警告!
これはすでに出来ているであろうカップルがいよいよ告白に至るお話です。
「告白なんて見たくない! 二人は告白しないままのほうがいい!」という人や、「そんなカップリングで告白なんて言語道断!」等の人は戻ってください。よろしくお願いします。
上に当てはまらない人はどうぞ。楽しめたら幸いです。
1.霊夢×紫の場合
博麗神社の縁側で、霊夢はいつも通りに茶を啜っている。
そこに来客の気配。見れば紫が入り口からきちんとここまで歩いて来ているではないか。霊夢は少し以外に思いながらも、茶を啜って、紫に話しかけた。
「珍しいじゃない。あんたが隙間から現れないなんて。今日は弾幕でも降るのかしら?」
「……」
「? どうしたの? 私に用があるんじゃない?」
霊夢がそう訊くが、紫は俯いたまま何も喋ろうとはしない。いや、ぶつぶつと何か短い単語を高速で繰り返しているのが分かった。
霊夢は一瞬、何かの呪文による高速詠唱かと思い、身構えたが、別段何も起こらなかった。霊夢は嘆息して、構えを解く。
「何なのよ。さっきから気持ち悪い。用がないならさっさと帰ってよ」
「帰らないわよ」
紫がようやく顔を上げて霊夢に答えた。霊夢はいささか不機嫌になりながらも、茶を啜って紫の顔を見上げる。霊夢はぎょっとした。
「どうしたのよ? 顔が真っ赤じゃないの。それに目の下にクマが出来てるし。あんた昨日ちゃんと寝たの?」
「全然、寝られなかったわ」
「何やってんのよ。いい年して全く」
霊夢がそう呆れると、紫は急にもじもじと指で遊び始めた。そして、か細い声で、霊夢に訊く。
「ねぇ……霊夢が好みなのは年上? それとも年下?」
はぁ? と霊夢は眉を顰める。
「あんた、熱でもあんじゃないの? 急にそんな質問して」
「い、いいから答えなさいよ……!」
「あぁ、分かった分かった。答えたらさっさと帰って寝てね。えーっとねぇ……別に私は年上でも年下でもどっちでもいいけど、私を養って、私に楽をさせてくれる人がいいわね。出来れば金持ち。一生の自由が約束される。そんな人がいいわ」
さてと、と霊夢は縁側から立ち上がる。
「さ、質問には答えたわ。さっさと帰って寝なさい。じゃあね」
霊夢がそのまま紫に背を向けて立ち去ろうとした時、
「……き」
「え?」
霊夢は思わず足を止める。紫から何かが聞こえたからだ。霊夢は再び眉を顰める。
「何? まだ何かあるの? 私はお昼ご飯の支度があるからさっさとして欲しいんだけど」
そう霊夢が呆れ混じりにため息を吐くと、紫は霊夢の肩を掴んで、強引に唇を重ね合わせた。
「んむぅ!?」
霊夢が訳が分からずに混乱しているのを気にせず、紫は時折息を漏らしながら接吻を続ける。
霊夢は事態にようやく頭が追いついて、紫を無理やり引き剥がす。
「ぷはぁ! 何してくれてんじゃあ! この隙間!」
「はぁはぁ……。ごめんなさい。こうでもしないと、心がどうにかなりそうだったから……」
「心が? はぁ? あんたほんっとうに今日はおかしいわよ。熱でもあんじゃないの?」
「熱……そうね、確かに熱はあるかも知れないわ」
「そら見なさい。ほら、さっさと家に帰って――」
「霊夢に対する熱い想いが、私を焦がしているのかも知れないわね」
「……は?」
霊夢が間抜けな声を出したのを気にせず、紫は凜と霊夢に向かって言い放った。
「ごめんなさい。私らしくなかったわね。霊夢、はっきり言うわ。私はあなたが好きなの」
「……はぃ?」
「に、二度も言わせないで……わ、私はあなたのことが好きなのっ! こんな関係はいけないと分かってる! けれど、いけないと思えば思うほど、あなたのことが忘れられないの! 忘れられなくなるの! だ、だから……真剣に悩んで、寝る間も惜しんで悩んで……それで、告白しようって決めたの。後悔はしてないわ。霊夢がどんな答えを返そうと、私は、それを受け入れる」
紫が真剣に霊夢のことを見つめるのを他所に、霊夢は嘆息を吐いて紫に背を向ける。
紫は『どんな答えだろうと受け入れる』と言ったが、やはり霊夢の行動にかなりの動揺を隠せないでいた。
