※注
このSSは続き物ではありません。完結ものです。
設定を前後のSSに引き継ぐというものでもありません。
あらすじ~外界にて、第七回東方シリーズ人気投票が盛大に催された。
ならばと、幻想郷内でもミスコンテストが行われることになったのだった。
人里に設けられた特設会場は、寒風吹きすさぶ屋外だというのに、押し寄せた観客の熱狂で早くもヒートアップしていた。
妖怪やその他の魑魅魍魎の類が、何の変哲もない人間と、至極平和に、平然と隣通しに並んでいる姿は、幻想郷といえどもなかなかお目にかかれる光景ではない。とにかくこの会場で、弱い人間に「悪さ」をしようとする強者の存在はいなかった。
上空を上白沢慧音や藤原妹紅が巡回していることや、八雲紫、八坂神奈子、西行寺幽々子といったそうそうたる面子が主催者、共催者となって会場に鎮座していることが、無言の強大な圧力になっていることも要因のひとつではあったが。
何より、コンテストに対する超えた強烈な熱望が、普段の種族の壁を越えて存在していたのだった。
いまだコンテストは始まっていない。故に、舞台の上には何者も居ない。
しかし、そのような事で観客の興奮はとめられやしなかった。
舞台の中央に、天井から白い幕がつり下げられていて、その幕には映写機の光が映し出されているからだ。
幕の画の中で、烏天狗の射命丸文が、マイクを持って叫ぶ。
「さあ、お待たせいたしました! 逢魔が時を迎えた今、第一回、オール幻想郷ミス・コンテストの開催時刻が着々と近づいて参りました!」
彼女は舞台裏の、道幅のかなり狭い廊下に立っていた。隣に立っている犬走椛とで、道幅を完全に占領してしまっている。
「ですがその前に。我々、文々。新聞が目をつけている有力候補にインタビューをしてみたいと思います!」
やや暗めの照明に照らされた椛が、上気した顔で文に語りかける。
「今回初めての試みの、幻想郷ミスコンテストですが。思ったよりも参加者が少なかったですね」
「はい。なにぶん初めての試みなので、様子見をする方々が多かった物と思われます」
「何より、勢力のあるグループなどからは、それぞれ一人くらいしか出場者が出ていないのが響いてますね」
「確かに、例えば紅魔館ですと、レミリア・スカーレット嬢ただひとりの出場、というような感じでした」文は腕を組み、神妙に頷いた。
「何々勢、と呼ばれる集団は、その集団そのものに対する一定の人気がありますからね。その人気を多重立候補で分散させたくなかったんでしょう」
椛は頷く。
「なるほど、今回のコンテストは、覆面審査員の評価に加え、会場の観客の人気投票も加味されるという特殊なものですからね。観客の人気を独占する、という戦略は確かに必要かもしれません」
「はい。未だに審査員の陣容が明らかになっていない今、なるべく取れるところから点を取っていくのが上策でしょうね」
「では、彼女たちはみな勝ちに来ていると考えて良いんですね」
「そういうことです。それでは、我々の目する最初の優勝候補者はこのかたです!」
そういった文は、おもむろに、一番近くにあるドアにノックを行った。
ドアが勢いよく開け放たれるも、部屋の中には一つの明かりも灯されて居ず、真っ暗であった。
カメラが暗闇に慣れると共に、レミリア・スカーレットが椅子に座っている姿が浮かび上がってきた。
会場にいる人間立ちは、カメラを通してさえ感じる圧倒的な威圧感に、多少落ち着きを取り戻しようだ。ほんの少しだけ騒ぎが小さくなる。
レミリアの着る、血塗られたウェディングドレスを連想させる真紅のドレスは、レミリアから普段の幼児性を取り去ることに成功していた。
しかし、文は臆することなくマイクを突き出す。
「レミリアさん、優勝の自信はいかがですか?」
「当然、あるわ。外界での人気投票では、紅魔館の一番人気をもぎ取った私が参加するんですもの」
ほくそ笑む吸血鬼。
「なるほど、それでは、紅魔館の皆さんから応援メッセージが届いています」
文がそういうと同時に、幕の左下に、新しく小さな画像が映し出される。
そこには、紅魔館の図書館をバックにして、美鈴、小悪魔、パチュリー、咲夜、フランドールといった面々が集合し、和気藹々に手をふる姿があった。
それぞれ、
「頑張ってください!」とか、
「おねーさまおみやげよろしくー」とか、皆たのしそうに喋っていた。
