※どの言葉が本音で、どの言葉が建前なのか、
そう考えながら読んでいただければ幸いです。
ある晩の、人里でのこと。
魔理沙は、珍しく、人里の飲み屋で酒をたしなんでいた。
店内は、夜分ということもあり、人でごった返し。
その中で、魔理沙は、誰と話すということもなく、カウンター席の端に座り、
店主が、注文された酒や肴を作るあわただしい姿を眺めていた。
カラーン
店の入り口の鈴が鳴り、誰かがはいってきた。
魔理沙は、別に目もやらなかった。
誰かがはいってくる度に首を回したのでは、酒も満足に呑めない。
この店は、夜になれば、里の酒好きがドッと集まってくる場所なのだ。
「おう、霧雨じゃねぇか。おまえもこっちで呑まんか?」
向こうの座敷席で、誰かが叫んだ。声まで酔っていた。
その声に聞き覚えのなかった魔理沙は、振り向くこともしなかったが、
「いいや、今日はやめとく。そういう気分じゃねぇんだ」
全く別の、さっきはいってきた客の男が、その声に答えた。
その反応と声色から、魔理沙には、それが誰か、容易に推測がついた。
その客は、黙って魔理沙の隣の席に座った。
魔理沙は、その客を見もせず、黙って自分の烏賊にかぶりついた。
「いつもの、頼むぞ」
「あいよー」
店主の訛った声が返事をした。
やがて、その客にも、酒と肴が出された。
「親父、いつもここに来てるのか?」
魔理沙は、決してそっちを見ることなく、独り言のように呟いた。
「俺は、もうおまえの親父はやめたはずだろう」
その客もまた、魔理沙を見なかった。
「ああ、そうだったな。私も、あんたの娘なんてやめてやったんだっけ」
視線を落とし、魔理沙は食いかけの烏賊をじっと見つめた。
「何はともあれ、まだ生きてたんだな」
その客もまた、自分のえんどう豆を見つめながら呟いた。
「ああ、まだばっちり生きてるぜ」
「妖怪だか魔法使いだか知らんが、そんな奴らとばっかり関わってるんだろ?
もう骨ごと喰われちまったかと思っていたよ」
「あんたこそ、もう老衰でくたばっちまったのかと思ってたぜ」
「跡継ぎが見つからねぇんだ。おいそれと三途の舟に乗るわけにも行くまい」
「まったく、残念だぜ。あんたが死んだら、暖簾をもらってやろうと思ってたのに」
「おまえに渡すぐらいなら、屍と一緒に焼いてやる」
「だろうな」
魔理沙はグイッと酒を飲み干した。
「それにしても、おまえが人里に来るとは、どういう経緯だ?」
その客が聞いた。勿論、独り言のように呟いただけで、魔理沙を見たりはしなかったが。
「他に呑むところがなくてな。行き着けの屋台は休みだし、霊夢も今日は呑まないて言ってな」
「まあ、そんなとこだろうとは思ったが」
「あんたの女房、まだ元気か?」
「まあ、うちは昔から何も変わんねぇよ」
「そうか」
「おまえが、変な乗り物から落ちて首の骨折って死なないか、なんて心配していた時があったな。
今じゃ、忙しくてそんな心配もできんが」
「はッ、冗談きついぜ。箒から落ちるより、ベッドから落ちる方が怖い。
落差が小さければ小さいほど、受身を取る時間もないからな」
「どうでもいいが、あまり心配かけさせんじゃねぇぞ。老けた顔が皺だらけになるんだから」
「あんたこそ、酒なんて呑んでないで、孝行してやりな。肩たたきくらいできるだろう」
「孝行知らずの餓鬼が口出す話じゃねぇぞ」
「それもそうだな」
魔理沙は少し決まり悪そうに呟くと、新しい熱燗を店主に頼んだ。
「その辺にしといたらどうだ。餓鬼が呑みすぎると、明日ひどいぞ」
