Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

とめる

2009/12/25 20:25:20
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【名前:マジックテープ】
【用途:とめられる】




「意味が判らない」

『道具の名前と用途が判る程度の能力』は、目の前の布きれに対しよくわからない答えを導き出した。
用途はわかるが使い方がわからない~、というパターンならまだしも今回僕の能力は全力で僕に喧嘩を売っている。
なんだとめられるって。どのとめるだ。漢字使え漢字。

「意味が判らないが、細かい仕掛けがある訳でもないだろうな」

いつもの様に日課の朝の散歩中に拾った物で、恐らく外からの漂着物だろう。
機械の類なら細心の注意を払うところだが、どう見てもただの布だ。弄くり回しても問題は無い…と思う。
拾った袋には二種類の布が数枚ずつ入れられていた。一方は片面に硬い繊維が、もう一方には同様に柔らかい繊維がビッシリと並んでいる。
硬い方の感触には覚えがある。それもごく最近に、どこかでこの感触を…。

「痛だだだだ」

試しに腕を擦ってみたが、白く傷が残っただけだった。
垢擦り用のヘチマに似ている気がしたのに。

「とめられる、とめられる、ね」

一つで使う物でなく、二つ三つで何かする物なのか。
種類が違うって事は、大抵その二つをどうにかして組み合わせて使う物だと相場は決まっている。
例えば重ねてみるとか。

「おお」

硬い面と柔らかい面を合わせると、その二枚はそのまま貼り付いた。
自然に剥がれる事はなさそうだが、剥がそうと思えば簡単に剥がせる。
よく観察すると硬い繊維はフック状に、柔らかい繊維は環状になっていた。
オナモミの実の要領で繊維同士が噛み合い、接する面積を広げる事で剥がれにくくしているようだ。

「『とめる』は『止める』か? 『止める』より『貼り合わす』の方が近そうだが…」

湯飲みを啜り、朝食のパンを一口かじりながら再び"マジックテープ"を弄る。
剥がす時に鳴る音が心地良い。

「…」

貼り合わす。剥がす。貼り合わす。剥がす。

「…ふふっ」

貼り合わす。剥がす。貼り合わす。剥が

「いい加減にしろっ」
「うごっ!?」

後頭部が爆発した。違う、後頭部で何かが爆発した。すごい痛い。
誰だ、強盗の類か、いやこんな店とも言えないような店に押し入る強盗なんて、まずい、すごい痛い。
頭を抱えて呻きながら机の裏を探るが"防犯ブザー"は無い。設置していないのだから当然だ。こんなギャグをやっている場合じゃない。
ちなみに、防犯ブザーとは外の世界の結界の事らしい。早苗さん曰く『押すとポリスが飛んできて敵を病院送りにしてくれる』ものだとか。
まずポリスというのが何者なのかがよくわからない。

「流石の私もこれはマジギレ寸前だぜ」

ひたすら心の防犯ブザー(イメージが曖昧)を連打していると、強盗犯は聞き慣れた声を発した。

「いいか香霖。私はマジギレ寸前だって言ったんだぞ」
「痛…死…助…!」
「救命阿?」
「僕の知り合いに強盗はいないぞ…誰だ…」
「バーグラーとは失礼極まりないぜ。私は誇り高いシーフだ」
「…準備中の札は出しておいた筈だけど、いつから居たんだい」

振り返ると僕に八卦炉を突き付けている魔理沙の姿。
その中心からは虹色の光が漏れ出して…あ、もしかしてこれ命の危機だ。

「いつから居た、だって…?」
「落ち着いて、落ち着いてください魔理沙さん」
「いいだろう教えてやる。朝から居たぜ、ずっとな」
「朝から…って、まだ昼にも…」

窓から差し込む斜陽が部屋を橙色に染めている。
日が傾くのが早くなると冬を感じるなぁ。

「…あれ?」

おかしいな、さっきまで朝食を食べながら…。

「なんか触りながらにへにへ笑ってる香霖を私に気付くまで8時間近く待った」

嫌な汗が流れる。

「ええと、つまり僕は死ぬのかい?」
「ああ、つまりお前は死ぬんだ」



35HIT
Damage 6787
Rate  47.7%
Limit   54%
Smash Attack



「本ッ当に申し訳ございませんでした」
「よし、許そう」
「許されるんですか! やったー!」
「なんか腹立たしいな、やっぱり許さん」
「やだー!」

快音に心奪われていた僕は魔理沙様の来訪に何時間も気付かず、マジックテープを弄り続けていたとのこと。
心優しい魔理沙様は何度声を掛けても気付かない僕をずっと待ち続け、時々湯呑みにお茶まで注いでくれていたらしい。
道理でいつまでもお茶が無くならない筈だ。伊吹椀なんて存在しなかった。
十割僕が悪い話でした。