その画像には、端的に言って威厳は無い。
文は改めてレミリアに質問する。
「では、最後に会場にいる皆さんに一言お願いします!」
レミリアは鷹揚に言い放った。
「ごめんなさいね、皆さん。今宵は、ギャグはなしよ。カリスマブレイクも封印するわ」
「続いてはこの方。古代中国での逸話の数々は、果たして本当なのでしょうか?」
続く部屋には、八雲藍がいた。
礼儀正しく椅子に座り、一礼をする姿はまさに、美しい、の一言で言い表すことができるであろう。
スミレの花をイメージさせるような、グラデーションのかかったチャイナドレスを身にまとっている。
まさに、一輪の花、であった。
「今回、といっても初めての試みですが、自信のほどは?」
「正直いって私は気が進まないんだ。特に紫様が大会の主催者のひとりである点が特に」
「そういえば、紫さんは今回の大会の幹部でしたね」
「大方、こういう大会に、自分自身はでるのがめんどくさくて立候補しなかったんだろう、紫様は。それなのに、結果はいち早く知りたい、と考えての事だろうな」
全く、と眉間に手を当てる藍。無意識のうちに、足を組んだのだろう。その拍子に太もものスリットがはらりとずれ、白い肌が上品に出現した。
画面越しの会場では、深いため息をつくものが続出する。
「と、藍さん宛に応援のお手紙が届いております」
椛がそういった後、画面に手紙が大写しにされた。
「読みます。藍様、私はたくさんたくさん応援してます。ルーミアちゃんもミスティアちゃんも、リグルちゃんも大ちゃんもチルノちゃんも藍様を応援してくれるって言ってました! だから藍様も頑張ってください! 橙より……とのことです。かわいらしいですね」
「ああ、自慢の式だからな。頑張るよ、橙」
藍は大きく頷き、微笑む。
「さて、今度は魔法の森からの参加者です!」
ドアの向こうにはアリスがいた。
緊張のせいか、ぎこちなく微笑むアリス。彼女は普段着のままの参加だったが、それでも会場では、
「アリスー!」とせつなく叫ぶ里の男たちが結構いた。
「どうですか、今のお気持ちは?」
アリスは右手を振り上げ、人差し指で画面を照準に定めた。
「これ、この機械の向こう側にたくさんの人がいるのよね? 大勢の人が私を見てる訳よね?」
「はい、そうですよ」
「え、えっと。アリスです。初めまして。ふつつか者ですけど、どうかよろしくお願いします!」
そういってアリスは思いっきり頭を下げる。会場はどよめき、卒倒するものが約二名出現した。
椛が言った。
「そんなアリスさんにお手紙が届いています。立候補の紙、代わりに出してやったぜ。とのことです」
それをきいて、小声で、「魔理沙、覚えてなさいよ……」と呟くアリス。
だが、それはばっちりとマイクの音声に拾われていたのだった。
「さて、お次は人里で大人気のあの兎!」
鈴仙・優曇華院・イナバがいた。
「さあ、調子はどうですか?」
兎は、その質問に元気よく答える。
「はい、師匠の薬のおかげで私は毎日元気です! 今日も、実は師匠の薬の宣伝の方が大事だったり。皆さん、今後とも永遠亭の薬をお願いしますねー!」
笑顔で画面に向かって手を振り、お辞儀をした。彼女もまた普段着での出場であったが、心なしか、スカートの丈が短いようである。
その証拠に、彼女が頭をたれた瞬間。お尻の一部とみなすべきか、太ももの一部とみなすべきか、専門家の慎重な議論が待たれる部位が、しっかりとカメラに収められていたのだった。
脇をこづかれた椛が、懐から一葉の紙を取り出す。
「さて、そんな優曇華院さんにお友達からメッセージが届いています。てゐさんからです」
「え? 初耳」
「皆知ってるウサ? 鈴仙の健康の秘訣はノーパン健康法ウサ。その証拠に、ミスコン会場へもノーパンでいくって張り切ってたウサ」
「いや嘘だから!」
弁解を始めたように見える鈴仙の、カメラの前を文が体でふさぎ、椛の後を引き継ぐ。
「さあ、その真偽は会場の皆さんの視線に委ねられました! 今から楽しみですね」
文と椛は悲鳴を背に部屋を後にする。
今度は、廊下にいる二人が映し出された。
「さて続いては、彼岸からの参加者、の筈でしたが」
「はい、小町さんがエントリーしていたのですが、上司の映姫様から出場を差し止める、との連絡がつい先ほど入ってきました」
文は残念そうに頭を振る。
