「『BA』Bar 閉店」
※この小説は「『BA』Bar」の続編に当たるものです。
前作を読んでいないと話の流れがわからないので、よろしければ前作からお読みください。
また、前作の雰囲気を壊したくない方は回れ右を。
カランっと、氷の崩れる音が聞こえる。
しばらく身を潜めていると、一通りいちゃつき終えた二人がようやく私が居ないことに気づいたようだ。
ざわざわとしばらく相談したあと、幾つかの小銭がカウンターにおかれる音がして静かにドアが閉まる。
私としては、霊夢を置いていってくれても構わないのだが。もはやその願いは叶わないだろう。
店内が静まり返る。
誰も居なくなったことを改めて確認し、私は床から姿を表した。
「気を使うのも楽じゃないわね。そう思わない?」
カウンターに置かれた小銭を数えながら一人他人に話しかける。
「やっぱりバレてたのかい」
すると、私の声に答えるように幼げな声が店内に響き、カウンター席。
ちょうど霊夢達が座っていた場所の反対側の端に少女が現れた。
「何時から気が付いてたんだい?」
「貴女が二人と一緒に入ってきた時。かしら」
「ってことは最初からか……」
参ったと言うように肩をすくめ、苦笑いを浮かべている彼女は伊吹萃香。
見た目は少女だがれっきとした鬼であり、角が対になって生えている。
体に付いた鎖がじゃらじゃらと音をたて、その存在感を主張しているようだ。
「適当に帰るつもりだったんだかね、ばれちゃあしょうがない。晩酌にでも付き合うよ」
「あら、私に構わなくてよ?」
「そんな泣き出しそうな顔で言われてもねぇ」
ニヤニヤと意地の汚い笑みが私を見つめる。
ハッとしたように自分の顔に触れると確かに悲しみに歪んでいた。
咄嗟にスキマから特上の日本酒を取り出すとダンッ! と、大袈裟にカウンターに叩きつけて見せる。
「潰れないで、ついてきてくださるかしら?」
「誰に言ってるんだい?」
彼女は鼻で笑うと、無い胸を自慢げに張った。
二人の夜はまだまだ長い。
★☆★
すっかり妖怪達の時間になった。
月が昇り灯りは消え、あたりは真の闇に包まれる。
妖艶な笑みが月明かりで浮き彫りになり、森の奥からは怪しく光る瞳が覗く。
霊夢は今頃寝転けているだろうか? それとも……
微睡みの中そんなこと考え重い頭を持ち上げると、晩酌の相手が少なくなったお酒を名残惜しそうに飲み干しているところだった。
「おや、目が覚めたかい?」
寝ていたことを認めたくはないが言い訳のしようがない。
仕方なく、諦めて彼女の空になったグラスにお酒を注ぎ、倒れていた自分のも同じように満たした。
「あんたって酒癖悪いんだねぇ。泣くわ喚くわ大変だったんだよ?」
「……」
いまいち記憶がない。
確か霊夢の事を想い、グラスを傾けていたと思うのだが。
「覚えていないか、まったく。霊夢れいむーってさ、笑っちゃうよまったく」
普段見れない私の姿が見れて嬉しいのか萃香は腹を抱えて笑っている。
なんとも腹立たしい。
スキマにでも放り込んで適当な場所に放出してやろうか……
そんな事を考え、どこに投げ出そうかと思案していると唐突に笑い声がやみ、店内に静けさが戻った。
顔を上げて見ると、大笑いしていた張本人である萃香が何処か遠い目をして虚空を見つめている。
憂いに満ちた横顔は見ているこっちが悲しくなるようだ。
「なんだろうねぇ、最近ああやって鴉天狗が来るようになってね。始めのうちは良かったのさ、飲み仲間としてね。でもさぁほら、空気が変わってきてねぇ……なんていうか近づけなくなっちゃってね」
悲しげに言葉をつむぎ、時折弱々しく笑みを浮かべる。
「そのうち何だか一緒にいちゃいけない気がしてきてね、こうやって姿を隠してるのさ」
自分もきっとこんな顔をしていたのだろうか?
悲しいのに、何処かそれだけではないような。
弱々しいのに、それでも活き活きしたような笑み。
「母性ってやつかねぇ? 霊夢がさ、幸せになってくれたと思うと私も幸せなんだ。でも悲しいんだ、不思議だねぇ」
「そうね……」
親が独り立ちする子を送り出すというのはこんな感じなのだろうか?
