Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

鴉の願いは狐と一緒

2010/07/08 04:22:44
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 夜空に輝く天の川。
 今日は七夕、七月七日。
 彦星と織姫は、あぁ再会を楽しめているだろうか。



 ――そこまで考え、射命丸文は頭をぶんぶか横に振った。

 余波で、両手に持つ猪口も揺れる。
 ぷっくりとした頬は赤く染まっていた。
 誰かに見られやしないかと、咄嗟に俯く文。



 揺らめく小さな波紋が映すのは、上気する文と、もうヒトリ。

「――ら、藍!?」
「うん、久しぶりだな、文」
「こんばんわでございますわ!」

 文の不可思議な挨拶に、藍が首を傾けた。

「よくわからないけど……ともかく、いい夜だ。彦星と織姫も楽しんでいるに違いない」
「ぶ!? い、いきなり変なこと言わないでよ! 愉しむだなんて、はしたない!」
「変なこと……? いた、痛い、痛いぞ文!?」

 よくわからない――思いつつ、両手で頭を守る藍。
 若干腰を曲げたため、文の瞳に尻尾が映る。
 金色の、もふもふとした、尻尾。

 その数は、三本だった。



 鬼と天狗が仕切る山。
 其処で今、七夕を祝う大宴会が行われている。
 驚くべきことに、行事にかこつけて宴会をしているだけではなかった。

 いや、各々、宴会は宴会で楽しんでいるのだが。

「えっと……叩いてごめん」
「いや、うん、まぁ。なんで怒ったんだ?」
「あー! そー言えば! どうして、貴女が此処にいるのっ?」

 唐突な大声に目を回しながらも、藍が応えを返す。

「耳が……」
「あ、や、や、ごめんなさい」
「……うん、もう大丈夫だ。んっと、紫様が呼ばれてな」

 ぴっと人差し指を立て、説明が続けられる。
 如何に紫様――藍の主人である八雲紫が他の仕事を迅速にこなし、山に赴いたか。
 美しく賢く力強く魅力溢れる‘妖怪の賢者‘八雲紫の素晴らしさが、鼻高々と語られた。むふー。

 ――要約すると、藍は紫に連れられてきたのであった。以上。

 鬼は、数いる妖怪の中でも、一二を争う‘強さ‘を持つ。
 こと腕力に限れば、種族平均は随一であろう。
 故に、他の妖怪たちにも畏れられていた。

 そんな鬼に一目を置かれる八雲紫と言う妖怪は、幼い文にも、確かな‘強さ‘と不可思議な魅力を感じさせる。

「だからな、紫様は凄いんだ。
 時々、私にはよくわからない行為を為されるが、何か意味があってのことだろう。
 そうそう、特にアブラゲの目利きは凄いぞ、なんたって私よりも……って、聞いているか、文?」

 だが、文は全く別のことに心を奪われていた。

 豊かな尻尾だと思っていた。
 気付いた時に、息をのんだ。
 それから、言葉を探していた。

 結局、何も浮かばないまま呼び声をかけられて、文は事実だけを口にする――。

「髪、伸ばしたんだ……」

 背にかかる金色の髪は、尻尾と同じく、とても、とても柔らかそうに見えた。

 頬を掻く藍。
 くすぐったそうに、嬉しそうに。
 んぅ、と一つ、可愛らしい空咳を打ち、笑む。

「うん。
 少しでも、紫様に近づきたいと思って。
 前に会った時は短かったもんな。……可笑しいかな?」

 くるりと回る。
 鼻を掠める髪は、やはり柔らかかった。
 ちりりと何処かを焦がす何かは薄れ、文も、笑った。

 ――微笑みながら、浮かんだ言葉を、素直に伝える。

「うぅん。似合ってるわ」
「ありがとう」
「ん……」

 返される笑顔に、再度、文の何処かが飛び跳ねた――。



 暫しの間。



「……そうだ。
 文、お前はもう願いを書いたか?
 もしまだなら、そら、あっちで天魔殿が配っているぞ」

 流れた時間が文にはわからなかったが、ともかく、先に声を発したのは藍だった。

「天魔様は私たちの頭領様。
 貰ってない訳ないじゃない。
 そう言う貴女はもう書けたの?」

 自身にも漠然としていて掴めない感情を瞳に込め、文は首を傾ける。

「怖いから睨むな。
 ん、普段は全く怖くないんだが、何故だか今は寒気が、うむむ?
 あぁいや、ともかく――勿論、書いたぞ。一緒に吊ろうと思って、声をかけたんだから」

