※いろいろ崩壊していますが、タイトルからお察しください。
「ジークナオン!」
博麗神社に霊夢の声が響き渡る。いつもからは想像できないくらいテンションが高い。そして彼女は背筋をピンと伸ばし、右手を高々と上げる敬礼ポーズを取っていた。
その隣では魔理沙が、頭を抱えてうずくまっている。
「こんなものを持ってこなければ……」
恨めしげに霊夢の顔を見上げる。彼女の耳には、円錐形をした耳あてのような突起物がくっついていた。
話は数時間前にさかのぼる。
魔理沙は香霖堂で新商品を物色していた。外界から流れ着いた物を販売するここは、他ではまず見られないような珍しい品も多い。
「香霖、この棒はなんだ?」
「それは神通棍といって、幽霊や妖怪を倒す武器だ。危ないから非売品だよ」
「ふうん。じゃあこの、ガラクタ箱の化け物みたいのは?」
「キルリアン振動機。結界を作る道具だそうだけど、壊れてるのか動かないね」
まだ整理もされていない在庫の山から、気になるものを引っ張り出しては質問する。それに対して店主は、本から目を上げることなく答える。そんなやりとりを何度か繰り返された後で、魔理沙はふと奇妙な物を見つけた。
「おい香霖。こりゃもしかして、鬼の角じゃないのか?」
そう言って魔理沙が取り出したのは、円錐形の物体だった。大きさは片手に余る程度で、萃香の角に比べて小さいが、どことなく似た雰囲気を漂わせている。
「ああそれかい? それは呪われた道具だ。名前はただの『突起物』だけで、頭に装着すれば大怪我をしてもすぐ直り、たとえ死んだとしても蘇生するようになる。だが代償として性格が歪み、女に執着するようになるらしい」
「へぇ……そういえば蓬莱の薬を使った奴らって、性格異常者ばっかりだったな。まともな精神じゃ不死なんてやってられないってことかね」
蓬莱人の耳に入ったらただでは済まなそうな軽口を叩きながらも、魔理沙の頭の中では「この道具を誰に付けたら一番面白いか」という議題が検討されていた。
(アリスが人形を投げ出して人間好きになるってのも面白いな。パチュリーが積極的に行動して他人を追い掛け回す姿も見てみたいが。……だがやっぱり霊夢かな。普段誰にでも淡白なあいつが、他人に執着するなんて、想像もできないくらい愉快そうだ)
思いついたが即実行、それが魔理沙の行動力。
次の瞬間には香霖堂店主の制止も聞かず、「しばらく借りてくぜ」とだけ言い残し、神社に向かって飛び去っていった。
「おーい、霊夢ー。って寝てるのか」
うららかな日差しの中の博麗神社。霊夢は縁側に腰掛けたまま、こっくりこっくりと居眠りをしていた。
箒から降りた魔理沙は霊夢を起こそうとしたが、ふと思い直して足音を忍ばせた。例の突起物を両手に持ち、ゆっくり静かに霊夢へと近寄る。
そして、一気に突起物を霊夢の耳に取り付けた。
「うりゃあ!」
まるで吸盤か磁石のように突起物はぴったりと吸い付く。
すると次の瞬間、霊夢は大きく痙攣して縁側に倒れ伏した。
「あ、あれ……おい、霊夢?」
その様子を見て、魔理沙はちょっと不安になった。肩を揺さぶるが反応はない。
いくらなんでも呪いの道具を不用意に使ったのはまずかったか。すぐに外せば間に合うだろうか。
そう考えて突起物に手を伸ばした瞬間、霊夢がカッと目を見開いて起き上がった。
「ジークナオン!」
突起物を装着した霊夢の、第一声がそれだった。
魔理沙は驚き吹き飛ばされて尻餅をつく。事態のあまりの急変に、声を出すこともできない。
「ふむぅ……まるで長い夢から覚めたようじゃよ。身体にやる気がみなぎっておる」
顎に手をやりながら、霊夢は重々しく呟く。その口調はいつもの彼女のものとは、まるっきり違っていた。
魔理沙はおずおずと声をかける。
「おい霊夢……お前大丈夫か? あと、その口調はなんだ?」
