※ この話は、ジェネリック作品集75、『小傘と子猫』からのシリーズものとなっておりますのでご注意ください。
そろそろ私も命蓮寺の一員として認められてきたんじゃないかと思う今日この頃ですが、
実はまだまともにお話をした事が無い方がお一人だけ居ます。
その方とは──
「あ、あの! ぬえさん──」
ぷい。
スタスタスタスタ──
「──あう……また避けられてしまいました。」
──そう、正体不明の大妖怪と謳われる封獣ぬえさんその人です。
何時もどこに居るのかさえ分からないぬえさんとお話しするには全員が集まるご飯の時しか有りません。
だから頑張って呼び掛けてみているのですが……ずっとこの調子で一向に距離が縮まりません……トホホ。
「何してるの?」
途方に暮れていた私に声を掛けて下さったのは一輪さんでした。
私が振り返ると、不思議そうな顔をしていらっしゃいます。
「それがその……ぬえさんとお話ししてみたくて……。」
無視されちゃってますなんて、はっきり言えないものですからそこは曖昧に言葉を濁します。
だけど一輪さんにはお見通しみたいで。
なんだか納得されたような顔をして頷かれました。
「ああ……ぬえね。あの子ひねくれてるから。ほら。」
そう言って一輪さんが私の後ろを指差すので、なんだろうと思いながら振り返って見ると、
そこには開いた扉からそっとこちらを窺うぬえさんの姿が。
だけどあっと私が思った瞬間にはぬえさんはさっと身を隠してしまいました。
「でも貴女に興味があるのは間違い無さそうね。心配しなくても、その内あっちから話し掛けてくれるわよ。」
そんな励ましの言葉を残して後片付けへと戻って行かれた一輪さん。
にゃあ。
「小猫……そうだね。一輪さんの言葉を信じるしかないね。」
にゃ。
そっと励ましてくる小猫のおかげでなんだか元気が出てきました。
まだ機会はたくさんあるんだから。慌てる事なんてないしね。
とりあえず私たちは自分たちの部屋に戻ることにしました。
「…………一輪さんの言った通りだ。」
「なんか言った?」
「あ、いえ……。」
フンッて鼻を鳴らすぬえさん。
どうやら先回りして私たちを待ち構えていたご様子。
「…………あんたね。最近命蓮寺にやってきた新参者は!?」
「は、はい……そうですけど。」
てっきり分かってて私の部屋に来てるものだと思いましたが、違うんでしょうか?
「な、なによ……その目は?」
「い、いえ! 何でもないです! それでその~~何かご用ですか?」
にゃあ?
わざわざ私たちの部屋まで来てくれたんです。
きっと何か有るんだと思います。
だけどぬえさんは難しい顔で腕を組むだけで、何もおっしゃっいません……何か言いづらい事なんでしょうか?
「……っ!? ちょっと待ってなさい!」
え? まさかとは思うのですが、何も考えてなかったとか……?
にゃあ……。
「い、今私のこと馬鹿にしたわね! 猫の分際で!」
「あっ、いえ……馬鹿にしたのでは無く、呆れてるんだと──」
「どっちだって一緒よ!」
顔を真っ赤にされて怒鳴るぬえさん……困りました、どうやら怒らせてしまったようです。
小猫が誰かを怒らせるなんて初めてのことなのでどうしていいか私には分かりません。
やっぱりここは代わりに私が謝っておくところでしょうか?
「こうなったら勝負よ!」
「えっ? 小猫とですか?」
「違う! あんたとに決まってるでしょう!?」
ビシッとぬえさんに指を向けられて、私はもっと困ってしまいます。
そんな……突然勝負だなんて……!
これでは謝るどころの騒ぎではありません。
「言っておくけど、手加減なんてしてあげないわよ?」
そう言って不敵に笑うぬえさんに、私はもう泣き出しそうですっ……!
だって大妖怪であるぬえさんとまともに張り合えるわけありません……!
ただ仲良くなりたかっただけなのに……どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
にゃ!
一声だけ、腕の中で小猫が力強く鳴きました。
どうやら逃げ腰になってしまっている私を励ましてくれているようです。
「小猫……! うん、そうだね! 最初から逃げてちゃ勝てるはずないよね!」
にゃあ!
もう一度、今度は満足気に鳴く小猫に私もしっかりと頷いて返します。
励ましてくれる小猫の為にも、私は頑張ってみることにしました!
「覚悟は……出来たみたいね。」
コクン。
こうなったら破れかぶれです!
こうして私はぬえさんからの挑戦を受けて立つ事にしました。
「うおりゃああああ!」
「う、うおぉぉ……!」
ズズズズズー!
逞しい雄叫びをあげるぬえさんに、負けじと私も大声を張り上げます!