紫が俯き、歯を噛み締めていると、目の前が影に覆われる。
顔を上げてみると、霊夢が呆れ顔で紫の目の前に立っていた。
「ほら、何してんのよ。何時までそこに突っ立てる気?」
「でも……」
再び霊夢は嘆息する。
「はぁ……お昼ご飯食べようと思ったけど、暑いから食べる気が起きないわ。だから、昼寝でもしようかしら」
「……?」
「そういえばあんた、寝不足だったわね。うちのボロイ布団で良ければ貸すわよ?」
「霊夢……」
「あ、そう言えば一つは穴が開いて使えないんだった。そうすると、家に布団は一つしか無くなるわね」
「え……?」
「あー……しょうがないわねぇ……客に粗末な布団で寝てもらうわけのはいかないし…………紫、一緒に寝てもいいかしら?」
「霊夢!」
紫は霊夢に飛びつき、抱き締めた。
「だぁー! もう、暑いんだから話なさいよ!」
霊夢はそう言うものの、意地悪く笑っている。紫も釣られて微笑み返す。
「じゃ、早速寝ましょうか?」
「えぇ、一緒に、いつまでも」
「あ、そういえばあんたはご飯作れるんの?」
「大丈夫よ。藍がいるから」
「全く……あんたらしいわね」
「それは褒め言葉として受け取っていいのかしら?」
「もちろん」
二人は互いの顔を見合わせながら、再び幸せそうに微笑み合い、そのまま神社の中へと入っていった。
2.魔理沙×アリスの場合
「ん? どうした? なんかそわそわして」
「な、何でもないわよ……」
「ん。そうか」
そう言って魔理沙は再び本を読む作業へと戻る。
アリスは自分の家なのに、どこか落ち着かない気持ちになっていた。
落ち着かない原因は自分で分かっているし、それを解消する方法も分かっている。しかし、それを実行してしまうと、何が起きるか分からない。アリスはそれで行動に移せないのだ。
アリスは再びもじもじと気まずそうに人形をいじくる。自分は魔理沙が来る前に、固い決意をしたはずだ。なのに、いざ魔理沙が目の前にいると、行動に移せない。情けない。自分はこうしてちらちらと魔理沙の顔を盗み見るくらいしか出来ない。
アリスがもじもじと人形をいじくりながら、こちらを見てくるのを見て、魔理沙は爆発した。
「だー! もう、気になって読書にも集中できないぜ! アリス! 用があるならさっさと言えよ! 気になってしょうがないだろうが!」
「えっ! ご、ごめんなさい。私……」
「御託はいいから、要件を言ってくれ! そもそもお前から呼ばれているのに、なんでお前は私に何も言わないんだよ! 私だって忙しいんだ! ここで読書するなら、パチュリーのところで読書してるわ!」
『パチュリーのところで読書してるわ!』 その言葉はどれほどアリスを傷つけただろうか。
「そう。そんなに私が邪魔なのなら、パチュリーのところでも何処でも好きに行けばいいじゃない!」
「何なんだよ人を呼んでおいて! いいぜ! お前がそう言うんならもう何処へでも勝手に行かせてもらうぜ!」
「あぁ! 行けばいいじゃない! あんたなんて大っ嫌い!」
「あたしも嫌いだ! じゃあな!」
魔理沙は扉を勢いよく叩き開けて、空の彼方へと飛んで行ってしまった。
アリスはその扉を静か閉める。そして、そのまま膝から力が抜けたように座り込んでしまった。
「ぐすっ……あたしが言いたかったのは、大っ嫌いなんて言葉じゃないわよ……」
アリスの視界は涙で滲み、最早とめどなく出てくる悲しみを堪えることが出来ない。呪文でも唱えるかのように、アリスは自分の心内を吐露する。
「私は魔理沙が好き。大好きなの。ただ、素直になれなくて、ちょっと言うのに戸惑っただけなの……昨日は散々練習して、自分でも満点が付けられるような告白を考えてきたのに、いざ魔理沙が目の前になると、何も言えなくなっちゃうし……。何であんな馬鹿なことを言ったんだろう、私。心の内では好きで好きで、それでもやっぱり女の子同士なのがおかしくて、それで言うのに戸惑っちゃって、少しでも魔理沙に私の気持ちを隠したくて、それで――言っちゃった……。『大っ嫌い』って……。もう、私のところには戻ってこないんだろうな……魔理沙。
