ぐいぐいと私の手を引っ張る村紗さんの手は幽霊らしいひんやりとした感触がとても印象的で。
だけど不思議と包み込むような、そんな温もりを感じさせてくれました。
「そして此処が食堂……ってもう知ってるよね。」
村紗さんに手を引かれながら寺を回ること十数分。漸く辿り着いたゴールは良く見知った食堂でした。
初めて皆さんにご挨拶したのがこの場所でしたし、おいしい食事も既にたくさん頂いているので十分に承知しています。
それにしても広いお寺です……星蓮船の中もちょっとだけ覗かせて貰ったのでその分時間が掛かってしまったようです。
「はい! お陰様で大体把握できたと思います!」
「ごめんね……本当なら直ぐに案内しなきゃいけなかったのに、私ときたらつい……。」
そう言ってさっきまでの元気が嘘のように俯いてしまう村紗さんに、私は慌てて両手を振りました。
「とんでもないです! ここに拾って頂けただけで感謝しきれないのに、これ以上良くして貰っちゃったら罰が当たっちゃいます!」
そうです! この仔にとって村紗さんは恩人で、それに乗じて私は根無し草からこんなに立派なお寺に住まわせて頂いてる訳ですから!
だから村紗さんが気落ちしているのを放ってなどおけません!
ましてや原因が私に有るのであれば尚更です!
「そ、そうかな……?」
「そうです!」
にゃあー。
どうやら子猫なりにエールを送っているようです。
ずっと私の肩でじっとしていた子猫が一緒になって鳴いてくれました。
「子猫まで……ありがと。次からは気をつけるから、何かあったら何でも相談して!」
自らの胸を強く叩いて頼もしさをアピールしてくださる村紗さん。
どうやら何時もの元気を取り戻してくれたみたいで良かったです。
「それにしてもこの猫随分賢いんだね……あっ、そう言えば名前は?」
私が肩から胸の前に抱えなおした子猫の鼻先をちょんちょんと突付きながら村紗さんは言いました。
にゃあ?
「あっ……。」
忘れてました……。
何かと慌しかったものですから……つい。
「まさか無いの? 名前?」
呆れた顔をする村紗さんに、私はなんと言って良いものか返答に困りました。
事実決まって無いのですから、返す言葉も有りません。
「そんなんじゃ駄目! 名前が無いなんて不便だし、可哀想だよ!?」
「ご、ごめんなさいっ……!」
村紗さんからの叱責につい咄嗟に頭を下げて謝る私……この場合、本当に謝らなくてはならない相手は子猫だとは思うのですが。
結局頭を下げるしかない私は、自分が情けなくなりました。
だけど村紗さんからはそれ以上お咎めもなく、それどころ何の反応も有りません。
気になってそっと目だけ上げると、村紗さんは腕を組んで何やら考え事をしているようです。
これはひょっとして、もう名前を考え始めているのでしょうか?
「よし! 決めた! その仔の名前は『レノン』だ!」
ビシッィィィ!
ばっちりポーズを決めた村紗さん。
もちろんその指は私の腕の中にいる子猫へと向けられていました。
にゃっ。(ぷいっ)
だけど当の子猫にそっぽを向かれてしまいました……気に入らなかったのでしょうか?
「ええっ!? そんなどうして!? やっぱ白猫と言えばレノンだよ! そして私に世界の秘密を教えてよ!」
「あの……でも子猫は反対みたいですし……。」
それより世界の秘密ってなんの事でしょう?
鍵っ子じゃない私にはさっぱりです。
にゃあ。
「えっ……?」
不意に鳴いた子猫に、私も村紗さんも目を丸くしました。
「ねえねえ! 今返事したよねこの仔!? という事はやっぱりレノンで決まり!?」
一転して顔を輝かせる村紗さん。
でも……本当にそうでしょうか?
釈然としない私は、気になって呼んで見ることにしました。
「そうなの……? レノン?」
んなぁ。(ゴシゴシ)
あれ? やっぱり違うのかな?
私がレノンと呼び掛けても、小猫は反応を見せず退屈そうに顔を掻き始めました。
「おかしいなぁ……確かにさっきは反応したのに……子猫の気紛れだったのかな?」
「……かもしれませ──」」
にゃあ?