だけど気合だけ張り合っても歴然とした実力の差を埋めることは叶いません。
分かっていたけど……やっぱりぬえさんは凄い……!
なんて…………なんて早い雑巾掛けでしょう……!
「はぁ~はっはっ! どう? この私の鍛え上げられた雑巾掛けテクニックは!」
それどころか差は開くばかり……余裕の現れか、ぬえさんは後ろを走る私の方を振り返って叫びます。
まさか頭の後ろにも目があるんでしょうか?──妖怪なのであってもあまり不思議じゃ無いかもしれませんね。
だけど事実はそうでは無かったようです。
「ぬ、ぬえさん! 前! 前!」
「ふっ……私はこのコースを熟知してるのよ? 目隠してたって壁にぶつからない自信が──きゃ!?」
ドンッ!
「うわぁっ!」
ぶつかったのは壁ではなく人でした。
ぬえさんの頭突きを正面から受けた村紗さんは反動で尻餅をついて何が起きたか分からずに目をパチクリさせてます。
一方のぬえさんは──
「きゅう…………。」
──目を回していました。
廊下からコースアウトして、障子に頭から突っ込んでいます。
「ちょっ!? ぬえ、大丈夫!?」
村紗さんの心配する声にはじかれるようにして漸く私は動き出しました。
いけません、ボーとしている場合じゃ有りませんでした。
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ると、ぬえさんはガバッと立ち上がりました。
なんだか顔が真っ青です……打ち所が悪かったのでしょうか?
「こ、コースアウト!? この私が……まさか……。」
とても信じられないと言った顔をされるぬえさん。
そう言えばレースを始める前に受けた説明のとおりだとコースアウトしたら負けと……という事は私の勝ちですか?
「くっ……! まだよ! これは三本勝負──先に二本先取した者の勝ちなのよ!?」
「そ、そうだったんですか!?」
ぬえさんの口から語られた新事実に、私は驚愕せずにはいられません!
こんな勝負が後二本も続くなんて……。
「…………単純な奴で良かった。」
「何か言いました?」
「別に何も! さあ! 次の勝負行くわよ!」
……ですがラッキーでもこの私がぬえさんから一本を取れたんです!
これは……ひょっとしたらひょっとするのかも?
小猫……貴方のためにも私は勝ってみせます!
此処には居ない小猫に(星さんに預かって貰ってます)心の中で改めて誓いを立てました。
「その前に障子直していきなさーい!」
熱いバトルの予感に心が躍りましたが、その前にせっせと障子を張り替える私とぬえさんでした。
一本目、雑巾掛け勝負。勝者、多々良小傘。
その後、二人のバトルは激しさを増しました──
「あわあわ! あわわわっ!?」
「ふふふっ。今度こそ私の勝ちのようね。」
「たす、助け……助けてぇー!」
「って、どうやったらそんなに泡だらけになれるのよ!?」
二本目、洗濯物勝負。勝者、封獣ぬえ。
「この勝負を取れば私の逆転勝利になるわけね!──というわけで残さず食べてよね、ナズーリン!」
「そうはさせません! この私の渾身のできで、勝利をもぎ取って見せます!──ということでナズーリンさん! ご賞味下さい!」
「ちょっと待ちたまえ君たち! どう考えたってこれ、死亡フラグじゃないか!? それに見たまえ! どっちも食べ物がしていて良い色をしていないぞ!?」
「ごちゃごちゃうっさいなぁ! とにかく食え!」
「ぬえさんズルいです! 私のだって……えい!」
「だから待っ──モゴ!?…………ごくっ……ぐ、ぐふっ!」
「「な、ナズーリン(さん)!?」
三本目、手料理勝負──引き分け。
「なかなかやるわね、多々良小傘!」
「ぬえさんも……流石です!」
お互いにゼエゼエと肩で息を吐きながらも互いの健闘を称え合う私たち。
一体なんの勝負だったのかさえ忘れてしまいましたが、今の私たちにとってはもうそんな事は些細な事でした。
そう──激しい戦いの末、私たちは互いを理解し合うに至ったのです!
「あんた中々見所が有るわね……特別に、私の弟子にしてあげても良いわよ?」
で、弟子!?
突然の申し出に私は目を白黒させました。
伝説の妖怪である鵺の弟子になれるなんて、これはひょっとして凄いことなんじゃ──
ふらっ
──あ、あれ……?
