんた「好意」を履き違えてるだろwww