「ん、今日のお掃除はこんなところかしら」
境内を見回しても、チリ一つ落ちていない。うん、完璧。
秋に入ると落ち葉が多くなるから、境内の掃除には時間がかかる。
でも落ち葉を集めていくと、掃除をしているなぁという実感が生まれる。
だから秋は好きな季節だ。
…食べ物も美味しいし。
掃除の合間に溜まった落ち葉を利用して、秋の神様にお裾分けしてもらったさつまいもを焼いておく。
それだけで美味しい焼き芋が出来るのだ。
労働の対価として、私には十分すぎる。
「うんうん、あったかい。やっぱりこの時期は焼き芋に限るわね」
はふ、はふと息を吹きかけて、熱々の焼き芋を冷ましながら口に運ぶ。
掃除で疲れた身体に染み渡る甘みと暖かさ。
やっぱりこの感覚がたまらない。
にゃ~ん。
と、そこに駆け寄ってくるのは地底で知り合った火焔猫。
神社の縁側、霊夢の隣に飛び乗るとじゃじゃーん!という掛け声と共に人間の姿になる。
「お姉さんおいしそうなもの食べてるねぇ」
目をキラキラさせながら私の食べる焼き芋を見つめるお燐。
そんなお燐の方に視線を軽く向けつつ、皿の上の焼き芋を一つ差し出す。
「あぁ、来ると思ってたから用意しておいたわよ。ほら」
「さっすがお姉さん! いよっ! 博麗の巫女!」
「調子良いわねぇ…」
博麗の巫女ってそのままじゃないか、と苦笑しつつ焼き芋を頬張る。
隣ではお燐が、あちち、と焼き芋を手のひらで遊ばせている。
私はその姿を横目に見ながら最後の一口を食べ終える。
「ふぅ… 満腹満腹」
お腹が膨れると眠くなるのは人の性。
私は欲望に忠実に横になる。
お燐には悪いが、私はちょっとお昼寝させてもらうことにする。
・・・・・
・・・
・
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・・・・・
「ん……」
身体に若干の重みと、若干の暖かさを感じて目を覚ます。
日は既に暮れかかっているようだ。
「よっこらしょ、っと」
上半身を起こすと、膝の上で猫の姿のお燐が眠っていた。
身体の重さはこいつのせいか。
「人の上で寝るとは良い度胸してるじゃない。うりうり~」
お燐の尻尾の先をつまんで、鼻先に近づけてくすぐる。
すると、やはり猫の姿でもムズムズするのか、しきりに顔を動かし始める。
「…ぷっ」
くくく、と笑いを噛み殺して尻尾を開放してやる。
そして頭を軽く撫でる。
「やっぱり、あんたといると退屈しないわねぇ。さとりが羨ましいかも」
そんな私の言葉にお燐の耳がぴくぴく動く。
まぁ、地霊殿の主である彼女の養っているペットの数を考えると、一概に羨ましい、とだけは言えないかもしれないけれど。
さて、お夕飯の準備をしないとね。
・・・・・
・・・
・
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・・・
・・・・・
夕飯の準備を終えて戻ると、お燐は人型の姿で縁側に座っていた。
何かを考えるようにぼーっと空を眺めている。
私が真後ろまで来ていることにも気がついていないようだ。珍しい。
「…お燐?」
「……」
返事が無い。
「お~り~ん?」
「ぅぇ? う、うわっお姉さん?! ど、どうしたのさ?」
ようやく気がついたようだ。
けど、やっぱりどこかうわの空だったらしい。
「んや、ご飯作ったから一緒に食べないのかと思って」
「う、うん。あ、ありがとう」
どうにも様子がおかしい。
何かもじもじしているみたいだし、言いたいことでもあるのだろうか?
こちらから聞こうか、と口を開こうとしたその時、お燐が口を開いた。
「あ、あのさ… お姉さん… きょ、今日、泊めてもらってもいいかい?」
「へ?」
お燐の言葉に我ながら間抜けな声を出してしまった。
今までなら、夕飯まで一緒ということはあっても、夜泊まっていく、なんてことはなかったから。
まぁ、お燐とは比較的長い付き合いだし、泊めることにはやぶさかではないのだが。
「んーまぁ、いいけど。 どうして急に? 地底はほっといても大丈夫なの?」
「え、えーと、まぁ…その…」
口ごもってしまうお燐。
もしかして、言い出せない事情でもあったのだろうか?
「まぁ、言いたくないなら言わなくても良いわよ。とにかく今日泊まっていくのね?」
「い、いいの?!」
先ほど悪戯に使った尻尾がピーンと立つ。
「さっきから良いって言ってるじゃない。付き合いも長いし、遠慮すること無いのに」
「あ、あはは… ありがとうね。お姉さんっ」
ごまかすように笑いながら、頬を染めるお燐。
「あ、でも一つだけ問題があるわね」
「え?! や、やっぱりダメとか…?」
耳も尻尾もしょげさせて、微妙に涙目になるお燐。
私はそんな猫らしい一喜一憂のリアクションの大きさに苦笑する。
「いやね? 布団が一つしかないの。 基本的に私一人だから。だから狭いと思うけど、二人で一つの布団で寝ないとダメなのよ」
・・・・・
・・・
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・・・・・
そして夜。
一つの布団に一人と一匹。
スペースを広げるためにお燐には猫の状態になってもらっている。
昼寝をしていたのにも関わらず、眠気はすぐに襲いかかってきた。
お燐は落ち着かないのか、もぞもぞとしている。
冬も近づいた夜。
私は一つの小さな温もりを胸に抱きながら深い眠りに落ちていった…
・・・・・
・・・
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・・・・・
次の日の朝。
気持ち良さそうに眠るお燐を残して布団を出る。
寒さに耐えつつ向かった居間。
私は予想もしなかったものを、そこで発見することになる。
それは、ちゃぶ台の上にポツーンと置かれていて。
―――――実家に帰ります。探さないで下さい
陰陽玉
…あぁ、そういえば、アイツも猫だったっけ。
これは予想外、面白かったです。