「酒には耐性があるぜ。私が赤ん坊の頃から呑ませてきたのは、あんただろう」
「そういう時もあったな。あのときのおまえは、もう少し可愛らしかったが」
「それはきっと、あんたに口答えしなかったからだぜ。
まだ母乳と酒の区別もつかん赤ん坊に、何飲ませたって同じだろうからな」
「ま、今ではすっかりひねくれた餓鬼になっちまったが」
「ひねくれてなんかいないぜ。私は私なりにまっすぐ生きているだけだ」
「ああ、そうかい」
その客もまた、酒を飲み干した。
「なあ、魔理沙」
「ん?」
「もし、勘当が解けたら、おまえ、帰ってくるか?」
不意をつかれ、魔理沙は一瞬口ごもったが、
「マジックアイテムを認めてくれるんなら、考えてやってもいいぜ」
と返した。
「お断りだ。俺も、おまえがマジックアイテムから足洗うんなら考えてもいいが」
「面倒だ。現状維持」
魔理沙は烏賊を全て食べ終え、それを酒で流し込んだ。
「そうか。まあ、そうだろうな」
「そうに決まってる。さて、私はこの辺で失礼するぜ。
せっかくの酒も、あんたと一緒じゃ呑めるものも呑めなくなる」
「そうかい。これで俺も自分の酒が呑めるってものよ」
その言葉を横に、魔理沙は自分の勘定をカウンターに置くと、席を立った。
「おい、魔理沙」
その客が、魔理沙を呼び止めた。
「なんだ?」
「風邪、ひくなよ」
その言葉に、魔理沙はどう返事すればいいか、しばし迷ったが、
「その言葉はおふくろに言ってやってくれ。馬鹿は風邪を引かん」
「…………分かったよ」
それを背中で聞くと、魔理沙は店を後にした。
「おふくろ、最近会ってないぜ」
そう考えながら読んでいただければ幸いです。
ある晩の、人里でのこと。
魔理沙は、珍しく、人里の飲み屋で酒をたしなんでいた。
店内は、夜分ということもあり、人でごった返し。
その中で、魔理沙は、誰と話すということもなく、カウンター席の端に座り、
店主が、注文された酒や肴を作るあわただしい姿を眺めていた。
カラーン
店の入り口の鈴が鳴り、誰かがはいってきた。
魔理沙は、別に目もやらなかった。
誰かがはいってくる度に首を回したのでは、酒も満足に呑めない。
この店は、夜になれば、里の酒好きがドッと集まってくる場所なのだ。
「おう、霧雨じゃねぇか。おまえもこっちで呑まんか?」
向こうの座敷席で、誰かが叫んだ。声まで酔っていた。
その声に聞き覚えのなかった魔理沙は、振り向くこともしなかったが、
「いいや、今日はやめとく。そういう気分じゃねぇんだ」
全く別の、さっきはいってきた客の男が、その声に答えた。
その反応と声色から、魔理沙には、それが誰か、容易に推測がついた。
その客は、黙って魔理沙の隣の席に座った。
魔理沙は、その客を見もせず、黙って自分の烏賊にかぶりついた。
「いつもの、頼むぞ」
「あいよー」
店主の訛った声が返事をした。
やがて、その客にも、酒と肴が出された。
「親父、いつもここに来てるのか?」
魔理沙は、決してそっちを見ることなく、独り言のように呟いた。
「俺は、もうおまえの親父はやめたはずだろう」
その客もまた、魔理沙を見なかった。
「ああ、そうだったな。私も、あんたの娘なんてやめてやったんだっけ」
視線を落とし、魔理沙は食いかけの烏賊をじっと見つめた。
「何はともあれ、まだ生きてたんだな」
その客もまた、自分のえんどう豆を見つめながら呟いた。
「ああ、まだばっちり生きてるぜ」
「妖怪だか魔法使いだか知らんが、そんな奴らとばっかり関わってるんだろ?
