「聖。実は、大変、言い出しにくいことですが、伝えなければならない事実があります」
「何ですか?」
命蓮寺の一角。寺を統べる僧の部屋。
そこで、重苦しい会話が交わされていた。
「……はい。
毎月開催しております、『人間と妖怪の親睦を深めましょ♪ なむさん祭りだよ寄っといで☆』のために、命蓮寺の財政が火の車なのです……」
ちなみに祭りの命名は、その尼僧――聖白蓮その人である。
その、あまりにもカリスマと慈愛あふれるフレーズに、命蓮寺の住人は軒並み(約一名除く)、三日間ほど開いた口が塞がらなかったというのは有名な話である。
「……そうだったの。これからは、少し、祭りの規模を落とさないといけないわね」
「そうですね……。やはり、毎回毎回、河童に依頼して『あとらくしょん』を自作していたのが悪かったのかもしれません」
なお、祭りの実行委員というか執行担当はこの二人である。
ついでに言えば、この二人は、命蓮寺の中で『財布持たすな。落とすかからっぽにするから』と言われるほど金銭感覚がなかったりする。
「……しかし……星の力で財宝を集めるというのも……」
「そうですね……。その力に頼りすぎるのは問題かと思われます」
加えて、彼女――寅丸星の力には負の一面も大きい。
その力が発動すると、たとえよいこのぶたさん貯金箱であろうとも『財宝』と認識して集まってきてしまうからだ。
ついでに言うと、とある館のお嬢様が『わたしのぶたさん貯金箱がないの!』と半分泣きながら館の中を探し回っていたと言うのは内緒だ。
「今回は『あとらくしょん』を控えると言うわけにも……」
「お金をかけないですむ方法を模索しないといけないわね」
「はい。
そこで、聖。私から妙案があるのですが……いかがでしょうか?」
「あら、なぁに?」
「はい」
彼女は言う。
「財宝とは、すなわち、皆々の浄財であってもよいのではないでしょうか」
――と。
彼女、博麗霊夢は衣装を調えていた。
普段、身に着けている巫女服の上に、仰々しく、また、物騒なものを一つ一つ、丁寧に。
腕にはめた手甲は一振りであらゆる弾幕を弾き、腰に潜ませた札は、あらゆる妖怪を……そう、あの八雲紫すら調伏できる退魔の力を持ち、背中に掃いた剣はあらゆる生き物の御霊をその刃の中に封印し、その後、刃もろともに砕く神剣。
「……お母さん、行ってきます。
私、もう、ここに帰ってこられないかもしれないけれど……博麗の巫女として、その役割を果たします」
誓いの言葉と共に、彼女は出陣する。
開かれた戸の向こう――美しい青空に、彼女は目を細め、わずかの時間だけ『今』を堪能する。
そうして――、
「お前戦争でもしにいくのか」
その横手から冷めたツッコミが入る。
「いいえ、魔理沙。今の霊夢の気持ち、私にはわかるわ。
霊夢……私も行く。あなたの力になりたいの」
「ええ、アリス。共に行きましょう。
そして……必ずや、この異変を滅す!」
「どこまで物騒なんだよお前ら」
固い誓いを交し合い、今生の別れすら刻んだ二人に、もう一発冷めたツッコミ。
「っつーか、どこに異変があるんだよ」
「あるじゃないここに!」
そこで、霊夢は取り出した。
先日、天狗によって配られた一枚のチラシ。そこには以下のように書かれている。
『命蓮寺萌え萌えコスプレパーティー始まるよ☆』
――菰棲躊牟。
それはかつて、戦乱の時代、東西南北それぞれの地方を治める統治者たちが、その世界の全ての覇権を競って争った際、彼らに従い、その時代を駆け抜けた英霊たちが身に着けていた伝説の防具である。
それぞれの所属を示すための独特の形状をしており、また、階級に従っても装飾を増す、あるいは形状そのものが変化するなど、バリエーションは多岐にわたっていたと言われている。
中でも埠苓という将が身に着けていた菰棲躊牟は、見るもの全てが彼の存在を認識せざるを得ないほど、絢爛豪華かつ戦闘的な衣装であったという。
なお、今でも『コスチュームプレイ』として伝わっているこの言葉が、戦乱の時代、数多の殊勲を揚げた最強の将『埠苓』と、その『菰棲躊牟』にちなんでつけられたのは言うまでもない――
『幻想郷書房「飾りじゃないのよコスプレは」より抜粋』
「いやいや、どう見てもただの祭りだろこれ!? 何でそんな最終決戦に挑む装備なんだよ!?」
「落ち着きなさい、魔理沙!