「も、もう小傘ったら。感動の余り抱きついちゃった感じ? 大袈裟なんだから……小傘?」
どうしちゃったんだろう……私。
声が出ない……。
ダメ……意識も……。
「小傘! しっかりして、小傘!」
暗転する意識の中、ぬえさんの声だけが頭に響きました。
そろそろ私も命蓮寺の一員として認められてきたんじゃないかと思う今日この頃ですが、
実はまだまともにお話をした事が無い方がお一人だけ居ます。
その方とは──
「あ、あの! ぬえさん──」
ぷい。
スタスタスタスタ──
「──あう……また避けられてしまいました。」
──そう、正体不明の大妖怪と謳われる封獣ぬえさんその人です。
何時もどこに居るのかさえ分からないぬえさんとお話しするには全員が集まるご飯の時しか有りません。
だから頑張って呼び掛けてみているのですが……ずっとこの調子で一向に距離が縮まりません……トホホ。
「何してるの?」
途方に暮れていた私に声を掛けて下さったのは一輪さんでした。
私が振り返ると、不思議そうな顔をしていらっしゃいます。
「それがその……ぬえさんとお話ししてみたくて……。」
無視されちゃってますなんて、はっきり言えないものですからそこは曖昧に言葉を濁します。
だけど一輪さんにはお見通しみたいで。
なんだか納得されたような顔をして頷かれました。
「ああ……ぬえね。あの子ひねくれてるから。ほら。」
そう言って一輪さんが私の後ろを指差すので、なんだろうと思いながら振り返って見ると、
そこには開いた扉からそっとこちらを窺うぬえさんの姿が。
だけどあっと私が思った瞬間にはぬえさんはさっと身を隠してしまいました。
「でも貴女に興味があるのは間違い無さそうね。心配しなくても、その内あっちから話し掛けてくれるわよ。」
そんな励ましの言葉を残して後片付けへと戻って行かれた一輪さん。
にゃあ。
「小猫……そうだね。一輪さんの言葉を信じるしかないね。」
にゃ。
そっと励ましてくる小猫のおかげでなんだか元気が出てきました。
まだ機会はたくさんあるんだから。慌てる事なんてないしね。
とりあえず私たちは自分たちの部屋に戻ることにしました。
「…………一輪さんの言った通りだ。」
「なんか言った?」
「あ、いえ……。」
フンッて鼻を鳴らすぬえさん。
どうやら先回りして私たちを待ち構えていたご様子。
「…………あんたね。最近命蓮寺にやってきた新参者は!?」
「は、はい……そうですけど。」
てっきり分かってて私の部屋に来てるものだと思いましたが、違うんでしょうか?
「な、なによ……その目は?」
「い、いえ! 何でもないです! それでその~~何かご用ですか?」
にゃあ?
わざわざ私たちの部屋まで来てくれたんです。
きっと何か有るんだと思います。
だけどぬえさんは難しい顔で腕を組むだけで、何もおっしゃっいません……何か言いづらい事なんでしょうか?
「……っ!? ちょっと待ってなさい!」
え? まさかとは思うのですが、何も考えてなかったとか……?
にゃあ……。
「い、今私のこと馬鹿にしたわね! 猫の分際で!」
「あっ、いえ……馬鹿にしたのでは無く、呆れてるんだと──」
「どっちだって一緒よ!」
顔を真っ赤にされて怒鳴るぬえさん……困りました、どうやら怒らせてしまったようです。
小猫が誰かを怒らせるなんて初めてのことなのでどうしていいか私には分かりません。
やっぱりここは代わりに私が謝っておくところでしょうか?
「こうなったら勝負よ!」
「えっ? 小猫とですか?」
「違う! あんたとに決まってるでしょう!?」
ビシッとぬえさんに指を向けられて、私はもっと困ってしまいます。
そんな……突然勝負だなんて……!
これでは謝るどころの騒ぎではありません。
「言っておくけど、手加減なんてしてあげないわよ?」
そう言って不敵に笑うぬえさんに、私はもう泣き出しそうですっ……!
だって大妖怪であるぬえさんとまともに張り合えるわけありません……!
ただ仲良くなりたかっただけなのに……どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
にゃ!
一声だけ、腕の中で小猫が力強く鳴きました。
どうやら逃げ腰になってしまっている私を励ましてくれているようです。
「小猫……! うん、そうだね! 最初から逃げてちゃ勝てるはずないよね!」
にゃあ!
もう一度、今度は満足気に鳴く小猫に私もしっかりと頷いて返します。
励ましてくれる小猫の為にも、私は頑張ってみることにしました!
「覚悟は……出来たみたいね。」
コクン。
こうなったら破れかぶれです!
こうして私はぬえさんからの挑戦を受けて立つ事にしました。
「うおりゃああああ!」
「う、うおぉぉ……!」
ズズズズズー!
逞しい雄叫びをあげるぬえさんに、負けじと私も大声を張り上げます!
だけど気合だけ張り合っても歴然とした実力の差を埋めることは叶いません。
分かっていたけど……やっぱりぬえさんは凄い……!
なんて…………なんて早い雑巾掛けでしょう……!