「あの死神は、職場の許可を得ていなかったんでしょう」
「はい、映姫様は、このような不祥事が二度と起きないよう、小町にはきつく注意をする、とおっしゃっていました」
「あの方の、きつい注意とは、何とも恐ろしい」
文が心底同情するような口調に変化した。
「気を取り直して、我々、妖怪の山からはこの一柱が出場です!」
今度は、東風谷早苗だった。
「よろしくお願いします!」
元気よくあいさつし、お辞儀をする早苗。
冬だというのに、なぜか紺の水着である。しかも、腹部に、ワッペンで「こちやさなえ」と書かれているものであった。
賛否両論分かれそうな衣装であったが、人里などでは、結構人気のある姿の様である。
たとえば、豆腐屋の仁衛門(32)が、
「ばっきゃろう! あれがいいんじゃねえか!」と自身の嫁に一喝し、離縁一歩手前の事態に発展したことは、幻想郷ではあまりにも有名な事件として知られていた。
「妖怪の山、代表として一言お願いします」
「はい、皆さんに、今まで以上に妖怪の山に、何より守矢神社に親しみを持って頂きたくて参加させて頂きました」
深々と丁寧にお辞儀をする様は、会場の男の何割かを確実に魅了した。
「さて、そんな早苗さんに応援ビデオが来ています」
椛がカメラに向かって合図すると、あっという間に画像が切り替わる。
そこには守矢神社を背にした諏訪子がいた。
「ま、けがしない程度にがんばんなさいな。神奈子は、協賛者だかなんだか知らないけど、そういう者だからってビデオにはでられないんだって。全く、妙なところでお堅いんだから」
諏訪子は大げさにため息をつく。吐く息が白く映し出される。
「あ、そうそう。人里のみんな。天狗達には事情を話せば通してくれる様に話をつけといたから、みんなどんどん気軽にうちの神社においでよ。待ってるからねー。ただしチルノ、あんたは駄目だ」
「さて、続いては旧地獄からの可愛らしい参加者ですよ」
部屋の隅っこで、ちょこんとお燐が丸くなっていた。
彼女が着ているものは、一見すると普段着ている濃緑のワンピースであったが、よく見ると生地が厚く、裏地もしっかりとしているものだった。が、
「今の心境をお願いします」
「地上がこんなにさぶい所だとは……」
両手を組み、震えているのが画面越しの人間にも見て取ることができた。
「そんなお燐さんにビデオです」
椛の言葉と同時に、地霊殿が映し出された。
そこにはさとりと、ペットと思わしきたくさんの動物が集合していた。
中央に立つさとりが手を振る。だが、表情は明るいとは言えず、どちらかというと一人暮らしをはじめた息子の生活を心配する母親のような顔をしていた。
「お燐、ごめんね。私が出場を嫌がったばっかりに。地上はどうですか、風邪など引いていませんか? ちゃんと御飯食べてますか? どうかくれぐれも健康には気をつけてくださいね」
隣にいるお空が、不思議そうに言う。
「うにゅ? お燐はなんで地上に行ってるの?」
「全く、お空のやつったら」お燐は手を摺り合わせながら笑った。
「あやややや。お空さんは、これが何のビデオか分かってないようですねえ」
「そうみたい。最初、あたいとお空はさとり様を出場させようと思ってたんだよ。でもさとり様は嫌がって、おこたの中から出てこないようになっちゃって。その現場を偶然見たこいし様が、じゃあ、いっそのこと外界での評価が不当に低かったお燐を優勝させて、外界の連中を見返してやろうっていいだしてさ。お空がその案に乗って私を裏切ったから、今私がこんな寒い思いをしてるって言うのに」
お燐は、がたがた震えながらも、照れくさそうに自分の頬をひっかく。
「最後にご紹介するのは、あの勢力からのニューフェイスです!」
最後の部屋には、雲居一輪が部屋の隅で体育座りをしていた。
基本的に、この部屋には候補者専用なので雲山はこの場にはいない。
「今のお気持ちを一言」
「命蓮寺のみんなが優しすぎて、生きるのが辛いです」
今の一輪には、どこかの火焔猫に匹敵するほど、怨霊にすかれているようだ。
文と椛は、思わず背筋をぞっとさせる。
「さ、さあ。その命蓮寺からビデオが届いています!」
椛は急いでビデオを再生させた。
そこには、一同が寺の庭に集合し、「負けないで一輪!!!」と朱の字で書かれた横断幕を掲げていた。
真ん中に居る白蓮が、