これは幻想郷にとっての異変……! 今まで、この世界に築かれてきた伝統が壊され、全てが変わってしまうほどの大きな異変なのよ!」
「えっらいしょぼいな幻想郷!?」
「アリス、行くわよ!」
「ええ、霊夢! こんなふざけた試み……許してはおけないわ!」
「いやアリスお前も好きだろこういう衣装」
「私のおしゃれとこれを一緒にしないでちょうだい!」
――そうして、戦いは始まった。
「いらっしゃいませ、霊夢さん、そしてアリスさん。ようこそ、命蓮寺へ」
そして戦いは始まる前に霊夢たちの敗北で終わった。
二人を出迎えてくれたのは寅丸星であった。
ただし、いつもの、どこか神々しさを感じさせるような衣装ではない。
「誰か! 誰かフィルムを売ってくれ!」
「はーい。天狗印の特製フィルム、一本400円でーす」
「10本だ!」
「こっちは20本!」
「ちなみにこちらは、文ちゃん特製フィルム、600円でーす」
「そっちのプリント入りと言うだけでコレクション価値があるな!」
「30本くれー!」
虎柄ビキニ。
しかも頭にはねこみみ(虎耳と言うのだろうか)。
両手両足にはもふもふ感たっぷりのにくきゅう手袋とスリッパ。
お尻にはしっぽ。
文字通りの『とら娘』である。
「……霊夢……私はもうダメ……」
「アリス……せめて、あの世で心安らかに……」
「どうですか? 似合いますか?」
『あんた恥ずかしくないのかその格好!』
「どうして?」
どうやら、素でわからないらしい。
「招待状を受け取ってもらえたようで何よりです。
さあ、中を案内しますので、どうぞこちらに」
『行きたくない帰りたい!』
「まあまあ。さあどうぞどうぞ」
「うわこいつ力強いし!」
「ゴリアテー! ゴリアテへるぷみー!」
ずーるずるずると引きずられ、霊夢とアリスは命蓮寺の敷地内へと連れ込まれていく。
そして、境内の中もまたすごかった。
と言うか神域なんてものはあってないようなものだった。
「命蓮寺グッズの販売列はこっちだ。
そこ、きちんと列に並び……って、なぜ私にカメラを向ける!? ちょ、近づくな! 何か色々暑苦しい!
あっ、ご主人、助けてー!」
「頑張ってくださいね、ナズーリン」
「いっぺん死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
色んなグッズの売られているショップ(旧:僧房)。そこの前に並ぶ紳士たちの情熱の前に、店員役のナズーリンは涙を流していた。
ちなみに、そんな彼女の格好は、これまたかわいらしいワンピース姿だった。
「ナズーリンには『かわいい系』の格好が似合うと思うんです」
なぜか星は胸を張った。
「こら! お前達! 何で私の味方じゃなくてご主人の味方をする!?
だから待て! 着替えさせるならせめて更衣室まで連れて行っていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「貴様ら、全員後ろを向け!」
「サー・イエッサー!」
「紳士は常に紳士であるべし!」
「婦女子の着替えを覗くなどもってのほか!」
「我らは写真と己の脳内でのみハァハァするのだ!」
「わかったか!?」
「サー・イエッサー!」
「そこの貴様! 貴様、紳士の風上にも置けない変態め! つまみ出せ!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ! ごめんなさい、ナズーリンちゃんの着替えに鼻血流してごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
「境内の治安も保たれているのですよ。これは意外でした」
自分の眷属であるはずのねずみ達にワンピースを脱がされ、あったかそうな、だけどだぶっとした(これ重要)セーターに着替えさせられているナズーリンを守るのは、屈強な体躯の紳士たち。
その彼らの隙間から少女の着替えを撮影しようとした変態が、彼らの手によって境内の外へとつまみ出されていく。
「あちらが特設ステージです」
星が胸を張って(誇張も形容もなしに)紹介するのは、左手側の、何かやたら少女趣味なお立ち台。
「現役女子高生村紗水蜜で~す。
えっと、好きなものは甘いお菓子で、趣味は文通で~す」
『うおおおおおおおおおお!!』
『ム・ラ・サ! ム・ラ・サっ!』
「お兄さん達、こんにちは。
あれ? 何その目。お兄さん達、ボクに興味あるのかな?
