前作、「橋姫と竹林案内人」の続きです
「ほら、あれが永遠亭だ」
妹紅に連れられてようやく永遠亭へとたどり着いた。
「あ、本当ね…表札みたいなのがあるから確かみたいね」
パルスィは、やっとか…と、心の中で安堵の言葉を紡いだ。
「さて…」
そう言い、妹紅が永遠亭の門を叩く。
「お~い!誰か居ないのか?客を連れてきたぞ~!」
門を叩きながら言っても中からの応答は何も無かった。
「誰も出て来ないんだけど…」
「おかしいな…いつもだったら、アイツが出てくる筈なんだが…」
「アイツ?」
「あぁ、アイツってのは…」
「妹紅が言う"アイツ"は遅れて来るよ」
「?」
妹紅が言う人物を説明しようとした瞬間に、後ろから声がかかった。
頭には兎の耳、ピンク色のワンピースの様な服を着ており、両手には土の付いた鉄の器具の様な物を持っていた。
「何だ、てゐか」
「そうだよ~、私ですよ~」
「妹紅…誰?」
パルスィが疑問を投げかけた。
「あぁ、こいつは『因幡てゐ』っていう兎の妖怪だ」
「あ、そうなの。水橋パルスィよ」
「どうも、因幡てゐです☆」
『エヘッ☆』みたいな可愛らしいポーズを取って名前を改めて言うと、
「うっわ…」
パルスィは若干…いや、それなりに後ずさった。
妹紅も少しではあるが、唇の端をヒクつかせていた。
「ん?どうしたの?」
リアクションが思っていたのと違っていたのか、てゐが質問すると
「あなたとは初対面だけど…言わせて貰いたい事があるんだけど、いいかしら?」
「別に構わないよ」
少しだけ立ち直ったパルスィが、胡散臭いモノを見る目で言葉を発した。
「胡散臭い!」
見る目ではなく、もうそういった目で見ていた。
「…え?」
てゐが疑問符を浮かべるが、パルスィは気に留めずに言葉を紡いで…いこうとしたが、
「先ず第一に、」
「コラー!てゐ!見付けたわよー!!」
てゐの背後から全力疾走してくる、兎の耳が付いた少女によって阻まれた。
「やっば…!」
持っていた鉄器具を服のポケットにしまい、ササッとパルスィの後ろに隠れるてゐ。
パルスィは"え、ちょ!?"と言おうとしたが、走って来た少女によって再び言葉を紡ぐ事が出来なかった。
「師匠が実験中で暇だから散歩行こう、って言ったけど…アレはその為の複線だったのね!」
「あ、アレって何かな~?」
冷や汗を掻き、目を逸らしながら、知らぬ顔を突きとうそうとしたてゐだったが…
「落とし穴の事よ!」
"ギクッ"って言葉を態度に示したらこういう反応なんだろうなと、そう思うほどの反応をてゐはパルスィと妹紅は見た。
「今回は許さないわよ…!」
背後から妖気の様なモノを滲ませ、目を赤くギラつかせている兎耳の少女。
パルスィとしては、"私を挟んでこういう事は勘弁してほしいんだけど…"そう思っていた。
「ね、ねぇパルスィ!」
少し小声でパルスィに声をかけるてゐ。
パルスィは目線だけ向けると、
「私を逃がしてくれない?お願い!」
と頼みこんで来た。
パルスィとしては、目の前の彼女を戦闘体制にしていしまった張本人を逃がすなんて…
、と言う建前で本音としては、さっさと永遠亭に入りたい。コレに限った。
だとすれば私の選択肢は一つ。パルスィは素早く動き、
「…っふ!」
「ふぇっ!?」
てゐの膝裏と首の後ろに腕を入れ持ち上げた。所謂、お姫様抱っこである。
幸い、てゐの身長やら体重が子供と同レベルだったので、軽々と持ち上げた。
「…はい」
「へ、えぇ…どうも…」
兎耳少女も少し呆気に取られてたらしく、反応を少し遅らせてゐを受け取った。
当の本人のてゐは、少し頬を赤らめて呆然とした目でパルスィを見ていた。
「…ったく…さっさと永遠亭に入りたいのに…」
永遠亭、という単語を兎耳の少女が聞き取り、
「え、永遠亭に用があるんです…」
あるんです『か』、と言い終わりそうになった瞬間に
「隙あり!」
と、言っててゐは、兎耳の少女から抜け出した。
「あ、コラー!」