「わしの口調がどこか変かにゃー?」
うそ臭い老人言葉のような喋りで返答される。変だという自覚は微塵もないようだ。
「さてマリーサ。早速じゃが重大発表がある」
「発表だって? あと、その呼び方はなんだ」
「うむ。今ここに、東方モテモテ王国の建国を宣言する!」
霊夢は胸を張り、力強い声でそう言った。
だが魔理沙にはなにがなんだかわからない。
「東方……モテ……なんだそりゃ?」
「フッ。ナオンのナオンによるわしらのための身勝手なSTG国家、東方モテモテ王国。それは神主に託された嬉しい国じゃよ――
神主「汝……弾幕少女とビールの楽園を創れ(^^;」
霊夢「オーケー」
――という具合にじゃな」
「いや、さっぱりわからん。だいたい建国って何する気だ」
「まず我が国に不足しているのはナオンじゃな。ここはロムルス君を見習って、外部から積極的に調達せねば。そういうわけでマーリーサー、これからナンパにでかけるんじゃよ」
「ば……バカッ、ナンパって……そんな恥ずかしいことできるか! あと、その呼び方はなんだ!」
魔理沙は顔を赤らめ、両手を振って拒否する。だが霊夢はニヤリと笑みを浮かべ、魔理沙の耳元にそっとささやいた。
「キミもアリスとパチュリーを両脇にはべらせたいという大志を抱いとるじゃろ? ナオンにモテるのは最高じゃよー。思い浮かべてごらん?」
フッと、魔理沙の脳裏にその光景が浮かぶ。
「……」
「もう一度」
「…………」
「もう一度」
「………………」
「よし、やめ」
魔理沙は、やる気になった。
「さあ、盛り上がってまいりました! それではいざ出陣。目標、迷いの竹林!」
「あ、あぁ……って、あんなとこ行って、ナンパなんてできるのか?」
「なあに、わしに任せるのじゃよ。ともかく黙ってついてきたまえ」
霊夢は自信たっぷりに断言し、さっそく空へと浮かび上がった。
魔理沙は今ひとつ納得のいかない表情をしていたが、仕方がなく箒にまたがり、先に上空へと舞う霊夢を見上げる。
ひらひらと揺れている変形巫女服のスカート、その中身がちらりと眼に入る。そこにはいつものドロワーズがなく、付け根までしっかり露わとなった太ももと――。
「……ってコラァ! ちょっと待て! おい霊夢、降りて来い!」
「どうした。上空になにか異変が?」
「異変はお前のスカートの中身だ! ドロワはどうしたんだ!?」
そう。いつの間に脱いだのか、霊夢はドロワーズを穿いていなかった。
さすがに普通のパンツは着用していたが、ドロワーズと違って恥ずかしげもなくさらけ出せるものではない。このままでは空を飛ぶ不思議な巫女が、空を飛ぶふしだらな巫女にジョブチェンジだ。
だが霊夢は、何が悪いのかわからないという表情を浮かべて首をかしげた。
「ドロワ? ……ああ、ドロワならア・バオア・クーで沈みました」
「どこだそれ!? というかちゃんと穿けよ! 空飛んだら見えるだろ!」
魔理沙は顔を真っ赤にして怒鳴る。しかし霊夢は腕を組み、なにやら難しそうな表情を浮かべた。
「ところがそうもいかん。そもそも本来のギャルゲの掟なら、巫女はノーパンであるべきなのじゃよー。しかし可愛いパンツ合法論で、ようやくノーパン巫女が死文化しつつあるのが現状じゃよ」
「何を言ってるのか全然わからんが……あくまでドロワを穿く気はないのか」
「うむ。断固拒否する」
「じゃあ、せめて下はスカートじゃないのに着替えろよ。袴とかあっただろ。行灯型じゃないやつが」
「むぅ。まあいつもと違う勝負服で、新鮮さを狙うのもありじゃな」
そう言って霊夢は降りてきて、着替えるために神社の中へと入っていく。
そして数分後。出てきた霊夢の姿を見て、魔理沙は再び絶句した。
【エルンスト霊夢】
エルンスト霊夢は突撃隊の隊長である。
