コンプエースで東方漫画新連載――そのニュースは瞬く間に幻想郷を駆け巡った。
「私の名前が決まると聞いて飛んできました!」
「歩いてお帰り」
朱鷺色の羽根の妖怪が障子を破いて突っ込んで来たので、阿求は硯を投げつけた。
悲鳴をあげて朱鷺色の羽根の妖怪は畳に墜落する。人間も弾幕ごっこはできるのだ。
「ひどい! 理不尽! 紅白も白黒も人間はみんな理不尽!」
「だいたいなんで貴方が来るんですか1回限りのモブのくせして生意気ですよ」
「自分の編纂した本で一枚も自分のイラストが無かった人間に言われたくないよ!」
阿求の握る湯飲みにヒビが入った。
「幻想郷縁起に醜いアヒルの妖怪とでも書いてあげましょう」
「横暴! ふふーん、でも新連載が始まったら私の天下だもんね! 名前も決まって正式に東方キャラに昇格だもんね!」
「だからどこに貴方の登場する余地があるのですか」
「だってこの背景香霖堂でしょ! 香霖堂に霖之助以外のキャラが出るなら私でしょ!」
「いや、これは私の部屋でしょう。本棚に蓄音機もありますし。つまり私の漫画が始まって私の天下です。人気投票で26位にジャンプアップも目じゃありません。いよいよ稗田の天下です」
「うちにも蓄音機ぐらいあるわよ、むきゅー」
いつの間にかパチュリーが居た。さらにその後ろにはなぜか鈴仙と美鈴がいる。
「常識的に考えてまた私の漫画が始まると思うんですけど。鈴ですしほら」
「鈴仙さんはもう一回公式漫画で主役貼ってるんだからここは私に譲ってくださいよ、私なんか美しい鈴ですから」
「鈴は鈴蘭の鈴ー! スーさんのことよー!」
メディスンまでどこからともなく現れる。気付けば部屋は妖怪だらけだ。ここは博麗神社か。
阿求が頭を抱えていると、「お待ちなさい皆さん」とその場に新たな影が現れた。
「閻魔様?」
「新連載の件、私が裁断いたします」
四季映姫・ヤマザナドゥだった。貴方はどこにも関係ないでしょう、と阿求は口にしかけたが、睨まれて沈黙する。
「普通に考えて、新連載となれば新キャラの投入と考えるのが自然。この画像に見えている『鈴奈』の2文字は名前のような響きですし、茨歌仙の『歌仙』のように新キャラの名前の字違いと見るべきでしょう」
「それで?」
「『鈴奈』……これは『すずな』と読むのが無難でしょう。さて、スズナといえば」
「春の七草ですね。漢字では鈴菜、もしくは菘。カブ(蕪)のことです」
「そう……つまり新キャラはカブの妖怪なのです!」
そして映姫は、その悔悟棒をパチュリーへと突きつけた。その場の全員の視線がパチュリーに集まる。
「ふふふ……バレてしまっては仕方ない!」
パチュリーは立ち上がった。そして両拳を握り、「ハッ!」と気合いの掛け声をあげる。
次の瞬間、パチュリーの上半身が急激にふくれあがり、身体が筋肉の鎧に覆われ、そのふっくらヴィクトリア調パジャマがぱっつんぱっつんになった。いや、それはもはやパジャマではない。青と白の二色が眩しいユニフォームだ。その背中には「69」ではなく「42」の数字が浮き上がる。
もともとのパチュリーの胴回りほどにふくれあがった白い両腕で、どこからともなく取り出したバットを構え、その場で大きくのけぞった姿に、阿求は叫んだ。そこにいたのはパチュリーでも、ましてマチョリーでもなかった。
「カブの妖怪――アレックス・カブレラ!」
そして阿求は悟る。ああ、だから閻魔が出てきたのだ。閻魔は元々は――地蔵なのだから。
阿求が振り返ったとき、そこにもはや映姫の姿はなかった。
映姫のいたところには、カブレラ地蔵が黙して鎮座しているだけだった。
それにしても、浅木原さんはなんでも書けるのねェ。うらやましいぜ!