平等な巫女は空を飛び、人間の魔砲使いは物を収集し、それと同じくらい当然に瀟洒なメイドは嘘をつく。息を吐くように、当然に。
そんな幻想の日常。
「で、今日は何しに来たの?」
縁側に腰掛け、ぼんやりと遠くを見つめる咲夜に霊夢が声をかける。
「ちょっと通りすがったから寄り道に」
「嘘よね。ここは郷の一番のはじっこなんだけど。外に行くつもり?」
「ええ、嘘よ。はい、お土産」
右手に持っていた箱を差し出す。受けとると、ひやりとした感触。
「ありがとう。で、何しに来たの?」
「お土産はアイスクリームだから早く食べた方がいいわよ」
「……はぁ、あんたも食べる?」
「要らないわ」
「二つ、入ってるけど、私が食べていいの?」
「霊夢がお腹を壊したら困るから、一つ食べてあげる。」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「あんたと話してると疲れるわ」
「あら、そう?」
「スプーン、取ってくるから。待ってなさい」
結局咲夜が何しに来たのかはわからないままに、二人並んでアイスクリームを口へ運ぶ。
冷たさと、あっさりとした甘さが口に広がった。
「これ、咲夜が作ったの?」
「口に合った?」
「うん。あっさりしてておいしい」
質問に質問で返されるも、正直な感想を伝える。この爽やかさな味に気分まで釣られてしまったようだ。
「私が作ったんだから当然よ」
「……おいしいからいいんだけどさ」
自慢されるとなぜだか味が半減する気がする。それでも充分においしいけど。今日みたいな暑い日に、爽やかな口どけのこのアイスクリームは反則だ。
すぐに食べ終わり咲夜をみるとこちらを見ながらにこにこと笑っていた。アイスクリームは半分ほどしか減っていない。
「隠し味はチルノと庭の草よ」
囀ずるように言いながら、スプーンですくいとった一口をこちらへと差し出してくる。
「ほら、あーん」
「ん」
口を少し開けるとするり、冷たさが侵入してきた。
「で、チルノはこの細かな氷のことでしょ?庭の草は……ああ、ミント的な?」
「霊夢は面白くないわね。うちの人……とかはみんな騙されてくれるのに」
「あんたんとこのやつらが騙されやすいのよ」
人の良い門番に、 外のことを気にしない魔女、 カッコつけなわりに世間知らずのお嬢様、引きこもりの妹。
こう並べてみるとみんな騙されやすいのもよくわかる。
結局残りのアイスは全て霊夢の腹におさまって、食器もそのままに縁側でだらだらと過ごす。
ときおり風が吹いて、風鈴がリーンとなり、涼しげだ。
「霊夢、好きよ」
突然に、口を開く。
「本当に?」
嘘つきの私に対してなら一番正しい言葉だ。しかし、私は返事をしない。
「………」
だって、もし、本当だって言ったならもう逃げられない。もし、嘘だって言ったなら伝わらない。
「あんたって、実は正直者よね」
「私はいつも嘘つきでしょう?」
「嘘は嘘だって言うし、本当のことは嘘がつけない」
「………そうかしら」
よく、みてるわねと。言いかけた。しかしそれを言ったら、認めることになる。
次に嘘でしょう?って言われたら無言に笑顔で、断られたら嘘だって言えばいい。
「私もよ」
「なにが」
「私も、あんたと同じ気持ち」
霊夢の意図は掴めない。断りの言葉でもなければ、言葉の真実を確かめる言葉でもなく。はからずも先程の霊夢と同じ言葉を吐いた。
「……本当に?」
「あんたが本当のことを言ったならば、私はあんたのことが好きで、あんたが嘘をついたなら、私はあんたのことが嫌いよ」
霊夢が何を言っているのか、理解できた瞬間、頭の中に冷たさが広がった。さっきのアイスクリームのよう。
「意地悪ね、霊夢は」
「あんたが嘘つきじゃなければ意地悪な答えじゃないでしょう」
彼女は意地悪に笑う。そんな顔、初めて見た。もっと好きになってしまいそう。
「私は嘘つきだから。意地悪に思えるのよ」
「あら?私のことが好きって言うの、嘘だったの?」
「わかってるんでしょう」
「わかってないわ」
「私は嘘つきで、あなたは意地悪で。とてもいい組み合わせだと思うわ」
「そう」
「私はあなたが、霊夢が、好きよ。本当に」
「本当にっていうのは本当?」
「こうしたら、信じてもらえる?」
抱きしめて、顔を付き合わせる。
「まだ、信じられないわ」
「それなら信じてもらえるまで、こうしてる」
優しく、唇を合わせる。
笑う彼女を見つめながら、ゆっくりと目をつむった。