「油には気を使ってくれよー? 一人暮しの野郎と年頃の女の子じゃその辺の意識全然違うからな」
「え!? いや、うん、ま、任せてください」

お詫びに晩飯を寄越せと要求する魔理沙様に野菜炒めを振る舞うべく台所に立つ。
既に大量の油をフライパンに敷いちゃったんだけど、これどうしよう。
その魔理沙様は机にぐてりと寝そべりながらマジックテープを眺めている。

「なぁ、これ何なんだー?」
「如何なさいましたか魔理沙様」
「それ気持ち悪いからやめろ」
「どうかしたかい?」
「これこれ」
「垢擦りだよ」
「ふーん?」

フライパンに火をかけながら食卓に目をやると、マジックテープで腕を擦る魔理沙の姿が見えた。
何でも試してみるのはいいが危険物を触らせちゃいけないタイプだなぁ、などと考えながら肉と野菜を油に放り込む。

「香霖、もしかして今、私騙されてないか」
「魔理沙は面白いなぁ」

眼鏡が吹き飛んで野菜炒めに華を添えた。

「そんなに後頭部ばかり狙って撃つと髪が不安になるからやめてくれないか」
「眼鏡溶けるぞ」
「それは【マジックテープ】。用途は【とめられる】だそうだ」
「泊める?」
「多分『止める』」
「飲める?」
「喉に詰まるよ」
「ザメル?」
「それはメルザ・ウン・カノーネ」
「ちょっと違うんだぜ?」

繰り広げられるよくわからない問答。
そうだ、魔理沙にもマジックテープの使い道を考えて貰おう。
僕はあまり頭が柔らかい方ではないらしいし、若者の新鮮な意見が必要だ。

「まさかそれが、ただ貼り付くだけの物って事はないと思うんだ」
「べりべりー」
「多分止める、だとは言ったけどそうでない可能性もあるし。『それを使って何かをとめる』ものかもしれないし」
「べりりー」
「おい」
「例えば『停める』だとしよう。まぁ見ててみろ」

そう言うと一組のマジックテープで箒を挟むようにしながら貼り付け、右手でテープの片方の端を持った。
箒の柄を玄関の方に向けると、懐からカードを取り出し左手を掲げて決めポーズ、続いて高らかに宣言。

「スターダスト・レヴァリエー!」

べりり!
吹き飛ぶ箒、飛び散る玄関。

「あれ、おかしいな。外に箒を停めとく時に繋ぎ止められると思ったんだが、そこまで強くはくっつかないか」
「…ちょっと詳しくないんだけど、箒って外に置いておくと勝手に飛び始めるのかい?」
「そんな訳ないのぜ? 生き物じゃあるまいし」
「あと魔理沙。マジックテープが剥がれずに耐えてたら、魔理沙はとてもデンジャラスな態勢で箒と共に吹き飛んでたんだよ?」
「私の指の力は化け物か」
「…あぁ、すまん。忘れてくれ。あとせめて扉を元の場所に立てて置いてくれないか」
「真っ二つだぜ」
「上手く立てればなんとかなるだろう」

少し目を離している間にタマネギが少し焦げ付いてしまった。慌てて塩胡椒を振り適当にかき混ぜる。
箒にくっつく布きれに片手でしがみつきながら低空を高速でかっ飛ぶ魔理沙を想像した。ちょっと面白い。
それはともかく、『停める』は違うだろうが近いところを行っているんじゃないだろうか。
あんな大推力の箒ならともかく、日用品の、例えば何か…身に付ける…

「香霖香霖、こういうのは常識に囚われちゃいけないんだぜ。『富める』はどうだ」
「富める? …想像が付かないし、そもそも『富められる』なんて日本語は聞いたことがないが」
「常識に囚われるなって言ったばっかだろ? 『富むことができる』の変形だろ」
「ま、まぁ、色々と譲るとして、それを使ってどうやって富む?」
「前に霊夢んちのお守り見せて貰ったんだけどさ、あれの中身ってただの紙なんだよな」
「別にマジックテープを中に入れても御利益は無いと思うよ」
「言うなよー! 先に言うなよー!」

あれ? 今ちょっといい線行ってたような気がしてたけど、何だっけ…。
自分の脳味噌のボケっぷりに呆れつつ火を止め、大皿に野菜炒めを盛り小皿と深めのお椀、あと箸を探す。
ついでに生卵も取り出し食卓へ運ぶと、魔理沙はあーとかうーとか唸りながらテーブルに突っ伏していた。

