※注意。にとりが残念。絵にすると一部15禁くらいかもしれないこともないかもしれないかもしれないか以下略。
「わたしー秋のシ・ン・デレラー」
秋の中ごろ、役目の為一割・面白いこと探し二割・秋を満喫七割で妖怪の山を散策していた秋静葉は、
「あら?」
珍妙なオブジェと遭遇した。
そのオブジェは赤と黄で彩られた落ち葉のじゅうたんの上に存在感たっぷりに鎮座している。
基部は水色、蒼天を目指すかのような頂点は肌色。奇跡のバランスを保つオブジェ。おおざっぱに形を表すなら山型、もっと正確に言うなら、
「にとりちゃんよねえ?」
河童型か。
静葉はオブジェもとい河童のにとり(?)に近付いて、顔のあたりの落ち葉を避けた。
「やっぱりにとりちゃん。お昼寝中?」
「ひゅ…」
「気絶してるの?」
「……」
「気絶してるのね」
気絶だ。顔面は落ち葉を押しのけて半分以上地面にめり込んでいるし、どことはとても淑女の口から言えないがおしりを思いきり天に向けているし。わざわざこんな恰好で眠る人はいなかろう。現ににとりは呻いていた。
まずは気道の確保からかしら。静葉はとりあえずてっぺんを押して珍妙オブジェにとりを横に倒してみた。ドズンッ!結構な勢いだったがにとりは起きなかった。そういえばいまさらだけど顔が結構埋まって固定されているから、首が危なかったかなあ、と思った。無事だからいいか。
はてさて、にとりは何故気絶しているのか?
諸々の状況-
ところどころ焦げたにとりの服とか、(とくに臀部の損傷が酷い。見えている)
辺りの落ち葉が不自然に捲り上がっていることとか、
にとりがしっかと握りしめているいかにもなスイッチとか、
-から、静葉は推測する。
「…飛んで来たのかしら」
落ち葉の上を滑った跡があるし、にとりのおしりの方角は河だ。発射点はその河で間違いないだろう。
「秋でよかったわねえ」
にとりの様子をみると、擦り傷(さっきできたもの含む)程度で済んだようだ。これもクッションになった落ち葉のおかげね。ああ、秋ってなんてすばらしいの。吹っ飛ばされても擦り傷で済むなんて!
静葉はにこにこと-友人が気絶しているというのに-鼻唄まじりでにとりを地面から抜いた。あ、まず抜けばよかったわね。
「誘われてーとろぴかるどりーみん♪」
静葉は英語に明るくないので、トロピカルが思いっきり夏を連想させるものだとは知らない。ビーチもそのまま歌う。ちなみに、うまく替え歌が思いつかないフレーズはハミングでごまかしている。
「うん、顔にもあんまり傷はないわね」
これもいきなり地面じゃなくて落ち葉があったおかげね。ああ、秋ってなんて以下略。
静葉はにとりの服についた砂や泥を払ってあげた。にとりは唸ったが、目覚める様子はない。いきおいよく飛んだみたいだから、仕方ないのかもしれない。
どうしたものか。時間はあまりない。自分には一応役目があるし、なによりお腹が空いてきたし。
起きるのを待っていてはいつになるかわからない。抱えて飛ぶのはたぶん無理、がんばれない。となると、
「そのうち目、覚ますわよね」
置いていくのがベストであると結論。このあたりは人も妖怪も神さまも滅多に来ないからだいじょうぶだいじょうぶ。だいじょうぶ。
…でも、
「ちょっと申し訳ないわねえ」
何かしてあげられることはあるかしら。私も神さまだし、山の住人のためだものね。いつかばれたら雛に怒られるかもしれないし。そう考えていると、にとりがふいにぶるっと震えた。
秋も深まり、夏の暑さは過ぎ去った。油断すれば河童とはいえ風邪をひくかもしれない。
静葉はこれだとうなずいて、紅葉を布団代わりにすることにした。布団に困らないなんて、ああ、秋って以下略。
「あ、そうだわ」
臀部が悲惨なのを失念していた。にとりを紅葉に埋める前に、静葉はそこに手をかざす。
「えい」
まったくやる気のない声だったが、どこからか鮮やかな紅葉があらわれてにとりのそこを覆い隠した。紅葉とはいえ霊力で固定したので簡単には取れない。ただ、青い服に赤と黄なので、えらく奇抜で目立っている。…まあ、寒さ対策としては完璧だった。
にとりはついに紅葉に埋められ、顔だけ不自然、言ってしまえば不気味に露出している。
「良いことすると良い気持ちよねー」
静葉はふうと(かいてもいない)汗を拭う素振りをして、すがすがしい気持ちで飛び立つ。
やっぱり秋は良い季節だわ。とっさにパッチワークができるんだもの-新たな秋の魅力にうっとりしながら。