「めげないで一輪ちゃん! 外界のみんなは、一輪ちゃんの本当の魅力に気がついてないだけなんです。だから、命蓮寺は、このみすこん?……を期に一輪ちゃんの魅力を大宣伝することにしました! 一輪ちゃん、ガンバ!」かわいらしく、両手をグッと握り拳にする。
その言葉に合わせて、命蓮寺の面子は隣同士で肩を組み、口々に「ファイト!」「必勝!」と唱和を始めた。
「さて、改めまして今のお気持ちを」
「本当、勘弁してください……」
一輪の目から汗の滝が発生している。
「さあ、『あやともみじの大予想! ミスコン有力選手』は以上です! この後は本選をお楽しみください!」
そういって、会場のスクリーンは静寂を取り戻した。会場内にいる興奮をおいて。
前座は終わった。
その様子を、会場の一段高い座席、貴賓席で見守っている面々がある。
紫、神奈子、幽々子であった。
存在してきた年期の違いか、今の放送も余裕のある様子で視聴していた。
神奈子が、下方にある一般席を見下ろしながら、ほう、と感嘆の息を吐いた。
「しっかし。こんなに人が集まるとは思わなかったな」
「ここは、外界とは違ってあまり娯楽がないのよ」
そう返す紫の言葉に幽々子も頷く。
「それに皆さん美人揃いだしね。この勝敗が絶対的な美の基準ではないけど、こう言うのが十年に一度くらいあっても罰は当たらないわねえ」
「そういえば、幽々子は参加しないの?」
「あら、私と妖夢は参加してないわよ。」
「白玉楼は不参加ってわけ?」
幽々子は扇子越しに意味深な微笑を返す。
「私自身は協賛者だからアレだし。私は妖夢に参加して欲しかったんだけど、あの子ったら顔真っ赤にしちゃって、すねちゃって。『あんな破廉恥な大会に参加するくらいなら腹を切ります!』って言う物だから、さすがにちょっと、ねえ」
「ふふ、妖夢らしいわ」
「だから、私はあの子の正座したサラシ姿を、十分網膜に焼き付けるだけで満足することにしたの」
「そこまで追い詰めたの?!」
そのような会話を交わしているうちに、いつの間にか文が舞台上にあがってきていた。
舞台に立つ文が、マイクを持たない手を振り上げて叫ぶ。
「それでは、お待ちかね。いよいよ大会の始まりです!」
文が腕を振り下ろす合図と共に、舞台が色とりどりの光線で埋め尽くされる。
その上を、様々な乙女達が練り歩き始めた。
中には正直、何で? と首を傾げる様な参加者もいたが、それは、この大会が参加希望者全てに門戸が開かれる形式だからである。
しかし、文が事前に紹介した少女達は、さすがに有力候補なだけあって、舞台上に現れただけで観客の声が飛躍的に大きくなっていたのだった。
色とりどりの少女が目一杯の衣装を着て練り歩く。そこには、観客も参加者も興奮しかなかった。
だが、そのような幻想の時が永遠に続く筈もなく。
あっという間に、お披露目の時間は終わってしまった。
今は審査員による審査の時間である。
その後は結果発表だ。
観客が未だざわついている頃、紫が隣の少女に囁く。
「幽々子、誰が勝つと思う?」
「どの子もかわいくて甲乙付けがたいわ。妖夢が参加してないだけなおさら」
神奈子がしたり顔で頷く。
「うむ、確かに。だが、これはミスコンなのだから、外面の美しさだけでは評価されてほしくない」
「と、いうと?」
「内面の美しさも必要であるべきだよ。クールビューティーというか、美しさの中にも確固とした力強さも必要というか」
「ああ、それは分かるわね」
紫の返答に、二人もしたり顔で頷く。
再び舞台上に現れた文は、果たして一枚の紙を持っていた。
「さあ、結果発表です!!!」
会場の誰もが、固唾を呑んで文のはなたれるであろう、次の言葉を待っていた。
「初代幻想郷ミスはこの方! 今回はシックに青紫のワンピースを着て大人の魅力を引き出した、傾国の美女の異名を持つとさえ言われるこの人――」
文のその言葉で、紫が余裕の笑みで、
「やっぱりウチの藍か。まあ、当然の結果だわ」
「――妖忌妃さん、出身は白玉楼!」
幻想郷は爆発した。
このSSは続き物ではありません。完結ものです。
設定を前後のSSに引き継ぐというものでもありません。
あらすじ~外界にて、第七回東方シリーズ人気投票が盛大に催された。
ならばと、幻想郷内でもミスコンテストが行われることになったのだった。