「まだ、鈴仙に捕まるようなあたしじゃないよ~だ!」
そう言いながら、てゐは走って逃げて行った。
「も~てゐったら…」
「まぁまぁ」
怒りが収まらない様子の少女を、妹紅が宥める。
「そういえば、さっき永遠亭に用がって所で反応したわね」
「えぇ、私もてゐも、永遠亭の関係者ですから」
「いつもは門叩いたらアンタが出てくるんだがね」
「じゃあ、さっき言ってたのって…」
「そう、彼女の事」
先ほど妹紅が言っていたのは、この兎耳の少女の事だったらしい。
「えっと、"鈴仙・優曇華院・イナバ"と申します。」
「へ…?」
「あ、え~と…鈴仙と呼んで頂ければ結構ですよ?」
「あ、悪いわね気を遣わせちゃって…」
「いえいえ…」
「水橋パルスィよ」
「パルスィさんですね」
二人の自己紹介が終わった所で
「さて鈴仙、パルスィが永遠亭に用があるらしいんだが…」
と、妹紅が声をかけた。
「あ、そうですね…では、私に着いて来て下さい」
「分かったわ、と…妹紅」
「ん?何?」
「アナタも来なさい」
「は…?」
妹紅は疑問符を浮かべた。正直言って、"ヤツ"と話し合いでもしようかと思ったが、自信が無かった。
送って帰ってまた次回って事にしようと思っていた矢先に、パルスィからのこの言葉。
本人は気付いていないが、"心でも読めるのか?"妹紅はそう思わざるを得なかった。
「な、何で私まで…!」
「アンタが居ないと竹林の外まで出れないらしいじゃない」
「永遠亭の兎共にでも送ってもらえよ!」
「その兎って、鈴仙も含めるのかしら?」
「いや、別の兎の事だけど…」
「悪いけど、ただの案内役の兎よりも妹紅…アンタや鈴仙の方が信頼できるわ」
「は?」
「へ?」
出会ってまもないのにいきなり、"信頼できる"と言われて二人は疑問符を浮かべると同時に
少し顔を赤く染めた。
「即興の案内係よりもアナタ達の方が…」
パルスィは何か言っているが、二人の耳には届かず
"いや、なんだよ信頼できるってそういう風に思ってくれるのは構わないけどさぁ…"
"ついさっき自己紹介したばかりの私を信頼できるって…初めて言われたよ~"
妹紅は明後日の方を向きながら、頭をポリポリと掻いており
鈴仙は少し俯いて、両手の人差し指同士をツンツンさせていた。
「…って事なの!で、妹紅?」
「あ、え?何?」
話を聞いていなかった妹紅はパルスィのイキナリの問い掛けに対し
「着いて来てくれるわよね?」
「あ、あぁ分かった」
と、しか答えられなかった。
「全く…最初からそう言ってれば良かったのよ…鈴仙?」
「ひゃ、ひゃい!?」
鈴仙の方もイキナリ話しかけられたとい思い少し声を上げてしまった。
「ちょっと時間をとらせちゃったわね。それじゃ、案内お願いするわ」
と、微笑みながら言ってくるパルスィに
「は、はい…」
"キレイな笑顔だな…"と思いながら少し詰りつつも返事をした。
──逃げ切って…──
「ふぅ、もういいかな?」
てゐは鈴仙を撒いたと確信して、地面に腰を下ろした。
「何だよアイツ…イキナリ抱き抱えてきちゃってさぁ…」
てゐは抱え上げられた時の事を思い出して、少し顔を赤くした。
「初対面であんな事できるとか…」
顔を赤く染めながらも、ニヤッっと笑い
「興味が沸いてきちゃったじゃん…」
新しいおもちゃを見付けた子供の様な笑みを浮かべた。
──永遠亭内にて──
「コッチです」
そう言って案内をする鈴仙の後ろを、妹紅とパルスィが着いて行く。
「結構広い所ね…妬ましい…」
「ん?何だ?」
「別に、何でもないわよ」
「そうか?そうならいいが…」
後半の呟きは、妹紅には聞こえなかったようであった。
そして、一つの部屋の前で止まり
「師匠ーお客さんですよー」
と声をかけると
「そう、入ってもらって」
と返答が聞こえた。
「だ、そうですので」
「えぇ、ありがとう…妹紅?」
鈴仙にお礼を言いつつ、パルスィは妹紅の方を一瞥した。
