この大会で副審判を務めている地霊殿の主――古明地さとりは数分前に調子を聞くため会話した霊烏路空の言葉を思い出していた。
――任せてください。私は何があっても倒れませんし、降参したりなんかもしません。
その気合の現れは、さとりにとっては何故か逆に、しこりのように不安として残っていた。
「隣、いいかい?」
小さく溜息を吐いたところで突如背後から問いかけられ、振り向いた所にいたのは星熊勇儀と伊吹萃香という、大会参加者の鬼二人組である。
「最前列は私達審判席……いや、いいです。鬼であるあなた達の頼みを断れる妖怪なんていませんよ」
「悪いねぇ、この試合は是非間近で見てみたかったんだ」
勇儀はさとりの右隣に腰を下ろし、その隣に萃香が座る。
「この試合にですか? 別に、私のペットと、確か……尸解仙、という方の試合ですよ」
「だからだよ。萃香はその地獄鴉の力に一目置いてるらしいからね。それを見極めたいんだ」
「お空の力、ですか。確かに地霊殿で最も強いのはあの子かもしれませんが、あなた達に及ぶ、と言えるほどでは」
「畏まらなくたっていいさ。それを決めるのは私達だ」
勇儀は笑いながらさとりの背中を叩く。背中から若干骨のずれる音が鳴るも、さとりは無表情を貫いていた。このやりとりは彼女にとって、とっくに慣れたものになっている。
それを見て小さく笑っていた萃香は酒を飲みながら一つの疑問を勇儀に問う。
「で、結局尸解仙って何だ?」
「私が知るか。ま、結局は死なない程度の人間だろう。地獄鴉にとって敵ではないさ」
「地獄鴉か何だか知らぬが、ただの鴉であろう。我の敵ではないな」
入場口の通路に立つ物部布都は同じ派閥に属する豊聡耳神子と蘇我屠自古に向かい、意気揚々と言い放つ。
「緊張していないようですね」
「ふふふ。先程の命蓮寺の者とは違うのです。是非この手で、準優勝を掴んで見せましょう」
「……優勝、ではないのですか?」
「何を仰ります。優勝は太子様にこそ相応しい。我と太子様で決勝まで昇り、太子様が一層派手な技で私を倒すのです。聞けばこの戦いは命連寺の信者も見ていると耳にしました。なればそれによってその者達を一気に、道教こそ信仰するべき道だと動かすことができます」
優勝する気は更々ない。それを窘めようとした屠自古の肩を神子は掴んで制した。
「いいのですよ屠自古。ここまで私の事を想ってくれているのです。文句などあるはずもない」
神子の言葉で布都はより一層にやけた顔になり、「では、行ってまいります!」と言って背を向ける。
「油断だけはしないように」
「はい!」
そして、ある程度大会の楽しみ方が分かってきた観客達が騒ぐ中、布都は闘技場で地獄鴉の霊烏路空と対峙する。自分より一回り大きい敵を前にしても持ち前の自信を無くすことはない。
「戦闘時間変更等の要望があれば聞きますが」
閻魔の確認に対し、布都は六角の砲を模した空の右腕――『第三の足』と呼ばれる部分と、岩のようなものに覆われている右足――『融合の足』と呼ばれる部分を交互に指差した。
「なんだそれは。この大会で用意していい武器は一つまでのはずだ。これでは反則であろう?」
三つ前の試合で戦った雲居一輪の入道同様、知っている者にとってはその空の姿はごく当たり前のものだった。しかしそうでない者にとってそれは大砲に鉄鋼の靴という二つの装備を身に纏っているように見える。
しかし布都は、本当に抗議の意図があったわけではなく、揺さぶりを掛けるために言ったのだ。
――あの入道使い同様、いや、それ以上であろう。それはお主と一体化しておる物なのだろう。だから今ここで我がいちゃもんを付けても、きっとそれは通らない。しかしそれでよい。それでお主が変に縮こまって、その武器のどちらかを使いづらくさせれば儲けもの……。
布都の意図に対して「そっかぁ」と空は呑気な声を上げ、右足に付いている『融合の足』を外した。
「!?」
――外れるのかあれ!
予想だにしなかった展開に布都が戸惑う中、空は融合の足を持ってさとりの方へ歩いて行った。
「さとり様。これ、見ててください」
「え、ええ。お燐にでも預けておくわ」
戦う直前にさとりと会話できたことにはにかむ空に勇儀が話しかける。
「期待してるぞ地獄鴉」
「うん、勝ってみせるよ!」
そう行って空は布都と映姫の前に戻った。
「ありがとう人間さん。危うく反則になるところだったよ」
「ふ……ふふ。やるからにはお互い正々堂々を尽くさないとな。あと我は人間ではなく尸解仙だ」
「……?」
始めの計画とは違うものの、尸解仙という聞きなれない言葉に目を点にしている空の武器を絞らせたのには変わりない。そう思い、布都は自らの動揺を静まらせた。
「両者、互いに離れて」
閻魔の申しによって背を向けて空との距離を離す布都は、入場口で自分を見守る神子と目が合う。
――大丈夫です太子さま。よもや私が一回戦で負けるはずもございません。どうかご安心して見ていてください!
「一回戦第四試合、始め!」
試合開始早々、布都は背中に隠していた武器を取り出す。それは弓と筒に入った矢の束だった。
「なるほど。弾幕が使えない今、確かに遠距離攻撃の手段は重宝するね」と萃香がぼやく前で、布都はすぐに空に向けて一本取り出した矢を構える。
その姿に八雲紫も反応していた。
――あれは……破魔の矢?
妖怪集団である命蓮寺に対抗するべく、布都は自分が持つ仙術により退魔の力を矢に宿らせていたのだ。
――まずは小手調べだ。我の仙術でお主のような妖怪をどのくらい苦しめられるか、その実験台だ!
布都の手から放たれた矢は空に向けて一直線に向かい飛んでいく。しかしそれは空の持つ第三の足によってあっさりと叩き落とされた。
その光景に布都は驚いてしまう。矢があっさりと落とされたことではなく、一見鈍重そうに見える、右腕に付けられた第三の足を軽々と操っている事が布都にとって予想外だった。
――なんなのだあれは! 大砲のように見えるが、実際はそうではないのか? いやしかし、あの鉄鋼靴のようなものを捨ててまで武器として選んだのだ。きっと何か……。
「今度はこっちの番だよ」
困惑する布都に向けて空は第三の足である砲身を構える。そしてその筒からは超高温の熱が放たれた。
「!」
咄嗟に飛び上がり難を逃れた布都が先程まで立っていた場所には溶岩のように煮えたぎっている熱の破片が残されていた。まともに喰らえば妖精程度なら蒸発していただろう。あまりの威力に紫も「結界を張っておいて正解だったわね」とぼやく。
――なんだあの威力は!
驚いてばかりもいられなく、追撃するべく飛んだ布都に空は再び砲身を向けていた。
「くっ!」
布都は空の照準から逃れるべく中空を縦横無尽に飛び回り始める。
「うにゅ……」
やや困った表情をする空に布都はしてやったりと微笑む。
――お主がそのような力なら、こちらは速さだ。この速さで飛び続けて撹乱させ、我の弓矢で一撃を叩きこむ!
