幻想郷は全てを受け入れるそうな
そうだそうな
うさルーミア「そーウサかー」
どうしなずーりん(ふるこんたくと)
かいたたわけ:まむどるちぁ
毘沙門天様がお料理を教えてくれなかったので、命蓮寺では同志ナズーリンとお星様
(「おほしさま」ではなく「おしょうさま」です)だけが満足にご飯も炊けません。
「ご主人様、どちらにおられああああああああああ!?」
「ナズーーリーーーン!手を、手を火傷してしまいましたぁーーーーーー!!」最初から
喰らいMAXでございます。食べる役しかできないという意味で。
ムラサ船長のセーラー服の中に手を突っ込んで火傷を冷やしつつ、お星様は悔しそうに
「何たるざまでしょう、聖の弟子ともあろう者が情けない」と漏らします。
「落ち込むのはその位にしたまえご主人様、私が手伝ってさしあげるから」同志ナズーリン
はそう言って包丁を握りしめ、まな板の上の人参をきっ、と睨みつけました。
「い、いけませんナズーリン、私たちの未熟な技ではとうてい敵いっこありません」
「毘沙門天様の名にかけて、私は必ず勝利を掴んでみせる!!」同志ナズーリンは高らかに
そう宣言し、左手でぐわしっっと人参を掴んで包丁の刃をぐっと押し付けました。
「痛ッ!!」
「ああっ、ナズーーーリーーーーン!!」とまあこんな調子です。毎日。つまりムラサ船長
は毎日服の中に手を突っ込まれてます。いい迷惑ですね。
切った指をお星様に咥えてもらっている間に、一輪さんが消毒薬と包帯を持ってきてくれ
ました。いくら何でも4人いると厨房も狭くてかないません。
「何で手を『猫の手』の形にして添えないのよ?」一輪さんのツッコミは野暮というものです。
だってネズミだし。
こんな調子ですから命蓮寺の食膳にはよく焦げたご飯やいびつな切り口の野菜が並びます。
白蓮さまはできたお方ですから美味しい美味しいと笑顔で食べてくれますが、金曜日になると
その口調がより嬉しそうに聞こえてしまうのは仕方がありません。ムラサ船長の作るカレーは
何度食べても本当に美味しいですから。ちなみにカレールーは魔界コンビニで一箱2マッカの
普通のものです。高級品でも何でもありません。
だがしかし、同志ナズーリンもお星様も、白蓮さまのために自力で美味しいお食事を用意
したいと考えるのはごく自然なことです。嗚呼そして、
「ああっタマネギッ!!、目がっ目があああああああああああああ!」
「ご主人様危ないっ、包丁を持ったまま転げ回らないで!」命蓮寺の厨房では今日も惨劇が
繰り返されるのでございました。
さてそんなある晩のこと、紅魔館まで槍投げ大会に参加するべく出かけていったお星様
をお見送りした同志ナズーリンは、厨房に水を飲みに行ったところ布に包まれたお弁当箱を
見つけました。
「はて、これはご主人様のかな?」悪いとは思いつつも包みをほどいて中を見てみると、
案の定焦げたご飯と鋸で切ったような切り口の野菜の煮物、ぐしゃぐしゃに潰れた豆腐など
が下手くそな盛りつけで入ってます。
「やれやれ困ったお方だ。どうしたものやら」考え込む同志ナズーリンの両脇に、ムラサ船長
と一輪さんがささっと現れました。仲がよいことでは定評のある命蓮寺のメンバー達です。
「それはやはり、あなたが届けに行ってあげるのが良いのではないでしょうか」
「そうそう、ハングリータイガーな寅ちゃんを吸血鬼たちに見せるのは命蓮寺のためには
ならないし」
「やはりそれしかないかな。仕方ない、ちょっと出かけてくることにしよう」お弁当箱を
包み直すと子ネズミたちに食べられないよう尻尾に提げた籠に入れ、ダウジングロッドを
構えていざ夜のフライトに出発する同志ナズーリン。見送った二人は彼女の姿が見えなく
なった途端
「きっと悪戯に遭うわね」
「遭いますね」
「私達もこっそり後を追うべきかしら」
「追いましょうか」そう言って一緒に飛びたちました。仲がよいことでは定評のある命蓮寺
のメンバー達です。