元はナチズムの信奉者であったが、裏切られたため脱退して独自に腋ズムを打ち立てた。
好きなものは同性と酒。嫌いなものは国防軍。
突撃隊であるがゆえに先陣をきって突撃し、ビーム撹乱膜を展開して友軍を援護する。
だが、味方はレザマリなのでかえって迷惑をかける。
「バカッ、その軍服じゃまるっきりナチ……」
霊夢が着てきたのは褐色のシャツにズボン、それとお寺っぽいマークの腕章をしていた。たしかに露出の危険は減ったが、思想的にはさらに危険になっている。
ちなみにシャツの腋にはなぜかスリットが入っていた。博麗のアイデンティティかもしれない。
「やはり勝負衣装はよいものじゃな。さてMr.マリッサ、これならOKじゃろ?」
「ダメに決まってるだろ! その格好でやるのはナンパじゃなくて、流血を伴う政治闘争だ!」
「果たしてそうかにゃー?」
今の霊夢には、筋道だった説得をしても無駄だった。
結局、アルティメットブディストみたいな腕章を外すだけで妥協することになった。
「だけど、ナンパと言ってもどうすりゃいいんだ?」
「数をこなすのが基本じゃが、最初から空振りばかりも厳しいじゃろう。なのでここは、初心者向けの一点買いで確実に取っていく」
「こんなところが初心者向け? だいたい誰もいないだろう」
霊夢と魔理沙は、迷いの竹林上空を飛んでいた。この竹林には妖獣が多く、普通の人間の姿はまったく見かけない。
「ふ、この竹林の奥には、ブレザーのウサギがいるじゃろが」
「鈴仙のことか? 霊夢、そりゃ無理だろ。永遠亭を襲撃したわ、宴会で兎鍋をふるまったことはあるわ。好かれる要素ゼロじゃないか」
「なあに、聞くところによるとあの兎、初心者ホイホイらしいから大丈夫じゃよ」
「いまどきその呼び方……! というか、それってそういう意味じゃないだろ!」
「まあ見ておれ。まずは相手の興味を引く話題をふって、雑談を盛り上げ好感度アップじゃよ」
「そんなゲームみたいに上手くいくもんかね」
そうやって話していると、竹林からひょっこり現れるように大きなお屋敷が見えてきた。
蓬莱山輝夜を主とし、妖怪兎の一大拠点ともなっている永遠亭である。
「たのもー! エルンスト霊夢にござる。鈴仙殿にご指南頂きたく!」
「道場破りじゃないんだから……」
呼んでからいくらも経たないうちに、古風な永遠亭の門から鈴仙が姿を現した。
いつもと違って紅白ではない霊夢をうさんくさげに眺め回す。
「今日は何の用ですか。……新しい病気ですか?」
「いや、それがなんというか。病気というか、呪いなんだが」
「呪いなんて、わしにとってはパワーアップにすぎませんよ。ほーれ、幻魔剣」
どう説明しようか迷う魔理沙を押しのけて、霊夢は謎の衝撃波を飛ばしながら自己アピールをする。
「用がないならまた今度にしてもらっていいですか? 師匠の実験を手伝っているところだったので」
「いやいやウサギの嬢ちゃん。これから重要な雑談がありますので、ちょっと里のカフェーにでもどうですかな」
「重要って、なんですか?」
「なんじゃっけ……そう、月が今どうなってるかの話じゃよ」
その言葉を聞いた瞬間、鈴仙の耳がわずかに震えた。
「……月が地上人の侵略を受けているのは知ってます。でも、今の私には関係のないことですから」
「それどころじゃねぇー! 月の混乱っぷりと言ったら、REX未購読者の予想をはるかに上回るものじゃよ――」
【東方儚月抄 あらすじ】
月の都(スフィア王国)の皆様は、酸素が無いなりにも楽しい毎日を送っていましたが、ある日突然侵略者(農協)が現れてさあ大変。こんなこともあろうかと用意されていた綿月姉妹の戦力(ディアナ・カウンター)で迎撃しますが、外敵との和平を試みる裏切り(コーサ・ムーグ)によって窮地に追いやられるのでした。