魔理沙。魔理沙。うぅ……」
アリスはしばらくそのまま体育座りで顔を沈めてしまった。
数十分頭を真っ白にして、再び思う。
恋焦がれた少女は、もう私のところへは戻って来ない。些細な喧嘩で全てを失ってしまった。そんな喧嘩をしてしまった私なんて嫌いだ。嫌いだ嫌いだ嫌いだ。大っ嫌いだ。もう、こんな私なんて居なくなればいいのに――
「お前がいなくなったら、少なくとも私は悲しむだろうな」
アリスは扉越しの声に驚き、跳ねて、勢いよく扉を開けた。
そこには、先程喧嘩別れをしたはずのアリスが恋焦がれた少女、魔理沙が立っていた。正確には、大きな風呂敷を担いだ魔理沙が立っていた。
「魔理沙……その荷物は?」
「ん? あぁ。私の家にあった最低限に必要なものを集めたら、こうなった」
「必要なもの?」
「ん。私が住むのに最低限必要なもんだな」
「住む……? 魔理沙、引越しするの?」
「あぁ。お前の家にな」
「え――」
アリスは言葉を失った。そんなアリスを見て、魔理沙は子どもような笑顔を浮かべ、アリスに嬉々と話す。
「アリス。お前、私が好きなんだろ?」
「んな!?」
「そう顔を赤くしなくていいって。扉越しから聞いていたから」
「と、扉から!?」
「ん。飛んだ後、どうも私を呼んだお前が気になってな。戻ってみたら、アリスの声が聞こえたんだ。『私は魔理沙が好き。大好き』ってな」
「あ……」
アリスは顔を赤くして、その場でもじもじする。その後、これが魔理沙と喧嘩した理由であることを思い出し、すぐに止めようとするが、
「あぁ、そのままでいいぜ。そのもじもじとしたアリスはかわいいからな」
と、魔理沙は笑って言った。アリスはさらに顔を赤くする。
「な、なんの冗談かは知らないけど。さ、さっさと自分の家帰ればいいじゃない」
アリスはそっけなく言いながら、再び心の内で深く後悔する。
違う! 私はこんなことが言いたいんじゃない! 何で、何で私はこう素直じゃないんだろう。また、魔理沙を傷つけて――
アリスが唇を噛み締めていると、ふわりと、温かく柔らかい感触を感じ、花のような良い匂いがアリスの鼻腔をくすぐった。
気が付くと、魔理沙がアリスを抱きしめていた。
「ま、魔理沙!?」
「ごめんな、アリス」
魔理沙は真剣な口調でアリスに話しかける。
「私は、お前の本心を見抜けなかった。もしも戻っていなかったら、私はきっとお前のことが嫌いなままだったと思う」
「魔理沙……」
魔理沙が自嘲気味に笑ったのは、抱きしめられていても分かった。
「これじゃ恋の魔法使い失格だな、私は」
「……そんなこと、ない」
アリスは魔理沙の体温を感じながら、涙を流した。今度の涙は悲しみによるものではない。――喜び。アリスは心から魔理沙の思いやりに喜んでいたのだ。アリスはそのまま、言葉を紡ぐ。
「私は嬉しいよ。魔理沙がこんなにも私のことを思ってくれるんだもん。これ以上の喜びは、もう来ないと思うわ。こんなにも恋する乙女の心を魅了している魔理沙は、最っ高の恋色で私を染めてくれたわ。それだけで、あなたは十分、恋の魔法使いよ」
「アリス……」
「魔理沙……私は幸せよ。このまま死んでもいいくらい」
「っな!? 死ぬなんて、お前!?」
「ごめんなさい。失言だったわ。」
アリスはぺろ、と舌を出す。
「全く……ちょっと焦ったぜ……」
「焦ってくれたの? ありがと。っふふ」
アリスと魔理沙は体を少し離す。アリスが花のように笑い、魔理沙もにっ、と口の端を上げる。
「それじゃ、よろしく頼むぜ。アリス」
「私もよろしくね。魔理沙」
そのまま二人は、唇を重ねた。
これはすでに出来ているであろうカップルがいよいよ告白に至るお話です。
「告白なんて見たくない! 二人は告白しないままのほうがいい!」という人や、「そんなカップリングで告白なんて言語道断!」等の人は戻ってください。よろしくお願いします。
上に当てはまらない人はどうぞ。楽しめたら幸いです。