人里に設けられた特設会場は、寒風吹きすさぶ屋外だというのに、押し寄せた観客の熱狂で早くもヒートアップしていた。
妖怪やその他の魑魅魍魎の類が、何の変哲もない人間と、至極平和に、平然と隣通しに並んでいる姿は、幻想郷といえどもなかなかお目にかかれる光景ではない。とにかくこの会場で、弱い人間に「悪さ」をしようとする強者の存在はいなかった。
上空を上白沢慧音や藤原妹紅が巡回していることや、八雲紫、八坂神奈子、西行寺幽々子といったそうそうたる面子が主催者、共催者となって会場に鎮座していることが、無言の強大な圧力になっていることも要因のひとつではあったが。
何より、コンテストに対する超えた強烈な熱望が、普段の種族の壁を越えて存在していたのだった。
いまだコンテストは始まっていない。故に、舞台の上には何者も居ない。
しかし、そのような事で観客の興奮はとめられやしなかった。
舞台の中央に、天井から白い幕がつり下げられていて、その幕には映写機の光が映し出されているからだ。
幕の画の中で、烏天狗の射命丸文が、マイクを持って叫ぶ。
「さあ、お待たせいたしました! 逢魔が時を迎えた今、第一回、オール幻想郷ミス・コンテストの開催時刻が着々と近づいて参りました!」
彼女は舞台裏の、道幅のかなり狭い廊下に立っていた。隣に立っている犬走椛とで、道幅を完全に占領してしまっている。
「ですがその前に。我々、文々。新聞が目をつけている有力候補にインタビューをしてみたいと思います!」
やや暗めの照明に照らされた椛が、上気した顔で文に語りかける。
「今回初めての試みの、幻想郷ミスコンテストですが。思ったよりも参加者が少なかったですね」
「はい。なにぶん初めての試みなので、様子見をする方々が多かった物と思われます」
「何より、勢力のあるグループなどからは、それぞれ一人くらいしか出場者が出ていないのが響いてますね」
「確かに、例えば紅魔館ですと、レミリア・スカーレット嬢ただひとりの出場、というような感じでした」文は腕を組み、神妙に頷いた。
「何々勢、と呼ばれる集団は、その集団そのものに対する一定の人気がありますからね。その人気を多重立候補で分散させたくなかったんでしょう」
椛は頷く。
「なるほど、今回のコンテストは、覆面審査員の評価に加え、会場の観客の人気投票も加味されるという特殊なものですからね。観客の人気を独占する、という戦略は確かに必要かもしれません」
「はい。未だに審査員の陣容が明らかになっていない今、なるべく取れるところから点を取っていくのが上策でしょうね」
「では、彼女たちはみな勝ちに来ていると考えて良いんですね」
「そういうことです。それでは、我々の目する最初の優勝候補者はこのかたです!」
そういった文は、おもむろに、一番近くにあるドアにノックを行った。
ドアが勢いよく開け放たれるも、部屋の中には一つの明かりも灯されて居ず、真っ暗であった。
カメラが暗闇に慣れると共に、レミリア・スカーレットが椅子に座っている姿が浮かび上がってきた。
会場にいる人間立ちは、カメラを通してさえ感じる圧倒的な威圧感に、多少落ち着きを取り戻しようだ。ほんの少しだけ騒ぎが小さくなる。
レミリアの着る、血塗られたウェディングドレスを連想させる真紅のドレスは、レミリアから普段の幼児性を取り去ることに成功していた。
しかし、文は臆することなくマイクを突き出す。
「レミリアさん、優勝の自信はいかがですか?」
「当然、あるわ。外界での人気投票では、紅魔館の一番人気をもぎ取った私が参加するんですもの」
ほくそ笑む吸血鬼。
「なるほど、それでは、紅魔館の皆さんから応援メッセージが届いています」
文がそういうと同時に、幕の左下に、新しく小さな画像が映し出される。
そこには、紅魔館の図書館をバックにして、美鈴、小悪魔、パチュリー、咲夜、フランドールといった面々が集合し、和気藹々に手をふる姿があった。
それぞれ、
「頑張ってください!」とか、
「おねーさまおみやげよろしくー」とか、皆たのしそうに喋っていた。
その画像には、端的に言って威厳は無い。
文は改めてレミリアに質問する。
「では、最後に会場にいる皆さんに一言お願いします!」
レミリアは鷹揚に言い放った。
「ごめんなさいね、皆さん。今宵は、ギャグはなしよ。カリスマブレイクも封印するわ」
