冬がまだまだ衰えを見せない如月の中頃。降り積もった雪が朝日を受けて輝き、幻想郷はその名に違わぬ幻想的な風景を見せていた。
しかし僕の住む魔法の森はその限りではなく、木々の葉に雪は乗る。
故に森の中は気温が低いだけで、何時もと何ら変わりない風景が広がっていた。
そしてそんな空気の中、僕は何時もの様に客を待ちつつ読書に耽っていた。
店の一角ではストーブがしゅんしゅんと音を立て、これから来るであろう客の為にと働いている。
彼のその思いは報われる事無く一日が終わる日が多いが、どうやら今日はその限りではなかったらしい。
――カランカラン。
「いらっしゃ……ん」
やって来た客に挨拶を言いながら、僕は本から顔を上げた。
「こんにちは、霖之助さん」
やって来たのは、僕と同じく魔法の森に居を構える魔法使い、アリスだ。
「やぁ、君か。今日は何か入用かな?」
「え、えぇ……まぁ、今日は買い物しに来たんじゃないのよ」
「む、そうなのか」
「そう。貴方にこれを渡しに来たのよ」
言って、アリスは懐から一つの包みを取り出した。
それは赤いリボンで口を閉じた、至って普通の手の平サイズの白い袋だ。
「ほ、ほら。今日はバレンタインでしょ? だから……」
「……あぁ。もうそんな時期か」
成程、確かに能力を使って袋を見ると、名称は『バレンタインチョコ』と映る。
「ひ、一つ勘違いしないでほしいのは、これは私が食べようと思って作った物が余っちゃったのよ。それで丁度バレンタインだったから貴方に渡しただけで、別に最初から貴方に渡そうと思って作ったんじゃないのよ」
「ふむ、そうかい。まぁ、過程はどうあれ貰えた事は嬉しいよ。有難うアリス」
「ッ……そ、そう。そう言われると……渡してよかったわ」
「食べてみてもいいかい?」
「ど、どうぞ?」
了承を得て、袋の紐を解く。
しゅるりと小さく音を立ててリボンが解かれ、中のチョコレートが姿を表した。
「ほぅ……これはこれは。随分と豪勢だね」
「……まぁ。折角食べるならいい物を食べたいじゃない」
「その考えには同意だね」
一つ手にとり、口に入れる前にチョコを見る。
折角食べるならいい物を。の言葉通り、そのチョコレートはしっかりと作られており、食べるのが勿体無くすら感じられる。里で売ればそれなりの利益が見込めるだろう。
「ふむ……ん?」
「………………」
視線を感じちらとそちらに目を向けると、アリスがちらりちらりとこっちを見ていた。
大方、自分が作った物の感想を聞きたいのだろう。そしてこのチョコを食べ、僕がどの様なリアクションをとるのかも気になっているのだろう。
――貰っている以上、待たせるのも悪いか。
そんな事を思い、摘んでいたチョコレートを口へと放り込んだ。
「……うん、美味しい」
「ホ、ホント?」
「あぁ。流石は君だね」
「そう…………気に入ってもらえて良かった」
「……ん?」
「ぇ……ッ! な、何でも無いわ!」
最後の方がよく聞き取れなかったが、聞きなおした直後に何でも無いと首を振っているので大した事ではないのだろう。
顔が若干赤い事から、恐らく褒められた事に対して照れているのだろう。
「しかし、本当に美味しいね。売れば結構な額になるだろうに」
そう言いながら、チョコレートをもう一つ取り出した。
「手間が掛かるもの。そんな事してたら人形が作れないわ」
「あぁ……それもそうだ」
返しながら、口へと運ぶ。
甘い様で少しだけ苦い、程よい味わいのチョコレートだ。
「……ふむ」
その時、一つの考えが頭を過ぎった。
――これは僕にも作れないだろうか。
バレンタインデーにお菓子を貰った以上、来月の14日……ホワイトデーにお返しをしなくてはならない。
普通はマシュマロやキャンディーを送るのだが、生憎僕にそれらを作る技術は無い。
しかし、チョコレートなら幾分か代用が効く。紫を通せば材料を入手する事も難しくない。
それなら別に何でもいいのでは、と考えてしまいそうになるが、それではいけない。
『食べるならいい物を』。