一方、
綺麗な紅葉でばっちり守られ、寒い思いをせずに済んだ河城にとり。ばっちりすぎて脱出できずもがいていたところを鍵山雛に救出されていた。
間抜けすぎて、両者気まずさの極致。
そして、にとりは臀部の惨状に気付かないままだった-ただでさえ気まずい中、雛に気まずそうに指摘されるその瞬間まで。
「ひゅ、ひゅいいいいいいいぃぃぃ!?」
いいいいいぃぃぃ……。
いいいいぃぃぃ……。
いいいぃぃぃ……。
「あかいーもみじに腰かけー囁いて甘い言葉ぁー樹々のーざわめきにまぎれてー、っと」
哀れな河童の慟哭なんて、トリップ中の神さまには届くはずもないのだった。
*
大惨事から数年後。
「あらにとりちゃん、お久しぶりね」
「…久しぶりすぎて、久しぶりなんて言葉じゃ収まらないですよ」
「難しいこと言うのね。やっぱり河童は賢いわ」
「ここ十年は見てませんでしたよ。どこにいたんですか」
「どこ…。秋以外はあんまり出歩かないし、秋は幻想郷中の樹という樹を見回っているからどことは言えないし、人里にも顔を出すし…。まあ、にとりちゃんとはちょっとうまくかみ合わなかった、ってことね」
「はあ…(十年ってちょっとかなあ?)」
「そういえば雛とも最近会ってないわね。元気にしてる?」
「はい」
「そう、うまくいってるようでなによりだわ」
「…え、あ、……はい」
「ふふ。さて、そろそろ行かなくっちゃ。うかうかしてると冬になってしまうわ」
「まだ九月ですよ?」
「甘いわね、にとりちゃん。私には聞こえるのよ、冬妖怪の鼓動が…!奴さんが目覚める前に秋を咲かせなくては!」
「た、たいへんですね(突然熱くなるなあ…てゆうか奴さんて…)」
「というわけだから。またいつか逢いましょ」
「はい。またいつか」
「あ、そうだ」
「?」
「爆発物の実験には立会人がいたほうがいいわ。とくに刺繍が得意な人ね。おしりをすぐ直してもらえるように「ひゅいいいいいい!?」雛はあれで器用だから頼んでみると良いわよ。一番良いのは暴発しないことだけどね。じゃあまたー」
「ななな、なん、なんで知って、まま、まさ、まさか」
「ときめきのーとろぴかるどりーみん♪」
とっくに飛び立った静葉。季節のおかげで御機嫌である。にとりは突然の犯人発覚に驚くよりも、あのときの気まずさを思い出してしまって、すっかり消沈していた。
トラウマを 抉って去りゆく 秋の神 トロピカルとは 熱帯の意 (字余り)
河城にとり、心の一首。
「わたしー秋のシ・ン・デレラー」
秋の中ごろ、役目の為一割・面白いこと探し二割・秋を満喫七割で妖怪の山を散策していた秋静葉は、
「あら?」
珍妙なオブジェと遭遇した。
そのオブジェは赤と黄で彩られた落ち葉のじゅうたんの上に存在感たっぷりに鎮座している。
基部は水色、蒼天を目指すかのような頂点は肌色。奇跡のバランスを保つオブジェ。おおざっぱに形を表すなら山型、もっと正確に言うなら、
「にとりちゃんよねえ?」
河童型か。
静葉はオブジェもとい河童のにとり(?)に近付いて、顔のあたりの落ち葉を避けた。
「やっぱりにとりちゃん。お昼寝中?」
「ひゅ…」
「気絶してるの?」
「……」
「気絶してるのね」
気絶だ。顔面は落ち葉を押しのけて半分以上地面にめり込んでいるし、どことはとても淑女の口から言えないがおしりを思いきり天に向けているし。わざわざこんな恰好で眠る人はいなかろう。現ににとりは呻いていた。
まずは気道の確保からかしら。静葉はとりあえずてっぺんを押して珍妙オブジェにとりを横に倒してみた。ドズンッ!結構な勢いだったがにとりは起きなかった。そういえばいまさらだけど顔が結構埋まって固定されているから、首が危なかったかなあ、と思った。無事だからいいか。
はてさて、にとりは何故気絶しているのか?
諸々の状況-
ところどころ焦げたにとりの服とか、(とくに臀部の損傷が酷い。見えている)
辺りの落ち葉が不自然に捲り上がっていることとか、
にとりがしっかと握りしめているいかにもなスイッチとか、
-から、静葉は推測する。
「…飛んで来たのかしら」
落ち葉の上を滑った跡があるし、にとりのおしりの方角は河だ。発射点はその河で間違いないだろう。
「秋でよかったわねえ」
にとりの様子をみると、擦り傷(さっきできたもの含む)程度で済んだようだ。これもクッションになった落ち葉のおかげね。ああ、秋ってなんてすばらしいの。吹っ飛ばされても擦り傷で済むなんて!