「続いてはこの方。古代中国での逸話の数々は、果たして本当なのでしょうか?」
続く部屋には、八雲藍がいた。
礼儀正しく椅子に座り、一礼をする姿はまさに、美しい、の一言で言い表すことができるであろう。
スミレの花をイメージさせるような、グラデーションのかかったチャイナドレスを身にまとっている。
まさに、一輪の花、であった。
「今回、といっても初めての試みですが、自信のほどは?」
「正直いって私は気が進まないんだ。特に紫様が大会の主催者のひとりである点が特に」
「そういえば、紫さんは今回の大会の幹部でしたね」
「大方、こういう大会に、自分自身はでるのがめんどくさくて立候補しなかったんだろう、紫様は。それなのに、結果はいち早く知りたい、と考えての事だろうな」
全く、と眉間に手を当てる藍。無意識のうちに、足を組んだのだろう。その拍子に太もものスリットがはらりとずれ、白い肌が上品に出現した。
画面越しの会場では、深いため息をつくものが続出する。
「と、藍さん宛に応援のお手紙が届いております」
椛がそういった後、画面に手紙が大写しにされた。
「読みます。藍様、私はたくさんたくさん応援してます。ルーミアちゃんもミスティアちゃんも、リグルちゃんも大ちゃんもチルノちゃんも藍様を応援してくれるって言ってました! だから藍様も頑張ってください! 橙より……とのことです。かわいらしいですね」
「ああ、自慢の式だからな。頑張るよ、橙」
藍は大きく頷き、微笑む。
「さて、今度は魔法の森からの参加者です!」
ドアの向こうにはアリスがいた。
緊張のせいか、ぎこちなく微笑むアリス。彼女は普段着のままの参加だったが、それでも会場では、
「アリスー!」とせつなく叫ぶ里の男たちが結構いた。
「どうですか、今のお気持ちは?」
アリスは右手を振り上げ、人差し指で画面を照準に定めた。
「これ、この機械の向こう側にたくさんの人がいるのよね? 大勢の人が私を見てる訳よね?」
「はい、そうですよ」
「え、えっと。アリスです。初めまして。ふつつか者ですけど、どうかよろしくお願いします!」
そういってアリスは思いっきり頭を下げる。会場はどよめき、卒倒するものが約二名出現した。
椛が言った。
「そんなアリスさんにお手紙が届いています。立候補の紙、代わりに出してやったぜ。とのことです」
それをきいて、小声で、「魔理沙、覚えてなさいよ……」と呟くアリス。
だが、それはばっちりとマイクの音声に拾われていたのだった。
「さて、お次は人里で大人気のあの兎!」
鈴仙・優曇華院・イナバがいた。
「さあ、調子はどうですか?」
兎は、その質問に元気よく答える。
「はい、師匠の薬のおかげで私は毎日元気です! 今日も、実は師匠の薬の宣伝の方が大事だったり。皆さん、今後とも永遠亭の薬をお願いしますねー!」
笑顔で画面に向かって手を振り、お辞儀をした。彼女もまた普段着での出場であったが、心なしか、スカートの丈が短いようである。
その証拠に、彼女が頭をたれた瞬間。お尻の一部とみなすべきか、太ももの一部とみなすべきか、専門家の慎重な議論が待たれる部位が、しっかりとカメラに収められていたのだった。
脇をこづかれた椛が、懐から一葉の紙を取り出す。
「さて、そんな優曇華院さんにお友達からメッセージが届いています。てゐさんからです」
「え? 初耳」
「皆知ってるウサ? 鈴仙の健康の秘訣はノーパン健康法ウサ。その証拠に、ミスコン会場へもノーパンでいくって張り切ってたウサ」
「いや嘘だから!」
弁解を始めたように見える鈴仙の、カメラの前を文が体でふさぎ、椛の後を引き継ぐ。
「さあ、その真偽は会場の皆さんの視線に委ねられました! 今から楽しみですね」
文と椛は悲鳴を背に部屋を後にする。
今度は、廊下にいる二人が映し出された。
「さて続いては、彼岸からの参加者、の筈でしたが」
「はい、小町さんがエントリーしていたのですが、上司の映姫様から出場を差し止める、との連絡がつい先ほど入ってきました」
文は残念そうに頭を振る。
「あの死神は、職場の許可を得ていなかったんでしょう」
「はい、映姫様は、このような不祥事が二度と起きないよう、小町にはきつく注意をする、とおっしゃっていました」
「あの方の、きつい注意とは、何とも恐ろしい」
文が心底同情するような口調に変化した。
「気を取り直して、我々、妖怪の山からはこの一柱が出場です!」
