Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

先客商売

2009/03/03 18:17:35
最終更新
サイズ
3.87KB
ページ数
1

分類タグ


時代劇風のパロディです。










 かくして魂魄 妖夢、三ヶ月ぶりに白玉楼に帰ってきた。
この間というもの、山に篭もりひたすら剣の修行に励んでいたのである。

「どうでしょう」

 薄暗い和室。
妖夢と幽々子は膳を並べて向かい合った。
 目の前には、ハモの吸い物、鮎の塩焼き、鴨の鍋、高菜の漬け物が少々。
久々に食べる主人の手料理、それはもう想像を絶する旨さであり、吸い物に浮かぶ柚子の香りを吸い込んだ折などには

(信じられない)

 心地なのである。
妖夢は静かに箸を置いて

「美味しい。流石、幽々子様。この吸い物の味はなかなか出るものでは」

 などと言う他は無いのであった。
さしもの幽々子「そう」と、満足顔で上機嫌。

「ああ、そうそう。今日は友人が来るらしいから」

(そのようなことは)

 聞いていない。寝耳に水であるが、主人の友人となれば歓迎せざるを得ない。それに報せもせずに突然、帰ってきたのは自分の方である。

「そうですか」

「遅いわね。そろそろ来るはずなのに」

「はい」

「それが悪友で、根はいい人なんだけど何て言うのか、手癖が悪いって言うのか」

 幽々子はおもむろに口元に閉じた扇子を寄せた。
妖夢の心臓が、どくり、と鳴る。

(なんたる、美しさ)

 桃色の肌着を着けたきりの彼女は畳の上に生足を投げ出しており、それが蝋燭の微かな灯りに照らされて熟れた色香を放つ。
妖夢の様な半人前にとっては、いささか刺激の強すぎるものであった。
 彼女の魅力は先代の妖忌がいなくなってから、急に増したように思われる。
旅の疲れのせいもあってか、妖夢は「ああ」と見とれ舌を小さくぺろり、と出した。

(むせかえるほど……)

 しかし、幽々子はそんな妖夢の扱い方を知ったもの。
扇子を太もものところまで下ろすと「お風呂の準備が出来ているわ」と言った。
妖夢は途端に生唾を飲み込むと、「風呂」と叫んだ。

「入っていらっしゃい」

「はい」

 妖夢は真っ赤な顔を隠すようにして背を向けると、傍に控えていた半霊に「行(ゆ)くぞ」と声をかけた。





 何を隠そう、妖夢は風呂好きだ。
それも勝手知ったる我が家の風呂とあらば、はしゃがずにはいられまい。
 妖夢と半霊はともにいい声で鼻歌など歌いつつ、勢いよく服を脱ぎ捨て首尾良く腰回りに手ぬぐいを巻き付ける。

「やっ」

 風呂場へと続く扉を開ければ、湯煙が妖夢の顔にかかり、晴れた後には星空と月が見える。
露天風呂になっているのである。
久々の我が家。懐かしい香りに妖夢はいても立ってもおられず、

「むうん」

 腰回りの手ぬぐいなどかなぐり捨て、大股開きに湯船へと飛び込んだ。
心地よい熱さ。
幽々子はよく心得ている……。
 水面へ顔を出して「仲秋の名月か」と丸い月を見上げる。
口から出任せだ。仲秋の名月は9月、今は3月である。

(腸へ、しみわたる)

 そうして、湯船に浸かりながら春の風を浴びていると、この修行の間が思い出される。
烏天狗の文(新聞配達の最中であったが、敵と誤り斬りつけた)、河童のにとり(突然現れたので、びっくり仰天して斬りかかった)等々、出会った者達。

(懐かしき思い出たちよ)

 妖夢の胸に熱いものが込み上げた。
しかし、その時である。
妖夢は何者かの気配を察知した。
 露天風呂を隠すようにぐるりと周囲を囲んでいる垣根。

(誰か、隠れている。この気配)

 妖夢は手元の刀を引き寄せ、しかと握った。
考えられるのは

(盗人、覗き)

 か。
おそらく後者であろう。
 しかし、どちらにせよ白玉楼など狙ったが運の尽き。
妖夢の表情が険しくなり、ぬらりと鋭い視線が飛んだ。

(あさましき事……。生かしておけぬ)

 妖夢は針のような視線で垣根の方を凝視する。

そしてその時、かさり、と落ち葉の動く音がした。

「勢(せい)っ!」

 妖夢の切っ先が垣根を貫き、確かな感触を得た。
即座に刀を抜くと、血が、べとり、と付いている。
間違いなくやった。
何者かの倒れる音。

 素っ裸のまま垣根を切り倒すと、そこに倒れていたのは金髪の狼藉者。
胸を貫かれている。
手に握られた日傘。

「仕込み」

(さては殺し屋か)

 事後の戦慄とともに、妖夢は首尾良く相手を討ったことに感動を覚える。
と、その時、脱衣所の方から幽々子の声。

「何か音がしたみたいだけれど。何かあったの」

 妖夢は豪快な笑みを一つ笑った。

「何のことはない」

 そして、刀を収めて空を見上げた。
途端に押し寄せる安堵。

(気付かねば、手遅れになっていたやも知れぬ……)

「それは良かった」

 星空は美しく輝き、明日の晴天を告げていた。
もう春が近い。
 ここまでお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。
まあ、タイトルからしてお分かりの方は多いと思いますが、元ネタらしきものもあります。
*貫かれた紫ですが、心配いりません。妖怪です。
仕込み=仕込み刀
yuz
http://bachiatari777.blog64.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
懐かしいなこの言い回し
2.名前が無い程度の能力削除
なんだ、妖怪か。なら安心だ。
3.名前が無い程度の能力削除
その後の幽々子様の狼狽振りが良い肴になりそうな。
すらすらと楽しく読めました。
ゆかりんの心配をしていたら妖怪だったか。そうだった。
4.名前が無い程度の能力削除
最後みょん裸のままじゃないの?w
5.名前が無い程度の能力削除
妖怪なら何の問題もないな
6.名前が無い程度の能力削除
これはいい池波ファンホイホイ。
7.名前が無い程度の能力削除
最後のセリフをマッパで言ったと思うと笑えるwww
8.名前が無い程度の能力削除
我々はまず飽食亡霊が脱衣所で何をしていたのか問わねばなるまい。
9.名前が無い程度の能力削除
妖夢が中二病になったのかと思った。

妖夢「紫さま!申し訳ありません!切腹してお詫びを!」ってとこまで幻視した。