静葉はにこにこと-友人が気絶しているというのに-鼻唄まじりでにとりを地面から抜いた。あ、まず抜けばよかったわね。
「誘われてーとろぴかるどりーみん♪」
静葉は英語に明るくないので、トロピカルが思いっきり夏を連想させるものだとは知らない。ビーチもそのまま歌う。ちなみに、うまく替え歌が思いつかないフレーズはハミングでごまかしている。
「うん、顔にもあんまり傷はないわね」
これもいきなり地面じゃなくて落ち葉があったおかげね。ああ、秋ってなんて以下略。
静葉はにとりの服についた砂や泥を払ってあげた。にとりは唸ったが、目覚める様子はない。いきおいよく飛んだみたいだから、仕方ないのかもしれない。
どうしたものか。時間はあまりない。自分には一応役目があるし、なによりお腹が空いてきたし。
起きるのを待っていてはいつになるかわからない。抱えて飛ぶのはたぶん無理、がんばれない。となると、
「そのうち目、覚ますわよね」
置いていくのがベストであると結論。このあたりは人も妖怪も神さまも滅多に来ないからだいじょうぶだいじょうぶ。だいじょうぶ。
…でも、
「ちょっと申し訳ないわねえ」
何かしてあげられることはあるかしら。私も神さまだし、山の住人のためだものね。いつかばれたら雛に怒られるかもしれないし。そう考えていると、にとりがふいにぶるっと震えた。
秋も深まり、夏の暑さは過ぎ去った。油断すれば河童とはいえ風邪をひくかもしれない。
静葉はこれだとうなずいて、紅葉を布団代わりにすることにした。布団に困らないなんて、ああ、秋って以下略。
「あ、そうだわ」
臀部が悲惨なのを失念していた。にとりを紅葉に埋める前に、静葉はそこに手をかざす。
「えい」
まったくやる気のない声だったが、どこからか鮮やかな紅葉があらわれてにとりのそこを覆い隠した。紅葉とはいえ霊力で固定したので簡単には取れない。ただ、青い服に赤と黄なので、えらく奇抜で目立っている。…まあ、寒さ対策としては完璧だった。
にとりはついに紅葉に埋められ、顔だけ不自然、言ってしまえば不気味に露出している。
「良いことすると良い気持ちよねー」
静葉はふうと(かいてもいない)汗を拭う素振りをして、すがすがしい気持ちで飛び立つ。
やっぱり秋は良い季節だわ。とっさにパッチワークができるんだもの-新たな秋の魅力にうっとりしながら。
一方、
綺麗な紅葉でばっちり守られ、寒い思いをせずに済んだ河城にとり。ばっちりすぎて脱出できずもがいていたところを鍵山雛に救出されていた。
間抜けすぎて、両者気まずさの極致。
そして、にとりは臀部の惨状に気付かないままだった-ただでさえ気まずい中、雛に気まずそうに指摘されるその瞬間まで。
「ひゅ、ひゅいいいいいいいぃぃぃ!?」
いいいいいぃぃぃ……。
いいいいぃぃぃ……。
いいいぃぃぃ……。
「あかいーもみじに腰かけー囁いて甘い言葉ぁー樹々のーざわめきにまぎれてー、っと」
哀れな河童の慟哭なんて、トリップ中の神さまには届くはずもないのだった。
*
大惨事から数年後。
「あらにとりちゃん、お久しぶりね」
「…久しぶりすぎて、久しぶりなんて言葉じゃ収まらないですよ」
「難しいこと言うのね。やっぱり河童は賢いわ」
「ここ十年は見てませんでしたよ。どこにいたんですか」
「どこ…。秋以外はあんまり出歩かないし、秋は幻想郷中の樹という樹を見回っているからどことは言えないし、人里にも顔を出すし…。まあ、にとりちゃんとはちょっとうまくかみ合わなかった、ってことね」
「はあ…(十年ってちょっとかなあ?)」
「そういえば雛とも最近会ってないわね。元気にしてる?」
「はい」
「そう、うまくいってるようでなによりだわ」
「…え、あ、……はい」
「ふふ。さて、そろそろ行かなくっちゃ。うかうかしてると冬になってしまうわ」
「まだ九月ですよ?」
「甘いわね、にとりちゃん。私には聞こえるのよ、冬妖怪の鼓動が…!奴さんが目覚める前に秋を咲かせなくては!」
「た、たいへんですね(突然熱くなるなあ…てゆうか奴さんて…)」
「というわけだから。またいつか逢いましょ」
「はい。またいつか」
「あ、そうだ」
「?」
「爆発物の実験には立会人がいたほうがいいわ。とくに刺繍が得意な人ね。おしりをすぐ直してもらえるように「ひゅいいいいいい!?」雛はあれで器用だから頼んでみると良いわよ。一番良いのは暴発しないことだけどね。じゃあまたー」
「ななな、なん、なんで知って、まま、まさ、まさか」
「ときめきのーとろぴかるどりーみん♪」
とっくに飛び立った静葉。季節のおかげで御機嫌である。にとりは突然の犯人発覚に驚くよりも、あのときの気まずさを思い出してしまって、すっかり消沈していた。
トラウマを 抉って去りゆく 秋の神 トロピカルとは 熱帯の意 (字余り)
河城にとり、心の一首。
静葉マジおにちくw
私もトラウマ作って頂いて抉って欲しいです……。
そんなにとりんが可愛いよにとりん。
雛さんと幸せになって下さい。
コメントありがとうございました