「え? 急にどうしたの?」
呼んでもいないのに、今度は返事を返した子猫……村紗さんの言うとおりただ気紛れなのかな?
だけど子猫は不思議そうに私たちを見上げています。
まるで「呼んだ?」と言わんばかりに……この仔……ひょっとして……。
「こねこ……?」
にゃあ。
「この仔……! まさか『子猫』が自分の名前だと思っているの!?」
「その……まさかみたいです。」
「あははは……そっか。ずっとそう呼ばれてて、勘違いしちゃったのかな?」
呆れたように乾いた声で笑う村紗さんでしたが、私は別の事を思っていました。
それは運命の悪戯か、それとも必然なのか……。
どうしてこんな簡単な事に気付かなかったんだろう──そう思わずにはいられませんでした。
「小猫です! 今日から貴女の名前は小猫!」
にゃ!
「そうですか! 気に入って貰えましたか!」
元気な返事に私はつい嬉しくなって頬ずりしてしまいました。
「え? 子猫って……まんまじゃん?」
戸惑ったのは村紗さん。
歓喜する私たちに訝しむような視線をよこします。
「違うんです、村紗さん! 私が小傘だから、この仔は『小猫』なんです!」
「は……? あ……ああ! 成る程ね!ってそれだって安直だと思うけど……って言うのは野暮かな。」
「小猫! 小猫! そうです! 私が付けた──私とお揃いの名前です!」
にゃあ!(ペロペロ)
「こらぁ! くすぐったいですよぉ! 小猫ったら、もう! ふふふ。」
「本人達が良ければ、それでね。」
「はははっ……あれ? 村紗さん、今何かおっしゃいました?」
「…………な~んにも! それより良かったね。名前、みんなに教えてあげないとね。」
「はい!」
にゃにゃっ!
こうして、私の大事な家族の名前が決まりました!
多々良小猫……これからもよろしくね?
にゃあ~ん!
だけど不思議と包み込むような、そんな温もりを感じさせてくれました。
「そして此処が食堂……ってもう知ってるよね。」
村紗さんに手を引かれながら寺を回ること十数分。漸く辿り着いたゴールは良く見知った食堂でした。
初めて皆さんにご挨拶したのがこの場所でしたし、おいしい食事も既にたくさん頂いているので十分に承知しています。
それにしても広いお寺です……星蓮船の中もちょっとだけ覗かせて貰ったのでその分時間が掛かってしまったようです。
「はい! お陰様で大体把握できたと思います!」
「ごめんね……本当なら直ぐに案内しなきゃいけなかったのに、私ときたらつい……。」
そう言ってさっきまでの元気が嘘のように俯いてしまう村紗さんに、私は慌てて両手を振りました。
「とんでもないです! ここに拾って頂けただけで感謝しきれないのに、これ以上良くして貰っちゃったら罰が当たっちゃいます!」
そうです! この仔にとって村紗さんは恩人で、それに乗じて私は根無し草からこんなに立派なお寺に住まわせて頂いてる訳ですから!
だから村紗さんが気落ちしているのを放ってなどおけません!
ましてや原因が私に有るのであれば尚更です!
「そ、そうかな……?」
「そうです!」
にゃあー。
どうやら子猫なりにエールを送っているようです。
ずっと私の肩でじっとしていた子猫が一緒になって鳴いてくれました。
「子猫まで……ありがと。次からは気をつけるから、何かあったら何でも相談して!」
自らの胸を強く叩いて頼もしさをアピールしてくださる村紗さん。
どうやら何時もの元気を取り戻してくれたみたいで良かったです。
「それにしてもこの猫随分賢いんだね……あっ、そう言えば名前は?」
私が肩から胸の前に抱えなおした子猫の鼻先をちょんちょんと突付きながら村紗さんは言いました。
にゃあ?