布都は飛び回りながら矢を構える。普段の弾幕勝負では弾幕としての矢は動きながら放った事はあれど、実物の弓は仕様が違うため、照準を合わせられずにいた。試しに二発放ったが、一発は空の横に向かって落ち、もう一発は足場がないために力が入らなかったのか、またもやあっさりと叩き落とされた。
「狙いにくいや……それなら、直接戦う!」
思った事をそのまま口に出しながら空は布都に向かって飛ぶ。しかし布都は間合いを離そうと距離を取る。
「無駄だ! そのような装備で我より素早く動けるはずが――」
気付いた時には、空は布都のすぐ隣まで接近していた。
「なっ……!」
「行くよー!」
驚きのあまり反応が遅れた布都の脇腹に、空の第三の足そのものである砲身が叩き付けられた。
「がっ……!」
骨の軋む音が響き、彼女はそのまま勢いよく地面に叩き付けられた。
その様を見て、さとりは口元を押さえて笑っていた。
「お空を嘗めすぎです。八坂神奈子に何をされようと、あの子が鴉なのには変わりありません」
さとりの視線の先で中空に浮いている空は「そうれっ!」という掛け声と共に布都に向かって急降下する。起き上がろうと四つん這いになっていた布都の背中に直撃する。小気味良く骨の鳴る音が響いた。
「がっ……あぁぁぁぁぁぁ!」
そこから連続で布都の背中を楽しそうに踏み続ける空に鬼である萃香でさえ引きつった笑みを浮かべていた。
「えげつないねぇあの子。最初は結構馬鹿っぽく見えたけど、あそこまで躊躇がない奴は久しぶりに見たよ」
萃香の言葉に、さとりが「確かにお空はそれほど頭の回る方ではありませんし、あまりにも純粋が過ぎる子です。しかしそれ故に、あの子に慢心というものは決してありません」と得意気な顔で話す。
会話の中で尚も布都を踏み続けていた空は一度高く跳んだ。
「これで……とどめ!」
そのまま急降下で背中を踏みつぶそうとするが、間一髪で起き上がった布都はそれを回避する。空が踏んだ地面には大きな亀裂が走っていた。
「逃がさないよー」
布都の方に跳んで空は追撃するように砲身で再び布都に殴りかかる。鼻や口から血を出して、込み上げる吐き気を堪えながら布都はそれを両腕で防ぐ。折れはしなかったものの力を受け流すことはできず、無様に転げまわってしまう。
「ぐっ……くそ……」
しかし空は加減することなく、炎を再び放つ。それを前回りの要領で間一髪回避した布都は神子と目が合った。
「た……太子さま!」
布都が瀕死であるにも関わらず、神子は凛々しい眼差しを保っていた。それは布都にとって、自分は信じられている、という気持ちを湧き上がらせ、気付けになった。
――太子さま、大丈夫……我は大丈夫です。ですからどうかそのまま、我を見守っていてください……!。
お空の第三の足を布都は再び避ける。しかしそれは華麗でもなんでもなく、空から背を向けて逃げているだけだった。
「逃がさないよ!」
――確かに今の我は、周りから見ればみっともない姿かもしれません。ですが我は、勝ちを諦めたわけではない。
布都は次々と襲い掛かる空の攻撃をかわしていく。彼女の攻撃はどれも強力なものではあるが、その動作に入る初動が大きく、手負いの布都でもぎりぎりかわせる程度の隙はあった。
――この痛みは、『油断するな』という太子さまの忠告を疎かにした罰として戒めます。ですからどうか最後まで、我の勝利を祈っていてください。
想いとは裏腹に背面の痛みが響き、逃げている布都は足がもつれ地面に倒れてしまった。
「これで終わりだよ!」
それは布都にとって賭けだった。倒れた自分に砲撃による一撃を喰らわせる、という方法もあった。しかし空は砲撃を叩き付ける攻撃手段を取ろうと布都の背中を狙い接近する。
布都は逃げている間両手に仙術の力を練っていた。会心の反撃機会を彼女は狙っていたのだ。
「仙術を……嘗めるな!」
布都は背を向けてうつ伏せのまま、両手を地面に付けた。すると突如彼女の目前から丸太のような岩が斜めに生え、頭上にいた空の顔面に直撃した。
「にゅぐっ!」
岩に撥ね飛ばされた空は後ろ宙返りのごとく舞い、受け身を取ることなく地面に落ちた。
「やった……か?」
片膝を着いて空の方を振り向く。しかし動かなかったのは数秒程で、空はすぐに起き上がり、切れた口からの出血を拭った。
「今のは凄かったよ、しかいせんさん」
「ふふ……そうであろう」
得意気な笑みとは裏腹に、強烈な一撃を与えたにも関わらず鼻血さえ流していない空に布都は内心狼狽していた。しかし、もたもたしていたらすぐに反撃が来る。
「だが、お主が起き上がった時のために、手を打っていないわけではない」
岩を出した後もすぐさま仙術の力を練っていた布都は、両手から火の玉を生み出す。
「その程度の火じゃ、私には勝てないよ!」
「そうではない。それはそうと、戦いが始まる前、我はお主に武器が二つ以上ある事について抗議した。しかし我はそれでも構わなかった。何故なら……我もここで二つ目の道具を生み出すのだからな!」
布都は火の弾を真上に放つ。それは先程生み出した岩にぶつかり、爆発する。噴煙が収まった時、空が見たのは小さな岩の舟だった。
「え……それが、しかいせんさんの道具?」
「そうだ。しかし別にこれは隠していたわけではない。我が仙術によって生み出した岩から即席で造ったものだ。よもや反則とは言うまい」
布都は閻魔の方を見るが、何も言わず空達を見据えるだけである。つまり何も反則ではないことになる。
「悪いが地獄鴉よ。これでお主が我に勝つ方法はなくなった」
布都は弾幕勝負でよく乗っているものよりは小さい磐舟に乗り、弓を構える。布都は空の方を向いているにも関わらず、磐舟は宙に浮き、間合いを開ける様に後方へと飛ぶ。安定した足場から放たれた弓矢はぶれる事無く一直線に向かう。それは空によって再び払われてしまうも、布都に動揺はなかった。
「無駄だよ。どんなに遠くから攻めたって、追いつけば――」
「追いつかれなければいいんであろう?」
布都に向かって跳ぶ空より更に速く磐舟は飛び、天へと昇る。
「これで、我に追いつけぬお主に残された行動は、ひたすら我の弓矢を避け続けることだけ。故に……我の勝ちじゃぶっ!」
物部布都は天井に激突した。
審判や鬼の五名を含めた全観客が布都を見上げて静まり返る。この闘技場は径三十メートル程の円柱状に結界が張られていて、それは約三十メートル上空の部分も例外ではなく天井としての結界が張られ、月光以外のものを拒絶している。
「おろかものが……」
これには同志である屠自古も額を押さえて呆れるしかなかった。
「あれ、落ちてきた」
砕けた磐舟の次に落ちていく布都だが、空はそれを逃す気はない。
「よく分からなかったけど、落ちてくるなら都合がいいや」
物部布都が見せたあまりの馬鹿馬鹿しさに、紫は閻魔に目配せする。
――もう、勝負ありでいいんじゃないかしら?