「――そしてさらに……」
「おい、鈴仙ならもう帰っちゃったぜ。それにしても、よくそんなデタラメがホイホイ出てくるもんだな」
「な、なにぃ。これから話が盛り上がるところじゃというのに! 武闘派が実権を握った月の都はギガノス帝国を名乗り、自我を持つ計算機であるアダム・セレーネが地上をマスドライバーで爆撃。それを阻止せんと襲い来るα任務部隊とのエアーズ市上空での決戦が……」
「いいからもうあきらめろ、ほら」
魔理沙は霊夢の襟首をつかみ、引きずって連れて行く。
「明日世界中のフジヤマがヴォルケイノして輝夜が全員死ぬ! じゃが、それを哀れんだ朝廷の計らいにより、自宅警備の神として祀られた!」
霊夢の独り言は、だんだんと大衆ウケを狙ったつもりのショッキングな内容になっていった。
「くぅ……やはり無理だったのじゃろか」
絶望に打ちひしがれる霊夢。だがその脳裏に、ふとかつての友の姿が浮かぶ。
「あきらめるな霊夢くん。必死のあがきでウサギナオンを求めれば、大いなる正午が君を待つだろう」byニーチェ
「……ニーチェ君。ウサギナオンときた」
「誰がだよ。そもそも巫女がニーチェの名前を口にしていいと思ってるのか?」
冷たい視線を向ける魔理沙を振りほどき、霊夢は右手を高々と掲げて宣言する。
「もはやこうなっては鈴仙にはこだわらん。大々的にウサギナオンを一般募集するのじゃよ!」
「まだそんな手が……あるのかなあ?」
迷いの竹林を背にした街道。妖怪の山も近いため、兎だけではなく一般の妖怪や人間もよく通りがかる。
その一角に唐突にのぼりがたてられ、ドオンドオンと太鼓も鳴らされて、なにやらお祭り騒ぎのようなことが始まっていた。
『レッツゴー ウサギナオンキャンペーン』
のぼりにそう書かれた文字もさることながら、普段からは考えられないノリではしゃいでいる霊夢と、仏頂面で渋々太鼓を叩いている魔理沙のとりあわせがいかにも異様だ。通りがかった人妖は眉をひそめ、遠巻きにしながら眺めている。
「さあさあ、ウサギナオンはよってたかれー。愉快な祭りが始まるんじゃよー」
「……」ドオンドオン。
「寂しさによる死亡防止に是非どうぞ。ここが流れウサギの最後の止まり木なんじゃよー」
「……」ドオンドオ……。
「口をバッテンにしてブッコロスとか言われてもぜんぜん気にしないからー」
「……おい霊夢。もうやめよう。撤収だ。周りを見ろよ、みんな呆れてるぜ」
「わーダメ、継続は力なりじゃよ。向こうから来ないなら、こっちからさらってでもじゃな」
「付き合いきれん」
「バ、バカ! このみひかるとディック・ブルーナが天国から応援してくれてる姿が見えんのか!?」
「死んでねぇ!」
そう叫んで魔理沙は太鼓のばちを投げ捨てる。
もう自分一人ででも帰ろうかと箒にまたがった時、背後から声が聞こえてきた。
「あの……、わたしウサギナオンなんですけど。ウサギナオン祭りはもう終わったんですか?」
「大好評につきキャンペーン継続中じゃよー」
「なにぃッ!?」
魔理沙が驚いて振り向くと、紫の羽織を来た和装美女が霊夢に話しかけていた。
「実は邪魔の入らない静かな場所を知ってるんですけど、一緒にどうですか」
「行く行く。そりゃもうお嬢ちゃんのためなら、たとえ火の中水の中」
「まあ嬉しい」ガチャリ。
「…………へっ?」
何の前触れもなく金属音が響く。霊夢が自分の手元を見下ろすと、手首にはしっかりとした手錠がはまっていた。
「こ、これはなんじゃね? 手錠プレイ?」
「ごめんね、わたし警察なんだけど、最近犯罪者がいなくてヒマでね。さらうとかなんとか誘拐じみたこと口走っていたから、とりあえず逮捕させてもらいます」
「う、ウサギはウサギでも小兎姫ぇ!? バカな、奴は他の旧作キャラと一緒に月光蝶で土に還ったはずですよ!?」