ふ~ん……この変態。ボクにそんな色目使って、どうなるかわかってるかな?」
『わかりませんっ!』
『ぬえちゃんきたー!!』
ノリノリだった。
めちゃめちゃノリノリだった。
霊夢とアリスの中で、主に村紗に対する認識が改められた。
ぬえはともかく、村紗は真面目なキャラだと思ってた……その幻想が、がらがらと音を立てて崩されていった。
「あの……皆さん、こんにちは……。
村紗です……。あの……」
『メガネっ娘で引っ込み思案最高っす!』
「ねえねえ、お兄ちゃん♪ ぬえにおもちゃ買って♪」
『買ってやるっ! 何でも買ってやるぞぉぉぉぉぉぉぉ!』
村紗は現役セーラー服装備キャラのため、主にその衣装はセーラー服というか『制服』がメインだった。
衣装を着替えるたびに声音を変え、キャラを変え、まさに千変万化の立ち回り。
一方のぬえは、いわゆる『妹キャラ』であるらしい。
かわいらしかったり小憎らしいキャラだったり、あるいは元気な女の子だったりと。
こちらも衣装と共に入れ替わるキャラが魅力的である。さすが正体不明なだけはある演技力だった。
「……あー……」
「……今度から、命蓮寺の方々が家に訪れる際には魔よけを張っておきます……」
「あはは。アリスさんは冗談も得意ですね」
冗談じゃないわよ、とアリスは内心でつぶやいた。
霊夢は半分以上、放心しており、色々、視点が定まっていない。
「ちなみに、今回のお祭りについて、助言くださった方を紹介します」
いるのか、そんなの。
二人はほぼ同時につぶやくと、視線を上げる。
「スーパーバイザーの東風谷早苗さんです」
「霊夢さん、アリスさん、いらっしゃい♪」
アリスは即座に『やっぱりな』とつぶやき、霊夢は顔面から地面に突き刺さった。
「あれ? どうしたんですか? お二人とも」
「きっと、驚いていらっしゃるんでしょう」
「ああ、なるほど。
そうですよね。幻想郷にはコスプレ文化がありませんものね」
かく言う早苗の衣装も、何だかよくわからない、妙にカラフルなスーツ姿である。
なぜかヘルメットもかぶっていて、『V』の文字が燦然と輝いていた。
「しかし、さすがです。東風谷さん。
今まで開いていた人間と妖怪の交流会を、さらに上回る来場者……しかも、皆、とてもいい笑顔をしていらっしゃる。
こんなに素晴らしいお祭りになるとは思っていませんでした」
「コスプレは文化ですよ。魂ですよ。心と心の交流ですよ。
コスプレを愛するものに悪い人はいません。みんな、たった一つの衣装で平和になるんですよ!」
「はい。全くその通りです」
「それに、寅丸さまのお裁縫の腕前も素晴らしいですよ。
わたしのこの服なんて、外の世界じゃ、それこそ何万円もするんですよ? なのに、数千円で作れちゃうんですもの」
「あはは。
いえ、元々、こういうのに興味もありましたから。ナズーリン用にいくつか作ってもいたんですよ。今回、着てもらうことが出来て嬉しいですね」
泣いてたぞ。あっちで。
頭が地面に突き刺さっている霊夢は不明だが、ともあれ、アリスはそう思った。
ああ、心の声が他人に届けばいいのに。そしたら、遠慮なく、すでに色々萎えてるから口に出来ない言葉も全部まとめて叩きつけてあげられるのに。
空を仰ぐ彼女の視線の先に、『アリスちゃん、くじけちゃダメよ』と優しい母の顔が浮かんだとか浮かばないとか。
「あと、村紗さんの制服姿。絶妙ですよねぇ」
「彼女があそこまでノリノリで着てくれるとは思いませんでした。
けれど、彼女に制服、というのは何か型に嵌りすぎてるような気がするんですよね」
「あ、わかります、それ!
もっとはじけた衣装とか着てもらいたいですよね!」
「わかりますか! よーっし、なら、次はそっち系で作ってみますね!
あ、資料がありましたらお貸しいただけますか?」
「わっかりました! 有明の戦場で手に入れてきたベストスナップ集を持ってきますね!」
「お願いします。
あ、あと、ぬえはどうしましょう。今回は彼女の希望通り、妹系でまとめてみましたけど」
「ぬえちゃんはそれでいいと思うんですけど……。
ゲームの女性キャラとかいいかもしれませんね。最近はロリっ娘多いですし」
「それはどんな感じなのでしょうか?」
「色々ですよ。布が少なかったりするのは淑女的ではないので、かわいらしいのと凛々しいのとを集めてみましょうか」
「いいですねぇ。きっとかわいいですよ」
「あと、ナズーリンさんも……」
「そうですよね、そうですよね。
ああ、よかった。東風谷さんみたいに、私の趣味に付き合ってくれる方がいらっしゃって」
「それはわたしも同じです、寅丸さま」
がっ! と二人はいい笑顔を浮かべて腕を組んだ。
最強のアドバイザーと最強の実行者と。
二人が組んだとき、幻想郷に、コスプレの旋風が吹くのは間違いなかった。
「たたらんたたらんたたらんら~ん♪ は~い、皆さんこっちだよ~」
脱力して、すでに立つことも困難になりつつあるアリスの横を小傘が通り抜けていく。