「分かってるって。そう釘を刺さないでくれ…」
「そう、信じてるわよ」
「分かったっての…」
"信じてる"と言われ妹紅は、また少し顔を赤く染めた。
言いたい事は言い終わったのか、パルスィは部屋に入って行った。
扉を開けると、赤と青の色を体の中心で分けた服装、長い銀髪を三つ編みに纏めた女性が居た。
「失礼するわ」
「えぇ、ソコの椅子に掛けてくださいな」
パルスィは静かに椅子に掛ける。
「私は"八意永琳"よ」
「水橋パルスィ」
「じゃあ、水橋さん…」
「パルスィでいいわ」
「あら、じゃあパルスィ…今日は何の用事かしら?」
「えぇ、今日は…」
「猫の調子を元に戻す薬、ってのを貰いに来たわ」
「え…?」
「え?って…何よ?」
「い、いや…」
永琳がパルスィを見たときの第一印象は"クールビューティー"といったものだった…が
今の発言を聞いて撤回した。
彼女は"天然"の類だと確信を得た…
しかも、この様子だとパルスィの周りの連中は気付いてはいるが、言うに言えてないんだろうな…
と、そこまで察してしまった永琳だった。
「私…妙な事言ったかしら?」
「いえ、別に…」
少しパルスィは不満顔であった。
「調子を戻す薬ね…確かこの辺りに…」
"天然"の彼女について考えるのはやめよう、そう決め込んで永琳は薬棚の中を少し見回し
「あったあった…」
「本当?」
「えぇ、コレがそうよ」
見付けた小瓶に入った薬をパルスィに手渡しした。
「コレが…?」
「えぇ、飲み物に一滴垂らして飲ませれば、忽ち調子も元の状態に戻るわ」
「……ありがとう…!」
パルスィは小瓶を両手で包み込んで、永琳に微笑んだ。
一瞬、本の一瞬だけ、パルスィの笑顔を見て永琳の鼓動が少し早まった。
"ん?何かしら今の…?"
当の本人は、余り気にはしていなかった。
「薬、ありがとう…コレ、あげるわ」
と、言ってパルスィは一纏めにされた薬草の束を渡した。
「何かしら、コレ?」
「私の依頼人から渡された物よ、薬を貰ったら必ずコレを渡せって言われたの、多分お礼のつもりなんだと思うわ」
「別にソレ位の薬にお礼なんて…」
「私は持っていても仕方無いし、依頼人に返すのも気が引けるから…有効活用してくれそうなアナタにあげるわ」
そう言ってパルスィは永琳の手に自分の手を重ね無理矢理握らせた。
「ちょ…!」
「良い?渡したからね!」
完全に永琳は押し切られ、薬草の束を握ってしまった。
握らせた事をパルスィは確認し、手を離して、扉まで向かって部屋を出て行く前に振り向き、
「薬、本当にありがとうね」
と、笑顔で言い放ち、部屋から出て行った。
部屋から出ると、すぐ目の前の縁側の様なスペースで妹紅と鈴仙が座って居た。
「妹紅、鈴仙、終わったわよ」
「お、帰ってきたのか」
「あ、お帰りなさい」
二人がそれぞれ声を掛け
「それじゃ鈴仙、案内頼むわよ」
「はい!分かりました!」
三人は永遠亭の門の方まで向かった。
──パルスィが去った後…──
永琳はパルスィにされた行動を思い返し、赤面した。
"ったく…要らないって言ったのに…"
"あんな子に押し切られるなんて、私もまだまだかしら…"
そんな事を思い
「最後のあの子…」
部屋を出る前に振り返ったパルスィを思い返し
「ああいうのを、見返り美人って言うのかしら…」
と、呟いて数瞬後、柄にもない事を呟いて再び赤面した顔を掌で覆い隠した。
──門に着くと…──
三人が門に近付くと門の前で仁王立ちしている何かが見えた。
「アイツ…!」
「妹紅?」
妹紅の顔が一気に険しくなった事に、パルスィは疑問を抱いた。
「妹紅!やっぱり永遠亭内に居たのね!」
「輝夜…!」
「ひ、姫様…?」
「あら、イナバも居たの」
"誰だコイツ?"パルスィはそう思わざるを得なかった。
「イナバ!今日は勝利飯を用意しておいてね!」
「何が勝利飯だ…!ふざけやがって!」
「姫様まさか…」
「うん、今から妹紅と殺し合いをして来るわ!」
"殺し合い"?
