昔々あるところにレミリアさんという愛犬家がいました。
レミリアさんはとある会社の社長でしたが、
今では自分の屋敷で多くのわんこと共に悠々自適な隠居生活を送っていました。
ある日のことです。
レミリアさんが町内会の集まりに出ると、副会長の藍さんが話しかけてきました。
藍さんは町内きっての猫好きで、愛犬家のレミリアさんとは犬猿の仲でした。
「うちの橙はな……」
さっそく始まりました。
こうなるとレミリアさんも黙ってはいられません。
「ふん、うちの咲夜に比べれば……」
さっそく言い返します。
いつもならそんなやり取りが十数分続いた後、喧嘩別れに終わります。
しかし今日は違いました。
最後に藍さんが、
「で、どの犬が一番なんだ」
と聞いてしまったのです。
レミリアさんは考えます。
飼い犬はみんな可愛い。一番なんて選べるはずがない。
でも頭の片隅でほんの少し、でも仮にどうしても選ぶのなら……
と考えてしまったのです。
最初に思い浮かべたのは咲夜です。
咲夜は隠居してから飼い始めた瀟洒なわんこです。
朝レミリアさんを起こすことから始まり、新聞取りにお買い物と朝から晩まで大忙しです。
その働きっぷりは百人力ならぬ百犬力と言われるぐらいです。
「(あいつにはいつも苦労をかけてるな。
あいつが居てくれるおかげで私はどんなに助かっていることか)」
そんな風にレミリアさんは考えました。
「そうだな。どうしても一番をあげろというなら咲……」
「くぅ~ん」
咲夜だな、と言いかけたところで、どこからか悲しそうな鳴き声がしました。
その声を聞いてレミリアさんが思い浮かべたのは美鈴です。
美鈴はレミリアさんの家の門番犬です。
大変大きなわんこで、小柄なレミリアさんなら背中に乗せて走ることもできます。
レミリアさんが会社を立ち上げた時に飼い始め、雨の日も風の日も嵐の日も、
ずっとレミリアさんの家を守り続けてきました。
「(よく居眠りして咲夜に怒られてるようだが、それも愛嬌
あいつはよく家を守ってくれているよ)」
うんうんと頷くレミリアさん。
「やはり美……」
「くぅ~ん」
言い直そうかとしたところにまた鳴き声が聞こえてきました。
次に思い浮かべたのはパチュリーです。
パチュリーはレミリアさんの親友から預かったわんこです。
体が弱くレミリアさんの書斎から動こうとしません。
大変頭のいいわんこで、レミリアさんが書斎で悩み事をしていると
役に立つ本を選んでレミリアさんに差し出すのです。
そのおかげでレミリアさんは沢山の危機を脱してきました。
「(不愛想だがあいつのおかげで何度展望が開けたことか)」
レミリアさんは現役時代の出来事を思い出しました。
「やっぱりパチェ……」
「くぅ~」
また鳴き声です。
思い浮かべたのは小悪魔です。
小悪魔はパチュリーと一緒にレミリアさんのところに来たわんこです。
普段動かないパチュリーのために色々世話をしています。
レミリアさんはそんな子どものような、母親のような小悪魔を見て癒されることもありました。
「(だが待てよ。そのパチュリーを甲斐甲斐しく世話してやっているのは小悪魔じゃないか。
あの甲斐甲斐しさは見てて癒される)」
日頃の風景を微笑ましく思い出すレミリアさん。
「訂正、小悪……」
「わん! わん!」
今度は怒ったような鳴き声が聞こえてきました。
それで思い出したのはフランです。
フランはレミリアさんが5歳の頃からずっと一緒にいるわんこです。
レミリアさんが呼んでも近づいてきませんが、放っておくと勝手に膝の上に座ったり、布団に入ってきたりします。
レミリアさんはそんなフランを妹のように可愛がっていました。
「(若い頃はフランにご飯を食べさせる為にがむしゃらに働いたものだ。
思えば私はフランがいたから頑張れたのかもしれないな)」
昔まだ会社が軌道に乗らなかった時代、フランを抱きしめて寒さを凌いだことを思い出すレミリアさん。
「やはりフラ……」
「くぅん」
また鳴き声がしました。咲夜です。
とうとうレミリアさんの思考は堂々巡りを始めました。
やっぱり一番なんて選べるわけがないのです。
時間にすれば数分ですが、頭の中では百回以上想いが空回りしていました。
そして……
ぼんっ!
そしてとうとう頭の処理が追いつかず倒れてしまいました。
そのときです!
突然五匹のわんこが乱入してきました。
言わずと知れたレミリアさんちのわんこです。
パチュリーはレミリアさんの顔をペロペロ舐め始めました。
小悪魔もパチュリーの後ろで心配そうに見ています。
咲夜はどこからか濡れたタオルをくわえてきました。
美鈴はご主人様を守ろうと藍さんの前に立ちふさがっています。
フランなどは今にも飛びかかりそうなぐらい興奮しています。
みんな各々の方法でレミリアさんを助けようとしているのです。
それを見た藍さんはおもいました、自分達はなんと愚かだったのだろう、と。
藍さんも昔山で動けなくなったときに橙に助けられたことがありました。
二人ともペットを愛しペットに愛されているのは変わらないのです。
「今まですまなかった」
藍さんはそう言ってレミリアさんを持ち上げると、美鈴さんの背中に乗っけてあげました。
五匹はレミリアさんを家に連れて帰るとレミリアさんが目覚めるまでそばに居続けました。
次の日、レミリアさんは目を覚ますと何も言わず五匹を抱きしめたそうです。
「おお、お前のところの咲夜は賢いな」
「あなたの橙ちゃんだって可愛いじゃない」
これ以来仲良くなった二人はお互いのペットを誉めあうようになりましたとさ。
めでたしめでたし
素敵な作品でした