傘をくるくる回して、それで一瞬、周囲の視線から自分を覆った瞬間、衣装を着替える彼女。心なしか、着替えれば着替えるほど布の面積が小さくなっているような気がする。
いよいよ紳士たちが『小傘ちゃん、それ以上はっ!』と声を上げそうになると、ぱっと振り出しに戻る辺りが心憎い演出だ。
彼女も、どうやら、心からこのお祭りを楽しんでいるらしい。
あとどうでもいいが、こいつ、なかなか乳がでかい。どうやら最近の幻想郷はロリ巨乳ブームらしい。
「……霊夢、大丈夫?」
「……アリス……私……もう、幻想郷を崩壊させようと思うの……。もう私……我慢しなくていいよね……?」
「……ええ、霊夢。あなたは頑張っているわ……だからもっと頑張らないといけないのよ……」
空の上を見上げれば、文があっちこっちにフィルムを配達している。その横をはたてが『……あんた達も大変ね』という視線を、アリス達に向けて、文についていく光景があった。
「さあ、霊夢さん、アリスさん! これからが本番ですよ!」
「本堂へどうぞ。さあさあ」
抵抗できない二人は、ずーるずーると早苗と星に引っ張られ、本堂へと連行される。
開かれた戸の向こうの空間。本来ならご本尊などが納められている空間は見事なステージへと変貌し、紳士淑女の皆さんが今か今かと目を輝かせている光景がある。
冬なのに、その部屋は妙に暑い。いるだけで汗が吹き出るほどに。
罰当たりも何もないなこれは。
アリスはそう思った。
早苗に引っ張られている霊夢の目はすでに死んでいる。この世界についていけなくなって、意識をフリーズさせたのだろう。
「……早苗と付き合うなら、こういうのが、きっと日常茶飯事になるわよ。霊夢……」
そうつぶやいて、星に案内されるまま、最前列に座らされるアリス。
――そして、待つこと5分。
部屋の照明が落とされ、ざわつく声が小さくなる。
『皆さん、ようこそいらっしゃいました。それではこれより、本日の命蓮寺主催祭事のメインイベントを始めます!』
星のマイクの後、きらびやかな光が室内に舞い始める。
それを見ていたアリスは、『あ、以前、これと同じ光景見たことある』と思いながら、ぼんやりと宙に視線をさまよわせる。
「始まりましたよ、霊夢さん! ほら!」
「あー……うー……」
精神的ダメージから立ち直れない霊夢を、ある意味、早苗がせきたてる。
そして――、
『みんなの心に、はーとふるナムサン♪ 魔法少女まじかる☆ひじりん、さんじょう~!』
そのセリフと共に現れた、命蓮寺の主に、会場のボルテージは発動状態を迎えた。
――見て……星……。今の、この命蓮寺を……――
――はい、見ております。聖――
――みんな、とてもいい笑顔をしているわ……。人間も妖怪も、わけ隔てなく一緒になって、この時間を楽しんでいるのよ――
――はい、そうです――
――私が目指していたのは、こういう世界なの。ああ……私、今、とても輝いているのね……――
――素晴らしいです……聖……。私も、目から涙が止まりません……――
響き渡る『ひじりん』コールの中、二人の間に、確かな心の交流があった。
ものすげぇいい笑顔の聖が、同じくやたらいい笑顔の星に向かって親指を立てていた。
そしてアリスは白くなっていた。
七色の人形遣いが真っ白に燃え尽きていた。
――……ねぇ……星……。私……もう、人生終えていいかな……?――
――ダメですよ、一輪♪――
――ですよねー! ああ、もうどうにでもなれ我が人生ー!――
聖の後ろから登場した『まじかる☆いちりん』な一輪が、目から涙をだばだば流しながら退廃的な笑顔を浮かべていた。
さらにその後ろで『けしからんっ! 若い娘が、あのように肌をさらす衣装に袖を通すなどっ!』と怒っていた雲親父が星にこきゃっとひねられて黙り込んだ。
「きゃーっ! 聖さま、一輪さま、お似合いですよー!」
黄色い声を上げて応援する早苗の姿が、妙に輝いていた。その隣で、霊夢は早苗と言う支えを失い、完全に床の上に崩れ落ちていた。
そしてただ一人、崩壊した精神の中で、アリスはその光景を体育すわりでぼんやりと眺めていたのだった。
「……パチェ。これ、見たかしら」
「ええ、見たわ。レミィ」
レミリアの手に握られたのは一枚の新聞。
そこには先日の、命蓮寺のお祭りの話が一面の話題となって載っている。
「……許されることではないわね」
「全くね。
そもそも新参のくせに、こちらに何の挨拶もなしで図々しい真似を……」
レミリアは、手にした新聞紙を床に叩きつけた。
パチュリーは、座っていた椅子から、がたん、という音を立てて立ち上がる。
「少し――」
「わからせてあげる必要があるようね」
二人はうなずき、見詰め合う。
そして、その声がそろった。
『この幻想郷における魔法少女は、ヴァンパイア☆レミちゃんである、ということを』
――この日、紅魔館と命蓮寺の、長きに渡る『第765次幻想郷魔法少女大戦』の火蓋が切って落とされようとしていた。
EDテーマ『魔法少女まじかる☆ひじりんのテーマ』