今度は、東風谷早苗だった。
「よろしくお願いします!」
元気よくあいさつし、お辞儀をする早苗。
冬だというのに、なぜか紺の水着である。しかも、腹部に、ワッペンで「こちやさなえ」と書かれているものであった。
賛否両論分かれそうな衣装であったが、人里などでは、結構人気のある姿の様である。
たとえば、豆腐屋の仁衛門(32)が、
「ばっきゃろう! あれがいいんじゃねえか!」と自身の嫁に一喝し、離縁一歩手前の事態に発展したことは、幻想郷ではあまりにも有名な事件として知られていた。
「妖怪の山、代表として一言お願いします」
「はい、皆さんに、今まで以上に妖怪の山に、何より守矢神社に親しみを持って頂きたくて参加させて頂きました」
深々と丁寧にお辞儀をする様は、会場の男の何割かを確実に魅了した。
「さて、そんな早苗さんに応援ビデオが来ています」
椛がカメラに向かって合図すると、あっという間に画像が切り替わる。
そこには守矢神社を背にした諏訪子がいた。
「ま、けがしない程度にがんばんなさいな。神奈子は、協賛者だかなんだか知らないけど、そういう者だからってビデオにはでられないんだって。全く、妙なところでお堅いんだから」
諏訪子は大げさにため息をつく。吐く息が白く映し出される。
「あ、そうそう。人里のみんな。天狗達には事情を話せば通してくれる様に話をつけといたから、みんなどんどん気軽にうちの神社においでよ。待ってるからねー。ただしチルノ、あんたは駄目だ」
「さて、続いては旧地獄からの可愛らしい参加者ですよ」
部屋の隅っこで、ちょこんとお燐が丸くなっていた。
彼女が着ているものは、一見すると普段着ている濃緑のワンピースであったが、よく見ると生地が厚く、裏地もしっかりとしているものだった。が、
「今の心境をお願いします」
「地上がこんなにさぶい所だとは……」
両手を組み、震えているのが画面越しの人間にも見て取ることができた。
「そんなお燐さんにビデオです」
椛の言葉と同時に、地霊殿が映し出された。
そこにはさとりと、ペットと思わしきたくさんの動物が集合していた。
中央に立つさとりが手を振る。だが、表情は明るいとは言えず、どちらかというと一人暮らしをはじめた息子の生活を心配する母親のような顔をしていた。
「お燐、ごめんね。私が出場を嫌がったばっかりに。地上はどうですか、風邪など引いていませんか? ちゃんと御飯食べてますか? どうかくれぐれも健康には気をつけてくださいね」
隣にいるお空が、不思議そうに言う。
「うにゅ? お燐はなんで地上に行ってるの?」
「全く、お空のやつったら」お燐は手を摺り合わせながら笑った。
「あやややや。お空さんは、これが何のビデオか分かってないようですねえ」
「そうみたい。最初、あたいとお空はさとり様を出場させようと思ってたんだよ。でもさとり様は嫌がって、おこたの中から出てこないようになっちゃって。その現場を偶然見たこいし様が、じゃあ、いっそのこと外界での評価が不当に低かったお燐を優勝させて、外界の連中を見返してやろうっていいだしてさ。お空がその案に乗って私を裏切ったから、今私がこんな寒い思いをしてるって言うのに」
お燐は、がたがた震えながらも、照れくさそうに自分の頬をひっかく。
「最後にご紹介するのは、あの勢力からのニューフェイスです!」
最後の部屋には、雲居一輪が部屋の隅で体育座りをしていた。
基本的に、この部屋には候補者専用なので雲山はこの場にはいない。
「今のお気持ちを一言」
「命蓮寺のみんなが優しすぎて、生きるのが辛いです」
今の一輪には、どこかの火焔猫に匹敵するほど、怨霊にすかれているようだ。
文と椛は、思わず背筋をぞっとさせる。
「さ、さあ。その命蓮寺からビデオが届いています!」
椛は急いでビデオを再生させた。
そこには、一同が寺の庭に集合し、「負けないで一輪!!!」と朱の字で書かれた横断幕を掲げていた。
真ん中に居る白蓮が、
「めげないで一輪ちゃん! 外界のみんなは、一輪ちゃんの本当の魅力に気がついてないだけなんです。だから、命蓮寺は、このみすこん?……を期に一輪ちゃんの魅力を大宣伝することにしました! 一輪ちゃん、ガンバ!」かわいらしく、両手をグッと握り拳にする。
その言葉に合わせて、命蓮寺の面子は隣同士で肩を組み、口々に「ファイト!」「必勝!」と唱和を始めた。