「はいはい、言い訳は署で聞きます。火の中水の中でも大丈夫なら、鉄格子の中でも平気でしょ?」
「は、離せー! 釈放を要求する! 求聞史紀に無い設定でわしを縛るんじゃねぇー!」
「お、おい。霊夢ぅぅぅぅぅ!」
後に残された魔理沙の叫び声が、竹林にこだました。
「……まったくもう、あの監禁フェチめ。半日も拘留するとは人権蹂躙じゃよ」
「こうも面倒なことになるとは……そろそろ元に戻したいが、呪いのアイテムともなると簡単には外せそうにないしなあ」
釈放後。霊夢と共に博麗神社に帰った魔理沙は、ちゃぶ台を前に頭を抱えていた。面白半分に始めたこととはいえ、少々やりすぎのような気がしてきたのだ。
そんな魔理沙に向かって、いまだに突起物を耳につけたままの霊夢が問いかける。
「どうしたのマリーシア。シーフの杖でも壊れたの?」
「お前のことで悩んでるんだよ! あと、どんどん私の名前から離れてきてるぞ」
不意に魔理沙は立ち上がり、霊夢の耳についた突起物をもぎとろうとする。
だが霊夢は暴れて奇声を発するほど引っ張っても、突起物はびくともしない。
「うぐぐ、殺す気かー!」
「くそ、やっぱりダメか。なんなんだそれは」
「調査チームの報告では、わしの耳には賞味期限の切れた購入特典のお茶が入ってると思うが、取ったら死ぬ」
なお某ショップで東方儚月抄上巻購入特典として付いてきたお茶缶は、まだ1年ほど賞味期限は大丈夫(フォロー)。
「しかし性格が歪むと言ったって限度があるだろ。……なにかに憑依されてるのか?」
「よ、よーし。わしの正体については諸説あるが、代表的なものをあげてみよう」
「お前のことだぞ?」
・謎の主人公。
・東方モテモテ王国を約束されている。
・夢想天生はロマン技。
・魔理沙の親友。
・当たり判定の小ささに優れている。
・死んでも死にきれない。
・3つのショットがある。
・あるダライアスから優れたなにかを感じた。
・にこやかな細身の男の夢を見た(神主か?)
「これじゃ何もわからんのと一緒だ!」
「そんなカッカしなさんな。カッカ掻痒とはこのことじゃろか」
「まさにその通りだが原因が言うな原因が!」
「ぎゃわー! そ、そんなとこ引っぱっちゃらめぇ!」
魔理沙に突起物をひねりあげられ、霊夢はのた打ち暴れまわる。
しばし争いが続いたが、先に音を上げたのは霊夢だった。
「ま、マッリーサー上院議員。マッリーシー旋風(耳をつかんで振り回すこと)はお止めください。次の計画が進行しておりますゆえ……」
「計画ぅ?」
「いかにもそのとおり」
霊夢は魔理沙の手から素早く逃れると、何事も無かったかのように腕を組んで胸を張った。
「ザ・文通。まずはお手紙から始めようっていう寸法じゃよ」
「……たしかにそれなら断られづらいし、今のお前の不審さも隠せるが」
「もうすでに文々。新聞に告知を出したのじゃよ。ほら、これをご覧」
「どれ、なんて書いたんだ」
霊夢が戸棚から取り出した新聞を手に取り、魔理沙は紙面をめくりながら該当する記事を探した。
そして、「文通希望」から始まる広告扱いの記事に目を留める。
==============文通希望==============
こんにちは。わしは勤勉で温厚ながめつさのない
楽園の素敵な巫女です。年収1000万。
ルックスはわりと一定していないと言われ、服の趣味は腋丸出し。
スポーツ万能で特に弾幕とサッカー。一年中返り血に塗れています。
飼い亀は玄爺。酒が好きで酒量は鬼天狗並み。
相手への希望は可愛くて明るくて優しくて食費のかからない
宗教法人に興味のある少女から幼女。
返事180%確実(修正パッチ分を含む)。
わし
================================
「……なんだこれ」
