Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

花火

2010/04/05 20:27:12
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その日も、ソイツはやってきた。


「よう、霊夢。茶を飲みに来てやったぞ」
「・・・また魔理沙か」


風が気持ちいい、5月中旬。
青々とした葉が風で揺れる。
一層強い風を巻き起こして、霧雨魔理沙は境内に降り立った。

舞い散る青葉を横目に、神社の巫女である博麗霊夢は、あらかじめ淹れておいた茶を境内に置いた。
いつもコイツはこの時間きっかりに来る。


「飛んできて喉が渇いたからな。早速飲ませてもらうぜっと・・・」


歩きながらブツクサ言いつつ、境内にドカッと腰を下ろす。
箒をたてかけると、湯呑の茶を喉を鳴らして飲み始めた。

ゴクリゴクリと言う音を、ため息をつきながら見守る霊夢。
一息で飲み干すと魔理沙は、オヤジ臭くぷはぁと息をついた。


「いつ飲んでもここの茶は美味いな!温いけど!」
「はいはい」


温くしているのは誰のせいだと思っている。
魔理沙がネコ舌でなければ熱々の淹れたてを出すに決まっているではないか。


「で、今日は何の用?」
「別に用なんかないぜ。いつも通りだ」
「そ」


興味なさげに聞き返す霊夢。
無関心な態度だが、いつものことなので魔理沙は気にしない。


「今日はあの話をしてやるよ!えっと・・・妖怪の山でな?」
「・・・・・・」


今日も今日とて、霊夢は魔理沙の話を聞き流す。
気にせず魔理沙は大いに語る。

変わり映えの無い風景。
いつも通りの姿が、なんとも殺風景で刺激が無いものなのか。
それを、平和ボケした脳みそで考えながら、霊夢は熱い茶をすすった。






「そんな感じでさ、すっげー綺麗なんだ。ここからじゃ見えにくいだろうしさ、今度見せてやるよ」
「またその話なの?」
「だって、ホントに綺麗なんだって!里にもあんな凄い花火職人がいるなんて知らなかったしさ!」
「・・・ま、私がここから離れるかは微妙なところだけど」
「だから、いつかここで打ち上げてやるって!私特製の流星花火をな!」


ニシシと笑う魔理沙。
最近彼女は里の花火の話をする。
夏にでも見せてやると張り切っている。
霊夢はそれを普段の調子で聞いていた。


「じゃあ今日はもう帰るかな!大事な実験もあるし!」

そういうと、魔理沙はおもむろに立ちあがった。
魔理沙の背後に夕焼けが映る。
眩しさを遮る魔理沙が、黒い影に見えた。


「今日は早いのね」
「夕飯を御馳走されてやりたいとこだが、準備に時間がかかるからな」
「まぁ、どうでもいいわ」


霊夢がシッシッと手を振るのを見て、魔理沙は苦笑する。
いつも霊夢は話し半分。興味も示さない。
でも、聞いてくれる。
受け入れてくれる。
そんな友人だから話しに来るのだ。


「じゃあ、また明日くるぜ」
「はいはい」


気の無い返事を聞いてから、魔理沙は飛び立った。
霊夢は、夕日の中に溶けていく魔理沙を、眠そうな目で見ていた。
魔理沙が見えなくなってから、霊夢は湯呑の片づけに入った。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