「今日もお前が勝つと思うなy…」
「姫様流石にもうやめ…」
二人は言葉を発し切れなかった。
パルスィが二人の手をとって、歩き出したからである。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
輝夜が止めに入る。
「見かけない顔の新人さんが何してるのかしら?」
「………」
「あなた名前は?」
「………」
「わ、私の名前は"蓬莱山輝夜"よ!」
「………」
「な、何とか言ったらどうなのよ!」
だんまりのパルスィに痺れを切らした輝夜がパルスィの肩を掴んだ…が
パァン!
パルスィは輝夜の手を叩き、手を肩から払った。
「な、何すんのよ!」
そう言ってきた輝夜にパルスィは振り向いて
「悪いけど、今から二人には竹林の外まで案内してもらうの。勝利飯や、ましてや殺し合いなんてしてる暇なんてないの。邪魔しないで」
パルスィはそう言いきって二人の手を引いていった。
──取り残された輝夜は…──
輝夜は唖然としていた…
「な、何よアイツ…!」
自分を全く恐れず、むしろ自分に喰ってかかって来たのだ。
「新入り(多分)の癖に…生意気ね…!」
輝夜の目には何故か闘志の炎が燃えていた
「今度来たら、こうはいかないわよ…!」
輝夜の意思は固いようであった。
──出口への道のり──
今現在は、妹紅と鈴仙がパルスィを案内している。
輝夜の前から去って少ししたら、
「私が先導してどうすんのよ…案内してくれる?」
との言葉で二人は案内をしている。
そして
「あら…」
「ふぅ…やっとか…」
「あ、着きましたね」
竹林の出口に到着。陽は少し落ちかかっていた。
「二人とも今日はありがとうね」
パルスィがお礼を言うと
「いや、別に…なぁ?」
「そ、そうですよ。大した事じゃありませんから」
二人とも笑いながら少し照れていた。
「あ」
そんな中、妹紅はさっきの事を思い出し
「あの、輝夜の時は…その…」
お礼を言おうとしたが
「別にお礼を言われるような事はしてないわ。友人が殺し合いするのが嫌だっただけだし、その殺し合いの勝利飯なんて物も作らせるのが嫌だって思っただけだし」
二人は疑問に思った。
パルスィは自分たちの事を"友人"と言ってきた。
パルスィが永琳と話してる頃に…
自分達はパルスィの事を友達だと思っていた。
しかし、向こうはそうは思ってないかもしれない。
でも、別に構わない。
こんなに自分達に優しく接してくれたのだから。
これ以上望むのは罰が当たりそうだ。
と、そんな事を話していた
だが向こうが、自分たちは"友達"だと言ってきた。
望んでいいのだろうか?本当に、本当に。
そんな事を考えてると
「あら、私じゃ二人の友達なんて役不足だったかしら?」
と言ってきたので、反射的に
「そ、そんな事はない!」
「そ、そんな事はないです!」
と、声を揃えて発してしまった。
パルスィはクスリと笑いながら
「二人とも、ありがとう」
と、お礼を言った。
"新しく友人が出来た!"と喜ぶ者
"自分の事を友人だと言ってくれた!"と嬉しがる者
"私にあんな事をしたアイツに興味が沸いたわ…"と策略を練る者
"今度来たら、少し優遇しようかしら…"と久しぶりの感覚に浸る者
"どうやって、アイツと接してやろうかしら…"と闘志に燃える者
今日も幻想郷は平和であった。
パルスィはだいたいなんにでも合う、ご飯のようなものなのですよ。
やっぱりフラグ乱立のパルスィさんマジイケメン。たしかに天然だ。
そしてメディパル…。さとりさん泣かないか心配だ。こいしには殴られそう。毒を浄化する嫉妬かぁ…。楽しみにしております
さにげなく続編フラグ建ってますよねww
これから、どう進むか楽しみです
駄文
業となのかも知れませんが『役不足』ではなく『役者不足』ではないでしょうか。
パルスィ争奪戦という戦争がね・・・。