その中で、さとりだけが布都を見てほんの少しだけ驚いていた。
「もう気が付いてる?」
落ちてくる布都を地上から狙いながら「この距離なら――」と言う空の言葉に彼女は合わせた。
「当たるっ!」
重力に流されるまま落ちてきた布都は既に気絶していなく、空に弓矢を構える。そして互いに同じ瞬間で攻撃を放った。
「うおぉ!」
身体を捻るようにして布都は空の砲撃を回避し、受け身をとって地面への激突を軽くする。
この場面には強力な妖怪である風見幽香も驚嘆していた。
「まさか……。今の流れが、あの子の演技だったというの?」
対して「いや、多分違うと思うけどなぁ」と魔理沙は苦笑いで答えていた。
いずれにせよ、布都は空の攻撃を回避し――
「ふふ……意外に手こずってしまった」
退魔の力を込めた矢で空の右胸を貫くことができた。
「う、うう……」
右胸を押さえて呻く空に対し、布都はただ静観する。退魔の力を込めた矢が空にどのくらい通用するか、というのがそもそも初めの戦法だったのだから。
しかし空は「油断しちゃったぁ」と朗らかに言って、力任せに矢を引き抜く。
「なっ……!」
「いたた」と呑気に言いながら傷口を押さえる空は平気そうな顔をしている。
「お主……何ともないのか……?」
「そんな事言ったら、しかいせんさんの方が重傷じゃない?」
退魔の力を込められた矢を受けてもぴんぴんしている空を前に言葉を出せずにいる布都を見て、さとりは小さく笑っていた。
――確かにお空はあなたが思っているように妖怪でもあります。しかし、今はそれを塗りつぶしてしまうほどに神である八咫烏の力が大きく出てしまっている。
元凶である八坂神奈子の事を忌々しく思うさとりの見る先にいる、布都の表情は寧ろ生き生きとしていた。
「大した妖怪の力だ。我はまだまだ修行不足だったようだな!」
根本的に勘違いをしている布都は、まったくめげていない。
「一回戦からこんなにも楽しめるとは思わなかった。いいだろう、礼に我の本気を見せよう!」
布都は懐から一枚の札を出し、観衆にも聞こえる程の大きな声で言い放つ。
「炎符『桜井寺炎上』!」
物部布都はスペルカードを発動した。
その予想外の行為に「ん?」と霧雨魔理沙が疑問に思い――
「は?」と八雲紫の顔が曇り――
「え……」と豊聡耳神子は嫌な予感を感じる。
――あの子……大事な事を忘れているわね。……これで終わりね。
古明地さとりが布都の敗北を予感する中、更に予想外の事が起こる。
「いいよ。私も本気で行くよ!」
対戦相手である空は微笑みながら――
「焔星『フィクストスター』!」
スペルカードを宣言した。
「えぇぇ?」
それまで常に真顔を保ってきたさとりまでもが困惑の色を隠せなかった。
観客の何割かもその異常に戸惑うが、闘技場で戦う二人は、ある一つのルールをすっぱりと忘れていた。
「行くぞ、地獄鴉よ!」
「これで終わりだよ、しかいせんさん!」
布都は上空に大量の赤い弾幕とそれを支えるような柱を連想させる黄色い弾幕。空は超巨大な赤い弾幕同士を重ねて更に巨大にしたものを生み出す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
布都は黄色い弾幕を動かし、赤い弾幕ごと崩して攻撃しようとするが――
「おろかものが!」
突然後ろから聞こえた屠自古の声によってその動きを止める。
「屠自古?」
何のことかと一瞬だけ冷静になった後――
「ああ!」
布都は大事な事に気が付いた。
――弾幕を使用すると敗北。
今大会で最も特徴的である反則事項を寸でのところで布都は思い出した。
「い、いかん!」
大急ぎで布都はスペルカードを止め、自分の弾幕を消滅させた。
「ふう、これで大丈……ん?」
気が緩み、油断した彼女の前には巨大な赤い弾幕が視界一杯に襲い掛かって来ていた。
「な……ぐわぁ!」
巨大弾幕は布都を飲み込み、壁である結界に触れると強烈な光を放ち破裂した。
「あら、綺麗な花火ね」
瞬き一つしない幽香に対し、人間である魔理沙は片腕で目を覆わざるをえない。
「っていうかこの場合、どうなるんだ?」
光が収まった時、布都は蟹股の体勢で仰向けになったまま、既に気絶していた。一切の不安なく「やったよ!」と人差し指を天に向ける空に対し、主であるさとりは彼女達の勝敗について困惑していた。
――弾幕を先に発生させたのはあちらの方、しかし途中で反則行為だと気付き弾幕を消した。これは一体……どうなるの?
副審判である彼女が戸惑う中、審判長の目に迷いはなかった。
「止め!」
一部の実力者や試合規定をはっきりと覚えている観客が静まる中、審判が下る。
「『弾幕の使用』による、霊烏路空の反則!」
その言葉を誰より聞きたくなかった古明地さとりは額を押さえた。
「うにゅ?」
はっきりと宣告されても尚状況を理解できていない地獄鴉を見据えつつ閻魔は解説の言葉を続ける。
「物部選手は確かに、先に弾幕を発生こそさせましたが、途中でそれが反則行為だと気付きすぐに消しています。一方、霊烏路選手は立派な攻撃手段として弾幕を使用し、物部選手に攻撃しました。よって双方で最も『弾幕の使用』という言に近い行為を行ったのは霊烏路選手と判断いたしました。しかし物部選手にも非があった事を認め、副審判両名が抗議した場合は取り消しますが……?」
空の『反則』宣言をしたが『反則負け』とはまだ宣言していない閻魔を前に副審判二名に了承か否かの判断が委ねられる。しかし空と同じ派閥であるさとりも考えは閻魔と同じであり、紫はそれを見てにやにやと微笑んでいた。
「ありません……」
「同じく」
さとりと紫の言葉を聞き、閻魔は布都が勝者であることを示す方の手を上げた。
「勝負あり! 霊烏路空の反則負けにより、勝者、物部布都!」
追いつめられながらも相手の反則負けと言う変則的な勝利を収めたこと。圧倒的な力を持つと噂されていた地底の参加者を破ったこと。それらが重なり、観客達は大いに沸き上った。
しかし、勝者はそれに対し何も思わない。というより、自分が勝った事さえ認識していない。ある程度の傷を負い、強力な弾幕によって止めを刺された布都は未だ気絶していた。勝敗が決まり選手入場口の結界が消えると、神子と屠自古はすぐさま布都に駆け寄る。
「本当に気絶しているだけのようですね、よかった。とりあえず医務室に連れて行きましょう」
まぬけな顔で気絶している旨を屠自古は言った。
「こらこら。勝てば官軍です。たとえどれだけ泥を啜りみっともなく地面を這いつくばっても、勝てば全てが報われます。もし私や屠自古が一回戦で負ければ、最も強いのはこの子ということになるのですから」
