「かっぱっぱ~、かっぱっぱ~♪」
春。
生命の息吹が満開に咲き誇る中、河童の少女、にとりは楽しそうに歌う。
その歌声はまるでうららかな日差しのよう。
夜雀のように綺麗な声と言う訳では無かったが、のどかな空気を周囲に作りだしていた。
「にとりの奴、また歌ってるぜ」
「いいんじゃない? 和むし」
この巫女と魔女、霊夢と魔理沙もそんな歌の聴衆の一人。
別段歌と言う物に興味のある訳ではない二人も、この不思議な歌声にと心が暖かになるのを感じていた。
「あー……なんか眠くなってきた」
「ふぁ……少し昼寝でもする?」
河童の歌声をバックミュージックにしながら、二人は安らかな眠りにつく。
人も妖もほんの少しだけ幸せを感じられる歌。
言葉では説明できない魅力を彼女の歌は持っていた。
そんな、彼女は今―――――
「KAPPA!KAPPA!KAPPA! KAPPA!KAPPA!KAPPA! KAPPAAAAA!」
何と言う事でしょう。
あの平坦だった歌声はすっかりシャウトが効くようになり、
穏やかな眠気を誘っていたメロディは、心震わすメタル調に。
一新した歌詞には、とことんまで河童を追求する匠の心意気が光ります。
「……何ソレ」
あまりの劇的ビフォーアフターっぷりに、眠りから引きずり起こされた巫女と魔女は河童少女のシャウトを中断させる。
いい所で曲を止められたにとりは若干不服そうな顔をしながらも、二人の方向へと向き直った。
「何っていつも歌ってるじゃん」
「いや、いつもと全然違うんだが」
この歌と以前の歌のリンクを取れる者がいるだろうか、いやいない。
ジト目で睨みつけながら曲調の変化を指摘すると、にとりは「あ、バレた?」とでも言いたげに照れて見せた。
バレバレである。
「実は昨日拾ったCDに影響受けちゃって、少しだけアレンジを加えたんだよね」
少し……?
苦笑する二人ににとりは、DJ気取りで彼女が首にかけていたヘッドフォンを差し出す。
どうやら一度聞いてみろと言う事らしい。
あまり機械に詳しくない霊夢と魔理沙が恐る恐るそのヘッドフォンを耳につけると―――――
『みかんみかんみかん! みかんみかんみかん! みかーーーん!』
そこには愛媛の心が流れていた。
どうやら彼女はこの曲から溢れる愛媛パワーに、強い影響を受けたてしまったらしい。
この歌がいい曲なのかはともかく、昼寝中に横でシャウトされては堪らない。
霊夢と魔理沙は目の前で今にも歌いだしそうな河童を何とか止めようと二人の間でアイコンタクト
を行った。
そのままにとりの肩を掴んでその目を覗きこむ。
「にとり、他の歌に影響を受けるのはいい。でも限度ってものがあるだろ?」
「そうよ。これじゃあまるで原形をとどめて無いじゃない」
「そんな事ないって、ちゃんと良く聞いててよ」
訝しげな顔をしている二人を尻目ににとりは彼女の持ち歌である例の歌を歌い始める。
成程、確かに彼女の言う通り、出だしは以前歌っていた物と何も変わっていないようだ。
「かっぱっぱ~、かっぱっぱ~♪ そいや! KAPPA! KAPPA! KAPPA!」
「豹変すんなっ!」
出だしだけは。
文字だけではその豹変っぷりを伝える事は難しいが、例えるなら『みんなの歌』が急に『デトロイトメタルシティ』に変わったような。
戦闘力2の農民がいきなり超サイヤ人になってしまったかのような。
それ程の圧倒的変化球であった。
彼女自身はそんな歌を気にいっているのだろう。
えっへんと胸をはるにとりに、二人はうんざりしたように深いため息を吐いた。
しかし彼女達はまだ諦めない。
自分自身の安眠のた……にとりのために何とか歌を矯正しようと説得を続ける。
「そんなの人前で歌ってたら怖がられるわよ?」
「そうかなぁ……超イカスと思うけど」
「確かに超イカスかも知れないが、往来で歌うと他人に迷惑だぜ」
「む……」
魔理沙の言葉に、にとりはぴくっと反応する。
人見知りとは言え人間に友好的な彼女にとって、他人の迷惑になるという言葉は響いたらしい。
その反応を目ざとい二人は見逃さなかった。
「人間と仲良くしたいんでしょ。だったら周囲の事は考えないとね」
「そうそう、もっと違う曲調にした方がいいぜ」
「むー」
こうかはばつぐんだ。
にとりは顎に手を当てて、自分の歌について考え込んでいる。
納得にはまだ至っていないようだが、少なくとも霊夢達の言葉を理解はしているらしい。
もう一息、そう思った二人はにとりに向けて『友好的な人間スマイル』を浮かべて見せる。
するとそんな笑顔に安心したのか、にとりは自分から二人に相談を持ちかけた。
「……具体的にはどんな曲がいいのかな?」
「明るくて元気が出る曲がいいんじゃないかしら」
「そうだな、妖怪の怖いイメージを払拭するようなのがベストだな」
「成程……。ちょっと考えさせて」
そう口にするとにとりは踵を返し、自らの山の方向へと歩いて行く。
この様子ならば、恐らく今日の歌を歌い続けるような事はないだろう。
……いい事をした。
まるで一仕事終えたように額の汗をぬぐった二人は、そのまま縁側にもたれかかり即座に寝息を立て始めた。
それから三日後――――――
「KAPPA! KAPPA! 大学合格~、社長就任♪ かっぱ一匹いればいい~♪」
駄目だコイツ。早く何とかしないと。
うちにもかっぱ一匹いればいいのに…。
かっぱっぱー!!!!!
かっぱかっぱかっぱ!
かっぱかっぱかっぱー!
かっぱー!
面白かったです。
やべぇ、ツボったwww
愛媛みかんすげぇ。
面白いというか、楽しいss
これは最高じゃないかww