え?お寺のおつとめ?雲山に丸投げに決まってんじゃん。
ダウジングロッドの導きに従って進んでいく同志ナズーリンの目に、うっすらとお星様
の背中が見えて参りました。
「あ、いたいた。おーいご主人様ー、折角お作りになったお弁当を」
「ばあッ!!」振り向いたお星様の首が伸び、顔だけが近付いてきました。
「……はて」別に驚きもしませんが、同志ナズーリンは自分の手元をよく見てみました。
ダウジングロッドだと思っていたものはよくよく見ればブーメランとバールのようなもの
でした。
「やーいやーい、ひっかかったー」嬉しそうに言いながら正体を現したのは案の定ぬえ
ちゃんでした。
「ねねね、驚いた?びっくりした?怖かった?」わくわくしながら訊いてくるぬえちゃん
のほっぺたに
「口を慎みたまえ」同志ナズーリンはバールのようなものをぐりぐり押しつけました。
俗に言う『当ててんのよ』ってやつです。
「痛ッ痛い痛い!何すんのよ?」
「それは私の台詞だ。君は何故このようなことをするんだ。返答如何によっては慈悲深い
私は正体不明の君を正体不明の肉塊に変えてあげようと思うのだが」さすがは同志です。
自分で慈悲深いと言いながらやろうとしていることは無慈悲です。
「えー、だってー、夜中に一人で出歩く奴は食べてもいいって博麗の巫女も言ってるじゃ
ないの」
「ほう、私を食べようというのか。ならば等価交換といこう。私の子ネズミたちには君の
両耳を食べさせる。味付けに経文でも書いておくと良いかもしれないな」なんと耳なし芳一
でございます。情け容赦一切ありません。
スカートのポケットや肩掛けの内側からわらわらと現れる子ネズミが一斉にぬえちゃん
を襲います。
「ひええええ~、や~め~て~!」情けない悲鳴をあげながら逃げ出すぬえちゃんに、
同志ナズーリンは迷わずブーメランを投げつけました。毘沙門天様はどうやらブーメラン
の投法は教えてくれていた模様で、見事に彼女の足につっかけて転ばせました。
「ぎゃふん!」1ボスにやられるEXボス。まるでカリスマがありません。
「さあ約束だ。君を肉塊に変えてあげよう。慈悲深く、な」バールのようなものを構える
同志に、ぬえちゃんは慌てて土下座しました。
「ごめんなさいもうしません!何卒お許しをぉー」
「そうか、そこまで言うなら仕方がない、寛大な私は君に10秒の猶予をやる。寺から
私のダウジングロッドを取ってきてくれたまえ」今度は寛大ときたもんだ。
「じ、10秒!?」
「不満かい?では特別に5秒にまけて」
「10秒で結構ですぅー!!」そっこーで寺に向けて飛んでいきダウジングロッドを取って
戻って来たEXボスに、1ボスはよろしい、と言うとそれを受け取りました。
「そう言えば、そもそもどこに向かってたの?」
「それも知らないでご主人様に化けたのか君は。今夜紅魔館で槍投げ大会があるとかで、
ご主人様はそれに出場すべくお出かけになったのさ」
「えー、そんなのあそこの主の出来レースに決まってるじゃない。確かグングニル持って
るんでしょあいつ?勝てるわけないわよ」
「君は私のご主人様を侮辱するのか。いいだろう、気の利く私はご主人様のお弁当に鵺の
串焼きを追加することにする。きっと喜んでいただける筈だ」早速バールのようなものを
構える同志。ていうかダウジングロッドより扱い慣れてるように見えて仕方ありません。
「嫌ッ嫌あああああ!!私のお肉美味しくないから~~ッ!寅丸様の完全優勝間違いあり
ませんーーー!」
「分かっているなら良いんだ。さて、すっかり遅くなってしまった。紅魔館に急がねば」
今度こそダウジングロッドを構えると、同志ナズーリンはフライトを再開しました。
「さでずむね」
「さでずむですね」
「ぬえも懲りないわねえ」
「きっとまぞなんですよ」後ろで観察(見物)している二人組は言いたい放題です。普段
厨房で迷惑を被っているぶんここで発散しているのでしょう。きっと。
紅魔館へと向かう同志ナズーリン。その後ろをぬえちゃんがくっついて追います。