布都を背負う神子の背後に、一人の妖怪が近づいた。
「しかいせんさん、大丈夫?」
「八咫烏……」
試合が終わってすぐにさとりに呼ばれ説明をされ、ようやく自分が負けた理由を理解した空は神子達に近付いた。
試合の結果に納得していないのか、と思い神子は身構える。
「ズルしちゃってごめんなさい」
しかし、空が取った行動は頭を下げる事だった。
「え?」
「弾幕が禁止されてたの、忘れてた。そのせいで、しかいせんさんに必要ない怪我をさせちゃった」
予想もしていなかった言葉に屠自古が戸惑う中、神子はすぐに言葉を返す。
「心配にはいらない。布都はこれくらいで二回戦が戦えなくなるほど脆くはないし、怖気づきもしない。だから――」
神子は背負っている布都に目をやる。
「この子が二回戦で戦うときは、その元気で応援してほしい。きっと布都も喜ぶだろう」
仲間が痛い目に遭わせられたにも拘らず、怒るどころか迎え入れようとしてくれる寛大さに空の表情はすぐに晴れていった。
「うん!」
満面の笑みを浮かべる空とは裏腹に、古明地さとりは何か諦めたような表情をしていた。そんな彼女に一人の妖怪が歩み寄る。
「私達三人が仕向けた三人の刺客。その内のひとつがもう落ちてしまうとは」
開催者である八雲紫は萃香と勇儀を避ける様に回り込み、さとりの横に座る。
それを見て、先程までさとりと共に試合を見ていた伊吹萃香は「自信たっぷりな言い方だねぇ。あんたのとこの狐は大丈夫だってかい」と茶化す。
「さぁ、どうかしら。でも順当に行けば、三回戦で藍とあなたが当たる。その時に藍が勝てば、認めてくれるかしら?」
「おーおー認めてやるさ。狐だろうが狸だろうが相手になってやるよ」
「まぁ、何にせよ……」
――洩矢諏訪子。
――紅美鈴。
――寅丸星。
――物部布都。
「青竜の戦いはこれで一段落。続いて、白虎の組み合わせは……」
――西行寺幽々子、対、少名針妙丸。
――アリス・マーガトロイド、対、伊吹萃香。
――村紗水蜜、対、八雲藍。
――河城にとり、対、二ッ岩マミゾウ。
「堪らないわねぇ。強者が弱者を押し潰すか。それとも楽しい番狂わせが起こるか」
紫は自らが生み出したスキマから光をそそいでいる月を見る。
「私はただ、見届けるだけ。そうでしょう?」
そう言って紫は後ろにいる一人の巫女と目を合わせた。
妖怪と目が合ってしまった事に博麗霊夢は渋い顔をしていた。
「お、霊夢。やっと戻ってきたか。もう布都と空の試合まで終わっちゃったぞ」
未だ同じ場所である最上段の手すりに肘掛けている幽香と共にいる、その一段下の席に座っている魔理沙が霊夢に向かって手を振った。
「知ってるわよ。控室に、にとり達河童が造ったモニターがあったから、そこで見てたわ。もう藍や針妙丸とかと話すことも無くなったから戻ってきただけ」
「なんだ、そうだったのか。ま、見てたんなら話は早い。じゃあそれを踏まえて今から予想しようぜ」
「は?」
魔理沙につられるように幽香を置いて隣に座った霊夢は戸惑う。
「予想って……何を……?」
「優勝者だよ優勝者。思ったよりは楽しめそうだからな。優勝者の一人や二人、予想しないか?」
「……賭けは禁止。紫に怒られるわよ」
「賭けなければいいんだろ? まぁ、幽々子の試合が始まるまでの時間つぶしだよ」
「そう。じゃあとりあえずあなたから言いなさいよ」
「おっ、そうか? 私はなぁ……」
霊夢が話に乗った事に魔理沙は楽しく思いながら問いに答える。
「まぁ、周りの妖怪達と同じ本命も本命であれだけど、やっぱり勇儀だな。ほぼ弾幕禁止のルール。美鈴で文相手にあれだけ優勢になれたんだ。地底の妖怪でなくとも、これは期待してしまうな」
「私も大体同じ理由だけど……。私は萃香の方を推薦するわ」
「おっ、そうなのか?」
「一番可能性がある決勝戦は萃香と勇儀だと思うけど、萃香は決勝以外、全力で楽しむとは思わないのよ」
「? どういうことだよ。あいつは鬼だぞ?」
「そうなんだけど……。まだ決まったわけではないけど……勇儀と戦かもしれない決勝以外は極力消耗しないように戦うと思うわ。まぁ、他の奴らじゃなくて勇儀と比べての話だけどね。逆に勇儀は全ての戦いを平等に楽しむと思うのよ。相手の攻撃を全部受け、下手すれば自分にハンデまで付けるかもしれない。地霊殿の時もそうだったし」
「なるほど。その差が決勝で別れるってわけか。それで――」
魔理沙は限界まで身体を上に反り、逆さに幽香を見る。
「お前は誰だと予想する?」
「そうね……。じゃあ……霊夢と同じ小さい鬼と……八雲紫の式神ね」
八雲藍が優勝候補として上げられた事に魔理沙達は反応した。
「藍が? まぁ可能性がゼロではないと思うけど……何で?」
幽香は視線を闘技場に向ける。
「あの子も……とっても戦いを楽しみにしているようだった。あの闘技場で集まった時に偶然目が合ったけど、凄い殺意を隠してたわ。思わず入りたくなるくらいにね」
「あっ、そういえば藍、霊夢の所で戦ってたな。実際、どうだったんだ?」
「……手こずったわ。弾幕を封じるならより私の方が優位、とか思ってたけど、そうでもなかった」
「……の割には、萃香が優勝すると予想するんだな」
「それはそれ、これはこれよ。強いて言うなら……『大穴』ね」
先に言われてしまった、と言いたげに魔理沙は苦笑した。
「なるほど、藍ね。ちなみに私にとっての大穴は、ずばり輝夜だな」
「輝夜? 思い切ったわね」
「そもそもこういう大会に出る事自体十分驚きだけど。それこそあいつにとっては遊びでしかなかった弾幕勝負でしか戦った事がないからな。文も『あいつのスペルカードが恐ろしかった』とか言ってたからな。優勝云々というよりは、どういう戦いをするのかが楽しみでしょうがないな」
それで。と言いながら魔理沙は再び身体を反って幽香の方に向く。
「お前にとっての大穴は?」
「さぁ。どれもこれも、どんな戦い方をするのか知らないから、いまいち予想しようがないわ」
「あんた、太陽の畑に引きこもってるからね」と霊夢が言う最中、魔理沙は幽香の目を見ていた。
彼女の視線をおおよそで追っていくと、そこには観客として自分達と同じく休憩中の雑談を交わしている命連寺の集団がいた。
――白蓮……いや、星か? そうか、橙とあいつの戦いを見たからな。確かにびっくりだったぜ、宝塔だけがあいつの強みだと私も思ってたし。
「ま、十中八九、私達が言った誰かだな」
魔理沙はそう言って、次の試合が始まるまで建物中をよく観察して周ろうと思い、立ち上がった。
――任せてください。私は何があっても倒れませんし、降参したりなんかもしません。