「なにって、文通希望じゃが? 交際を前提にした」
「だめだ……見栄を張ってるのかどうかもわからん。とりあえず年収1000万ってなんだ。幻想郷の通貨はジンバブエドルじゃないんだぞ」
呆れた魔理沙が新聞を投げ出そうとしたそのとき、縁側の方でパサリという音がする。
顔をそちらに向けると、淡い薄紅色の上品な封筒が置かれていた。
「お、お、おい。あ、あれって、まさか……」
「わあ、さっそく来たのじゃよ。さすが天狗の手紙ネットワーク、信頼性はともかく速さはピカイチとくる」
「この封筒と宛名の筆跡からみると、相手はちゃんと女みたいだな……たぶん」
「ガハハ、我が国には国王から春が来たというわけですな。女王陛下の百合シーズンというやつかにゃー」
霊夢は早速封筒を開けて手紙を読み始める。
魔理沙はなんとか動揺を抑えながら言った。
「ま、まあどうせまた誰かの暇つぶしだろ。散々暴れまわってるお前に、本気で交際したいなんて申し込む奴が……」
「わあー、このナオン。さっそく今晩会いたいって書いてるのじゃよ」
「なにぃッ!?」
慌てて手紙をひったくって、文面に目を走らせる。
「署名はないが……待ち合わせ場所は中有の道か。夜にこんなところに来るんだから、一般人じゃなくて神仙妖魅の類だろうなあ」
「さあマ・リサ大佐、出撃準備を。お土産にいい壷を用意するのを忘れるな」
「気は進まんが誰なのかは気になるな……。まあ、とりあえず行ってみるか」
そうして霊夢と魔理沙は中有の道へとやってきた。
ここは出店も出ていて人間もよく来る賑やかなところだが、待ち合わせに指定されたのは中有の道でもかなり奥深い場所である。ここまで来ると人間の姿は見られず、ときおり幽霊が通りがかるくらいだ。
「それで、具体的な待ち合わせ場所はどこなんだ」
「中有の道の奥にある、大ヒノキの下で待ってますとあるにゃー。これがかの有名な伝説の木ってやつじゃろか」
「建材樹の下で告白が成就するなんて伝説、聞いたことないぞ」
二人は周囲をうかがいながらこっそりと近づく。
やがて一際大きなヒノキの下に、二本の刀を携えた銀髪の少女が立っているのが見えてきた。
「あ。あれ、妖夢じゃないか」
「ギャア、建材大当たり! こりゃあベートーベンの大工(喜びの歌)で祝わねば!」
「待て。近くにもう一人いるぞ」
1.魂魄妖夢
2.西行寺幽々子
「……なぜ、二者択一? ひどく嫌な予感がするにゃー」
「なんでだよ。幽々子じゃダメなのか?」
「無給無休で働くけなげな少女剣士ならウェルカムなのじゃが、うっかりで殺されかねん亡霊の姫君はご遠慮願いたいとこじゃよ」
「まあ、あいつはよく食うしな」
「ただでさえ財政が傾いている博麗神社を破産させかねん。わしはここんところ生麦生米生卵しか食べとらんしにゃー」
「炊けばいいだろそれは」
しばらく霊夢と魔理沙は物陰に隠れながら様子をうかがっていた。妖夢と幽々子はそれぞれ視線を合わせることもなく、ある程度の距離をおいて立っている。
「うむぅ。なんとか半人半霊と接触したいが、そのそばにいる亡霊が恐ろしい」
「思い切って一気に近づいてみたらどうだ」
「亡霊の2B2Cをかいくぐったところで、DCでグレイズ狩りされるのじゃよー!」
「おい待て……なんか二人が会話してるぞ?」
そのとき、幽々子がはじめて妖夢の方を向いた。
「んー、来ないわね」
「……やっぱり悪戯だと思われたんでしょうか?」
「いやいや妖夢、あれだけ心をこめた手紙を送ったんだから大丈夫」
「幽々子様に勧められて出してみましたが……やはり私のような未熟者が、色恋沙汰に手を出すのは早すぎるのではないかと」
「なに言ってるの。妖夢ももう年頃なんだから、積極的にチャレンジしてみないと」
「はあ……」