 長い袖からするりと記した物を取り出して、藍が笑む。

「ふーん……。
 なんて書いたの?
 まぁ、聞かなくても予想はつくけど」

 どきどき。

「『紫様に近づきたい』!」

 ちりちり。

「わかってたけど! わかってたわよ!?」

 ぽかぽか。

「いた、痛い、痛いぞ文!?
 手ならともかく、木はほんとに痛い!
 と言うか、願い事を書いた大事な木簡で殴るなぁ!」

 ――言いつつ、防ぐために藍が構えたのも、同じものだった。

 しかし、差異がある。その本数だ。

 右手に一つ。
 左手にも一つ。
 文が振りおろした一撃を、挟んで受けた。

「え? なんで二つ持ってるの?」
「願い事を悩んでいたら、天魔殿がくれたんだ」
「意味あるのかしら……。でも、天魔様が仰られるのなら……」

 ぶつぶつ。

 呟いていると、抜き取られる感触。
 すぽっと木簡が奪われていた。
 勿論、藍にだ。

 文は目を瞬かせる。

「で、お前はなんて書いたんだ?」

 問いつつも木簡を見つめようとする藍。
 しかし、その瞳に文字は映らなかった。
 美しい夜空が、視界を覆う。

 つまり、藍は仰け反り、吹っ飛んでいたのであった。

「見るなぁぁぁぁぁ!」

 文、渾身の体当たり。
 彼女は天狗の中でも若輩者だ。
 だが、‘最速‘と自称する片鱗は、この頃から見受けられていたと言う。



 肩で息をしつつ、文は、くるりと一回転して地に足をつける藍に、叫ぶ。

「乙女の秘密は簡単に見ていいもんじゃないのよ!」
「私も乙女なんだけど……」
「知ってるわよ! 乙女じゃなかったら驚きだわ!」
「……なんだか段々腹が立ってきたぞ」
「た、たつですって!? わ、わ、なによ、そんなにじり寄って、い、いやー! 初めてが外はいやー!」

 度重なる訳のわからない横暴に、藍の堪忍袋の緒も切れた。
 文は文で、割と真剣に嫌がっている。
 と言う訳で、お約束――。





 ――わーわーきゃーきゃーもみもみくちゃくちゃ。





 互いに力尽きるまでじゃれ合った末、文と藍は、肩を合わせて地面にへたれこむ。

「なんだか、どっと疲れた……」
「……えと、もう、たってない?」
「うん。発散したから、大丈夫だ」

 何時の間に!?――振り向く文。

 ぺち、と何かにぶつかった。
 額を擦りながら、片目を開く。
 滲んだ視界に映るのは、木簡だった。

 照れを帯びた声で、藍が言う。

「私も教えるから。な?」

 優しい響き。
 関心を持たれている事実。
 二つの事柄は、けれど、跳ねる何処かにかき消された。



 文の瞳に入った文字は、藍の悩んだもう一つの悩みとは――『もっと仲良くなりたい』。



「私は、ほら、あまりこっちに来れないじゃないか」

 わかっている。

「遊ぶ時間も短いし……。
 修業修行で、正直、その、友達も多くないんだ。
 だから、同じ年頃の、お前や、鬼の童……瀬堰と、もっと……」

 自身の想いと藍の想いが、どこか違うものだと、わかっている。





 わかってはいるが、それでも、文は思わずにいられなかった――

「もっと、仲良くなりたい」

 ――私たちの願いが、天に届きますように、と。





 緩やかな、少なくとも文が緩やかに感じた時間は、空気を震わせる絶叫により、動き出した。

「あー!
 主ら、わらわを差し置いて何を戯れておる!
 今宵は我ら鬼が主催ぞ! あ、いや、恩を着せようとかではなく、いやいや、そもそも別にわらわは!?」

 人差し指を向け、ぷるぷると肩を震わせる子鬼――文と藍の共通の友達で、名を坂上瀬堰と言う――の登場に、二名は顔を見合わせる。

 藍が苦笑する。
 文も、合わせるように笑った。
 一方はさっと、もう一方は少しゆっくりと、立ち上がる。

「な、何を笑っておる!?
 文っ、その無礼者を叩き伏せるのじゃ!
 って、違う、違うぞ文! わ、わ、何故藍もわらわの腕を掴む!?」

 喧しくも嬉しそうに騒ぐ友達を挟み、文と藍は歩を進めた。

「それじゃあ瀬堰様、木簡を吊るしに参りましょう」
「瀬堰、ちゃんと書いているか? 字を間違えてはいないか?」
「当たり前――って、わらわを呼ぶ時は『御前』を後ろにつけるのじゃーっ!」



 歩む最中、藍が文へと耳打ちする。

「なぁ、結局お前はなんて書いたんだ?」



 少しの間、考えて、文はちろりと舌を出した。

「えへへ、私は、教えるなんて言ってないもん」



 文が浮かべた満面の笑みに、してやられたと、藍は肩を竦めるのだった――。






                      <幕>







《数世紀後、つまりは現在》




「七夕の短冊?
 書いてもいいけど、叶わなかったしねぇ。
 それに、彦星きゅんと織姫たんも久々のデートでずっこんばっこはがぁぁぁ!?」



《どうしてこうなった。でも、そんなあややが僕は好きです》
・大好きです。お読み頂きありがとうございます。

・むっつりだった文と、素直にゆかりんを慕っていた藍様、そして、七夕のお話です。
・旧暦だと七夕は今の八月頃だそうですね。べ、別に間に合わなかった言い訳じゃ(ry。
・現在ベースのプロットもあったのですが、此方を採用しました。
・むっつりな文を供給したかった。需要は私。

・オリキャラの瀬堰嬢は二回目の登場ですね。一回目は名前のみで悪口言われ放題と言う境遇です。

・因みに、萃香は前日からでっかいテルテル坊主状態で、彼女を勇儀が持ち上げて、その二名にゆかりんは隙間から酒を流しこむお役目をしていました。

いじょ
道標
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
オレも好きです。
2.名前が無い程度の能力削除
ボクも好きです
3.名前が無い程度の能力削除
私も好きです。
ぜひとも瀬堰嬢で一本お願いします!
4.名前が無い程度の能力削除
アタシも好きです
このらんあやコンビ(と瀬堰御前)と一緒にお酒が飲みたいなぁ。
5.奇声を発する程度の能力削除
私も好きです
6.名前が無い程度の能力削除
自分も好きです。
ホントにこの2人の空気が大好きだ