その気合の現れは、さとりにとっては何故か逆に、しこりのように不安として残っていた。
「隣、いいかい?」
小さく溜息を吐いたところで突如背後から問いかけられ、振り向いた所にいたのは星熊勇儀と伊吹萃香という、大会参加者の鬼二人組である。
「最前列は私達審判席……いや、いいです。鬼であるあなた達の頼みを断れる妖怪なんていませんよ」
「悪いねぇ、この試合は是非間近で見てみたかったんだ」
勇儀はさとりの右隣に腰を下ろし、その隣に萃香が座る。
「この試合にですか? 別に、私のペットと、確か……尸解仙、という方の試合ですよ」
「だからだよ。萃香はその地獄鴉の力に一目置いてるらしいからね。それを見極めたいんだ」
「お空の力、ですか。確かに地霊殿で最も強いのはあの子かもしれませんが、あなた達に及ぶ、と言えるほどでは」
「畏まらなくたっていいさ。それを決めるのは私達だ」
勇儀は笑いながらさとりの背中を叩く。背中から若干骨のずれる音が鳴るも、さとりは無表情を貫いていた。このやりとりは彼女にとって、とっくに慣れたものになっている。
それを見て小さく笑っていた萃香は酒を飲みながら一つの疑問を勇儀に問う。
「で、結局尸解仙って何だ?」
「私が知るか。ま、結局は死なない程度の人間だろう。地獄鴉にとって敵ではないさ」
「地獄鴉か何だか知らぬが、ただの鴉であろう。我の敵ではないな」
入場口の通路に立つ物部布都は同じ派閥に属する豊聡耳神子と蘇我屠自古に向かい、意気揚々と言い放つ。
「緊張していないようですね」
「ふふふ。先程の命蓮寺の者とは違うのです。是非この手で、準優勝を掴んで見せましょう」
「……優勝、ではないのですか?」
「何を仰ります。優勝は太子様にこそ相応しい。我と太子様で決勝まで昇り、太子様が一層派手な技で私を倒すのです。聞けばこの戦いは命連寺の信者も見ていると耳にしました。なればそれによってその者達を一気に、道教こそ信仰するべき道だと動かすことができます」
優勝する気は更々ない。それを窘めようとした屠自古の肩を神子は掴んで制した。
「いいのですよ屠自古。ここまで私の事を想ってくれているのです。文句などあるはずもない」
神子の言葉で布都はより一層にやけた顔になり、「では、行ってまいります!」と言って背を向ける。
「油断だけはしないように」
「はい!」
そして、ある程度大会の楽しみ方が分かってきた観客達が騒ぐ中、布都は闘技場で地獄鴉の霊烏路空と対峙する。自分より一回り大きい敵を前にしても持ち前の自信を無くすことはない。
「戦闘時間変更等の要望があれば聞きますが」
閻魔の確認に対し、布都は六角の砲を模した空の右腕――『第三の足』と呼ばれる部分と、岩のようなものに覆われている右足――『融合の足』と呼ばれる部分を交互に指差した。
「なんだそれは。この大会で用意していい武器は一つまでのはずだ。これでは反則であろう?」
三つ前の試合で戦った雲居一輪の入道同様、知っている者にとってはその空の姿はごく当たり前のものだった。しかしそうでない者にとってそれは大砲に鉄鋼の靴という二つの装備を身に纏っているように見える。
しかし布都は、本当に抗議の意図があったわけではなく、揺さぶりを掛けるために言ったのだ。
――あの入道使い同様、いや、それ以上であろう。それはお主と一体化しておる物なのだろう。だから今ここで我がいちゃもんを付けても、きっとそれは通らない。しかしそれでよい。それでお主が変に縮こまって、その武器のどちらかを使いづらくさせれば儲けもの……。
布都の意図に対して「そっかぁ」と空は呑気な声を上げ、右足に付いている『融合の足』を外した。
「!?」
――外れるのかあれ!
予想だにしなかった展開に布都が戸惑う中、空は融合の足を持ってさとりの方へ歩いて行った。
「さとり様。これ、見ててください」
「え、ええ。お燐にでも預けておくわ」
戦う直前にさとりと会話できたことにはにかむ空に勇儀が話しかける。
「期待してるぞ地獄鴉」
「うん、勝ってみせるよ!」
そう行って空は布都と映姫の前に戻った。
「ありがとう人間さん。危うく反則になるところだったよ」
「ふ……ふふ。やるからにはお互い正々堂々を尽くさないとな。あと我は人間ではなく尸解仙だ」
「……?」
始めの計画とは違うものの、尸解仙という聞きなれない言葉に目を点にしている空の武器を絞らせたのには変わりない。そう思い、布都は自らの動揺を静まらせた。
「両者、互いに離れて」
閻魔の申しによって背を向けて空との距離を離す布都は、入場口で自分を見守る神子と目が合う。
――大丈夫です太子さま。よもや私が一回戦で負けるはずもございません。どうかご安心して見ていてください!
「一回戦第四試合、始め!」
試合開始早々、布都は背中に隠していた武器を取り出す。それは弓と筒に入った矢の束だった。
「なるほど。弾幕が使えない今、確かに遠距離攻撃の手段は重宝するね」と萃香がぼやく前で、布都はすぐに空に向けて一本取り出した矢を構える。
その姿に八雲紫も反応していた。
――あれは……破魔の矢?
妖怪集団である命蓮寺に対抗するべく、布都は自分が持つ仙術により退魔の力を矢に宿らせていたのだ。
――まずは小手調べだ。我の仙術でお主のような妖怪をどのくらい苦しめられるか、その実験台だ!
布都の手から放たれた矢は空に向けて一直線に向かい飛んでいく。しかしそれは空の持つ第三の足によってあっさりと叩き落とされた。
その光景に布都は驚いてしまう。矢があっさりと落とされたことではなく、一見鈍重そうに見える、右腕に付けられた第三の足を軽々と操っている事が布都にとって予想外だった。
――なんなのだあれは! 大砲のように見えるが、実際はそうではないのか? いやしかし、あの鉄鋼靴のようなものを捨ててまで武器として選んだのだ。きっと何か……。
「今度はこっちの番だよ」
困惑する布都に向けて空は第三の足である砲身を構える。そしてその筒からは超高温の熱が放たれた。
「!」
咄嗟に飛び上がり難を逃れた布都が先程まで立っていた場所には溶岩のように煮えたぎっている熱の破片が残されていた。まともに喰らえば妖精程度なら蒸発していただろう。あまりの威力に紫も「結界を張っておいて正解だったわね」とぼやく。
――なんだあの威力は!
驚いてばかりもいられなく、追撃するべく飛んだ布都に空は再び砲身を向けていた。
「くっ!」
布都は空の照準から逃れるべく中空を縦横無尽に飛び回り始める。
「うにゅ……」
やや困った表情をする空に布都はしてやったりと微笑む。
――お主がそのような力なら、こちらは速さだ。この速さで飛び続けて撹乱させ、我の弓矢で一撃を叩きこむ!