翌日のことだった。
アイツが来る時間に、別の客が来た。


「ごきげんよう霊夢」
「あら、珍しいわね」


人形遣いのアリス・マーガトロイド。
今日もお供の人形と一緒だった。

アリスはスタスタと近寄ってきて、縁側に腰かけた。
霊夢は魔理沙用に淹れた茶を、アリスに差し出す。


「ぬるいわね」
「文句言うなら飲むな」


苦言を気にせず、澄ました顔で茶をすするアリス。
霊夢はボーっと空を見上げていた。


「そうそう、今日は伝えなきゃいけないことがあるの」
「・・・」


アリスの切り出しに反応を示さない霊夢。
そんな霊夢を一瞥してから、アリスは語りだす。


「今日は、魔理沙は来ないわ」
「あら、そうなの?」
「そうよ。これからもずっと来ないわ」


霊夢は眉ひとつ動かさず、風に流れる雲を見ていた。
アリスは淡々と、事実のみを告げる。


「魔理沙は死んだわ」


そよ風が吹く。
今日の風は気持ちが良い。
肌になめらかに纏わりつく5月の風は、いつまでも浴びていたい気分にさせる。


「昨日の実験中に死んだわ。バカでかい花火でも作っていたみたいでね。魔理沙も家も跡形もなく消し飛んでいたわ」

「・・・・・・そう」


霊夢は変わらない。
その姿を見てから、アリスは一つため息をついた。


「・・・じゃ、伝えに来ただけだし、帰るわね」
「あら、早いのね」
「別に、今日は暇じゃないの。でもあなたには教えておかなきゃでしょ?」
「どうでもいいわ」


冷めた茶をゴクリと飲み干し、アリスは飛び去った。
その姿を見ながら、霊夢は寝ぼけた頭で考えた。


そっか・・・死んだのか


そして、昨日の魔理沙の姿を思い出した。
それだけだった。
そのまま、霊夢は普段の生活に戻って行った。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





さらに翌日のことだった。


霊夢が目を覚ましたのは、普段よりも2時間ほど過ぎたころだった。
頭をポリポリと掻きながら時計を見て、霊夢はすぐに台所にたった。
お湯を沸かす間に着替える。
髪を整える時間が無いが、それは寝過ごした自分が悪い。仕方がない。

お湯が湧いたことを耳で確認してから、霊夢は慣れた手つきで茶を淹れた。
二つの湯呑の、片方にだけ。


もう一つは、アイツが来てから淹れるのだ。
私は熱い茶が好きだから。


最低限の身だしなみを整え終えたところで、霊夢は縁側に移動した。

いつも通り、温くなり始めた茶を用意した。
いつも通り、空っぽの自分用の湯呑を用意した。
いつも通り、熱い茶の入った急須を用意した。

普段通り、霊夢は空を見上げる。
今日は風が少なく、小さい雲がゆっくりと南に流れていく。
それを眺めながら、霊夢は待った。

待ち続けた。



あ、そうか


一時間ほどして、霊夢は気がついた。


そうだった、アイツは死んだんだった。





仕方なしに、冷めきって冷たい茶をすすり始めた。
冷たくて不味い。
熱々の茶が好きなのに。


しかも、なんだ。
しょっぱい。
しょっぱい緑茶なんてあっていいはずがないじゃないか。
こんな不味い茶など飲めたもんじゃない。



「・・・何をしているの?」


顔を上げると、そこにはアリスがいた。
呆れ顔で、霊夢を見つめている。

スタスタを近づき、昨日の調子で縁側に腰かけた。
霊夢はそれを見ることなく、ただ茶をすすり続ける。


「・・・また温い茶を飲んでるの?」

「・・・私は・・・熱い・・・ほうが好き」

「なら、なんで冷めたのを用意するのよ」

「アイツが・・・・・・猫舌なの」

「・・・なるほどね。あなたが飲んでいるのは魔理沙の分かしら」

「・・・・・・」

「ねぇ、昨日は顔色一つ変えなかったじゃない?」

「・・・・・・」

「なんで今更泣いてるのよ」


霊夢は、地面を見つめたまま泣いていた。
ほろりほろりと、音も無く涙があふれ出す。
それが顎から垂れ落ちて、湯呑の中に染みていた。

ぽたり ぽたり

霊夢は相変わらずの無表情。
顔色一つ変えていない。
だが。涙だけはほろほろと出てきた。


「哀しいの?」
「わからない」

「苦しいの?」
「わからない」

「なぜ泣いているの?」
「わからない・・・けど」
「けど?」


「もう、温いお茶を入れなくていいのかって思ったら・・・出てきたの」

「・・・そう」


言うとアリスは、霊夢から湯呑をひったくった。
霊夢が驚いた顔でそれを見る。
アリスは霊夢から声が上がる前に、中身をゴクゴクと飲み干した。


「・・・不味い。しょっぱい」
「・・・・・・なんで、飲んだの?」

「別に、なんとなくよ」
「・・・そう」


霊夢は空を見上げた。
相変わらず涙を流したまま。

空には雲が流れていた。
その向こうに星が煌めいているのだろう。
そう考えたら、溢れる勢いが強まった。


「そうね、もう淹れられなくなるのが寂しいの?」

アリスは言った。
アリスも、空を見ていた。

「なら、私が飲みに来るわ」


そう言って、アリスは微笑む。
空に向かって。


「・・・・・・来るの?」
「ええ、魔理沙とは違って、正確な時間にはこれないだろうけど」
「それだと、温いのは淹れられないわ」
「いいじゃない、冷たいのでも。まぁ、私は熱い淹れたてが好きなんだけどね」