「それとこれ、落ちてたよ」
思いを馳せていると、萃香が目の前に四角く折られた紙切れを差し出してきた。
「……?」
受け取り開いてみる。
「あは、あははははっ」
「な、なんだ? 何か書いてあったのか?」
「い、いいえ、ふっ、ふふふっ。霊夢は変わらないなぁってそう思っただけよ」
そこには雑な殴り書きで『ツケ』と、でかでかと書かれていた。
※この小説は「『BA』Bar」の続編に当たるものです。
前作を読んでいないと話の流れがわからないので、よろしければ前作からお読みください。
また、前作の雰囲気を壊したくない方は回れ右を。
カランっと、氷の崩れる音が聞こえる。
しばらく身を潜めていると、一通りいちゃつき終えた二人がようやく私が居ないことに気づいたようだ。
ざわざわとしばらく相談したあと、幾つかの小銭がカウンターにおかれる音がして静かにドアが閉まる。
私としては、霊夢を置いていってくれても構わないのだが。もはやその願いは叶わないだろう。
店内が静まり返る。
誰も居なくなったことを改めて確認し、私は床から姿を表した。
「気を使うのも楽じゃないわね。そう思わない?」
カウンターに置かれた小銭を数えながら一人他人に話しかける。
「やっぱりバレてたのかい」
すると、私の声に答えるように幼げな声が店内に響き、カウンター席。
ちょうど霊夢達が座っていた場所の反対側の端に少女が現れた。
「何時から気が付いてたんだい?」
「貴女が二人と一緒に入ってきた時。かしら」
「ってことは最初からか……」
参ったと言うように肩をすくめ、苦笑いを浮かべている彼女は伊吹萃香。
見た目は少女だがれっきとした鬼であり、角が対になって生えている。
体に付いた鎖がじゃらじゃらと音をたて、その存在感を主張しているようだ。
「適当に帰るつもりだったんだかね、ばれちゃあしょうがない。晩酌にでも付き合うよ」
「あら、私に構わなくてよ?」
「そんな泣き出しそうな顔で言われてもねぇ」
ニヤニヤと意地の汚い笑みが私を見つめる。
ハッとしたように自分の顔に触れると確かに悲しみに歪んでいた。
咄嗟にスキマから特上の日本酒を取り出すとダンッ! と、大袈裟にカウンターに叩きつけて見せる。
「潰れないで、ついてきてくださるかしら?」
「誰に言ってるんだい?」
彼女は鼻で笑うと、無い胸を自慢げに張った。
二人の夜はまだまだ長い。
★☆★
すっかり妖怪達の時間になった。
月が昇り灯りは消え、あたりは真の闇に包まれる。
妖艶な笑みが月明かりで浮き彫りになり、森の奥からは怪しく光る瞳が覗く。
霊夢は今頃寝転けているだろうか? それとも……
微睡みの中そんなこと考え重い頭を持ち上げると、晩酌の相手が少なくなったお酒を名残惜しそうに飲み干しているところだった。
「おや、目が覚めたかい?」
寝ていたことを認めたくはないが言い訳のしようがない。
仕方なく、諦めて彼女の空になったグラスにお酒を注ぎ、倒れていた自分のも同じように満たした。
「あんたって酒癖悪いんだねぇ。泣くわ喚くわ大変だったんだよ?」
「……」
いまいち記憶がない。
確か霊夢の事を想い、グラスを傾けていたと思うのだが。
「覚えていないか、まったく。霊夢れいむーってさ、笑っちゃうよまったく」
普段見れない私の姿が見れて嬉しいのか萃香は腹を抱えて笑っている。
なんとも腹立たしい。
スキマにでも放り込んで適当な場所に放出してやろうか……
そんな事を考え、どこに投げ出そうかと思案していると唐突に笑い声がやみ、店内に静けさが戻った。
顔を上げて見ると、大笑いしていた張本人である萃香が何処か遠い目をして虚空を見つめている。
憂いに満ちた横顔は見ているこっちが悲しくなるようだ。
「なんだろうねぇ、最近ああやって鴉天狗が来るようになってね。始めのうちは良かったのさ、飲み仲間としてね。でもさぁほら、空気が変わってきてねぇ……なんていうか近づけなくなっちゃってね」
悲しげに言葉をつむぎ、時折弱々しく笑みを浮かべる。
「そのうち何だか一緒にいちゃいけない気がしてきてね、こうやって姿を隠してるのさ」
自分もきっとこんな顔をしていたのだろうか?
悲しいのに、何処かそれだけではないような。
弱々しいのに、それでも活き活きしたような笑み。
「母性ってやつかねぇ? 霊夢がさ、幸せになってくれたと思うと私も幸せなんだ。でも悲しいんだ、不思議だねぇ」
「そうね……」
親が独り立ちする子を送り出すというのはこんな感じなのだろうか?
「それとこれ、落ちてたよ」
思いを馳せていると、萃香が目の前に四角く折られた紙切れを差し出してきた。
「……?」
受け取り開いてみる。
「あは、あははははっ」
「な、なんだ? 何か書いてあったのか?」
「い、いいえ、ふっ、ふふふっ。霊夢は変わらないなぁってそう思っただけよ」
そこには雑な殴り書きで『ツケ』と、でかでかと書かれていた。
最後のツケの部分でクスリと来ました、霊夢らしいなぁ
しかし帰り際に相談してたことってもしかしてツケ(という呑み逃げ)のことなのかww
コメントありがとう御座います!
霊夢らしさがよいところ……
>>ぺ・四潤
切ない気持ち。
まぁ俺は当然子供なんていないんでよく分からないんですけどねぇ><
文はきちんと払ったんですよ!?w