「何でついてくるんだ君は」
「ほら、私も槍みたいなの持ってるじゃない。飛び入り参加しようかと思って」
「(フォークじゃなかったのか)ふむ、ご主人様の勝利に華を添えてくれるわけだ。君も
中々見所があるじゃないか」
「(どんだけ寅好きなんだこいつ)ええそりゃもう。誠心誠意頑張らせていただきます」
お互いに腹黒さを隠そうともしません。案外似たもの同士なようです。SかMかの違いは
あるかもしれませんが。
さて紅魔館の方ですが、参加者はそれほど多くはありません。槍持ってるキャラなんて
そんなにいませんし。長物全般にしたってエリーとこまっちゃんくらいしか増えないし。
「私が一番に決まってるじゃないのさ!神槍「スピア・ザ・グングニル」!!」
「おゆはんまだー?蝶符「鳳蝶紋の死槍」~」
「お目当てはそれなの!?槍符「キューティ大千槍」!」お前その槍投げてないだろ、と
いうツッコミは来なかったのでしょうか。
お星様は槍関連のスペルカードは持っていないので、普通に戟を投げてます。普通は
戟は投げて使わないと思いますが。
「これは参りました。私も早急に新しいスペルカードを用意しなくてはなりませんね」
いや、だから投げては使わないでしょ。
「やあ、もう始まっているのか。おーいご主人様、お弁当をお忘れではないかなー?」
手を振る同志ナズーリンにお星様は怪訝な顔をして振り向きました。
「おやナズーリン、お弁当ならちゃんと持ってきてますよー」そう言ってこれまた布に
包まれたお弁当箱を取り出して見せてくれました。今度は同志が怪訝な顔をする番です。
「はて、すると私の手元にあるこちらのお弁当は?」
「ああ、私としたことがうっかりしていました。それはあなたのお夜食に作ったのです。
置き手紙をするのを忘れておりまして」お星様の言葉に真っ赤になった同志ナズーリン
は思わず照れ隠しに
「視符「高感度ナズーリンペンデュラム」!!」
「げふぇっつ!?」ぬえちゃんを吹っ飛ばしてしまいました。まさかご主人様を吹き
飛ばすわけにもいきませんし。嗚呼そして、
「新記録が出ました。飛び入り参加の封獣ぬえ、現在トップです」こうして一位の座
はぬえちゃんがあっさり奪っていきました。
「申し訳ありませんナズーリン、あまり美味しくないでしょう」
「いや、けしてそんなことはないとも。この先も精進を重ねていつか二人で船長をも
うならせる料理をみんなにご馳走できるようになろうじゃないか」
「あ、あのー、私もお腹空いちゃったかなー?」華を添えるどころかダークホースに
なってしまったぬえちゃんに同志ナズーリンは
「ああそうだったか。優しい私は君に特別にその辺の雑草を抜いて食べることを許可
しよう。腹一杯になるまで食べるといい」と笑顔で言いました。
「分かりやすいデレね」
「さでずむと足して二で割って『さでデレ』ってところですね」
「ぬえったら泣いてるわ」
「きっと歓喜の涙ですよ」もうお寺に帰りましょうよ二人とも。
一方その頃命蓮寺では
「こんな夜中にトリプルこんにゃく攻撃を仕掛ければきっとみんな驚いてくれるはず
(がらっ)あれ、いない?どーこ行ったのかな(がらがら)ここもいない?(がららっ)
えーっ、ここにもいないの?みんなどこかに隠れてるのかな?ねーねー、遊ぶんなら
わちきも混ぜてよー」小傘ちゃんが寺中のお部屋を開けて回っておりました。白蓮さま
はお休みの時間ですし、雲山はいつまでも戻らない4人の代わりに憮然とした表情で
おつとめの真っ最中です。
「どこー?どこにいるのみんなー?わちきを仲間はずれにしないでよー。え~ん」つい
には泣き出してしまいましたとさ。
雲山…(´・ω・`)
(´・ω・`)
ぬえちゃん槍は羽の先が槍判定か
これがいざ読んでみればリズムに乗ってたちまちに読めてしまいました。
東の耳から入ってきた同士ナズーリンが西から流れていったような読後感でしたが、
これが存外心地良かったです。
有難う御座いました(寝ます