どうやら、外の世界ではUSAという国が台頭しているらしい、という話がどこからともなく流れてきた。読み方がわからなかったのでお師匠様に聞いてみたら、ウサと読むらしい。
「―――ということだ諸君! 遂に我々永遠亭妖怪兎部隊が幻想郷の天下を取る時が来た!」
「「おおっ!」」
「応なるものは手を振り上げろ! 否なるものは私を殴れ! どちらでもないものは去れ!」
「「おおっ!」」
「ちょっとてゐ何してんの! あんまり騒いでたら怒られるの私なんだからね!」
「聞いたか諸君! 我らがアイドルうどんちゃんも全責任は我が持つと言ってくれた! これで我らは後顧の憂いなく暴れられるぞ!」
「「おおおっ!」」
「誰がうどんちゃんよ! とりあえず師匠が帰ってくる前にこれを解散させ―――」
「ちょっとうるさいよれーせん、水を差さないで」
ぱちんと指を鳴らす。どこからともなく跳んできた荒縄に縛られ、あられもない姿をさらすれーせん。
「ちょ、何よこれぇ……てゐ! 今なら許してあげるからさっさとこれをほどきなさい!」
いやウサ。と舌をぺろりと出してれーせんに向ける。むきーと真っ赤になって暴れだすが、その縄はもがけばもがくほどきつく締め付けるようになっている。芋虫のように暴れる様は少し滑稽だった。ついでに言えば、それを見ていた雄兎どもがだんだん前かがみになっていく様も少し滑稽だった。
「隊長、よろしいのですか? 鈴仙様を拘束したとなれば、永琳様の耳に入るは必至。懐柔が得策では?」
「ならば山田、お前は何を持ってあの堅物を味方につける? 彼女とお師匠様は固い絆で結ばれている。それを断ち切らせるのは容易ではないぞ」
「……人参一年分、とか」
わぁ即物的。無理だと思うけどやってみるか。
れーせんのへにょってる耳に口を近づける。その際、息がかかったようで変な声を上げるれーせん。雄兎どもがさらに前かがみになるのが目の端に入った。
「ねーねーれーせん。これ、黙っててくれたら人参一年分贈呈するけど、どうする?」
「……ふざけないで!」
「一瞬考えたね? ―――はっ! その程度の忠誠心で我らを止めようとするとは笑止である。そこで黙って見ているがよい。山田!」
猿轡を噛ませる。先ほどの言葉がよほど染みたのだろうか、もう抵抗する気力もないらしく、彼女は暴れもせずにそれを受け入れた。ちょっと涙目になっているのが見えた。
「諸君、彼女はスパイだったようだ。我ら妖怪兎部隊お色気担当の彼女が賛同してくれなかったのは残念だが、これで障害はなくなった! さあ! 打って出るぞ!」
「「おおおっ!」」
私は今、さぞや満足げな笑みを浮かべているだろう。ウーサ、ウーサという叫びを聞いていると、口の端がつり上がるのを止めることができなかった。
「……隊長、その前にそろそろお時間です」
「む、そうか」
どん、と畳を足で叩く。一瞬にしてウサコールは止んだ。
「諸君、出撃の前にウサ国の元首から激励の言葉がある。しばし待て。山田、らぢおを!」
「はっ! これに」
この道具、らぢおというのは外の世界の声が聞ける唯一の道具である。山田がツマミを右へ左へと回し、こちらに合図を送ってきた。
「ではいくぞ、心して聞け! ―――ぽちっとな」
『―――yes,we きゃん!』
小町だと!?
>「あんまり騒いでたら怒られるの私なんだからね!」
「聞いたか諸君! 我らがアイドルうどんちゃんも全責任は我が持つと言ってくれた!
この曲解がもう最高としか。
最高じゃないか? 最高じゃないか!