1.霊夢×紫の場合
博麗神社の縁側で、霊夢はいつも通りに茶を啜っている。
そこに来客の気配。見れば紫が入り口からきちんとここまで歩いて来ているではないか。霊夢は少し以外に思いながらも、茶を啜って、紫に話しかけた。
「珍しいじゃない。あんたが隙間から現れないなんて。今日は弾幕でも降るのかしら?」
「……」
「? どうしたの? 私に用があるんじゃない?」
霊夢がそう訊くが、紫は俯いたまま何も喋ろうとはしない。いや、ぶつぶつと何か短い単語を高速で繰り返しているのが分かった。
霊夢は一瞬、何かの呪文による高速詠唱かと思い、身構えたが、別段何も起こらなかった。霊夢は嘆息して、構えを解く。
「何なのよ。さっきから気持ち悪い。用がないならさっさと帰ってよ」
「帰らないわよ」
紫がようやく顔を上げて霊夢に答えた。霊夢はいささか不機嫌になりながらも、茶を啜って紫の顔を見上げる。霊夢はぎょっとした。
「どうしたのよ? 顔が真っ赤じゃないの。それに目の下にクマが出来てるし。あんた昨日ちゃんと寝たの?」
「全然、寝られなかったわ」
「何やってんのよ。いい年して全く」
霊夢がそう呆れると、紫は急にもじもじと指で遊び始めた。そして、か細い声で、霊夢に訊く。
「ねぇ……霊夢が好みなのは年上? それとも年下?」
はぁ? と霊夢は眉を顰める。
「あんた、熱でもあんじゃないの? 急にそんな質問して」
「い、いいから答えなさいよ……!」
「あぁ、分かった分かった。答えたらさっさと帰って寝てね。えーっとねぇ……別に私は年上でも年下でもどっちでもいいけど、私を養って、私に楽をさせてくれる人がいいわね。出来れば金持ち。一生の自由が約束される。そんな人がいいわ」
さてと、と霊夢は縁側から立ち上がる。
「さ、質問には答えたわ。さっさと帰って寝なさい。じゃあね」
霊夢がそのまま紫に背を向けて立ち去ろうとした時、
「……き」
「え?」
霊夢は思わず足を止める。紫から何かが聞こえたからだ。霊夢は再び眉を顰める。
「何? まだ何かあるの? 私はお昼ご飯の支度があるからさっさとして欲しいんだけど」
そう霊夢が呆れ混じりにため息を吐くと、紫は霊夢の肩を掴んで、強引に唇を重ね合わせた。
「んむぅ!?」
霊夢が訳が分からずに混乱しているのを気にせず、紫は時折息を漏らしながら接吻を続ける。
霊夢は事態にようやく頭が追いついて、紫を無理やり引き剥がす。
「ぷはぁ! 何してくれてんじゃあ! この隙間!」
「はぁはぁ……。ごめんなさい。こうでもしないと、心がどうにかなりそうだったから……」
「心が? はぁ? あんたほんっとうに今日はおかしいわよ。熱でもあんじゃないの?」
「熱……そうね、確かに熱はあるかも知れないわ」
「そら見なさい。ほら、さっさと家に帰って――」
「霊夢に対する熱い想いが、私を焦がしているのかも知れないわね」
「……は?」
霊夢が間抜けな声を出したのを気にせず、紫は凜と霊夢に向かって言い放った。
「ごめんなさい。私らしくなかったわね。霊夢、はっきり言うわ。私はあなたが好きなの」
「……はぃ?」
「に、二度も言わせないで……わ、私はあなたのことが好きなのっ! こんな関係はいけないと分かってる! けれど、いけないと思えば思うほど、あなたのことが忘れられないの! 忘れられなくなるの! だ、だから……真剣に悩んで、寝る間も惜しんで悩んで……それで、告白しようって決めたの。後悔はしてないわ。霊夢がどんな答えを返そうと、私は、それを受け入れる」
紫が真剣に霊夢のことを見つめるのを他所に、霊夢は嘆息を吐いて紫に背を向ける。
紫は『どんな答えだろうと受け入れる』と言ったが、やはり霊夢の行動にかなりの動揺を隠せないでいた。
紫が俯き、歯を噛み締めていると、目の前が影に覆われる。
顔を上げてみると、霊夢が呆れ顔で紫の目の前に立っていた。
「ほら、何してんのよ。何時までそこに突っ立てる気?」
「でも……」
再び霊夢は嘆息する。
「はぁ……お昼ご飯食べようと思ったけど、暑いから食べる気が起きないわ。だから、昼寝でもしようかしら」
