まだ少し肌寒い初春の夜。月明かりに照らされたテラスでひとり空を見上げる。
細く欠けた月を見ていると、不意に彼女の顔が頭に浮かびあがり。私は彼女のもとに足を向けた。
***
「パチェ」
薄暗く埃っぽい地下の大図書館。大量の本とそれを収納する棚以外には一組のテーブルセットがあるだけの、静か過ぎる空間。
彼女はそこで、莫大な数の蔵書を飽きもせず毎日読んでいる。
「あらレミィ。いらっしゃい」
一瞬だけ私に視線を向けてそう言うと、再び視線を読んでいた本に戻す。表紙に書かれた難解な文字から察するに、おそらく魔導書のひとつだろう。私には読めない類の本だ。
「隣、座るよ」
「どうぞ」
許可をもらい、彼女の隣に椅子を引いて座る。まあ許可が出なくても勝手に座るし、彼女が私の申し出を拒否することもまずないんだけど。
手元の本を覗き込むと、やはり魔導書のようだった。ほんの少し読み解ける箇所もあるが大半は理解することが出来ない。
別の本を読もうかとテーブルの上を見渡すが、どうやら近くに重ねて置いてあるいくつかの本も全て魔導書の類らしい。魔導書だけでなくいろいろな種類の本を読む彼女だけど、今日は他の種類の本を用意していないらしい。
「むう……」
さて、何をしよう。手持ち無沙汰になってしまった。
隣に視線を向けるが、彼女の視線はずっと手元の本を向いている。
うーん……。
「パチェー」
「何? レミィ」
「ひま」
「そう」
「そう……ってそれだけ!?」
ヒトが退屈で困っているのにとてもドライな対応を見せる我が親友。
「パチェが冷たいわ」
「確かに魔女だから体温は低いわね」
「私は吸血鬼だから体温ないわよ」
「寒いから近寄らないで」
「ほんとにひどいっ!?」
なぜだか今日の彼女はいつもより態度が冷たいように感じる。私が何か悪いことをしたのだろうか?
「……うー……?」
考えてはみるが、思い当たる節がない。最近はあまり図書館に来ていなかったし、悪いことをする機会だってなかったような……。
「……レミィのばか」
小さな呟きが聞こえ、勢いよく彼女の方に視線を向ける。いつもと変わらぬ無表情。……かと思えば、ほんの少し、本当に少しだけ拗ねているように見える。
付き合いの長い私にくらいしかわからないような、小さな小さな表情の変化。
以前に一度だけ彼女のこんな表情を見たことがある。あの時は確か、私が何日も彼女と顔を合わせずにいて……。
……そうか。そういうことか。
「ごめん、パチェ」
「……」
「寂しかったのよね?」
「……」
返事はない。ただ、少しだけ頬が赤くなっているところを見ると当たりのようだ。
「ごめんなさい」
椅子から立ち上がり、後ろから彼女を抱きしめる。
すぐにでも折れてしまいそうなほどか細い私の親友。私はこんな彼女を何日も放っておいたのかと自分を殴りたくなる。
「……レミィ」
「ん?」
暫くお互いが黙っていたが、彼女が先に口を開いた。
「レミィは……その……」
「なにかしら?」
「レミィは、私のこと……その……」
言いづらそうに口元をもごもごさせている彼女。
「好きよ。大好き」
なんとなく言いたいことがわかったので言葉を先取りしていう。
私の言葉を聞いた彼女はちょっと顔を赤らめて。だけどすぐに拗ねた顔に戻ってしまう。
「ごめんねパチェ。これからはもっとパチェに会いにくるから」
「……約束よ?」
「ええ。悪魔は契約を破らないわ」
「ほんとかしら」
クスクスと笑いながらこちらを向いて、真っ赤な顔の彼女は、その表情を隠すように私に抱きついた。
細く欠けた月を見ていると、不意に彼女の顔が頭に浮かびあがり。私は彼女のもとに足を向けた。
***
「パチェ」
