「あのさ」
きたきたきたきたきたやばいよ霊夢さんがこっちを見てるよイェーイイェーイ! ほらほんのり頬も赤みがかってるよこれマジ私に惚れてるノ確定きたねー! これも三日ぐらい前からずっと神棚に祈ってたおかげかもしれない。家帰ったら大福でも供えておこうかしらヒャッホー!
藍はこないだ神棚に油揚げを供えて、油揚げを一枚生贄に捧げることによって現世に油揚げ神を降臨させるのですとかわけのわからないことを言ってた。
ちょっとバグったのかと思って永遠亭に入院させておいたけど、あの神棚効能!ちゃんとあったんじゃないの!? もーやだー!
思えば普段から足繁く通いつめてついに夕飯を一緒に食べるっていっても何も言われなくなったし、まぁ毎回押し寿司とか山菜とか持ち寄ってるからかもしれないけど。
一回何もお土産持ってこなかったら三時間ぐらい完全に無視されてそのまま布団に入って寝息立て始めたこともあるけど、そんなのは遠い過去のことなのよ!
ひーふーふー落ち着きなさいゆかりん表情に出しちゃダメよ。いつも冷静で穏やかなお母さんキャラを目指して幾星霜。
幾星霜の意味がホントはあんましよくわかってないけど、あんたに母性とか無理でしょとか煎餅食ってる幽々子に笑われたりもしたけどそれかついに全身から溢れ出してきたのかしらヒャッホー! さっきからヒャッホー! って叫び方ばっかりしてるけど決してそれ以外の語彙が見つからなかったとかそういうわけではなくって。
ほら霊夢が口を動かそうとしてるわ。そこを芳しい吐息が通過することで発声されようとしているのね。まさに霊夢の唇はストラディバリウスといったところかしら。
紡がれる言葉は大いなる神の福音がうんたらこうたらどうたらこうたら。
それに瑞々しくってぷるんぷるんしてる唇がとってもきゅーと。吸い付きたいぐらい。やったら絶対殺される予感がするからできないけど。
でも私に娘が居たら霊夢みたいな子に育てたいなって思うの。それで一緒に街を歩いて「姉妹ですか?」とか聞かれたかったり。娘と服を交換したりするような親子になりたいの。
巫女服着てみたら似合うかしら。今度こっそり借りてみようかなって思うけど霊夢は怒るかしらね。ううんきっとしょうがないわねって許してくれるはず。
私、霊夢のことだったら全部わかるもの。
霊夢が今何を望んでいるかだってわかるから、心の準備をしておかないとねひーふーひーふー。しっかり深呼吸して、それで必死で搾り出された霊夢の言葉に微笑み返すの。
予行練習開始。
脳内シュミレートで多分もう三万回はしたわよ。この瞬間に。大丈夫。霊夢はまだ一文字目を口に出そうとしているだけ。
心臓が次の拍動で一気に血の量を増やすとこーしょんしてくるけど私はそこにシャットアウト!
ここは大人の余裕を見せ付けておく場面なの。
取り乱したら台無しだし、勇気を振り絞ってる霊夢がもし泣いちゃったりしたらどうするのよ。
落ち着け、落ち着くのよ紫。
ああ緊張するわ。私の演算よりもちょっとだけ早いけど、多少の誤差は人間にはよくあることね。
運命の紅い糸は私に向かって伸びていた!
ざまぁ吸血鬼! ざまぁ萃香!
大体あいつらいつもいつも宴会のたんびに膝に座ってたり特等席に呼んだりと泥棒猫っぷりを発揮しすぎなのよ。
橙を見習いなさい。マタタビをあげれば私の言うことをきちんと聞くのよ。ふふん。
あーもう、明日からのあいつらの顔がた・の・し・み。
これからは一生埋まらない溝に嘆きつつ暮らすがいいわ!
ここに勝ち組と負け組みははっきりと別たれた!
あーあおかしくって仕方ないわ。
今日は宴会ね。幽々子のところにでも行こうかしら。
え、でも霊夢が今夜は泊まっていきなさいよって言ってきたら……。
ダメよ紫。まだ二人にはそんな関係は早いわ!?
がっつきすぎたらいけないって、恥を忍んで永遠亭の姫にも言われたじゃない。
盆栽しか恋人いないくせに案外そっちの機微は把握してくるから舌を巻くわ。
さて、そろそろ霊夢の言葉に耳を傾けようかしら。
おーいえすおーいえす。
いけるいける。ゆかりんいける。
さあ、いざ尋常に勝負よ!
「醤油とって」
「はい」
よかったねゆかりん
この間にここまでの考えが…流石天才。
しかしなんという甜菜なんだ……。