「……?」
「そういえばあんた、寝不足だったわね。うちのボロイ布団で良ければ貸すわよ?」
「霊夢……」
「あ、そう言えば一つは穴が開いて使えないんだった。そうすると、家に布団は一つしか無くなるわね」
「え……?」
「あー……しょうがないわねぇ……客に粗末な布団で寝てもらうわけのはいかないし…………紫、一緒に寝てもいいかしら?」
「霊夢!」
紫は霊夢に飛びつき、抱き締めた。
「だぁー! もう、暑いんだから話なさいよ!」
霊夢はそう言うものの、意地悪く笑っている。紫も釣られて微笑み返す。
「じゃ、早速寝ましょうか?」
「えぇ、一緒に、いつまでも」
「あ、そういえばあんたはご飯作れるんの?」
「大丈夫よ。藍がいるから」
「全く……あんたらしいわね」
「それは褒め言葉として受け取っていいのかしら?」
「もちろん」
二人は互いの顔を見合わせながら、再び幸せそうに微笑み合い、そのまま神社の中へと入っていった。
2.魔理沙×アリスの場合
「ん? どうした? なんかそわそわして」
「な、何でもないわよ……」
「ん。そうか」
そう言って魔理沙は再び本を読む作業へと戻る。
アリスは自分の家なのに、どこか落ち着かない気持ちになっていた。
落ち着かない原因は自分で分かっているし、それを解消する方法も分かっている。しかし、それを実行してしまうと、何が起きるか分からない。アリスはそれで行動に移せないのだ。
アリスは再びもじもじと気まずそうに人形をいじくる。自分は魔理沙が来る前に、固い決意をしたはずだ。なのに、いざ魔理沙が目の前にいると、行動に移せない。情けない。自分はこうしてちらちらと魔理沙の顔を盗み見るくらいしか出来ない。
アリスがもじもじと人形をいじくりながら、こちらを見てくるのを見て、魔理沙は爆発した。
「だー! もう、気になって読書にも集中できないぜ! アリス! 用があるならさっさと言えよ! 気になってしょうがないだろうが!」
「えっ! ご、ごめんなさい。私……」
「御託はいいから、要件を言ってくれ! そもそもお前から呼ばれているのに、なんでお前は私に何も言わないんだよ! 私だって忙しいんだ! ここで読書するなら、パチュリーのところで読書してるわ!」
『パチュリーのところで読書してるわ!』 その言葉はどれほどアリスを傷つけただろうか。
「そう。そんなに私が邪魔なのなら、パチュリーのところでも何処でも好きに行けばいいじゃない!」
「何なんだよ人を呼んでおいて! いいぜ! お前がそう言うんならもう何処へでも勝手に行かせてもらうぜ!」
「あぁ! 行けばいいじゃない! あんたなんて大っ嫌い!」
「あたしも嫌いだ! じゃあな!」
魔理沙は扉を勢いよく叩き開けて、空の彼方へと飛んで行ってしまった。
アリスはその扉を静か閉める。そして、そのまま膝から力が抜けたように座り込んでしまった。
「ぐすっ……あたしが言いたかったのは、大っ嫌いなんて言葉じゃないわよ……」
アリスの視界は涙で滲み、最早とめどなく出てくる悲しみを堪えることが出来ない。呪文でも唱えるかのように、アリスは自分の心内を吐露する。
「私は魔理沙が好き。大好きなの。ただ、素直になれなくて、ちょっと言うのに戸惑っただけなの……昨日は散々練習して、自分でも満点が付けられるような告白を考えてきたのに、いざ魔理沙が目の前になると、何も言えなくなっちゃうし……。何であんな馬鹿なことを言ったんだろう、私。心の内では好きで好きで、それでもやっぱり女の子同士なのがおかしくて、それで言うのに戸惑っちゃって、少しでも魔理沙に私の気持ちを隠したくて、それで――言っちゃった……。『大っ嫌い』って……。もう、私のところには戻ってこないんだろうな……魔理沙。
魔理沙。魔理沙。うぅ……」
アリスはしばらくそのまま体育座りで顔を沈めてしまった。
数十分頭を真っ白にして、再び思う。
恋焦がれた少女は、もう私のところへは戻って来ない。些細な喧嘩で全てを失ってしまった。そんな喧嘩をしてしまった私なんて嫌いだ。嫌いだ嫌いだ嫌いだ。大っ嫌いだ。もう、こんな私なんて居なくなればいいのに――