「さて、改めまして今のお気持ちを」
「本当、勘弁してください……」
一輪の目から汗の滝が発生している。
「さあ、『あやともみじの大予想! ミスコン有力選手』は以上です! この後は本選をお楽しみください!」
そういって、会場のスクリーンは静寂を取り戻した。会場内にいる興奮をおいて。
前座は終わった。
その様子を、会場の一段高い座席、貴賓席で見守っている面々がある。
紫、神奈子、幽々子であった。
存在してきた年期の違いか、今の放送も余裕のある様子で視聴していた。
神奈子が、下方にある一般席を見下ろしながら、ほう、と感嘆の息を吐いた。
「しっかし。こんなに人が集まるとは思わなかったな」
「ここは、外界とは違ってあまり娯楽がないのよ」
そう返す紫の言葉に幽々子も頷く。
「それに皆さん美人揃いだしね。この勝敗が絶対的な美の基準ではないけど、こう言うのが十年に一度くらいあっても罰は当たらないわねえ」
「そういえば、幽々子は参加しないの?」
「あら、私と妖夢は参加してないわよ。」
「白玉楼は不参加ってわけ?」
幽々子は扇子越しに意味深な微笑を返す。
「私自身は協賛者だからアレだし。私は妖夢に参加して欲しかったんだけど、あの子ったら顔真っ赤にしちゃって、すねちゃって。『あんな破廉恥な大会に参加するくらいなら腹を切ります!』って言う物だから、さすがにちょっと、ねえ」
「ふふ、妖夢らしいわ」
「だから、私はあの子の正座したサラシ姿を、十分網膜に焼き付けるだけで満足することにしたの」
「そこまで追い詰めたの?!」
そのような会話を交わしているうちに、いつの間にか文が舞台上にあがってきていた。
舞台に立つ文が、マイクを持たない手を振り上げて叫ぶ。
「それでは、お待ちかね。いよいよ大会の始まりです!」
文が腕を振り下ろす合図と共に、舞台が色とりどりの光線で埋め尽くされる。
その上を、様々な乙女達が練り歩き始めた。
中には正直、何で? と首を傾げる様な参加者もいたが、それは、この大会が参加希望者全てに門戸が開かれる形式だからである。
しかし、文が事前に紹介した少女達は、さすがに有力候補なだけあって、舞台上に現れただけで観客の声が飛躍的に大きくなっていたのだった。
色とりどりの少女が目一杯の衣装を着て練り歩く。そこには、観客も参加者も興奮しかなかった。
だが、そのような幻想の時が永遠に続く筈もなく。
あっという間に、お披露目の時間は終わってしまった。
今は審査員による審査の時間である。
その後は結果発表だ。
観客が未だざわついている頃、紫が隣の少女に囁く。
「幽々子、誰が勝つと思う?」
「どの子もかわいくて甲乙付けがたいわ。妖夢が参加してないだけなおさら」
神奈子がしたり顔で頷く。
「うむ、確かに。だが、これはミスコンなのだから、外面の美しさだけでは評価されてほしくない」
「と、いうと?」
「内面の美しさも必要であるべきだよ。クールビューティーというか、美しさの中にも確固とした力強さも必要というか」
「ああ、それは分かるわね」
紫の返答に、二人もしたり顔で頷く。
再び舞台上に現れた文は、果たして一枚の紙を持っていた。
「さあ、結果発表です!!!」
会場の誰もが、固唾を呑んで文のはなたれるであろう、次の言葉を待っていた。
「初代幻想郷ミスはこの方! 今回はシックに青紫のワンピースを着て大人の魅力を引き出した、傾国の美女の異名を持つとさえ言われるこの人――」
文のその言葉で、紫が余裕の笑みで、
「やっぱりウチの藍か。まあ、当然の結果だわ」
「――妖忌妃さん、出身は白玉楼!」
幻想郷は爆発した。
一輪さん……皆の暖かい気持ちが余計に心に刺さる……
「一輪ちゃん、ガンバ!」かわいらしく、両手をグッと握り拳にする。←俺のひじりんへの愛がますます高まることとなった。
そしてアリスの演説で卒倒した内の一人です。
そしてアリスの演説で卒倒した内のもう一人です。
つまり……妖忌は元々女顔で……女装したのだと考えればっ……!
タグ見て「誰得? いや納得か」と確認してきてみたらこれだよ!
それとも今時は腹部なんですかね?
各出演者登場の時はそれぞれの音楽が流れるんですね。わかります。
妖忌妃…私は妖夢と妖夢と明羅を足して3で割った感じのイメージをしたよ。
ミス違いだよww