布都は飛び回りながら矢を構える。普段の弾幕勝負では弾幕としての矢は動きながら放った事はあれど、実物の弓は仕様が違うため、照準を合わせられずにいた。試しに二発放ったが、一発は空の横に向かって落ち、もう一発は足場がないために力が入らなかったのか、またもやあっさりと叩き落とされた。
「狙いにくいや……それなら、直接戦う!」
思った事をそのまま口に出しながら空は布都に向かって飛ぶ。しかし布都は間合いを離そうと距離を取る。
「無駄だ! そのような装備で我より素早く動けるはずが――」
気付いた時には、空は布都のすぐ隣まで接近していた。
「なっ……!」
「行くよー!」
驚きのあまり反応が遅れた布都の脇腹に、空の第三の足そのものである砲身が叩き付けられた。
「がっ……!」
骨の軋む音が響き、彼女はそのまま勢いよく地面に叩き付けられた。
その様を見て、さとりは口元を押さえて笑っていた。
「お空を嘗めすぎです。八坂神奈子に何をされようと、あの子が鴉なのには変わりありません」
さとりの視線の先で中空に浮いている空は「そうれっ!」という掛け声と共に布都に向かって急降下する。起き上がろうと四つん這いになっていた布都の背中に直撃する。小気味良く骨の鳴る音が響いた。
「がっ……あぁぁぁぁぁぁ!」
そこから連続で布都の背中を楽しそうに踏み続ける空に鬼である萃香でさえ引きつった笑みを浮かべていた。
「えげつないねぇあの子。最初は結構馬鹿っぽく見えたけど、あそこまで躊躇がない奴は久しぶりに見たよ」
萃香の言葉に、さとりが「確かにお空はそれほど頭の回る方ではありませんし、あまりにも純粋が過ぎる子です。しかしそれ故に、あの子に慢心というものは決してありません」と得意気な顔で話す。
会話の中で尚も布都を踏み続けていた空は一度高く跳んだ。
「これで……とどめ!」
そのまま急降下で背中を踏みつぶそうとするが、間一髪で起き上がった布都はそれを回避する。空が踏んだ地面には大きな亀裂が走っていた。
「逃がさないよー」
布都の方に跳んで空は追撃するように砲身で再び布都に殴りかかる。鼻や口から血を出して、込み上げる吐き気を堪えながら布都はそれを両腕で防ぐ。折れはしなかったものの力を受け流すことはできず、無様に転げまわってしまう。
「ぐっ……くそ……」
しかし空は加減することなく、炎を再び放つ。それを前回りの要領で間一髪回避した布都は神子と目が合った。
「た……太子さま!」
布都が瀕死であるにも関わらず、神子は凛々しい眼差しを保っていた。それは布都にとって、自分は信じられている、という気持ちを湧き上がらせ、気付けになった。
――太子さま、大丈夫……我は大丈夫です。ですからどうかそのまま、我を見守っていてください……!。
お空の第三の足を布都は再び避ける。しかしそれは華麗でもなんでもなく、空から背を向けて逃げているだけだった。
「逃がさないよ!」
――確かに今の我は、周りから見ればみっともない姿かもしれません。ですが我は、勝ちを諦めたわけではない。
布都は次々と襲い掛かる空の攻撃をかわしていく。彼女の攻撃はどれも強力なものではあるが、その動作に入る初動が大きく、手負いの布都でもぎりぎりかわせる程度の隙はあった。
――この痛みは、『油断するな』という太子さまの忠告を疎かにした罰として戒めます。ですからどうか最後まで、我の勝利を祈っていてください。
想いとは裏腹に背面の痛みが響き、逃げている布都は足がもつれ地面に倒れてしまった。
「これで終わりだよ!」
それは布都にとって賭けだった。倒れた自分に砲撃による一撃を喰らわせる、という方法もあった。しかし空は砲撃を叩き付ける攻撃手段を取ろうと布都の背中を狙い接近する。
布都は逃げている間両手に仙術の力を練っていた。会心の反撃機会を彼女は狙っていたのだ。
「仙術を……嘗めるな!」
布都は背を向けてうつ伏せのまま、両手を地面に付けた。すると突如彼女の目前から丸太のような岩が斜めに生え、頭上にいた空の顔面に直撃した。
「にゅぐっ!」
岩に撥ね飛ばされた空は後ろ宙返りのごとく舞い、受け身を取ることなく地面に落ちた。
「やった……か?」
片膝を着いて空の方を振り向く。しかし動かなかったのは数秒程で、空はすぐに起き上がり、切れた口からの出血を拭った。
「今のは凄かったよ、しかいせんさん」
「ふふ……そうであろう」
得意気な笑みとは裏腹に、強烈な一撃を与えたにも関わらず鼻血さえ流していない空に布都は内心狼狽していた。しかし、もたもたしていたらすぐに反撃が来る。
「だが、お主が起き上がった時のために、手を打っていないわけではない」
岩を出した後もすぐさま仙術の力を練っていた布都は、両手から火の玉を生み出す。
「その程度の火じゃ、私には勝てないよ!」
「そうではない。それはそうと、戦いが始まる前、我はお主に武器が二つ以上ある事について抗議した。しかし我はそれでも構わなかった。何故なら……我もここで二つ目の道具を生み出すのだからな!」
布都は火の弾を真上に放つ。それは先程生み出した岩にぶつかり、爆発する。噴煙が収まった時、空が見たのは小さな岩の舟だった。
「え……それが、しかいせんさんの道具?」
「そうだ。しかし別にこれは隠していたわけではない。我が仙術によって生み出した岩から即席で造ったものだ。よもや反則とは言うまい」
布都は閻魔の方を見るが、何も言わず空達を見据えるだけである。つまり何も反則ではないことになる。
「悪いが地獄鴉よ。これでお主が我に勝つ方法はなくなった」
布都は弾幕勝負でよく乗っているものよりは小さい磐舟に乗り、弓を構える。布都は空の方を向いているにも関わらず、磐舟は宙に浮き、間合いを開ける様に後方へと飛ぶ。安定した足場から放たれた弓矢はぶれる事無く一直線に向かう。それは空によって再び払われてしまうも、布都に動揺はなかった。
「無駄だよ。どんなに遠くから攻めたって、追いつけば――」
「追いつかれなければいいんであろう?」
布都に向かって跳ぶ空より更に速く磐舟は飛び、天へと昇る。
「これで、我に追いつけぬお主に残された行動は、ひたすら我の弓矢を避け続けることだけ。故に……我の勝ちじゃぶっ!」
物部布都は天井に激突した。
審判や鬼の五名を含めた全観客が布都を見上げて静まり返る。この闘技場は径三十メートル程の円柱状に結界が張られていて、それは約三十メートル上空の部分も例外ではなく天井としての結界が張られ、月光以外のものを拒絶している。
「おろかものが……」
これには同志である屠自古も額を押さえて呆れるしかなかった。
「あれ、落ちてきた」
砕けた磐舟の次に落ちていく布都だが、空はそれを逃す気はない。
「よく分からなかったけど、落ちてくるなら都合がいいや」
物部布都が見せたあまりの馬鹿馬鹿しさに、紫は閻魔に目配せする。
――もう、勝負ありでいいんじゃないかしら?
