ザザザザッ
ザザザザザザッッッ!!!
ほとばしる足音。きらめく眼光。二つの影が、回っている。何かを取り囲むように、そして、その何かを逃がさないように。
円の中心には、一人の少女が座り込んでいる。恐怖に竦んだ表情が緑の髪に映える。彼女の名は、不明である。ここでは便宜的に大妖精と呼ぶ事にしよう。
大妖精が、悲鳴を上げる。
「何でこんな事をするんですか! 私が何をしたって言うんですか!」
影は構わず、回り続ける。
この二つの影、片方を秋静葉と言った。終焉を司る神。それなりには強力な神であると伝えられている。
もう片方は静葉の妹で秋穣子と言う。豊穣の神で、それなりに人気は高い。強力かどうかは知らないが、少なくとも姉よりは強いらしい。
まあしかし、そんな二柱の紹介などはどうでも良いのだ。問題は、何故この二柱が回っているかである。
二柱の対角線上、その中央には、常に大妖精が居た。何故か。秋サンドだからである。
秋サンド。それは秋の神、秋姉妹の最終採取奥義。二柱の間に現われた力場(これを秋場と言う)は、その場における秋度を増大させ、標的を秋へといざなう。
その力はまさに絶対無敵。この幻想郷に居る何者を持ってしても、そう、あの八雲紫を持ってしてさえも、破る事は出来ない。
「大ちゃんを苛めるなぁーっ!」
どこからか、大妖精の友人と思われる妖精が特攻をかける。
しかし、秋サンドの力は絶大である。にわかに、回転の速度を増す秋姉妹。秋の力が、増大していく!
たまらず撤退しようとする妖精。だが時既に遅し。秋の力は凝縮を続け、辺りの物を吸い込み始めた。
空気が震える、轟音を立てる。妖精が、秋場へと引っ張られる。
そう、これぞ「秋・タイフーン」!!
助けに来たはずの妖精はあわれ中天へと吹き飛ばされ、後には茫然自失の大妖精だけが残った。
秋姉妹は、依然、回り続ける。
「何でこんな……」
大妖精が、涙を流す。しかし、秋姉妹は止まらない。
何故なら、それが彼女達の使命だから。挟まれるべきが、大妖精の使命なのだから。
挟まれてしまうのが悪い。何故、挟まれないようにしなかった。皆は口を揃えてこう言う。大自然は厳しいのである。
秋姉妹は毎年この季節になると回りだす。
その時、誰も挟まれない年もあればまた、三人以上挟まれてしまう年もある。
挟まれた者は言う。「何でこんな事をするのか」はたまた「どうして挟まれてしまったんだ」
秋姉妹は一顧だにしない。これが私たちの宿命なのだとでも言わんばかりに、回り続け、重圧とストレスをプレゼントする。
日が暮れる頃、秋サンドは終わりを告げる。
徐々に秋姉妹の回転する速度が下がっていき、最終的に殆ど歩く速度と変わらなくなった時、秋姉妹は散開する。
後に残された被害者は、ここではじめて長きに渡る苦痛から開放されるのだ。
秋サンドが終わった後、秋姉妹は住処で酒を一杯、大仰にあおる。
そして言うのだ、「私たちも、挟まれる側に回りたいね」
一筋の涙が、頬をつたった。
完!!
この勢い、嫌いじゃないぜ…
勢いや雰囲気は好みでした。
まさかSSにする人が現れるとは