霊夢が眠っていた。
いつもと違う脱力しきった顔で。いつもいる縁側で。名前を呼び掛けてみても返事はない。
観察してみる。
いつもと同じ腋の出た服を着ているので寒そうだ。口からはよだれが垂れている。床板に頭が直接当たっているのに、痛くはないのか。
手を伸ばしてみる。ハンカチでそっとよだれを拭い、脱いだコートをかけた。
目が覚める様子はない。
音を立てないよう横へ座り、頭に触れた。
艶やかに輝く黒い髪。健康的で美しい、白すぎることのない肌。まるで紅をさしているような美しく赤い唇。小さく整った鼻。そして今は瞼に隠されている、真実を見据えるような栗色の瞳。
それが、今、触れられる距離にある。
迂闊に触れると壊れてしまいそうな危うさを感じつつも、恐る恐る、触れた。
壊れない。
指先で髪を掬い上げる。さらさらと指の間を抜けて落ちていく。
何度か、繰り返してみた。
何度でも、落ちていった。
それが、私と霊夢の関係を表しているように感じられて、寂しくなった。
霊夢は自由だ。いつも、自由で。近くなったと思ったら遠くにいて、離れていると思えば隣にいる。するすると指の間を抜け落ちる。
前に、私は霊夢が好きだった。恋していた。抱き合いたかった。頭を撫でたかった。キスをしたかった。
霊夢はいつも同じところにいた。近付くことはできなかった。
今は、私は霊夢が好きなのか。わからない。家のテーブルに飾りたいと思う。首をしめて殺したいと思う。殺されたいと思う。
霊夢はやっぱりいつも同じところにいた。やっぱり近付くことはできなかった。
首に触れかけて躊躇する。パッと手を離した。手を見つめる。
触れたら戻れないよ。
そう聞こえた気がした。
瞳をつむり、首に、手を、かけた。
優しく、触れるだけ。
両手で、軽く。
「れいむ」
名前を呼ぶ。誰にも聞こえないように、口のなかで転がすように。
とくとくと、血が流れるのを感じながら顔を覗き込んだ。
白すぎない、白い肌。薄紅の頬。栗色の虹彩。
反射的に手を離す。霊夢は、起きていた?いつから。
「ねえ、あんたは私が嫌いなの」
それは、違う。
「あんたは私が憎いの」
そんなことは、ない。
「あんたはどうして首をしめようとしていたの」
ごめんなさい。
「あんたはどうして」
悲しそうな顔をするの?
そう問われた。答えは、持っていない。
うつむき首を横に振ってわからないのだと示す。頬に何かが触れた。暖かい、指。顔を上げる。
「教えて?」
口から言葉がこぼれ出す。
霊夢が大好きだったということ
今は好きでないということ
霊夢を部屋に飾りたいということ
霊夢を殺したかったこと
殺されたかったこと
全部、心の奥まで見透かされるような目を前に、全てを吐き出した。
霊夢は相づちを打つのでもなく、ただただ静かに聞いていた。
全てを言い終えたとき、霊夢の手がこちらへと伸びてきた。
首に触れた。
「殺されたい?」
無言で頷く。
「ごめんね。それはできないわ」
ゆっくりと、頷く。
「あなたの気持ちは受け取ったわ。今日は帰って、眠りなさい」
コートを返され、ポンと背中を押された。そのままの勢いで、飛ぶ。
「また、来るといいわ」
涙が流れ出した。なぜだかわからなかった。速度をあげて、飛んで、飛んだ。
空は曇り、視界は薄暗かった。
いつもと違う脱力しきった顔で。いつもいる縁側で。名前を呼び掛けてみても返事はない。
観察してみる。
いつもと同じ腋の出た服を着ているので寒そうだ。口からはよだれが垂れている。床板に頭が直接当たっているのに、痛くはないのか。
手を伸ばしてみる。ハンカチでそっとよだれを拭い、脱いだコートをかけた。
目が覚める様子はない。
音を立てないよう横へ座り、頭に触れた。
艶やかに輝く黒い髪。健康的で美しい、白すぎることのない肌。まるで紅をさしているような美しく赤い唇。小さく整った鼻。そして今は瞼に隠されている、真実を見据えるような栗色の瞳。
それが、今、触れられる距離にある。
迂闊に触れると壊れてしまいそうな危うさを感じつつも、恐る恐る、触れた。
壊れない。
指先で髪を掬い上げる。さらさらと指の間を抜けて落ちていく。
何度か、繰り返してみた。
何度でも、落ちていった。
それが、私と霊夢の関係を表しているように感じられて、寂しくなった。
霊夢は自由だ。いつも、自由で。近くなったと思ったら遠くにいて、離れていると思えば隣にいる。するすると指の間を抜け落ちる。
前に、私は霊夢が好きだった。恋していた。抱き合いたかった。頭を撫でたかった。キスをしたかった。
霊夢はいつも同じところにいた。近付くことはできなかった。
今は、私は霊夢が好きなのか。わからない。家のテーブルに飾りたいと思う。首をしめて殺したいと思う。殺されたいと思う。
霊夢はやっぱりいつも同じところにいた。やっぱり近付くことはできなかった。
首に触れかけて躊躇する。パッと手を離した。手を見つめる。
触れたら戻れないよ。
そう聞こえた気がした。
瞳をつむり、首に、手を、かけた。
優しく、触れるだけ。
両手で、軽く。
「れいむ」
名前を呼ぶ。誰にも聞こえないように、口のなかで転がすように。
とくとくと、血が流れるのを感じながら顔を覗き込んだ。
白すぎない、白い肌。薄紅の頬。栗色の虹彩。
反射的に手を離す。霊夢は、起きていた?いつから。
「ねえ、あんたは私が嫌いなの」
それは、違う。
「あんたは私が憎いの」
そんなことは、ない。
「あんたはどうして首をしめようとしていたの」
ごめんなさい。
「あんたはどうして」
悲しそうな顔をするの?
そう問われた。答えは、持っていない。
うつむき首を横に振ってわからないのだと示す。頬に何かが触れた。暖かい、指。顔を上げる。
「教えて?」
口から言葉がこぼれ出す。
霊夢が大好きだったということ
今は好きでないということ
霊夢を部屋に飾りたいということ
霊夢を殺したかったこと
殺されたかったこと
全部、心の奥まで見透かされるような目を前に、全てを吐き出した。
霊夢は相づちを打つのでもなく、ただただ静かに聞いていた。
全てを言い終えたとき、霊夢の手がこちらへと伸びてきた。
首に触れた。
「殺されたい?」
無言で頷く。
「ごめんね。それはできないわ」
ゆっくりと、頷く。
「あなたの気持ちは受け取ったわ。今日は帰って、眠りなさい」
コートを返され、ポンと背中を押された。そのままの勢いで、飛ぶ。
「また、来るといいわ」
涙が流れ出した。なぜだかわからなかった。速度をあげて、飛んで、飛んだ。
空は曇り、視界は薄暗かった。
スナック感覚でよめた
またお願いします。
いいんだ作者が意図した相手じゃなくても・・・