「『泊める』だ…。旅の途中に人に見せれば誰でも泊めてくれる手形なんだ…」
「お待ち遠様。ご飯は無いけど勘弁してくれないかな」
「…卵は?」
「持ってきた。何にでも生卵をぶっかけるのは年頃の女の子的にはどうなのかな」
「卵は話が別だ、私の活力の源だぜ。いっただっきまーす!」

勢いよく起き上がってお椀に生卵をぶち込み野菜炒めと一緒にもすもす食べ始めた魔理沙を微妙な面持ちで眺め、自分も食事に取りかかる。
一口目から眼鏡に当たった。
結局マジックテープの使い道は思い付かなかったな。困ったことにこのマジックテープ、拾ったのは一袋どころでは済まない。
同じような小袋が幾つも落ちていただけでなく、長いままのものが二巻きほどゴトリと落ちていたのをつい拾って持ち帰ってしまった訳である。
使い道も思い浮かばず売れる当ても無い、おまけに嵩張るとあっては手元に置いておく理由もないのだが、なんだか捨てるにも勿体ない。

「魔理沙。このマジックテープ、まだ幾らでもあるんだけど欲しくないかい?」
「何に使うんだよ…」
「ですよねぇ」

しょうがない。物を捨てられない癖が身に付く前に、潔く手放そう。

「待つウサ!」

玄関の外から制止の声が響き渡った。
謎の人物はそのまま扉を蹴り破り、ドアは既に壊れていたため勢い余りうつ伏せに倒れ込んだ。

「ぎゅぶ!」
「食事中だぜ、後にしてくれ」

謎の人物(Mr.Tと仮称しよう)は鼻を押さえて立ち上がり、僕を指差す。
その顔は沈みきる寸前の夕日が逆光になり、よく見えない。

「その品物…、私に任せれば一週間、いや、二日で買い手を見つけてみせるウサ!」
「なんだってー!?」

とりあえず乗ってみる事にした。確かに興味深い話だ。

「どうするウサ…、君はここで私の話に乗ることも出来るし、みすみすチャンスを逃すことも自由だ!」
「…信用してもいいのかい?」
「これはビジネスウサ。信じる信じないは君に任せるウサよ」

いいだろう。どうせ原価は0、どう転ぼうと悪い方向には行くまい。
僕はこれから長い付き合いになるであろうMr.T(仮)に右手を差し出し名を名乗る。

「森近霖之助だ。道具屋を営んでいる」
「私はて…、いや、名乗る程の者ではないウサ」
「なぁ香霖、私の箒知らないか」

固く手が交わされた。しかし…。
Mr.T…、一体何者なんだ…。
















おはようございますこんにちはこんばんは略しておちんは! 守矢神社風祝・東風谷早苗でーす!
今日は12月25日そうすなわちクリスマス! 恋人達が絆を深め独り者は生卵に唐辛子を注射し投げつける聖なる日!
残念ながら私も彼氏なんていないのでエアガンの整備とかしてたんですけど、そしたらなんと!
プリズムリバー楽団聖夜LIVEのチケット! 神奈子様がですね、クリスマスプレゼントにくれたんです!
『壁に向かってブツブツ話しかけてるのがあんまりにも見てられないから、ほら、たまには羽を伸ばしてきな』って!
壁にブツブツとかちょっと何言ってるのかわかんないけど神奈子様からのプレゼント! 楽しみですよ!
あとこれ、おニューのお財布! あ、おニューなんて今時言わないか、えへへ。
こっちは諏訪子様からのプレゼントでして、押し売りの人から買ったらしいんです! まだ触ってないんですけどね!
さて、プリズムリバー楽団って聞いたことないんですけど、ここじゃ有名なバンドなんですって。ジャンル問わず何でも演奏するとか。
ところで早苗ちゃんちょっと急ぎ気味。実は開演時間ちょっと過ぎちゃってるんですよね!
無縁塚って言われても私こっちに来てそんなにあっちこっち行ったことないからわかんねーですよ! でも音が聞こえるしその辺に…。
ああん、もう曲始まってる! すいませーん入れてー!

「チケットを出すウサ」

はいはいチケットチケット…、あれ、どこに入れたっけ? 確か…あ、そうだ、出かけ際に諏訪子様が財布にチケット入れとくよーって。
ちょっと待ってくださいねーお財布ーお財布ー…あたっ。はいはいチケット…これですね。

「…どうぞ」


『…ふぅっ! 一曲目、ルナ姉を性的な目で見ないでくださいで演らして頂きましたどうも皆さんお集まり頂きありがとォォーッ!!』

ああっ、聞きそびれちゃった! でもあの喋ってるサンタコスのおねーさんは知ってますよ、チケットに映ってました! メルランさん!

『バンド紹介行かせて貰うわよォ! まずはゲストォ、ボーカルはミスティア・ローレラァァイ!!』
「今日は失明覚悟して貰うぜェェ!!」

わー!