「一人きりになったほうがいいかもしれないわね。じゃあ私は先に帰ってるから。朝餉までには帰ってくるのよ」
「あ、ちょっと、幽々子さまっ!」
意味深なセリフに顔を赤面させた妖夢を置いて、幽々子はふわふわと飛び去っていた。
やがてその姿が見えなくなると、霊夢は物陰から凄い勢いで飛び出してきた。
「わぁー、1だったんじゃよー。さあ嬢ちゃんにわしの愛を与える。ホールミータイ。ホールミータイ」
「お前、どこの世界にそんな求愛作法がある!?」
霊夢の後に続いて魔理沙も飛び出す。
妖夢はそんな二人の姿を目にし、始めは驚いて絶句していたが、やがて声を震わせて呟き始めた。
「……霊夢さん魔理沙さん。こんなイタズラをするなんて……」
「あ?」
魔理沙はなにか妖夢の様子がおかしいのに気づき、今すぐむしゃぶりつこうとしている霊夢の襟首をつかんで止める。
「ひどいです……。私、どんな素敵な殿方が現れるかって楽しみにしてたのに……タチの悪い冗談だったなんて」
「お、おい待て妖夢。あの広告には一言も男だなんて書いてないぜ」
「一人称がわしで、女性との交際を希望してたら、誰だって殿方だと思うじゃないですか!」
「楽園の素敵な巫女ってとこ読んでないのか!」
魔理沙は叫ぶが、妖夢は思いつめた表情をして刀を抜く。
「乙女心を弄んだ報い、受けてもらいます」
「落ち着け妖夢! ほら、霊夢も弁解しろ!」
「この業界、性別なんて気にしないのじゃよー。今作のテーマは常識にとらわれてはいけない凄い愛の形」
「問答無用!」
突っ込んできた妖夢の一撃で、魔理沙は大きく吹き飛ばされた。
そして白刃が霊夢に振り下ろされる。間一髪のところで白羽取りに成功したが、そのままジワジワと刃が迫ってくる。
「ぐ、ぐううー。あの亡霊めー、これはこの結果を予想しての陰謀……! 幽々子鬼ー!」
「あまつさえ幽々子様への悪口まで。許しません!」
「お、落ち着いて、自分を抑え生きるんじゃよー! その長いナイフを突き立てたら、紅茶よりも赤い紅いもの見られちゃうー!」
――エルンスト霊夢、粛清(長いナイフの夜)。
夜が明けて朝日が射し始める頃、魔理沙はようやく意識を取り戻した。
「つつっ……あのバカ妖夢、本気で殴りやがって」
頭のコブをさすりながら立ち上がり、ふと隣を見ると霊夢が全身血塗れになって転がっている。
一瞬慌てるが、よく見ると服は真っ赤に染まっていたが、傷はすべて塞がっており、安らかな寝息を立てていた。どうやら呪いの突起物の効力らしい。
安心すると同時に腹が立ってきて、魔理沙は耳の突起物を憎らしげに平手で叩いた。
「……へっ?」
すると、突起物は驚くほどあっさりと外れて落ちた。
「もしかして、一回効果が出たら取れるようになってるのか?」
そう呟きながら外れた突起物を手でもてあそぶ。しばらくそれを恨みのこもった目で睨みつけていたが、やがてため息一つついて顔をあげる。
「やれやれ、突起物はもうこりごりじゃよー……ってヤバ、口調が感染ったぜ」
そして魔理沙は突起物をスカートのポケットにしまい、箒にまたがって香霖堂目指して飛び立つ。しばらくはそのままで飛び続けていたが、ふとある考えが口から漏れた。
「……………………待てよ、アリスに付けたらどうなるんだろ」
少しの間だけ考えていたが、やがてニヤリと笑顔を浮かべ、魔理沙は箒の行き先を変えた。
声は大塚芳忠さんですね。
>ドロワならア・バオア・クーで沈みました
まずこの不意打ちなボケで盛大に吹きましたw
>ビーム撹乱膜を展開して友軍を援護する
パブリク突撃艇w
>スフィア王国
けよりなかな?
>ギガノス帝国~α任務部隊とのエアーズ市上空で
なんかスパロボ風なノリw
正しくはα特務部隊
わかるネタとしてはこのくらいですね。
すっげ懐かしい気持ちに浸れたなぁ~