(原曲:感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind)
(前奏)
君が好きよ あなたが好きよ こっち向いて
私はまだ あなたのところに 飛んでゆけない
そう だから紡ぐの 魔法の力 まじかる☆なむさん
ほらほら見て 私のことを 魔法少女です
それぞれ遠いところに 私とあなた 離れてても隔てられても すぐに行くの あなたのそばに
魔法の力で すぐに
笑顔のまま 私のまま 魔法の言葉で
あなたがほら そばにいるの 私の横に
一緒にねえ 謳いましょう まじかる☆なむさん
そうしたら ほら 聞こえるでしょう 素敵な声が
私とあなたの素敵な魔法 まじかる さあ まじかる ねえ まじかる☆なむさん
(後奏)
「何ですか?」
命蓮寺の一角。寺を統べる僧の部屋。
そこで、重苦しい会話が交わされていた。
「……はい。
毎月開催しております、『人間と妖怪の親睦を深めましょ♪ なむさん祭りだよ寄っといで☆』のために、命蓮寺の財政が火の車なのです……」
ちなみに祭りの命名は、その尼僧――聖白蓮その人である。
その、あまりにもカリスマと慈愛あふれるフレーズに、命蓮寺の住人は軒並み(約一名除く)、三日間ほど開いた口が塞がらなかったというのは有名な話である。
「……そうだったの。これからは、少し、祭りの規模を落とさないといけないわね」
「そうですね……。やはり、毎回毎回、河童に依頼して『あとらくしょん』を自作していたのが悪かったのかもしれません」
なお、祭りの実行委員というか執行担当はこの二人である。
ついでに言えば、この二人は、命蓮寺の中で『財布持たすな。落とすかからっぽにするから』と言われるほど金銭感覚がなかったりする。
「……しかし……星の力で財宝を集めるというのも……」
「そうですね……。その力に頼りすぎるのは問題かと思われます」
加えて、彼女――寅丸星の力には負の一面も大きい。
その力が発動すると、たとえよいこのぶたさん貯金箱であろうとも『財宝』と認識して集まってきてしまうからだ。
ついでに言うと、とある館のお嬢様が『わたしのぶたさん貯金箱がないの!』と半分泣きながら館の中を探し回っていたと言うのは内緒だ。
「今回は『あとらくしょん』を控えると言うわけにも……」
「お金をかけないですむ方法を模索しないといけないわね」
「はい。
そこで、聖。私から妙案があるのですが……いかがでしょうか?」
「あら、なぁに?」
「はい」
彼女は言う。
「財宝とは、すなわち、皆々の浄財であってもよいのではないでしょうか」
――と。
彼女、博麗霊夢は衣装を調えていた。
普段、身に着けている巫女服の上に、仰々しく、また、物騒なものを一つ一つ、丁寧に。
腕にはめた手甲は一振りであらゆる弾幕を弾き、腰に潜ませた札は、あらゆる妖怪を……そう、あの八雲紫すら調伏できる退魔の力を持ち、背中に掃いた剣はあらゆる生き物の御霊をその刃の中に封印し、その後、刃もろともに砕く神剣。
「……お母さん、行ってきます。
私、もう、ここに帰ってこられないかもしれないけれど……博麗の巫女として、その役割を果たします」
誓いの言葉と共に、彼女は出陣する。
開かれた戸の向こう――美しい青空に、彼女は目を細め、わずかの時間だけ『今』を堪能する。
そうして――、
「お前戦争でもしにいくのか」
その横手から冷めたツッコミが入る。
「いいえ、魔理沙。今の霊夢の気持ち、私にはわかるわ。
霊夢……私も行く。あなたの力になりたいの」
「ええ、アリス。共に行きましょう。
そして……必ずや、この異変を滅す!」
「どこまで物騒なんだよお前ら」
固い誓いを交し合い、今生の別れすら刻んだ二人に、もう一発冷めたツッコミ。
「っつーか、どこに異変があるんだよ」
「あるじゃないここに!」
そこで、霊夢は取り出した。
先日、天狗によって配られた一枚のチラシ。そこには以下のように書かれている。
『命蓮寺萌え萌えコスプレパーティー始まるよ☆』
――菰棲躊牟。
それはかつて、戦乱の時代、東西南北それぞれの地方を治める統治者たちが、その世界の全ての覇権を競って争った際、彼らに従い、その時代を駆け抜けた英霊たちが身に着けていた伝説の防具である。
それぞれの所属を示すための独特の形状をしており、また、階級に従っても装飾を増す、あるいは形状そのものが変化するなど、バリエーションは多岐にわたっていたと言われている。
中でも埠苓という将が身に着けていた菰棲躊牟は、見るもの全てが彼の存在を認識せざるを得ないほど、絢爛豪華かつ戦闘的な衣装であったという。
なお、今でも『コスチュームプレイ』として伝わっているこの言葉が、戦乱の時代、数多の殊勲を揚げた最強の将『埠苓』と、その『菰棲躊牟』にちなんでつけられたのは言うまでもない――
『幻想郷書房「飾りじゃないのよコスプレは」より抜粋』
「いやいや、どう見てもただの祭りだろこれ!? 何でそんな最終決戦に挑む装備なんだよ!?」
「落ち着きなさい、魔理沙!