ある夏の日、正直者なメイドは嘘をつくのをやめた。
そんな幻想の日常。
「で、今日は何しに来たの?」
縁側に腰掛け、ぼんやりと遠くを見つめる咲夜に霊夢が声をかける。
「ちょっと通りすがったから寄り道に」
「嘘よね。ここは郷の一番のはじっこなんだけど。外に行くつもり?」
「ええ、嘘よ。はい、お土産」
右手に持っていた箱を差し出す。受けとると、ひやりとした感触。
「ありがとう。で、何しに来たの?」
「お土産はアイスクリームだから早く食べた方がいいわよ」
「……はぁ、あんたも食べる?」
「要らないわ」
「二つ、入ってるけど、私が食べていいの?」
「霊夢がお腹を壊したら困るから、一つ食べてあげる。」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「あんたと話してると疲れるわ」
「あら、そう?」
「スプーン、取ってくるから。待ってなさい」
結局咲夜が何しに来たのかはわからないままに、二人並んでアイスクリームを口へ運ぶ。
冷たさと、あっさりとした甘さが口に広がった。
「これ、咲夜が作ったの?」
「口に合った?」
「うん。あっさりしてておいしい」
質問に質問で返されるも、正直な感想を伝える。この爽やかさな味に気分まで釣られてしまったようだ。
「私が作ったんだから当然よ」
「……おいしいからいいんだけどさ」
自慢されるとなぜだか味が半減する気がする。それでも充分においしいけど。今日みたいな暑い日に、爽やかな口どけのこのアイスクリームは反則だ。
すぐに食べ終わり咲夜をみるとこちらを見ながらにこにこと笑っていた。アイスクリームは半分ほどしか減っていない。
「隠し味はチルノと庭の草よ」
囀ずるように言いながら、スプーンですくいとった一口をこちらへと差し出してくる。
「ほら、あーん」
「ん」
口を少し開けるとするり、冷たさが侵入してきた。
「で、チルノはこの細かな氷のことでしょ?庭の草は……ああ、ミント的な?」
「霊夢は面白くないわね。うちの人……とかはみんな騙されてくれるのに」
「あんたんとこのやつらが騙されやすいのよ」
人の良い門番に、 外のことを気にしない魔女、 カッコつけなわりに世間知らずのお嬢様、引きこもりの妹。
こう並べてみるとみんな騙されやすいのもよくわかる。
結局残りのアイスは全て霊夢の腹におさまって、食器もそのままに縁側でだらだらと過ごす。
ときおり風が吹いて、風鈴がリーンとなり、涼しげだ。
「霊夢、好きよ」
突然に、口を開く。
「本当に?」
嘘つきの私に対してなら一番正しい言葉だ。しかし、私は返事をしない。
「………」
だって、もし、本当だって言ったならもう逃げられない。もし、嘘だって言ったなら伝わらない。
「あんたって、実は正直者よね」
「私はいつも嘘つきでしょう?」
「嘘は嘘だって言うし、本当のことは嘘がつけない」
「………そうかしら」
よく、みてるわねと。言いかけた。しかしそれを言ったら、認めることになる。
次に嘘でしょう?って言われたら無言に笑顔で、断られたら嘘だって言えばいい。
「私もよ」
「なにが」
「私も、あんたと同じ気持ち」
霊夢の意図は掴めない。断りの言葉でもなければ、言葉の真実を確かめる言葉でもなく。はからずも先程の霊夢と同じ言葉を吐いた。
「……本当に?」
「あんたが本当のことを言ったならば、私はあんたのことが好きで、あんたが嘘をついたなら、私はあんたのことが嫌いよ」
霊夢が何を言っているのか、理解できた瞬間、頭の中に冷たさが広がった。さっきのアイスクリームのよう。
「意地悪ね、霊夢は」
「あんたが嘘つきじゃなければ意地悪な答えじゃないでしょう」
彼女は意地悪に笑う。そんな顔、初めて見た。もっと好きになってしまいそう。
「私は嘘つきだから。意地悪に思えるのよ」
「あら?私のことが好きって言うの、嘘だったの?」
「わかってるんでしょう」
「わかってないわ」
「私は嘘つきで、あなたは意地悪で。とてもいい組み合わせだと思うわ」
「そう」
「私はあなたが、霊夢が、好きよ。本当に」
「本当にっていうのは本当?」
「こうしたら、信じてもらえる?」
抱きしめて、顔を付き合わせる。
「まだ、信じられないわ」
「それなら信じてもらえるまで、こうしてる」
優しく、唇を合わせる。
笑う彼女を見つめながら、ゆっくりと目をつむった。
ある夏の日、正直者なメイドは嘘をつくのをやめた。