もう骨ごと喰われちまったかと思っていたよ」
「あんたこそ、もう老衰でくたばっちまったのかと思ってたぜ」
「跡継ぎが見つからねぇんだ。おいそれと三途の舟に乗るわけにも行くまい」
「まったく、残念だぜ。あんたが死んだら、暖簾をもらってやろうと思ってたのに」
「おまえに渡すぐらいなら、屍と一緒に焼いてやる」
「だろうな」
魔理沙はグイッと酒を飲み干した。
「それにしても、おまえが人里に来るとは、どういう経緯だ?」
その客が聞いた。勿論、独り言のように呟いただけで、魔理沙を見たりはしなかったが。
「他に呑むところがなくてな。行き着けの屋台は休みだし、霊夢も今日は呑まないて言ってな」
「まあ、そんなとこだろうとは思ったが」
「あんたの女房、まだ元気か?」
「まあ、うちは昔から何も変わんねぇよ」
「そうか」
「おまえが、変な乗り物から落ちて首の骨折って死なないか、なんて心配していた時があったな。
今じゃ、忙しくてそんな心配もできんが」
「はッ、冗談きついぜ。箒から落ちるより、ベッドから落ちる方が怖い。
落差が小さければ小さいほど、受身を取る時間もないからな」
「どうでもいいが、あまり心配かけさせんじゃねぇぞ。老けた顔が皺だらけになるんだから」
「あんたこそ、酒なんて呑んでないで、孝行してやりな。肩たたきくらいできるだろう」
「孝行知らずの餓鬼が口出す話じゃねぇぞ」
「それもそうだな」
魔理沙は少し決まり悪そうに呟くと、新しい熱燗を店主に頼んだ。
「その辺にしといたらどうだ。餓鬼が呑みすぎると、明日ひどいぞ」
「酒には耐性があるぜ。私が赤ん坊の頃から呑ませてきたのは、あんただろう」
「そういう時もあったな。あのときのおまえは、もう少し可愛らしかったが」
「それはきっと、あんたに口答えしなかったからだぜ。
まだ母乳と酒の区別もつかん赤ん坊に、何飲ませたって同じだろうからな」
「ま、今ではすっかりひねくれた餓鬼になっちまったが」
「ひねくれてなんかいないぜ。私は私なりにまっすぐ生きているだけだ」
「ああ、そうかい」
その客もまた、酒を飲み干した。
「なあ、魔理沙」
「ん?」
「もし、勘当が解けたら、おまえ、帰ってくるか?」
不意をつかれ、魔理沙は一瞬口ごもったが、
「マジックアイテムを認めてくれるんなら、考えてやってもいいぜ」
と返した。
「お断りだ。俺も、おまえがマジックアイテムから足洗うんなら考えてもいいが」
「面倒だ。現状維持」
魔理沙は烏賊を全て食べ終え、それを酒で流し込んだ。
「そうか。まあ、そうだろうな」
「そうに決まってる。さて、私はこの辺で失礼するぜ。
せっかくの酒も、あんたと一緒じゃ呑めるものも呑めなくなる」
「そうかい。これで俺も自分の酒が呑めるってものよ」
その言葉を横に、魔理沙は自分の勘定をカウンターに置くと、席を立った。
「おい、魔理沙」
その客が、魔理沙を呼び止めた。
「なんだ?」
「風邪、ひくなよ」
その言葉に、魔理沙はどう返事すればいいか、しばし迷ったが、
「その言葉はおふくろに言ってやってくれ。馬鹿は風邪を引かん」
「…………分かったよ」
それを背中で聞くと、魔理沙は店を後にした。
「おふくろ、最近会ってないぜ」
めっちゃいいお話でした!!!!
何度でもいいます!!いいお話でした!!
自分も親孝行しなきゃと思いました。
不器用な感じが素晴らしいと思います。
どっちも不器用なんですね。。
いい味出てるなあ
大変良いお話でした。
>1
ええ、是非。
親御さんも喜びますよ。
>2
ちょっと最初いらなかったですね。
でもまあ、ありがとうございます。
>3
下手に器用な人より、優しさが伝わりやすいのは何故なのでしょうね。
>4
似てますね、親子。
>5
ありがとうございます。
>6
距離感は大事ですよね。
>7
ありがとうございます。
なんか、親方に認められた感じがします(何故
>8
機会があったら、また彼に関するSSを書きたいです。