これは幻想郷にとっての異変……! 今まで、この世界に築かれてきた伝統が壊され、全てが変わってしまうほどの大きな異変なのよ!」
「えっらいしょぼいな幻想郷!?」
「アリス、行くわよ!」
「ええ、霊夢! こんなふざけた試み……許してはおけないわ!」
「いやアリスお前も好きだろこういう衣装」
「私のおしゃれとこれを一緒にしないでちょうだい!」
――そうして、戦いは始まった。
「いらっしゃいませ、霊夢さん、そしてアリスさん。ようこそ、命蓮寺へ」
そして戦いは始まる前に霊夢たちの敗北で終わった。
二人を出迎えてくれたのは寅丸星であった。
ただし、いつもの、どこか神々しさを感じさせるような衣装ではない。
「誰か! 誰かフィルムを売ってくれ!」
「はーい。天狗印の特製フィルム、一本400円でーす」
「10本だ!」
「こっちは20本!」
「ちなみにこちらは、文ちゃん特製フィルム、600円でーす」
「そっちのプリント入りと言うだけでコレクション価値があるな!」
「30本くれー!」
虎柄ビキニ。
しかも頭にはねこみみ(虎耳と言うのだろうか)。
両手両足にはもふもふ感たっぷりのにくきゅう手袋とスリッパ。
お尻にはしっぽ。
文字通りの『とら娘』である。
「……霊夢……私はもうダメ……」
「アリス……せめて、あの世で心安らかに……」
「どうですか? 似合いますか?」
『あんた恥ずかしくないのかその格好!』
「どうして?」
どうやら、素でわからないらしい。
「招待状を受け取ってもらえたようで何よりです。
さあ、中を案内しますので、どうぞこちらに」
『行きたくない帰りたい!』
「まあまあ。さあどうぞどうぞ」
「うわこいつ力強いし!」
「ゴリアテー! ゴリアテへるぷみー!」
ずーるずるずると引きずられ、霊夢とアリスは命蓮寺の敷地内へと連れ込まれていく。
そして、境内の中もまたすごかった。
と言うか神域なんてものはあってないようなものだった。
「命蓮寺グッズの販売列はこっちだ。
そこ、きちんと列に並び……って、なぜ私にカメラを向ける!? ちょ、近づくな! 何か色々暑苦しい!
あっ、ご主人、助けてー!」
「頑張ってくださいね、ナズーリン」
「いっぺん死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
色んなグッズの売られているショップ(旧:僧房)。そこの前に並ぶ紳士たちの情熱の前に、店員役のナズーリンは涙を流していた。
ちなみに、そんな彼女の格好は、これまたかわいらしいワンピース姿だった。
「ナズーリンには『かわいい系』の格好が似合うと思うんです」
なぜか星は胸を張った。
「こら! お前達! 何で私の味方じゃなくてご主人の味方をする!?
だから待て! 着替えさせるならせめて更衣室まで連れて行っていやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「貴様ら、全員後ろを向け!」
「サー・イエッサー!」
「紳士は常に紳士であるべし!」
「婦女子の着替えを覗くなどもってのほか!」
「我らは写真と己の脳内でのみハァハァするのだ!」
「わかったか!?」
「サー・イエッサー!」
「そこの貴様! 貴様、紳士の風上にも置けない変態め! つまみ出せ!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ! ごめんなさい、ナズーリンちゃんの着替えに鼻血流してごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
「境内の治安も保たれているのですよ。これは意外でした」
自分の眷属であるはずのねずみ達にワンピースを脱がされ、あったかそうな、だけどだぶっとした(これ重要)セーターに着替えさせられているナズーリンを守るのは、屈強な体躯の紳士たち。
その彼らの隙間から少女の着替えを撮影しようとした変態が、彼らの手によって境内の外へとつまみ出されていく。
「あちらが特設ステージです」
星が胸を張って(誇張も形容もなしに)紹介するのは、左手側の、何かやたら少女趣味なお立ち台。
「現役女子高生村紗水蜜で~す。
えっと、好きなものは甘いお菓子で、趣味は文通で~す」
『うおおおおおおおおおお!!』
『ム・ラ・サ! ム・ラ・サっ!』
「お兄さん達、こんにちは。
あれ? 何その目。お兄さん達、ボクに興味あるのかな?
ふ~ん……この変態。ボクにそんな色目使って、どうなるかわかってるかな?」
『わかりませんっ!』
『ぬえちゃんきたー!!』
ノリノリだった。
めちゃめちゃノリノリだった。
霊夢とアリスの中で、主に村紗に対する認識が改められた。
ぬえはともかく、村紗は真面目なキャラだと思ってた……その幻想が、がらがらと音を立てて崩されていった。
「あの……皆さん、こんにちは……。
村紗です……。あの……」
『メガネっ娘で引っ込み思案最高っす!』
「ねえねえ、お兄ちゃん♪ ぬえにおもちゃ買って♪」
『買ってやるっ! 何でも買ってやるぞぉぉぉぉぉぉぉ!』
村紗は現役セーラー服装備キャラのため、主にその衣装はセーラー服というか『制服』がメインだった。
衣装を着替えるたびに声音を変え、キャラを変え、まさに千変万化の立ち回り。