薄暗く埃っぽい地下の大図書館。大量の本とそれを収納する棚以外には一組のテーブルセットがあるだけの、静か過ぎる空間。
彼女はそこで、莫大な数の蔵書を飽きもせず毎日読んでいる。
「あらレミィ。いらっしゃい」
一瞬だけ私に視線を向けてそう言うと、再び視線を読んでいた本に戻す。表紙に書かれた難解な文字から察するに、おそらく魔導書のひとつだろう。私には読めない類の本だ。
「隣、座るよ」
「どうぞ」
許可をもらい、彼女の隣に椅子を引いて座る。まあ許可が出なくても勝手に座るし、彼女が私の申し出を拒否することもまずないんだけど。
手元の本を覗き込むと、やはり魔導書のようだった。ほんの少し読み解ける箇所もあるが大半は理解することが出来ない。
別の本を読もうかとテーブルの上を見渡すが、どうやら近くに重ねて置いてあるいくつかの本も全て魔導書の類らしい。魔導書だけでなくいろいろな種類の本を読む彼女だけど、今日は他の種類の本を用意していないらしい。
「むう……」
さて、何をしよう。手持ち無沙汰になってしまった。
隣に視線を向けるが、彼女の視線はずっと手元の本を向いている。
うーん……。
「パチェー」
「何? レミィ」
「ひま」
「そう」
「そう……ってそれだけ!?」
ヒトが退屈で困っているのにとてもドライな対応を見せる我が親友。
「パチェが冷たいわ」
「確かに魔女だから体温は低いわね」
「私は吸血鬼だから体温ないわよ」
「寒いから近寄らないで」
「ほんとにひどいっ!?」
なぜだか今日の彼女はいつもより態度が冷たいように感じる。私が何か悪いことをしたのだろうか?
「……うー……?」
考えてはみるが、思い当たる節がない。最近はあまり図書館に来ていなかったし、悪いことをする機会だってなかったような……。
「……レミィのばか」
小さな呟きが聞こえ、勢いよく彼女の方に視線を向ける。いつもと変わらぬ無表情。……かと思えば、ほんの少し、本当に少しだけ拗ねているように見える。
付き合いの長い私にくらいしかわからないような、小さな小さな表情の変化。
以前に一度だけ彼女のこんな表情を見たことがある。あの時は確か、私が何日も彼女と顔を合わせずにいて……。
……そうか。そういうことか。
「ごめん、パチェ」
「……」
「寂しかったのよね?」
「……」
返事はない。ただ、少しだけ頬が赤くなっているところを見ると当たりのようだ。
「ごめんなさい」
椅子から立ち上がり、後ろから彼女を抱きしめる。
すぐにでも折れてしまいそうなほどか細い私の親友。私はこんな彼女を何日も放っておいたのかと自分を殴りたくなる。
「……レミィ」
「ん?」
暫くお互いが黙っていたが、彼女が先に口を開いた。
「レミィは……その……」
「なにかしら?」
「レミィは、私のこと……その……」
言いづらそうに口元をもごもごさせている彼女。
「好きよ。大好き」
なんとなく言いたいことがわかったので言葉を先取りしていう。
私の言葉を聞いた彼女はちょっと顔を赤らめて。だけどすぐに拗ねた顔に戻ってしまう。
「ごめんねパチェ。これからはもっとパチェに会いにくるから」
「……約束よ?」
「ええ。悪魔は契約を破らないわ」
「ほんとかしら」
クスクスと笑いながらこちらを向いて、真っ赤な顔の彼女は、その表情を隠すように私に抱きついた。
>1様
似たような作品でしょうか? これはどこにもあげたことのないものなので、どなたかの作品と内容が被ってしまったのでしょうか。だとしたら申し訳ないです。
>けやっきー様
長い付き合いのはずの彼女たちなら、一度くらいはこんなことがあったんじゃないかな、と思いまして。親友という関係って素敵です。