「・・・である、と。ふう、こんなところかしらね」
そう独り言を呟きながら、十六夜咲夜は、すっかり固くなった肩を回した。長時間座っていたために、腰にもかなり疲れがたまっている。
やっぱり、慣れないことをすると、体に障るな―。咲夜は、そんな感想を持った。
彼女は現在、執筆作業の真っ最中なのである。
「自らの伝記を出したい」と、レミリアが唐突に言い出したのは、一ヶ月ほど前までさかのぼる。
「私も結構長い間生きたし、色んな伝説を残してきたわ。そろそろ形にしてもいいと思うのよね」
だから、咲夜。まずは、貴女の目から見た、素顔のレミリア・スカーレットについて、書いて頂戴。
そういう命を受けた咲夜は、さっそく作業に取り掛かった。従者として、常日頃から垣間見える、レミリアのカリスマぶりについて綴っていったのだ。
「お嬢様、こんな感じでいかかがでしょうか」
「ふむ・・・面白いけど、文章が甘いわね」
咲夜は、午後のティータイムを利用して、自らの書き上げた文を、レミリアに見せていた。
彼女の文章は、やはり瀟洒の名に恥じぬ立派なものだった。しかし、レミリアは気がついた点を次々指摘していく。
「例えばここ。『彼女は、自らの敵を徹底的に取り除く』の部分。すごく分かりやすい書き方にはなってるけど『彼女は、嵐のように湧いて出る『赤い悪魔』を、まるで針に糸を通すような流麗な動きで避け、その歯牙にすらかけることはない」なんて書くと、カリスマっぽいと思わない?」
「なるほど、格好良いです。ですが、お嬢様も『赤い悪魔』ではないのですか?」
「私は『紅い悪魔』だもん。まるで別物よ。それからここね。『彼女はまた、運命を操る能力を持っている』。具体的な説明がないと、私のことを知らない者は、理解できないでしょうね」
確かに、それはその通りだった。彼女の能力は、ただでさえ抽象的と評判なのだ。
「どういたしましょう?」
「そうね。あの晩の宴について、書いてあげなさいな。私が圧倒的な力を見せつけてやった日よ。ふふ・・・色んな怒りや、悲しみが込められた、あの悲鳴・・・忘れられないわ」
そう言って、うっとりとした表情を浮かべるレミリア。今この瞬間の彼女は、まさにカリスマと呼ぶに相応しかった。
「かしこまりました。では、また手直ししてきます。しばらくお待ちくださいませ」
こうして、レミリアの伝記は、無事刊行に至った。
記念すべきその1ページ目は、以下の通りのものである。
「レミリア・スカーレットほど、カリスマと呼ぶに相応しい存在は他に無いだろう。彼女は、その場に存在するだけで、周りの者を畏怖させ、平伏させるだけの力を誇っている。
彼女は、自らの嫌うことに対しては、絶対に嫌だと言うことが出来る。中には実力行使で来る者もいるが、彼女の前には到底及ばない。
例えば、ハンバーグの人参だ。彼女は、嵐のように沸いて出る、微塵切りにされた『赤い悪魔』を、まるで針に糸を通すような流麗な動きで避け、その歯牙にすらかけることはない。これには、彼女の従者もただただ白旗を上げるしかない。それだけ、彼女の意思は強固なのだ。
彼女はまた、運命を操る能力を持っている。これは、迫り来る運命を、自らに都合のいいよう捻じ曲げるという、極めてカリスマ的な能力だ。
この力を用い、彼女は、私たちの住む『紅魔館』で開かれるトランプ大会で、毎回ぶっちぎりの成績トップを誇っている。
『お姉様、ずるーい!』『レミィ、汚いわよ』という、メンバーからの罵詈雑言に対しても、彼女は『自分の持ってる力を使って、何が悪いの?』とどこ吹く風である。
そして、このことは同時に、彼女がいかに優れた人望を持っているかをも証明する。彼女に負けた紅魔館の人々は、それでも尚、彼女をトランプに誘うことをやめないのだから。このことから、どれほど彼女が愛されている存在であるかが分かるだろう。
人々を平伏せさせる力と、人々に愛される力。2つの相反する力を持ち合わせた彼女は、まさしく本物のカリスマである」
「お嬢様。里から大勢の人が押し寄せています」
「ふふん。さっそく、私のカリスマぶりが伝わっているようね」
「いえ。『是非一度愛でたい』と」
「何で!?」
すみません。ちょっとした意図があったんですが、やっぱり読みやすさが大事ですね。
修正させていただきました。
自分はレミリアの伝記の記述がでてくる前に
>「私は『紅い悪魔』だもん。
ここでやられましたw
ちょっと紅魔館へ行ってくる
さて紅魔館に向かわねば
それとも見たうえで刊行許したのかwww
トランプ片手に紅魔館行ってくる
しかしカリスマがどうあれ、好き嫌いはいけないよおぜうさま。