『次はプリリバ楽団メインメンバー! ギター、ルナサァ・プリムムリヴァアアア!!』
「ぺこり。」ギュイイイイ

きゃー!

『続いて私、トランペットでメルラァン・プリズムリバァァァン!!』

ひゃー!

『そしてェ!! パーカスの魔術師、リリカ・プリズムリバァァアァ!! 今日は異国の楽器、マジックテープだァァ!!』
「裏打ちは任せろー!」バリバリ

やめて!!




【名前:マジックテープ】
【用途:止められる】

 
「ほらよ、買ってきたぜー」

投げ渡された皮手袋を見る。成る程、手首の部分にマジックテープが取り付けられている。

「止める、まで辿り着いてどうしてこの発想が出来なかったんだろうなぁ…」
「ま、一応在庫も捌けたんだろ? いいじゃないか」

数日前、Mr.Tに少しばかりのマジックテープを提供して暫くの後、今度は慧音先生が店を訪ねてきた。
通りかかったついでに寄っただけだったようだが、マジックテープに興味を持ったらしい。
靴や衣服に縫い付けるという案を出してくれたばかりか、竹林に住む腕の良い職人を紹介してくれた。
彼女に頼み試作したマジックテープ製品を試しに里へ売りに出てみたところ、予想以上に好評。
里では今、マジックテープ製品がちょっとした流行を引き起こしているらしい。魔理沙に頼んで買ってきてもらった手袋もそうだ。
僕自身は儲けにそこまで興味もなく、ある程度の値でマジックテープを彼女に引き取ってもらった。
『竹細工も最近あんまり流行らないし、自警団も頻繁に出来る事じゃないし、仕事が無くて困ってたんですよね…。
 なので、こうやって職人としての需要がまた出てきてくれるってのは本当ありがたいことですね、はい。ご飯も食べれるし…』
とは職人さんの談。
ちなみにあれからMr.Tからの連絡は無い。そんな事だろうと思って少ししかマジックテープを渡さなかったので特に問題は無いが。

「あぁ、本当だ。緩めて嵌めて、これで止めれば…」
「どうだ?」
「うん、これは中々」
「うしっ」
「?」
「ああいや、なんでもない」

紐要らずで、貼り合わせるだけなので子供でも使える。子供の視点で物を考えられるのは、流石先生といった所か。
ふと、指先に違和感を感じた。内側の縫い目が少しダマになってるのか?
よく見ればマジックテープも少し傾いて縫い付けられている。浮かび上がる一つの仮説。
魔理沙の指を見る。特に怪我をしているようには見えないが、はてさて。

「指、怪我とかしなかったかい?」
「香霖は私の指のパワーをどれだけ過大評価してるんだ…。ミシンくらい使えるぜ」
「よかった。ありがとう、魔理沙」
「…ん、………おあぁ!?」

忘れていた、今日はクリスマスなんだっけか。

マジックテープの下には、小さくM.Kの刺繍。
木製
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
流石魔理沙、とんでもない乙女度だww
2.ずわいがに削除
これはバリバリ異変の予感っ。

誤字報告
東風谷が東風屋になってます。
3.ぺ・四潤削除
>>一口目から眼鏡に当たった。
食ってたカレーうどんが飲み込んだ瞬間鼻の穴から一本出てきた。

早苗さん。私でよければ御一緒に初詣などいかがでしょうか?
4.名前が無い程度の能力削除
8時間近くマジックテープをべりべりやって遊んでる霖之助も霖之助だが、黙って待ち続けてた魔理沙もどうなんだw
あと眼鏡が入ったまま普通に調理を続けるなwついでに食べるなw
5.名前が無い程度の能力削除
眼鏡取り出せよwwww
6.名前が無い程度の能力削除
>伊吹椀なんて存在しなかった。
魔理沙が健気過ぎて生きるのがつらい。
2行目の「とめられる」でオチに見当が付いたのですが
「富められる」で財布に直行するかと思いきや正しい使い方でシメるとは…
7.名前が無い程度の能力削除
>>「許されるんですか! やったー!」
>>「なんか腹立たしいな、やっぱり許さん」
>>「やだー!」
バリバリの影に隠れてひっそり「梅雨明けてないじゃないすか!」ネタがw
8.名前が無い程度の能力削除
眼鏡の扱いがひどすぎるw
あとがきで正しい使用方法にホッとしたら乙女まりさだったぜ。
9.名前が無い程度の能力削除
マジックテープネタ見てると、普通に偉大な発明だって忘れそうになるから困るw
魔理沙GJと言わざるを得ない
10.名前が無い程度の能力削除
魔理沙が乙女すぎてもう

あと眼鏡は噴く

>ルナ姉を性的な目で見ないでください
是非聴いてみてぇwww