「あっ……。」
忘れてました……。
何かと慌しかったものですから……つい。
「まさか無いの? 名前?」
呆れた顔をする村紗さんに、私はなんと言って良いものか返答に困りました。
事実決まって無いのですから、返す言葉も有りません。
「そんなんじゃ駄目! 名前が無いなんて不便だし、可哀想だよ!?」
「ご、ごめんなさいっ……!」
村紗さんからの叱責につい咄嗟に頭を下げて謝る私……この場合、本当に謝らなくてはならない相手は子猫だとは思うのですが。
結局頭を下げるしかない私は、自分が情けなくなりました。
だけど村紗さんからはそれ以上お咎めもなく、それどころ何の反応も有りません。
気になってそっと目だけ上げると、村紗さんは腕を組んで何やら考え事をしているようです。
これはひょっとして、もう名前を考え始めているのでしょうか?
「よし! 決めた! その仔の名前は『レノン』だ!」
ビシッィィィ!
ばっちりポーズを決めた村紗さん。
もちろんその指は私の腕の中にいる子猫へと向けられていました。
にゃっ。(ぷいっ)
だけど当の子猫にそっぽを向かれてしまいました……気に入らなかったのでしょうか?
「ええっ!? そんなどうして!? やっぱ白猫と言えばレノンだよ! そして私に世界の秘密を教えてよ!」
「あの……でも子猫は反対みたいですし……。」
それより世界の秘密ってなんの事でしょう?
鍵っ子じゃない私にはさっぱりです。
にゃあ。
「えっ……?」
不意に鳴いた子猫に、私も村紗さんも目を丸くしました。
「ねえねえ! 今返事したよねこの仔!? という事はやっぱりレノンで決まり!?」
一転して顔を輝かせる村紗さん。
でも……本当にそうでしょうか?
釈然としない私は、気になって呼んで見ることにしました。
「そうなの……? レノン?」
んなぁ。(ゴシゴシ)
あれ? やっぱり違うのかな?
私がレノンと呼び掛けても、小猫は反応を見せず退屈そうに顔を掻き始めました。
「おかしいなぁ……確かにさっきは反応したのに……子猫の気紛れだったのかな?」
「……かもしれませ──」」
にゃあ?
「え? 急にどうしたの?」
呼んでもいないのに、今度は返事を返した子猫……村紗さんの言うとおりただ気紛れなのかな?
だけど子猫は不思議そうに私たちを見上げています。
まるで「呼んだ?」と言わんばかりに……この仔……ひょっとして……。
「こねこ……?」
にゃあ。
「この仔……! まさか『子猫』が自分の名前だと思っているの!?」
「その……まさかみたいです。」
「あははは……そっか。ずっとそう呼ばれてて、勘違いしちゃったのかな?」
呆れたように乾いた声で笑う村紗さんでしたが、私は別の事を思っていました。
それは運命の悪戯か、それとも必然なのか……。
どうしてこんな簡単な事に気付かなかったんだろう──そう思わずにはいられませんでした。
「小猫です! 今日から貴女の名前は小猫!」
にゃ!
「そうですか! 気に入って貰えましたか!」
元気な返事に私はつい嬉しくなって頬ずりしてしまいました。
「え? 子猫って……まんまじゃん?」
戸惑ったのは村紗さん。
歓喜する私たちに訝しむような視線をよこします。
「違うんです、村紗さん! 私が小傘だから、この仔は『小猫』なんです!」
「は……? あ……ああ! 成る程ね!ってそれだって安直だと思うけど……って言うのは野暮かな。」
「小猫! 小猫! そうです! 私が付けた──私とお揃いの名前です!」
にゃあ!(ペロペロ)
「こらぁ! くすぐったいですよぉ! 小猫ったら、もう! ふふふ。」
「本人達が良ければ、それでね。」
「はははっ……あれ? 村紗さん、今何かおっしゃいました?」
「…………な~んにも! それより良かったね。名前、みんなに教えてあげないとね。」
「はい!」
にゃにゃっ!
こうして、私の大事な家族の名前が決まりました!
多々良小猫……これからもよろしくね?
にゃあ~ん!
続きが楽しみです。
発音は小傘のように一定の音程なんですね。
そろそろ小猫ちゃんが中心になる話になるのかな?
これからどんな展開になるか楽しみです。