「お前がいなくなったら、少なくとも私は悲しむだろうな」
アリスは扉越しの声に驚き、跳ねて、勢いよく扉を開けた。
そこには、先程喧嘩別れをしたはずのアリスが恋焦がれた少女、魔理沙が立っていた。正確には、大きな風呂敷を担いだ魔理沙が立っていた。
「魔理沙……その荷物は?」
「ん? あぁ。私の家にあった最低限に必要なものを集めたら、こうなった」
「必要なもの?」
「ん。私が住むのに最低限必要なもんだな」
「住む……? 魔理沙、引越しするの?」
「あぁ。お前の家にな」
「え――」
アリスは言葉を失った。そんなアリスを見て、魔理沙は子どもような笑顔を浮かべ、アリスに嬉々と話す。
「アリス。お前、私が好きなんだろ?」
「んな!?」
「そう顔を赤くしなくていいって。扉越しから聞いていたから」
「と、扉から!?」
「ん。飛んだ後、どうも私を呼んだお前が気になってな。戻ってみたら、アリスの声が聞こえたんだ。『私は魔理沙が好き。大好き』ってな」
「あ……」
アリスは顔を赤くして、その場でもじもじする。その後、これが魔理沙と喧嘩した理由であることを思い出し、すぐに止めようとするが、
「あぁ、そのままでいいぜ。そのもじもじとしたアリスはかわいいからな」
と、魔理沙は笑って言った。アリスはさらに顔を赤くする。
「な、なんの冗談かは知らないけど。さ、さっさと自分の家帰ればいいじゃない」
アリスはそっけなく言いながら、再び心の内で深く後悔する。
違う! 私はこんなことが言いたいんじゃない! 何で、何で私はこう素直じゃないんだろう。また、魔理沙を傷つけて――
アリスが唇を噛み締めていると、ふわりと、温かく柔らかい感触を感じ、花のような良い匂いがアリスの鼻腔をくすぐった。
気が付くと、魔理沙がアリスを抱きしめていた。
「ま、魔理沙!?」
「ごめんな、アリス」
魔理沙は真剣な口調でアリスに話しかける。
「私は、お前の本心を見抜けなかった。もしも戻っていなかったら、私はきっとお前のことが嫌いなままだったと思う」
「魔理沙……」
魔理沙が自嘲気味に笑ったのは、抱きしめられていても分かった。
「これじゃ恋の魔法使い失格だな、私は」
「……そんなこと、ない」
アリスは魔理沙の体温を感じながら、涙を流した。今度の涙は悲しみによるものではない。――喜び。アリスは心から魔理沙の思いやりに喜んでいたのだ。アリスはそのまま、言葉を紡ぐ。
「私は嬉しいよ。魔理沙がこんなにも私のことを思ってくれるんだもん。これ以上の喜びは、もう来ないと思うわ。こんなにも恋する乙女の心を魅了している魔理沙は、最っ高の恋色で私を染めてくれたわ。それだけで、あなたは十分、恋の魔法使いよ」
「アリス……」
「魔理沙……私は幸せよ。このまま死んでもいいくらい」
「っな!? 死ぬなんて、お前!?」
「ごめんなさい。失言だったわ。」
アリスはぺろ、と舌を出す。
「全く……ちょっと焦ったぜ……」
「焦ってくれたの? ありがと。っふふ」
アリスと魔理沙は体を少し離す。アリスが花のように笑い、魔理沙もにっ、と口の端を上げる。
「それじゃ、よろしく頼むぜ。アリス」
「私もよろしくね。魔理沙」
そのまま二人は、唇を重ねた。
ゆかれいは我が幻想卿。
読んでみて、カップル告白はキャラ一人の告白より、作品として難易度がかなり高い気がしました。
というのも、カプが好みの組み合わせだったとしても、どちらがどのように告白するかの部分で、そのカプが好きな人の間でも十人十色好みが分かれるところがあるように思うからです。
ストーリーがきちんとあるならば、読む側の心情をある程度誘導して、その好みを薄れさせることも出来ると思いますが、今回みたいな一発シチュ勝負は本当に難しい試みなんだなと感じました。
ゆかれいむ好きだけどマリアリ好きだけど、自分の中でこの告白パターンは無いのを確信するとともに、こういう作品の難しさもまた実感しました。