その中で、さとりだけが布都を見てほんの少しだけ驚いていた。
「もう気が付いてる?」
落ちてくる布都を地上から狙いながら「この距離なら――」と言う空の言葉に彼女は合わせた。
「当たるっ!」
重力に流されるまま落ちてきた布都は既に気絶していなく、空に弓矢を構える。そして互いに同じ瞬間で攻撃を放った。
「うおぉ!」
身体を捻るようにして布都は空の砲撃を回避し、受け身をとって地面への激突を軽くする。
この場面には強力な妖怪である風見幽香も驚嘆していた。
「まさか……。今の流れが、あの子の演技だったというの?」
対して「いや、多分違うと思うけどなぁ」と魔理沙は苦笑いで答えていた。
いずれにせよ、布都は空の攻撃を回避し――
「ふふ……意外に手こずってしまった」
退魔の力を込めた矢で空の右胸を貫くことができた。
「う、うう……」
右胸を押さえて呻く空に対し、布都はただ静観する。退魔の力を込めた矢が空にどのくらい通用するか、というのがそもそも初めの戦法だったのだから。
しかし空は「油断しちゃったぁ」と朗らかに言って、力任せに矢を引き抜く。
「なっ……!」
「いたた」と呑気に言いながら傷口を押さえる空は平気そうな顔をしている。
「お主……何ともないのか……?」
「そんな事言ったら、しかいせんさんの方が重傷じゃない?」
退魔の力を込められた矢を受けてもぴんぴんしている空を前に言葉を出せずにいる布都を見て、さとりは小さく笑っていた。
――確かにお空はあなたが思っているように妖怪でもあります。しかし、今はそれを塗りつぶしてしまうほどに神である八咫烏の力が大きく出てしまっている。
元凶である八坂神奈子の事を忌々しく思うさとりの見る先にいる、布都の表情は寧ろ生き生きとしていた。
「大した妖怪の力だ。我はまだまだ修行不足だったようだな!」
根本的に勘違いをしている布都は、まったくめげていない。
「一回戦からこんなにも楽しめるとは思わなかった。いいだろう、礼に我の本気を見せよう!」
布都は懐から一枚の札を出し、観衆にも聞こえる程の大きな声で言い放つ。
「炎符『桜井寺炎上』!」
物部布都はスペルカードを発動した。
その予想外の行為に「ん?」と霧雨魔理沙が疑問に思い――
「は?」と八雲紫の顔が曇り――
「え……」と豊聡耳神子は嫌な予感を感じる。
――あの子……大事な事を忘れているわね。……これで終わりね。
古明地さとりが布都の敗北を予感する中、更に予想外の事が起こる。
「いいよ。私も本気で行くよ!」
対戦相手である空は微笑みながら――
「焔星『フィクストスター』!」
スペルカードを宣言した。
「えぇぇ?」
それまで常に真顔を保ってきたさとりまでもが困惑の色を隠せなかった。
観客の何割かもその異常に戸惑うが、闘技場で戦う二人は、ある一つのルールをすっぱりと忘れていた。
「行くぞ、地獄鴉よ!」
「これで終わりだよ、しかいせんさん!」
布都は上空に大量の赤い弾幕とそれを支えるような柱を連想させる黄色い弾幕。空は超巨大な赤い弾幕同士を重ねて更に巨大にしたものを生み出す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
布都は黄色い弾幕を動かし、赤い弾幕ごと崩して攻撃しようとするが――
「おろかものが!」
突然後ろから聞こえた屠自古の声によってその動きを止める。
「屠自古?」
何のことかと一瞬だけ冷静になった後――
「ああ!」
布都は大事な事に気が付いた。
――弾幕を使用すると敗北。
今大会で最も特徴的である反則事項を寸でのところで布都は思い出した。
「い、いかん!」
大急ぎで布都はスペルカードを止め、自分の弾幕を消滅させた。
「ふう、これで大丈……ん?」
気が緩み、油断した彼女の前には巨大な赤い弾幕が視界一杯に襲い掛かって来ていた。
「な……ぐわぁ!」
巨大弾幕は布都を飲み込み、壁である結界に触れると強烈な光を放ち破裂した。
「あら、綺麗な花火ね」
瞬き一つしない幽香に対し、人間である魔理沙は片腕で目を覆わざるをえない。
「っていうかこの場合、どうなるんだ?」
光が収まった時、布都は蟹股の体勢で仰向けになったまま、既に気絶していた。一切の不安なく「やったよ!」と人差し指を天に向ける空に対し、主であるさとりは彼女達の勝敗について困惑していた。
――弾幕を先に発生させたのはあちらの方、しかし途中で反則行為だと気付き弾幕を消した。これは一体……どうなるの?
副審判である彼女が戸惑う中、審判長の目に迷いはなかった。
「止め!」
一部の実力者や試合規定をはっきりと覚えている観客が静まる中、審判が下る。
「『弾幕の使用』による、霊烏路空の反則!」
その言葉を誰より聞きたくなかった古明地さとりは額を押さえた。
「うにゅ?」
はっきりと宣告されても尚状況を理解できていない地獄鴉を見据えつつ閻魔は解説の言葉を続ける。
「物部選手は確かに、先に弾幕を発生こそさせましたが、途中でそれが反則行為だと気付きすぐに消しています。一方、霊烏路選手は立派な攻撃手段として弾幕を使用し、物部選手に攻撃しました。よって双方で最も『弾幕の使用』という言に近い行為を行ったのは霊烏路選手と判断いたしました。しかし物部選手にも非があった事を認め、副審判両名が抗議した場合は取り消しますが……?」
空の『反則』宣言をしたが『反則負け』とはまだ宣言していない閻魔を前に副審判二名に了承か否かの判断が委ねられる。しかし空と同じ派閥であるさとりも考えは閻魔と同じであり、紫はそれを見てにやにやと微笑んでいた。
「ありません……」
「同じく」
さとりと紫の言葉を聞き、閻魔は布都が勝者であることを示す方の手を上げた。
「勝負あり! 霊烏路空の反則負けにより、勝者、物部布都!」
追いつめられながらも相手の反則負けと言う変則的な勝利を収めたこと。圧倒的な力を持つと噂されていた地底の参加者を破ったこと。それらが重なり、観客達は大いに沸き上った。
しかし、勝者はそれに対し何も思わない。というより、自分が勝った事さえ認識していない。ある程度の傷を負い、強力な弾幕によって止めを刺された布都は未だ気絶していた。勝敗が決まり選手入場口の結界が消えると、神子と屠自古はすぐさま布都に駆け寄る。
「本当に気絶しているだけのようですね、よかった。とりあえず医務室に連れて行きましょう」
まぬけな顔で気絶している旨を屠自古は言った。
「こらこら。勝てば官軍です。たとえどれだけ泥を啜りみっともなく地面を這いつくばっても、勝てば全てが報われます。もし私や屠自古が一回戦で負ければ、最も強いのはこの子ということになるのですから」
布都を背負う神子の背後に、一人の妖怪が近づいた。