霊夢はアリスを見る。
アリスも霊夢を見ていた。
アリスの優しい笑顔を見て、ようやく涙が止まった。


「・・・ねぇ、アリス」
「なに?」
「夏になったら、花火を見に行かない?」
「里のかしら?あれは綺麗なのよ」
「綺麗なんだ」
「そうよ。でもなんで突然?」


「・・・別に。ただ見たくなっただけよ」


霊夢は空を見たまま言った。



5月の風は、止んだ。
もうすぐ、梅雨が来るのだろう。


夏になったら、アイツが空で輝く気がする。
梅雨が明けるのが楽しみだ。






人間の儚さ、呆気無さを書いたつもりです。
この間、先輩の葬式に行ったんです。
まず死にそうにない、元気な人でした。

その人は、綺麗な顔で眠っていました。
でも、人形みたいに見えました。血色が無いんです。驚きです。
一生脳に焼きつくだろう表情です。

あのとき感じた空虚感が、皆様に伝われば成功です。
ほむら
http://magatoronlabo.web.fc2.com/index.html
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
なんともいえない気持ちになりました。きっと成功です。
寂しいなあ。
2.奇声を発する程度の能力削除
うーん、切ない…。
3.飛鳥削除
叔父が亡くなった時も、叔父がいつも座っていた縁側を見て、切なくなった気持ちを思い出しました。
4.椿削除
悲しいなぁ。
じいちゃんのこと思い出した……。
5.名前が無い程度の能力削除
温いお茶をいれなくてよくなった それで自覚するのが哀しく感じますね……
6.名前が無い程度の能力削除
ただただ切ない…

いつもいた人が生死に関わらず遠くに行くと虚しさがどっと押し寄せてくるんですよね

別れる瞬間じゃなくて違和感を凄く感じて泣きたくなる…


もう春なんですねぇ…
7.名前が無い程度の能力削除
ただただ切ない…

いつもいた人が生死に関わらず遠くに行くと虚しさがどっと押し寄せてくるんですよね

別れる瞬間じゃなくて違和感を凄く感じて泣きたくなる…


もう春なんですねぇ…
8.名前が無い程度の能力削除
うぅむ…ぐっと来るなぁ…
1ピース欠けた日常、とでもいうのかな…
9.名前が無い程度の能力削除
本文読んで切なくなり、タイトルでまた一層切なくなりました。
何かの作品で、人間の一生が花火に例えられてましたね。
一瞬で散ってしまうけど、何よりも華々しく輝く…と。
それを考えると、霊夢の次に泣くのは、アリスなんでしょうね…。
アリスと霊夢が絡むと寿命が必ずと言っていいほど関係してきて切ないなぁ…。
ともあれ、とても良い作品でした。
10.名前が無い程度の能力削除
フッと突然語られた魔理沙の死に「えっ」となってしまい
その後も淡々と語られる様子がまたなんとも……。
実際こうなってても可笑しくはなゐ世界ですよねぇ。起こり得そうで怖いというか。
これ他人事じゃないし。
現実でも十分起こりえるからそれがまた怖い。
そして切ない。
11.名前が無い程度の能力削除
おお・・うん、いいね。
短いのにずばっと心に来る。
12.名前が無い程度の能力削除
これは…切ない
霊夢のように、静かに涙を流してしまいました
13.クロスケ削除
なんでしょうか、この空虚感は。
とても苦しいのに、それを自覚できていない感じというか……
スクロールバーを下りきって『終』の文字を見た今でも、魔理沙の死を上手く飲み込めていません。
すぐそこの物陰からひょっこり現れて『実験成功!しっかし、霊夢も泣くことがあるんだな!?驚きだぜ!』とか言ってる魔理沙を期待してしまう自分がいるというか…… やりきれません。

人の気持ちなんて、本来は比べようの無いものですが……これ以上の空虚感を味わった上で、『楽しみ』と言える霊夢の強さを思うと、止まりかけていた涙がまたジワリと来て……。


長々と語ってしまいましたが、要するに『ほむらさんのやりたかった事は成功した』ということが言いたいのです。

面白い話……でもないし、楽しめた……というのも何か違う感じがしますが……なんというか、読んで良かったです。
14.Yuya削除
伝わりました