「はぁ~はっはっ! どう? この私の鍛え上げられた雑巾掛けテクニックは!」
それどころか差は開くばかり……余裕の現れか、ぬえさんは後ろを走る私の方を振り返って叫びます。
まさか頭の後ろにも目があるんでしょうか?──妖怪なのであってもあまり不思議じゃ無いかもしれませんね。
だけど事実はそうでは無かったようです。
「ぬ、ぬえさん! 前! 前!」
「ふっ……私はこのコースを熟知してるのよ? 目隠してたって壁にぶつからない自信が──きゃ!?」
ドンッ!
「うわぁっ!」
ぶつかったのは壁ではなく人でした。
ぬえさんの頭突きを正面から受けた村紗さんは反動で尻餅をついて何が起きたか分からずに目をパチクリさせてます。
一方のぬえさんは──
「きゅう…………。」
──目を回していました。
廊下からコースアウトして、障子に頭から突っ込んでいます。
「ちょっ!? ぬえ、大丈夫!?」
村紗さんの心配する声にはじかれるようにして漸く私は動き出しました。
いけません、ボーとしている場合じゃ有りませんでした。
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ると、ぬえさんはガバッと立ち上がりました。
なんだか顔が真っ青です……打ち所が悪かったのでしょうか?
「こ、コースアウト!? この私が……まさか……。」
とても信じられないと言った顔をされるぬえさん。
そう言えばレースを始める前に受けた説明のとおりだとコースアウトしたら負けと……という事は私の勝ちですか?
「くっ……! まだよ! これは三本勝負──先に二本先取した者の勝ちなのよ!?」
「そ、そうだったんですか!?」
ぬえさんの口から語られた新事実に、私は驚愕せずにはいられません!
こんな勝負が後二本も続くなんて……。
「…………単純な奴で良かった。」
「何か言いました?」
「別に何も! さあ! 次の勝負行くわよ!」
……ですがラッキーでもこの私がぬえさんから一本を取れたんです!
これは……ひょっとしたらひょっとするのかも?
小猫……貴方のためにも私は勝ってみせます!
此処には居ない小猫に(星さんに預かって貰ってます)心の中で改めて誓いを立てました。
「その前に障子直していきなさーい!」
熱いバトルの予感に心が躍りましたが、その前にせっせと障子を張り替える私とぬえさんでした。
一本目、雑巾掛け勝負。勝者、多々良小傘。
その後、二人のバトルは激しさを増しました──
「あわあわ! あわわわっ!?」
「ふふふっ。今度こそ私の勝ちのようね。」
「たす、助け……助けてぇー!」
「って、どうやったらそんなに泡だらけになれるのよ!?」
二本目、洗濯物勝負。勝者、封獣ぬえ。
「この勝負を取れば私の逆転勝利になるわけね!──というわけで残さず食べてよね、ナズーリン!」
「そうはさせません! この私の渾身のできで、勝利をもぎ取って見せます!──ということでナズーリンさん! ご賞味下さい!」
「ちょっと待ちたまえ君たち! どう考えたってこれ、死亡フラグじゃないか!? それに見たまえ! どっちも食べ物がしていて良い色をしていないぞ!?」
「ごちゃごちゃうっさいなぁ! とにかく食え!」
「ぬえさんズルいです! 私のだって……えい!」
「だから待っ──モゴ!?…………ごくっ……ぐ、ぐふっ!」
「「な、ナズーリン(さん)!?」
三本目、手料理勝負──引き分け。
「なかなかやるわね、多々良小傘!」
「ぬえさんも……流石です!」
お互いにゼエゼエと肩で息を吐きながらも互いの健闘を称え合う私たち。
一体なんの勝負だったのかさえ忘れてしまいましたが、今の私たちにとってはもうそんな事は些細な事でした。
そう──激しい戦いの末、私たちは互いを理解し合うに至ったのです!
「あんた中々見所が有るわね……特別に、私の弟子にしてあげても良いわよ?」
で、弟子!?
突然の申し出に私は目を白黒させました。
伝説の妖怪である鵺の弟子になれるなんて、これはひょっとして凄いことなんじゃ──
ふらっ
──あ、あれ……?
「も、もう小傘ったら。感動の余り抱きついちゃった感じ? 大袈裟なんだから……小傘?」
どうしちゃったんだろう……私。
声が出ない……。
ダメ……意識も……。
「小傘! しっかりして、小傘!」
暗転する意識の中、ぬえさんの声だけが頭に響きました。
次がとても楽しみです。
次のお話も待ってます!
ところでぬえがやっと出てきましたが可愛いなぬえ。可愛い。
あと一言言わせてください。
「誰かー!小傘ちゃんとぬえの雑巾掛けの模様を絵にーー!」