アリスはそう言ってこのチョコを作ったのだ。これは僕の勝手な思い込みだが、此方もその考えを持たなければいけないだろう。
同じ物を返すのはどうなのだろうと一瞬思ったが、これはこれで他にも代用が効くだろう。効かずとも料理の知識が増えるのは有難い。
しかし、作り方をアリス本人に聞くのは気が引けるというもの。
ならどうするか、簡単である。
このチョコ単体の名称を見ればいいのだ。
外の世界の料理本なら幾つか保管している。それに、最近手に入れた本には『バレンタインチョコ特集』と書いていた。それと名称を照らし合わせれば、作り方も自ずと分かるだろう。
そんな思いから、僕は能力を使って手に取ったチョコレートを目に映した。
「……ん?」
しかし僕の頭に浮かんだ名称は、予想とは全く違っていた。
「ん、どうしたの?」
「……いや、少し驚いただけだよ」
「え……何に?」
……問われた以上、答えるべきだろう。
思い、口を開いた。
「……今少し思う所があって、このチョコレートを僕の能力を通して見たんだ」
「え?」
「それで名称と用途が浮かび上がったんだが……その名称と用途がね」
「……?」
「名称、本命チョコ。用途は『相手に想いを伝える』……」
「―――――ッッ!!!???」
僕が読み取った事を口に出した瞬間、アリスは『ぼん』という音でも聞こえてきそうなぐらいの速さで顔を真っ赤にし、更に口をあんぐりと開けて動かなくなってしまった。
「そう出たんだが……って、アリス?」
「……ば」
「……?」
「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」
そう言うなり、アリスは普段の彼女からは想像も出来ない様な乱暴な開け方で扉を開け放ち、脱兎の如き勢いで店を飛び出してしまった。
「あ……」
呼び止めようとしたが、既にその姿は無く。
店の中には、戻ってきた扉に取り付けた鈴の音だけが、カランと鳴り響いた。
「……やれやれ」
突然に馬鹿と言われ最初は戸惑っていたが、少しすると段々と落ち着いてきて、思考にも少し余裕が出来た。
バレンタインデーに本命チョコを渡すというのは……恐らく、そういう事なのだろう。
いきなり彼女の気持ちを知ってしまったという驚きの反面、好かれていたという嬉しさもある。
「さて……、どうしたものか」
以前早苗君から聞いた事だが、バレンタインデーのお返しは三倍が基本だという。
「三倍……ね」
彼女の想いに、何をもってすれば三倍となるのか。単なる菓子では到底足りないだろう。
……まぁ、考えるのは後でもいいだろう。
結局チョコレートの製法は知れなかったが、それ以上に嬉しい事を知れた。今はその喜びに浸ろう。
思い、一つチョコレートを口に放り込んだ。
そのチョコレートは、先程よりも甘く感じた。
アリ霖はやっぱいいものだね
さて、お返しの指輪の準備でもしてもらおうk(ry
用途がばれて逃げ出すアリス可愛いよアリス^q^
三倍返しには給料一カ月分の……
霖之助さんに給料ねぇよorz
良いなぁアリ霖。
しかし霖之助、そう言うのは分かっていても言わないのがマナーじゃねぇか?まぁ取り乱すアリスが見れたから良いんですけどね。
魔法の森に行きてぇなちくしょう……
返信です。
>>奇声を発する程度の能力 様
期待通りの叫び声、有難うございます!
アリ霖はいいですよね!
>>2 様
叫び声あr……何、だと……?
>>3 様
ベタにはベタの魅力がありますよね!
一月分……何という雀の涙www
>>投げ槍 様
叫びg……な、何ィ!? 顔まであるのにかッ!?
マナーがなってない少女達ばかり相手にしてたら感染ったみたいですねw
>>5 様
だが、霖之助さんの思考はその上を行くッ!
>>物語を読む程度の能力 様
期待通りの叫b(ry
私も行きたいですね……えぇ、行きたいですとも!
>>華彩神護 様
私もリアルでは何もありませんでしたからねぇ……(TДT)
>>8 様
だが、霖之助さんの思考はその上w(ry
>>9 様
あ゙……自分がそんな経験無いから忘れてた……
読んでくれた全ての方に感謝!