一方のぬえは、いわゆる『妹キャラ』であるらしい。
かわいらしかったり小憎らしいキャラだったり、あるいは元気な女の子だったりと。
こちらも衣装と共に入れ替わるキャラが魅力的である。さすが正体不明なだけはある演技力だった。
「……あー……」
「……今度から、命蓮寺の方々が家に訪れる際には魔よけを張っておきます……」
「あはは。アリスさんは冗談も得意ですね」
冗談じゃないわよ、とアリスは内心でつぶやいた。
霊夢は半分以上、放心しており、色々、視点が定まっていない。
「ちなみに、今回のお祭りについて、助言くださった方を紹介します」
いるのか、そんなの。
二人はほぼ同時につぶやくと、視線を上げる。
「スーパーバイザーの東風谷早苗さんです」
「霊夢さん、アリスさん、いらっしゃい♪」
アリスは即座に『やっぱりな』とつぶやき、霊夢は顔面から地面に突き刺さった。
「あれ? どうしたんですか? お二人とも」
「きっと、驚いていらっしゃるんでしょう」
「ああ、なるほど。
そうですよね。幻想郷にはコスプレ文化がありませんものね」
かく言う早苗の衣装も、何だかよくわからない、妙にカラフルなスーツ姿である。
なぜかヘルメットもかぶっていて、『V』の文字が燦然と輝いていた。
「しかし、さすがです。東風谷さん。
今まで開いていた人間と妖怪の交流会を、さらに上回る来場者……しかも、皆、とてもいい笑顔をしていらっしゃる。
こんなに素晴らしいお祭りになるとは思っていませんでした」
「コスプレは文化ですよ。魂ですよ。心と心の交流ですよ。
コスプレを愛するものに悪い人はいません。みんな、たった一つの衣装で平和になるんですよ!」
「はい。全くその通りです」
「それに、寅丸さまのお裁縫の腕前も素晴らしいですよ。
わたしのこの服なんて、外の世界じゃ、それこそ何万円もするんですよ? なのに、数千円で作れちゃうんですもの」
「あはは。
いえ、元々、こういうのに興味もありましたから。ナズーリン用にいくつか作ってもいたんですよ。今回、着てもらうことが出来て嬉しいですね」
泣いてたぞ。あっちで。
頭が地面に突き刺さっている霊夢は不明だが、ともあれ、アリスはそう思った。
ああ、心の声が他人に届けばいいのに。そしたら、遠慮なく、すでに色々萎えてるから口に出来ない言葉も全部まとめて叩きつけてあげられるのに。
空を仰ぐ彼女の視線の先に、『アリスちゃん、くじけちゃダメよ』と優しい母の顔が浮かんだとか浮かばないとか。
「あと、村紗さんの制服姿。絶妙ですよねぇ」
「彼女があそこまでノリノリで着てくれるとは思いませんでした。
けれど、彼女に制服、というのは何か型に嵌りすぎてるような気がするんですよね」
「あ、わかります、それ!
もっとはじけた衣装とか着てもらいたいですよね!」
「わかりますか! よーっし、なら、次はそっち系で作ってみますね!
あ、資料がありましたらお貸しいただけますか?」
「わっかりました! 有明の戦場で手に入れてきたベストスナップ集を持ってきますね!」
「お願いします。
あ、あと、ぬえはどうしましょう。今回は彼女の希望通り、妹系でまとめてみましたけど」
「ぬえちゃんはそれでいいと思うんですけど……。
ゲームの女性キャラとかいいかもしれませんね。最近はロリっ娘多いですし」
「それはどんな感じなのでしょうか?」
「色々ですよ。布が少なかったりするのは淑女的ではないので、かわいらしいのと凛々しいのとを集めてみましょうか」
「いいですねぇ。きっとかわいいですよ」
「あと、ナズーリンさんも……」
「そうですよね、そうですよね。
ああ、よかった。東風谷さんみたいに、私の趣味に付き合ってくれる方がいらっしゃって」
「それはわたしも同じです、寅丸さま」
がっ! と二人はいい笑顔を浮かべて腕を組んだ。
最強のアドバイザーと最強の実行者と。
二人が組んだとき、幻想郷に、コスプレの旋風が吹くのは間違いなかった。
「たたらんたたらんたたらんら~ん♪ は~い、皆さんこっちだよ~」
脱力して、すでに立つことも困難になりつつあるアリスの横を小傘が通り抜けていく。
傘をくるくる回して、それで一瞬、周囲の視線から自分を覆った瞬間、衣装を着替える彼女。心なしか、着替えれば着替えるほど布の面積が小さくなっているような気がする。
いよいよ紳士たちが『小傘ちゃん、それ以上はっ!』と声を上げそうになると、ぱっと振り出しに戻る辺りが心憎い演出だ。
彼女も、どうやら、心からこのお祭りを楽しんでいるらしい。
あとどうでもいいが、こいつ、なかなか乳がでかい。どうやら最近の幻想郷はロリ巨乳ブームらしい。
「……霊夢、大丈夫?」
「……アリス……私……もう、幻想郷を崩壊させようと思うの……。もう私……我慢しなくていいよね……?」
「……ええ、霊夢。あなたは頑張っているわ……だからもっと頑張らないといけないのよ……」
空の上を見上げれば、文があっちこっちにフィルムを配達している。その横をはたてが『……あんた達も大変ね』という視線を、アリス達に向けて、文についていく光景があった。
「さあ、霊夢さん、アリスさん! これからが本番ですよ!」
「本堂へどうぞ。さあさあ」
抵抗できない二人は、ずーるずーると早苗と星に引っ張られ、本堂へと連行される。