「しかいせんさん、大丈夫?」
「八咫烏……」
試合が終わってすぐにさとりに呼ばれ説明をされ、ようやく自分が負けた理由を理解した空は神子達に近付いた。
試合の結果に納得していないのか、と思い神子は身構える。
「ズルしちゃってごめんなさい」
しかし、空が取った行動は頭を下げる事だった。
「え?」
「弾幕が禁止されてたの、忘れてた。そのせいで、しかいせんさんに必要ない怪我をさせちゃった」
予想もしていなかった言葉に屠自古が戸惑う中、神子はすぐに言葉を返す。
「心配にはいらない。布都はこれくらいで二回戦が戦えなくなるほど脆くはないし、怖気づきもしない。だから――」
神子は背負っている布都に目をやる。
「この子が二回戦で戦うときは、その元気で応援してほしい。きっと布都も喜ぶだろう」
仲間が痛い目に遭わせられたにも拘らず、怒るどころか迎え入れようとしてくれる寛大さに空の表情はすぐに晴れていった。
「うん!」
満面の笑みを浮かべる空とは裏腹に、古明地さとりは何か諦めたような表情をしていた。そんな彼女に一人の妖怪が歩み寄る。
「私達三人が仕向けた三人の刺客。その内のひとつがもう落ちてしまうとは」
開催者である八雲紫は萃香と勇儀を避ける様に回り込み、さとりの横に座る。
それを見て、先程までさとりと共に試合を見ていた伊吹萃香は「自信たっぷりな言い方だねぇ。あんたのとこの狐は大丈夫だってかい」と茶化す。
「さぁ、どうかしら。でも順当に行けば、三回戦で藍とあなたが当たる。その時に藍が勝てば、認めてくれるかしら?」
「おーおー認めてやるさ。狐だろうが狸だろうが相手になってやるよ」
「まぁ、何にせよ……」
――洩矢諏訪子。
――紅美鈴。
――寅丸星。
――物部布都。
「青竜の戦いはこれで一段落。続いて、白虎の組み合わせは……」
――西行寺幽々子、対、少名針妙丸。
――アリス・マーガトロイド、対、伊吹萃香。
――村紗水蜜、対、八雲藍。
――河城にとり、対、二ッ岩マミゾウ。
「堪らないわねぇ。強者が弱者を押し潰すか。それとも楽しい番狂わせが起こるか」
紫は自らが生み出したスキマから光をそそいでいる月を見る。
「私はただ、見届けるだけ。そうでしょう?」
そう言って紫は後ろにいる一人の巫女と目を合わせた。
妖怪と目が合ってしまった事に博麗霊夢は渋い顔をしていた。
「お、霊夢。やっと戻ってきたか。もう布都と空の試合まで終わっちゃったぞ」
未だ同じ場所である最上段の手すりに肘掛けている幽香と共にいる、その一段下の席に座っている魔理沙が霊夢に向かって手を振った。
「知ってるわよ。控室に、にとり達河童が造ったモニターがあったから、そこで見てたわ。もう藍や針妙丸とかと話すことも無くなったから戻ってきただけ」
「なんだ、そうだったのか。ま、見てたんなら話は早い。じゃあそれを踏まえて今から予想しようぜ」
「は?」
魔理沙につられるように幽香を置いて隣に座った霊夢は戸惑う。
「予想って……何を……?」
「優勝者だよ優勝者。思ったよりは楽しめそうだからな。優勝者の一人や二人、予想しないか?」
「……賭けは禁止。紫に怒られるわよ」
「賭けなければいいんだろ? まぁ、幽々子の試合が始まるまでの時間つぶしだよ」
「そう。じゃあとりあえずあなたから言いなさいよ」
「おっ、そうか? 私はなぁ……」
霊夢が話に乗った事に魔理沙は楽しく思いながら問いに答える。
「まぁ、周りの妖怪達と同じ本命も本命であれだけど、やっぱり勇儀だな。ほぼ弾幕禁止のルール。美鈴で文相手にあれだけ優勢になれたんだ。地底の妖怪でなくとも、これは期待してしまうな」
「私も大体同じ理由だけど……。私は萃香の方を推薦するわ」
「おっ、そうなのか?」
「一番可能性がある決勝戦は萃香と勇儀だと思うけど、萃香は決勝以外、全力で楽しむとは思わないのよ」
「? どういうことだよ。あいつは鬼だぞ?」
「そうなんだけど……。まだ決まったわけではないけど……勇儀と戦かもしれない決勝以外は極力消耗しないように戦うと思うわ。まぁ、他の奴らじゃなくて勇儀と比べての話だけどね。逆に勇儀は全ての戦いを平等に楽しむと思うのよ。相手の攻撃を全部受け、下手すれば自分にハンデまで付けるかもしれない。地霊殿の時もそうだったし」
「なるほど。その差が決勝で別れるってわけか。それで――」
魔理沙は限界まで身体を上に反り、逆さに幽香を見る。
「お前は誰だと予想する?」
「そうね……。じゃあ……霊夢と同じ小さい鬼と……八雲紫の式神ね」
八雲藍が優勝候補として上げられた事に魔理沙達は反応した。
「藍が? まぁ可能性がゼロではないと思うけど……何で?」
幽香は視線を闘技場に向ける。
「あの子も……とっても戦いを楽しみにしているようだった。あの闘技場で集まった時に偶然目が合ったけど、凄い殺意を隠してたわ。思わず入りたくなるくらいにね」
「あっ、そういえば藍、霊夢の所で戦ってたな。実際、どうだったんだ?」
「……手こずったわ。弾幕を封じるならより私の方が優位、とか思ってたけど、そうでもなかった」
「……の割には、萃香が優勝すると予想するんだな」
「それはそれ、これはこれよ。強いて言うなら……『大穴』ね」
先に言われてしまった、と言いたげに魔理沙は苦笑した。
「なるほど、藍ね。ちなみに私にとっての大穴は、ずばり輝夜だな」
「輝夜? 思い切ったわね」
「そもそもこういう大会に出る事自体十分驚きだけど。それこそあいつにとっては遊びでしかなかった弾幕勝負でしか戦った事がないからな。文も『あいつのスペルカードが恐ろしかった』とか言ってたからな。優勝云々というよりは、どういう戦いをするのかが楽しみでしょうがないな」
それで。と言いながら魔理沙は再び身体を反って幽香の方に向く。
「お前にとっての大穴は?」
「さぁ。どれもこれも、どんな戦い方をするのか知らないから、いまいち予想しようがないわ」
「あんた、太陽の畑に引きこもってるからね」と霊夢が言う最中、魔理沙は幽香の目を見ていた。
彼女の視線をおおよそで追っていくと、そこには観客として自分達と同じく休憩中の雑談を交わしている命連寺の集団がいた。
――白蓮……いや、星か? そうか、橙とあいつの戦いを見たからな。確かにびっくりだったぜ、宝塔だけがあいつの強みだと私も思ってたし。
「ま、十中八九、私達が言った誰かだな」
魔理沙はそう言って、次の試合が始まるまで建物中をよく観察して周ろうと思い、立ち上がった。
私の優勝予想はゆゆさま。大穴は藍しゃまです。
次の試合が楽しみです。
嫌な予感しかしない
その割に明るくて仲がいいあたりに異界的だが卑近的な狂気を感じる
彼女らにはそれが正気なんだろうけど