開かれた戸の向こうの空間。本来ならご本尊などが納められている空間は見事なステージへと変貌し、紳士淑女の皆さんが今か今かと目を輝かせている光景がある。
冬なのに、その部屋は妙に暑い。いるだけで汗が吹き出るほどに。
罰当たりも何もないなこれは。
アリスはそう思った。
早苗に引っ張られている霊夢の目はすでに死んでいる。この世界についていけなくなって、意識をフリーズさせたのだろう。
「……早苗と付き合うなら、こういうのが、きっと日常茶飯事になるわよ。霊夢……」
そうつぶやいて、星に案内されるまま、最前列に座らされるアリス。
――そして、待つこと5分。
部屋の照明が落とされ、ざわつく声が小さくなる。
『皆さん、ようこそいらっしゃいました。それではこれより、本日の命蓮寺主催祭事のメインイベントを始めます!』
星のマイクの後、きらびやかな光が室内に舞い始める。
それを見ていたアリスは、『あ、以前、これと同じ光景見たことある』と思いながら、ぼんやりと宙に視線をさまよわせる。
「始まりましたよ、霊夢さん! ほら!」
「あー……うー……」
精神的ダメージから立ち直れない霊夢を、ある意味、早苗がせきたてる。
そして――、
『みんなの心に、はーとふるナムサン♪ 魔法少女まじかる☆ひじりん、さんじょう~!』
そのセリフと共に現れた、命蓮寺の主に、会場のボルテージは発動状態を迎えた。
――見て……星……。今の、この命蓮寺を……――
――はい、見ております。聖――
――みんな、とてもいい笑顔をしているわ……。人間も妖怪も、わけ隔てなく一緒になって、この時間を楽しんでいるのよ――
――はい、そうです――
――私が目指していたのは、こういう世界なの。ああ……私、今、とても輝いているのね……――
――素晴らしいです……聖……。私も、目から涙が止まりません……――
響き渡る『ひじりん』コールの中、二人の間に、確かな心の交流があった。
ものすげぇいい笑顔の聖が、同じくやたらいい笑顔の星に向かって親指を立てていた。
そしてアリスは白くなっていた。
七色の人形遣いが真っ白に燃え尽きていた。
――……ねぇ……星……。私……もう、人生終えていいかな……?――
――ダメですよ、一輪♪――
――ですよねー! ああ、もうどうにでもなれ我が人生ー!――
聖の後ろから登場した『まじかる☆いちりん』な一輪が、目から涙をだばだば流しながら退廃的な笑顔を浮かべていた。
さらにその後ろで『けしからんっ! 若い娘が、あのように肌をさらす衣装に袖を通すなどっ!』と怒っていた雲親父が星にこきゃっとひねられて黙り込んだ。
「きゃーっ! 聖さま、一輪さま、お似合いですよー!」
黄色い声を上げて応援する早苗の姿が、妙に輝いていた。その隣で、霊夢は早苗と言う支えを失い、完全に床の上に崩れ落ちていた。
そしてただ一人、崩壊した精神の中で、アリスはその光景を体育すわりでぼんやりと眺めていたのだった。
「……パチェ。これ、見たかしら」
「ええ、見たわ。レミィ」
レミリアの手に握られたのは一枚の新聞。
そこには先日の、命蓮寺のお祭りの話が一面の話題となって載っている。
「……許されることではないわね」
「全くね。
そもそも新参のくせに、こちらに何の挨拶もなしで図々しい真似を……」
レミリアは、手にした新聞紙を床に叩きつけた。
パチュリーは、座っていた椅子から、がたん、という音を立てて立ち上がる。
「少し――」
「わからせてあげる必要があるようね」
二人はうなずき、見詰め合う。
そして、その声がそろった。
『この幻想郷における魔法少女は、ヴァンパイア☆レミちゃんである、ということを』
――この日、紅魔館と命蓮寺の、長きに渡る『第765次幻想郷魔法少女大戦』の火蓋が切って落とされようとしていた。
EDテーマ『魔法少女まじかる☆ひじりんのテーマ』
(原曲:感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind)
(前奏)
君が好きよ あなたが好きよ こっち向いて
私はまだ あなたのところに 飛んでゆけない
そう だから紡ぐの 魔法の力 まじかる☆なむさん
ほらほら見て 私のことを 魔法少女です
それぞれ遠いところに 私とあなた 離れてても隔てられても すぐに行くの あなたのそばに
魔法の力で すぐに
笑顔のまま 私のまま 魔法の言葉で
あなたがほら そばにいるの 私の横に
一緒にねえ 謳いましょう まじかる☆なむさん
そうしたら ほら 聞こえるでしょう 素敵な声が
私とあなたの素敵な魔法 まじかる さあ まじかる ねえ まじかる☆なむさん
(後奏)
頑張れ霊夢
つまりここで地面に埋まっていた霊夢がまさかの雪○ポジションと。
あとおぜうさま、魔法少女の件で妹様が手招きしてらっしゃいますよ
いやいや、重要事項だ!
まさかここでヴァンパイア☆レミちゃんが来るとは思わなかったwwww
当然ナズーリン下は履いてなくてはだぼだぼのセーターだけですよね!!
お嬢様寝室で泣いてましたよ
私が初めて面白いと思った作品の人でしたか。
うわぁ、霊夢とアリスのやり取りが懐かしすぎて涙が出てきたwww
ギャップがひどすぎるwww
霊夢の未来が見えないぞ……
ナズから小傘までの件でちょっとうるっと来てたwww